分かっているのは、自分が普通ではありえない力を持って居ると言う事。
 それが、こんなにも自分と言う人間を特殊なモノへと変えている。

 有り得ない力を持って居るからこそ、特殊な人間。そんなの当然じゃないか……。
 なら、どうして俺は、普通に拘っているのだろうか?
 有り得ない力を持つ自分が、普通の人になどなれるはずもないと言うのに……。
 でも、そんな俺でも、願ってもいいのだろうか?

 普通の子供と同じように……。



「太一?」

 名前を呼ばれて、ハッとする。
 懐かしい夢を見ていた。
 たった一人で、望んではいけない事を、ずっと望んでいた昔の夢。

「俺、寝てた?」

 心配そうに見詰めてくるその瞳を前に、俺はボンヤリと辺りを見回す。
 見慣れた教室、そして、隣に居るのは……

「ぐっすりとって、言いたかったんだけど、眉間に皺寄せて寝るのは、いい夢見てたとは思えないな」

 俺の質問に答えてくれたのは、目の前に居た人物ではなく、直ぐ後ろに居た人。

「橘さん」
「まぁ、遅れた勉強取り戻すのもいいけど、無理だけはしない方がいいぜ。こいつが心配で剥げちまうからな」
「智成!」

 その人物の名前を呼べば、からかうように言われる言葉。
 それに、目の前の人物が不機嫌そうに名前を呼ぶ。
 目の前の遣り取りに、俺は知らず笑みを浮かべる。
 あの夢の中で、望んでいたモノ。

「って、太一?」

 突然笑った俺に、ヤマトが驚いたように俺を見た。
 普通の人と同じように、接してくれる目の前の二人に出会ってから、俺の世界は確かに変わった。

「うん、有難う」

 両親の気持ち。妹の事。本当に、全ての事に感謝している。
 きっと、この人達に、いや、こいつに出会わなければ、俺は今もずっとあの夢のように探していたと思う、俺の居場所を……。

「何で、お礼?」
「言いたくなったから」

 感謝の気持ちを伝えた俺に、ヤマトが不思議そうに質問してくる。
 それに、俺は素直に気持ちを言葉にした。
 優しい心が、確かにそこにある。
 自分の事を包み込んでくれる、暖かな思い。

「まぁ、八神の笑顔が見れるようになったんだから、いいんじゃねの」
「橘さん」

 だから、自然に笑えるようになった。
 それは、自分が一番変わったところ。

 暖かな心が確かにそこにあるから、俺は笑う事が出来る。
 そして、何よりも自分を好きだと言ってくれる人が出来たから……。

 ウインクつきで言われたその言葉に、俺はもう一度笑顔を見せた。

「その笑顔は、俺だけに見せればいいのに……」

 だけど、その後聞えて来たヤマトのその言葉に、橘さんと一緒に爆笑してしまったのは仕方ない事だろう。


 確かに、今あるのは、暖かな思い。
 そして、自分が普通と言える、そんな場所。