夢を見た。
場所は、あのヤマトと初めて出会った場所。
だけど、その場所は、一面を赤い花に覆われて、月が浮かぶ暗い空間ではなかった。
ヤマトが以前言ったように、一面の向日葵畑と青い空には、まぶしい太陽が浮かんでいる。
それは、今まで見た事のないくらい明るい世界だった。
「太一?」
自分をも飲み込んでしまいそうな向日葵の中で、青い空を見上げている自分に聞こえてきた声。
不思議そうに名前を呼ばれて、振り返えった。
その相手が誰なのかなんて、確認しなくっても分かっているけど、俺はその姿を認めた瞬間、笑顔を見せる。
この場所に来る事が出来るのは、この世界を作った俺と、迷い込んできたヤマトだけ。
だから、この世界で俺の名前を呼ぶことが出来のは、ヤマトしか居ない。
「ヤマト」
「……ここって、あれだよな?」
笑顔で名前を呼べば、笑顔を返してくれるけど、その後に続いたのは戸惑ったような質問。
勿論、その気持ちは分からなくはない。
だって、この世界を作った俺自身も、余りの変わりように驚いているんだから……。
「ヤマトが、前に言っていたのが、そのまま世界になったような気がするんだけど……」
この世界に逃げ込んだ俺に、ヤマトが言った言葉。
俺に一番似合うのは、向日葵と明るい太陽だと、そう言ってくれた。
だから、今、この世界を作り変えたのは、俺じゃなくって、もしかして、ヤマト?
「俺の言葉で、こんなに変わるんだったら、早く言えばよかったな」
空を見上げて、眩しそうに目を細めるヤマトに、俺も同じように空を見上げた。
何処までも広がる青い空と、暑さを感じる事のない、ただ優しく世界を照らしている大きな太陽。
そして、目の前に広がっているのは、そんな太陽に顔を向けている大きな向日葵畑。
見まわす限り、ぎっしりと生め尽くされているその光景は、現実世界では、見られない程の景色。
「やっぱり、太一には、向日葵の花、似合ってる」
ニッコリと笑顔で言われる言葉に、顔が赤くなるのを止められない。
どうして、こんな言葉がすらすら出てくるのか不思議だけど、その恥かしい言葉を聞いて、嬉しいと感じられるのは、俺も、ヤマトの事が好きだからだろうか?
「ヤマトだって、青空が、似合うよな……」
反撃とばかりに、そう言えば、一瞬だけ驚いたように俺を見詰めてくる瞳とぶつかった。
俺、そんなに変な事、言ったんだろうか?
何時も、ヤマトが言っているような事を、返したつもりなんだけど……。
それとも分かっていないだけで、俺も、ヤマトと同類って事なのか??
もしかして、恥ずかしい事をサラッと言ってしまったんだろうか?
「太一が、そんな事言うなんて思わなかったな。だけど、俺よりも、太一の方が、ずっとこの空が似合うぜ」
だけど、驚いたな表情は本当に一瞬で、次には優しい瞳で俺を見詰めてくるヤマトの、台詞に、また顔が赤くなるのを止められない。
どうして、そんな言葉が平然といえるんだろう。
今考えると、自分の言った言葉も、すっごく恥ずかしいと思えるのに……。
でも、今、目の前に居るヤマトは、俺に優しい笑顔を振り撒いていて、ドキドキが止まらない。
「……なんか、ここに居るヤマトって、学校と違うような……」
ポツリと呟いた言葉に、俺自身驚いてしまった。
言ってから、気が付いたのだ。ずっと、感じていた違和感。
ヤマトって、ここに居る時、かっこ良くなり過ぎ……。
恥かしい言葉も、一杯口に出すし……。
それに、優しい笑顔で、真っ直ぐに俺を見詰めてくる。
「そうか?自分では、分からないけど……でも、俺だけじゃなくって、太一も学校とは違うよな」
「えっ?」
考えている中、不思議そうに首を傾げて、だけど、思い当たったのか、ヤマトが口にしたそれに、思わず驚きの声を上げてしまう。
俺も、どこか違うのだろうか?
言われても、やっぱり自分では分からない。
「だって、ここに居る時の太一は、無理をしてないから、本当の笑顔を見せてくれる」
分からなくって考えている俺に、ヤマトが理由を話してくれた。
だけど、そう言われても、それを理解できないのは、どうしてなのだろう。
やっぱり、自分では変わっているとは思えないんだけど……。
「……俺、学校と違うのか?」
「ああ、今、この笑顔は、全部俺だけのモノだって、思える」
恐る恐るヤマトへと質問を投げ掛ければ、優しい瞳で、サラリと凄い言葉が返された。
やっぱり、ヤマトは、学校と違う。学校のヤマトは、こんな事、平然と言えないぞ、絶対!
真っ赤になる顔を止められなくって、俺は慌ててヤマトから顔を逸らした。
「ここは、素直になれる場所だろう?」
「えっ?」
慌てて顔を逸らした俺の耳に、ヤマトの嬉しそうな声が聞こえてくる。
だけど、問われた言葉の意味が分からなくって、俺は驚いて逸らした視線をヤマトへと戻してしまった。
「だから、ここは、太一が素直になりたくって作った場所。誰かに、本当の自分を見せたくって、出来たんだよ。だから、ここに来れば、誰もが素直になれる。もっとも、来られるのは、俺と太一だけだけどな」
『誰も、入れるつもりはないけど』って言う言葉が聞えてきたけど、それは、聞こえなかったフリをする。
その前に、この場所って、どうやっても、他の人が入れるとは思えないんだけど……。
でも、ヤマトの言った言葉を考えると、こう言う風にとれるよな?
「えっと、それじゃ、俺は、本当の笑顔をヤマトに見せたいって思っているって事で、ヤマトは、俺にそんな事を毎日でも言いたいって思っているって事なのか?」
「……ちょっと違うけど、まぁ、間違いじゃないな。俺は、何時だって、太一には伝えたい事をちゃんと口にしているつもりだ」
考えて口に出したそれに、ヤマトが笑顔を見せてくれる。
優しくって、まるで包み込んでくれるぐらい、温かな笑顔。
「うん、お前の心は、何時でも温かくって、俺を安心させてくれる。何時だって、俺の事思っていてくれているって知っているから……」
「た、太一?」
真っ直ぐに、ヤマトを見詰めた。ヤマトの心は、何時だって感じられる。
今だって、その心が優しく俺の名前を呼んでくれているのを知っているから、だから、何時だって安心して居られるのだ。
「この場所は、今度からヤマトと素直に話をする場所へ変更だな」
「えっ?」
「だって、学校じゃ、こんなに二人で話す事なんて出来ないもんな」
驚いているヤマトに、ニッコリと笑顔を見せる。
俺の見せられる、精一杯の気持ちを込めて。
「それじゃ……」
「新しく、この場所から始めよう。ヤマトと、ここで会えるの、楽しみにしているから」
暗い記憶に閉じ込められていた心が、今、この場所と同じように明るく変化していくのが感じられる。
ここで、ヤマトと出会ったこの場所で、また、ヤマトと新しい時間が作られていく。
「ヤマト、俺を見つけてくれて、有難う。そして、これからも、宜しくな」
自分に言えるのは、これだけ。
それでも、それが、自分が言える精一杯の言葉だから…。
嘘偽りなど無い、精一杯の感謝の気持ち。
そして、これからへの言葉。
あの時、ヤマトに出会わなければ、今の俺は居なかった。
傷付いた心をそのままに、誰にも心を開く事なんて出来なかっただろう。
だけど、今、こうして笑顔を見せる事が出来る。
嘘偽りのない、素直な俺の心のままに……。
「俺も、太一に出会えた事を、心から、感謝している。有難う、俺をあの時、助けてくれて」
笑顔を向ければ、笑顔が返される。
そんな当たり前の事を忘れていた自分に、光をくれた。
だから、今、この時を素直な心のままに……。

『3周年祝い部屋』にUPしました小説の再UPです。
『君笑顔』シリーズで、リクエスト頂き書かせて頂きました。
意味不明ですが、よかったんでしょうかねぇ…(駄目だろう!)
取り合えず、これで一段落ついた状態です。
題名も、そろそろ底をついてきましたしね。<苦笑>
この話しは、題名が思い付けば、また書いていきたいと思っております。
題名が思い付いた時は、是非ご連絡下さい。 続きを書きたいと思います。(って、人に頼らず、自分で考えろ!)
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