君に出会えたのは、運命。
そう言えば、大げさかもしれない。だけど、君に出会えた事、それは小さな奇跡。
世界中に大勢の人が居る中で、君に出会えたから……。
始まりは何時だって小さなモノで、人から見ればなんて事の無い小さな出来事。
そう、見逃してしまうほどの、小さな出来事。
だけど、君を見付けられたから……。それは、もう奇跡に近い事。
そして、君が笑う。ずっと望んでいた、心からの笑顔で……。
君の笑顔がみたいから 19
自分の言葉に、太一が一瞬驚いたように見詰めてくる。
自分でも、変な事を言ったと言う自覚はあったのだが、そんな風に見詰められると、困ってしまう。
「……変な事、言ったか?」
じっと自分を見詰めてくる視線に、ヤマトは少しだけ困ったような笑みを見せて問い掛けた。
その質問に、ヤマトを見詰めていた太一が、慌てて大きく首を振る。
「……違う…そうじゃない……けど、やっぱり、お前って変わってる……」
改めて言われた言葉と同時に、太一がフワリと笑った。
自然に笑顔を見せた相手に、ヤマトは思わず見惚れてしまう。
何の前触れも無く、自分に自然な笑顔を見せてくれた事。
自分がずっと願っていたモノが目の前にあって、ヤマトはただその笑顔に言葉も無く見惚れてしまう。
突然、自分の事を穴が開くかのように見詰めるその相手の視線に気が付いて、太一は不思議そうに首を傾げた。
自分が、何か悪い事を言ったのだろうかと、心配になってしまう。
「…ヤマト?」
怒っているという様子ではない相手の名前を、心配そうに呼んでみれば、突然抱き寄せられる。
「……漸く見れた……」
「えっ?」
抱き締められたと同時に言われたその言葉の意味が分からずに、思わず聞き返してしまう。
そんな太一を相手に、ヤマトは抱き寄せたその体を、もう一度強く抱き締めた。
「……太一の笑顔…」
「……俺の、笑顔??」
ますます意味が分からないと言うような太一の呟きに、ヤマトはただ笑顔を見せる。
ずっと願っていたものが、目の前にあると言う幸せ。
そして、自分の腕に感じられる確かな温もり。
それら全てが、大切で愛しいもの。
「ヤマト!」
幸せをかみ締めている中、突然後ろから名前を呼ばれて、現実へと引き戻される。
そう言えば、この場所は学校の屋上。
「……智成…」
相手を確認しなくっても、誰だか分かる。
聞きなれたその声に、思わず不機嫌そのままに振り返った。
「昼の授業終わっちまったぜ」
そして、呆れたように言われたそれに、俺と太一は一瞬驚いて顔を見合わせる。
授業が終わったと言われて、慌てて腕時計で時間を確認した瞬間、脱力してしまう。
「…チャイムの音なんて、聞こえなかったぞ……」
頭を抱え込む。突きつけられた現実は、直ぐに理解できない。
「…八神」
疲れたように盛大なため息をついた瞬間、智成が太一を呼ぶ。
それに、同時に顔を上げれば、嬉しそうな笑顔が向けられた。
「金網の向こう側、見れたみたいだな」
そして、言われた言葉の意味は、ヤマトには分からないものだった。
しかし、その言葉に、太一は少しだけ困ったように笑みを見せて、そして小さく頷いて見せる。
そんな太一に、智成も満足そうに頷いて見せた。
「ヤマト、代金は、見惚れるような笑顔。楽しみにしてるからなvv」
「…お前には、勿体無いから見せない!」
そして、からかうように言われたその言葉に、ヤマトは小さく息を吐き出して、智成から視線を逸らす。
「お前、約束破る気か?!」
「絶対に嫌だ!」
智成の言葉に、ヤマトがきっぱりとした言葉で拒否をする。
目の前で睨み合いをしている二人に、間に立っていた太一は、一瞬困ったような表情をしていたが、直ぐに子供のような喧嘩を繰り広げている二人の姿に、笑みを零す。
突然聞こえた笑い声に、睨み合いをしていた二人は、同時にその声の方を向く。
「……八神、そこは笑う所じゃなくって、止めるところだろう?」
「あっ、悪い…でも、二人とも仲良くって……それが、なんだか、可笑しくって…それで……あれ?」
「太一?」
楽しそうに笑っていた太一の目から、ぽろぽろと透明な液体が溢れ出す。
自分でも驚いて、太一は慌てて目許を拭う。
しかし、止めどなく流れてくるそれは、後から後から溢れて来てはその頬を濡らしていく。
「……泣くつもりなんて、ないのに……何で……」
分からないと言うように、太一は何度も涙を拭う。
そんな太一の姿に、ヤマトと智成は顔を見合わせると同時に苦笑を零した。
「そう言う時は、泣いちまえよ。ここに、受け止めてくれる奴も居る事だしな」
そして、必死で涙を止めようとしている太一に向かって、智成が優しく言葉を投げかける。
その言葉と同時に、ヤマトを促すように肩を叩く。
「邪魔者は消えとく。10分だけ、ここに誰も来ないように見張っててやるよ」
「…智成……サンキュー」
背中を向ける相手に、ヤマトが感謝の言葉を述べれば、ゆっくりと右手が上げられる。
それを見送ってから、今だに、涙を流している太一に視線を戻した。
「…太一……」
「涙腺、壊れちまったのかなぁ……」
苦笑を零しながら言われたそれに、ヤマトは優しくその頭に手を乗せる。
「……漸く、自然に感情を表せるようになったんだよ。だから、泣いて、いい……全部、俺が受け止めるから……」
「……ヤマトって、すごく気障だよなぁ…」
自分の言葉に帰ってきたそれに、苦笑を零しながらも、その体を抱き寄せた。
素直に自分の胸に顔を埋める相手の頭を慰めるように優しく撫でる。
ずっと抑えてきたモノを洗い流すかのようなその涙は、見ている者を引き付けて止まない。
一人で苦しんでいたから、傷付いた心が開放された反動に、今までずっと流せなかった涙が、溢れてきたのだろう。
「……もう、一人では苦しむ事ない……俺が、望むから……俺にとって、八神太一は、何よりも大切で大事な存在なんだって事を……」
ぎゅっと強くその体を抱き締めて、囁きかける。
誰よりも大切で、大事な存在だと言う事を……。
「……悪い、遅くなったな……」
泣き過ぎで少し赤くなった目許のまま太一が、申し訳なさそうにヤマトに謝罪する。
「気にする事ないさ……俺としては、ずっと見たかった太一が見れたから、それが一番大事なんだよ」
「……本当、変な奴だよな……」
にっこりと優しい言葉と同時に言われたそれに、太一が苦笑を零す。
今までの辛そうな表情ではなく、それは太一本来の表情。
「いいさ、変な奴でも……そのお陰で、八神太一って言う人物に出会えたんだからな」
「……ヤマトって、モテるだろう?」
「はぁ?」
自分の言葉と同時に質問されたそれに、一瞬ヤマトは意味が分からないと言うように太一を見る。
告白紛いの言葉を述べたのに、どうしてそんな質問がされるのか、分からない。
「……モテるのに、俺みたいな普通じゃない奴好きになるなんて、人生損してるぞ、お前」
そして、呆れたように続けて言われたそれに、思わず頭痛がしてくる。
どうして、こんなに自分を卑下するような言葉ばかりを言うのだろうか?
「…太一……」
「だけど、これだけは言わせてくれよ……」
太一の言葉を否定しようと口を開きかけた瞬間、真剣な表情で見詰められて、ヤマトは言葉を飲み込んだ。
「…ヤマトに会えて、本当に良かった……そして、俺の事、好きになってくれて、有難う…」
真剣な瞳を見せていた太一の表情が、優しい表情になり、そして、あの公園で見せていたものと同じような、人を引き付ける笑顔が向けられる。
きっと本人は、知らないだろう。
自分が、どれだけ人を引き付けるような笑みを浮かべるのかという事に……。
「えっ、いや、その……だから……」
「ヤマト?」
突然そんな笑顔を見せた相手に、ヤマトは慌てて言葉を返そうとするが、上手く言葉が出てこない。
そんなヤマトに、太一が不思議そうな表情を見せて首を傾げる。
「あっ!ヒカリちゃん!!」
「えっ?」
そして、校門近くに立っている人物を見付けて、慌ててその名前を呼んだ。
それは、太一の妹。
「ヒカリ!」
太一もその姿を見付けて、慌ててその傍へと走り出す。
その姿を見詰めて、ヤマトは内心ほっと胸を撫で下ろした。
「なんで、お前がここに居るんだ??」
カバンを持っていない所を見ると、一度家に戻っていたのだろう。
ヒカリは驚いたように自分に問い掛けてくる太一に、にっこりと花のような笑みを見せた。
「お兄ちゃんが、ヒカリの事を呼んだから……」
「お前……」
自分の問い掛けに返されたそれに、太一はヤマトとの会話を思い出して、複雑な表情を見せる。
「…お兄ちゃん、私は、この力を持っている事を恨んだ事なんてないよ。だって、お兄ちゃんの心を知る事が出来るから……」
「ヒカリ、お前……やっぱり、ずっと知ってたんだな……」
ヒカリの言葉に、太一が視線を落とす。自分の心を知っていたのに、笑顔を見せてくれた大切な妹。
自分と言う存在を否定する中で、彼女が居たからこそ、自分は生きてこれたのだ。
「今なら、本当の事が言えるよね……」
「ヒカリ?」
ポツリと言われたそれに、太一は不思議そうにその名前を呼ぶ。
それに、ヒカリは泣き笑うような表情を見せた。
「ねぇ、お兄ちゃん。お母さんもお父さんも、心の中でずっとお兄ちゃんに謝ってる。ずっと、お兄ちゃんに言った事を後悔してるんだよ。だから、同じ力を持ったヒカリには、そんな思いさせないようにしてくれてるの……」
真剣に言われたそれは、自分にとっては信じられないものである。
気味の悪い子供だと心が告げていた。
そして、自分が触れた瞬間、振り払われた手。
それら全てが、自分にとっての両親の記憶。
そして、ギコチない笑顔を見せる両親から離れたのは、もうそんな思いをするのが怖かったから……。
「……俺って、やっぱり馬鹿だよなぁ……」
「お兄ちゃん?」
「……本当に、大切な事は、何も知らなかったんだな……」
「お兄ちゃん……」
折角止まった涙が、また溢れ出す。怖かったから……。
心を閉ざして知ろうとしなかった自分の愚かさ。
「……いいんじゃないのか、それで…」
「ヤマト?」
突然伸びてきた手が、自分の目を覆い隠す。
そして、それと同時に言われた事に、太一は見えない相手の名前を呼んだ。
「…今、知る事が出来たんだから、それでいいんだよ」
「ヤ、ヤマト、そう言う問題じゃ!」
「そう言う問題なんだよ」
自分の顔を覆い隠している手を何とか退かそうとしながらも、太一が文句を言った言葉に、ヤマトがきっぱりとした口調で返事を返す。
きっぱりと言われるその言葉に、太一は呆れたように盛大なため息をついた。
そんな風に言われては、それ以上何を言っても無意味と言うものであろう。
そんな二人のやり取りを見詰めていたヒカリは、少しだけ寂しそうな表情を見せるが、直ぐに何時もの笑顔を見せた。
「……ヤマトさん、お兄ちゃんの事泣かしたりしたら、許さないって言った筈ですよ」
可愛らしい笑顔と共に言われたそれに、ヤマトが思わず引き攣った笑みを見せる。
「……これは、俺が泣かした事になるのかなぁ、ヒカリちゃん?」
「さぁ、それは、知りません。でも、これだけは言わせていただきます。……お兄ちゃんの事、お願いしますね」
「ヒカリちゃん……」
真剣な瞳が自分を見詰めてくるのを受け止めて、ヤマトはその名前を呼んでから、はっきりと頷いて返す。
ヒカリもそれに満足そうに頷いてから、太一の腕を掴む。
「それじゃ、お兄ちゃん帰ろうvv」
「えっ?」
そして、その手を引っ張るとにっこりと笑顔を見せて促す。
突然の行動とその言葉に、ヤマトと太一は思わず聞き返した。
「……今、お願いしますって……」
「それとこれとは別です!そんなに簡単にお兄ちゃんは渡しませんから、覚悟してくださいね」
「おい、ヒカリ!」
ぐいぐいと引っ張る相手に、太一が慌ててその名前を呼ぶ。
そして、歩き出した二人の姿を、ヤマトはその場に立ち尽くしたまま見送る形になった。
我に返った時には、既に二人の姿は自分からかなり離れてしまっている。
「……まぁ、仕方ないよな……」
そして、盛大にため息をついて、ゆっくりと歩き出す。
もう、自分にとって何が一番大切なのかと言う事が分かったからこそ、後戻りなどしない。
大切なモノを手に入れられたから、今度はそれを手放さないようにしなくては行けないのだ。
「……手放す気なんて、ないけどな……」
ポツリと呟いたその言葉は、誰にも聞かれる事はない。
あの笑顔に惹かれてから、自分にとっての道が出来た。
一番望んでいたものを手に入れられた幸せ。
君が見せてくれたその笑顔は、確かに自分が望んだモノだから……。
「ヤマト!」
そして、立ち止まった君が笑顔を見せる。
自分に向けて、手を振りながら、ずっと望んでいた笑顔を向けて……。
わ〜い、無事に『君の笑顔が見たいから』終了です!!
……って、嘘ですごめんなさい(><)
訂正いたします。本編は、以上で終了させていただきますね。
何とか、太一さんが笑顔を見せてくれたので、ほっとしている次第です、はい。
しかも、今までのシリアスを壊すようなギャグになっているように思うのは、私の気の所為でしょうか??
というよりも、あっさりと笑顔を見せてくれました、太一さん。
今まで引っ張ってきたのは、一体なんだったんでしょうか??
やはり、私の文才の無さが、全ての敗因……(--;)
はぁ、折角無事(?)に終わったので、暗い気持ちは吹き飛ばしましょう!
そんな訳で、次は番外編!
この話のその後で、はっきり言ってギャグです。
いや、多分……xx
一話完結の短編になる予定ですので、あまり期待はしない方がいいですよ。<苦笑>
今までお付き合いしてくださった皆様、本当に有難うございます。
宜しければ、感想など頂けると嬉しいです。
気が向いたら、よろしくお願いしますねvv
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