本当に好きで、仕方ない相手。
そんな相手を見付ける事は、とっても難しい。
だけど、あいつはそんな相手を見付ける事が出来たのだ。誰よりも大切で、守りたい相手を……。
君の笑顔とあいつの気持ち
掛かってきた電話に、盛大な溜息をつくのを止められない。
「それで、俺にどうしろって言うんだ?」
『だから、俺はこの場合どうしたらいいんだ?』
溜息をつきながら問い掛ければ、情けない声が戻ってきて、更に溜息を誘う。
電話の相手が、独占欲の強い相手だと知ったのは、つい最近の事。
それなのに、これではあまりにも情けなさ過ぎる。
「お前なぁ、俺に質問してくる場合じゃねぇだろう?そんな事気にしてたら、キリねぇって!」
呆れながら言えば、電話の向こうからも盛大な溜息が聞こえてきた。
『だけどなぁ……』
しかし、続いて呟かれたそれに、俺はもう一度溜息をつく。
先程から聞かされる内容は、何でも自分の大切な相手を弟までもが、好きになったと言う事。
それに対して、自分はどうしたらいいのかと言う質問なのである。
「だけどじゃねぇだろう!大体、タケルが八神の事好きだからって、八神がそれに答えるとは思えないぜ」
タケルからの宣戦布告が、ヤマトには、かなりショックだった事は分かるのだが、だからと言って、八神がタケルの気持ちに『YES』と言うとは、どうしても思えない。
もっとも、自分に向けられる好意には、鈍そうな八神である。
タケルが本気で八神に告白でもしない限り、きっとそれが恋愛対象であるとは気が付かないと言うのが正しいと思うのだが……。
多分、いや絶対に……。
「それに、八神の気持ちは、お前が一番良く知ってるんじゃないのか?」
漸く八神の気持ちを聞く事が出来たと、嬉しそうに報告してきたのは、そんなに遠い昔の話ではない。
だからこそ、八神がタケルの気持ちに万が一にも、気が付いたとして、心配は無いと思うのだが……。
『……確かに、太一が俺の事どう思ってるのか、聞かせてもらったけど……』
歯切れの悪いヤマトの言葉に怒鳴りつけたい気分を必死で押さえ付ける。
どうして、そこまでしてもらって、自信が持てないんだ、この男は!!
確かに、近頃の八神は人気が高い。
それは否定できない事実だ。
俺でさえ、あの性格を知ってしまってからは、初対面での態度だって、全て許してしまえるほどの人物なのである。
しかも、あの人を惹き付けて止まない笑顔を振り撒いているのだから、人気が出ない訳は無いだろう。
トドメとばかりに、本人のあの性格。素直で可愛く、優しい上に心はしっかりしているのだから、非の打ちようが無いのだ、八神の場合。
そんな相手に惚れたのだから、心配は尽きないだろう。
しかし、今のヤマトの言葉は、心配と言うより自信の無さの現れ。
本当に、情けなくなる。
八神が誰を好きなのかは、一目瞭然なのだから、心配するだけ馬鹿馬鹿しい話だと思うのだ。
恋する男の気持ちと言うのは、俺には、良く分からない。
「聞かせてもらったんなら、ちゃんと信じた方がいいぞ。あんまり束縛してると嫌われるぜ、ヤマト」
受話器からボソボソと聞えてくる独り言を聞きながら、呆れたようにキッパリと言葉を告げる。
本当に、我親友ながら情けないと思っても、許してもらおう。
こいつとは結構長い付き合いだから、性格は熟知していると思っていた。
いや、思い込んでいたと思った方が正しいだろう。
恋愛に関しては、こいつと話した事が無かったけど、人一倍独占欲が強いぞ、こいつ。
『……束縛するつもりは……ただ、最近の太一、良く笑うようになっただろう?だから、心配なんだ!』
いや、それが十分束縛してるんじゃねぇのか??
そう思っても、口には出さずにため息をつく。
俺的には、八神の性格をそんなに詳しく知っている訳じゃない。
そんな中でも言える事は、人とは違う力を持っているからこそ、誰よりも人の心を大切にする奴だと言う事。
そう、それは自分の身を顧みない程に……。
「んじゃ、俺も宣戦布告してやろうか?」
『智成??』
ウジウジと心配事ばかりを言う相手に、少しだけ意地悪するように問い掛ける。
俺だって、八神の事は嫌いじゃない。
出来るなら、ヤマトとの仲を応援したいと本心から思っているのだ。
だが、今のヤマトには、八神の事を任せておけないと思うのも、本心。
少しだけ、意地悪しても許されるだろう。
そう、相手を鍛える為に……。
「俺も、八神の事好きだしな、だから、今のお前には任せられない。タケルがお前に宣戦布告したように、俺もしてやるよ、宣戦布告」
『ちょ、ちょっと待て、智成!』
「そう言う訳だから、明日から覚悟してろよ、ヤマト!!」
それだけを言うと電話を切る。
きっと、あいつは、かなり焦っているだろう。
まぁ、恋愛に障害は付き物だ。
少しぐらいは苦労してもらって、しっかりと八神の事を守れるぐらいに強くなってもらわないと、やってられない。
親友としても、本当に情けないしな。
「さて、明日から、楽しみだぜvv」
などと内心思いながら、この状況を楽しんでいるのが、正直なところである。
明日から始まる、ヤマト強化に、笑みを零しながら、密かにプランを考え始めた。
「よぉ!八神!!」
「おはよう、橘さん」
校門を入ったところで見付けた相手に、満面の笑顔で声を掛ければ、相手もニッコリと笑顔で挨拶を返してくる。
それを見ながら、俺は内心あのプランを思い出して、笑みを零す。
「……橘さん、それって………」
そんな俺の心が伝わったのか、八神が複雑な表情を見せる。
「その能力、便利だな。八神!もうプランは、分かっただろう?協力頼むぜvv」
言わなくっても、伝わるって言うのは、便利なもんだ。
思わず感心したように口を開き笑みを浮かべて、八神の肩を掴む。
そんな俺の行動に、八神が困ったような表情を見せる。
そして、恐る恐る、と言った様子で首を傾げるその姿は、本当に可愛いと思ってしまう。
「協力って……」
心配そうに尋ねてくる八神に、その頭を思わず撫でてしまう。
それに、意味が分からずにきょとんとしている八神に、俺はニッと笑みを見せた。
「俺と、仲の良いフリするだけ!!」
質問された事に、キッパリと言えば、八神が一瞬意味が分からないと言う表情を見せるが、直ぐに俺の意図が分かったのだろう、小さくため息をついた。
「……それ、ヤマトにとってメリットあるんですか?」
「ある!!って言うか、ヤマトの為だ、協力してくれるよな?」
拒否権を与えない質問に、八神が少しだけ呆れたような表情をしてから、仕方ないと言うように小さく頷いた。
それに、俺はガッツポーズを作る。
これで、暫くは遊べそうだな。
「……橘さん、面白がってないか?」
内心そう思った瞬間、八神が鋭い一言。
……実は、八神の奴、ヤマトと違ってかなり鋭くないか?
あの、特殊能力を差引いても……。
「んな訳ねぇじゃん!これも、ヤマトの為だぜ!!」
バンと少し強めに八神の背中を叩いてから、俺はそれ以上の追及を逃れる為に、その場を離れた。
なので、その後の八神の独り言は、俺の耳には入っていない。
「………ヤマトって、実は、凄い人の友達してるよなぁ…………」
ボソリと呟かれた言葉に、何事かと振り返った先には、盛大なため息をついているその姿だけがある。
それに、疑問を思いながらも、そのまま校舎の中へと入って行く。
「智成!!」
教室に入った瞬間、もの凄い勢いで自分に走り寄って来た人物に、俺は思わずそのまま一歩引きそうになったのは、仕方ないだろう。
それだけ、相手の気迫は凄まじい物。
「はいはい、今から屋上行くんだろう?荷物ぐらいは置かさせてくれ」
今にもこの場所で昨日の電話の事を話し出しそうな相手に、盛大なため息をついて荷物を自分の机に置くとそのまま教室を出る。
その時に八神とすれ違って、俺は軽くウインク。
そんな俺に、複雑な表情を浮かべながら、八神が、気の毒そうにヤマトを見詰めている視線に見送られる形で屋上へと移動。
「で、宣戦布告ってなんなんだ!!」
屋上についた瞬間の、その言葉に、俺は苦笑を浮かべてしまう。
本当に、こいつは分かりやすい。
「いや、だからそのまんまの意味に決まってるだろう」
だから、サラリと言葉を返せば、目の前では信じられないと言うように俺を見ているヤマトの顔。
一体誰が、こんなこいつの事を『クール』なんて言ったのか、教えてもらいたい。
「それにしても、八神が教室に入ってきたのにも気が付かずに、俺を屋上に呼び出していいのか?」
「太一、来てたのか??」
俺の質問に、驚いたように聞き返してくるヤマト。
って、気が付いてなかったのか?俺が、八神にウインク送った事も?!
本当に、一つの事に集中すると周りが見えなくなるタイプだよな、こいつは……。
「変な顔して見てたぞ、お前が挨拶もしないで教室出て行くの」
まぁ、実際は俺のウインクに、複雑な表情してたんだけどな。
って、事は教えてやらないけど。
「俺は、太一を無視したのか??」
いや、無視って程の事じゃないだろう……。
俺の言葉に、この世の終わりみたいな表情をしているヤマトに、内心突っ込みを入れる。
本当に、面白い奴になってくれたものだ。
「無視かどうかは知らねぇけど、話しが終わったんなら、顔見に行った方がいいんじゃないのか?」
内心の気持ちを隠しながら、サラリと言えば、そのままの勢いでこの場を走り去りそうなヤマトが、大きく首を振る。
どうやら、俺を呼び出した内容は忘れていないようだ。
その辺は、誉めてやろう。
「宣戦布告なら、説明してやったからな」
「だから、そう言う意味じゃない!お前、俺の事応援してくれるんじゃなかったのか?!なんで、お前まで!!」
俺の言葉に、そのまま殴りかかってきそうなほどの勢いで、ヤマトが詰め寄ってくる。
「おう、応援してるぞ、ちゃんと」
凄い剣幕の相手に、俺はあっさりと言葉を返した。
そう、応援しているのは、本当。
しかも、これ以上ないくらい協力していると思うのだ。
「……何処が、応援してるんだ??」
しかし、俺のたくらみなど知らないヤマトが、不信気に見詰めてくる。
そりゃ、確かに宣戦布告するような応援なんて、普通なら考え付かないだろう。
だけど、本当に応援してるんだぜ。俺は、俺になりに、な。
「まぁ、その内分かるって!んじゃ、今日からのテスト、頑張ろうぜ!!」
そして、最後に今日からの中間テストの応援は、おまけ。
きっと、八神の事が気になって、勉強どころではなかったであろうヤマトは、ハッとしたように俺を見た。
「今ごろ教室では、勉強してる奴等がいっぱい居るだろうに、俺たちは余裕だよな」
ニッコリと笑顔で言えば、サーッとヤマトの顔色が変る。
本当に面白い奴だ。
「……1限目って、英語か?」
「そうそう、英語。勿論、ばっちりだろう、ヤマトは??」
中間だと言う事実も、忘れていた相手に、笑いを誤魔化す事も出来ない。
「お前、6限全部の教科書持って来たんだろう?」
多分、そう言う事。本当に、楽しい相手だ。
「ご苦労さん。でも、今日は、英語と数学の2教科テストで、授業は終了だぞ」
それだけ、人を好きになれるこいつの事が、少しだけ羨ましい。
慌てて教室に戻っていく後姿を見詰めながら、俺は盛大なため息をついた。
「…あんまり、ヤマトを苛めないで下さいね」
その瞬間、俺の耳に最近聞きなれてきた声が掛けられる。
ヤマトとすれ違うようにこの場所に来たというのは、ずっと様子を見ていたと言う事なのだろう。
「苛めてないだろう?愛のムチって奴だ」
少しだけ呆れたように俺を見詰めている八神に、ニッと笑顔を見せて言えば、苦笑を零す。
「……ヤマトは、今のままでも十分俺を守ってくれてますよ」
「まぁ、あいつは必死だけどな」
楽しそうに笑いながら言えば、八神が、少しだけ困ったような笑顔を見せる。
「…でも、それでも、俺は、とっても助けられてるから………」
遠くを見詰めるようにフェンスの向こう側を見詰める八神の視線に、一瞬言葉を失う。
助けられているのは、本当にこいつだけなんだろうか?
きっと、ヤマトは八神が思う以上に、こいつに助けられているように思う。
そう、陰ながら、支えていると言う言葉が、ピッタリと来る位に……。
「本当に、出会うべくして、出会ったってヤツだよな……」
「えっ?」
「ヤマトとお前。見てると和むぜ」
俺の言葉に不思議そうに向けられた視線を真っ直ぐに見詰め返す。
きっと、本人達は、分かっていないだろう。
どれだけ、周りに影響を与えているのかと言う事に……。
タケルも、玉砕覚悟の宣戦布告ってやつだもんなぁ。
それが分かっているからこそ、ヤマトを鍛えようと思ったのだ。
本当に譲りたくないものを、自分の力で守れるようになって欲しいから…。
「俺も、和んでるよ。ヤマトと橘さんを見てると」
笑顔で言った言葉に、サラリと返された言葉。
それに、俺は一瞬驚いて、八神を見詰めた。
「ヤマトは、橘さんにだけは、甘えられるんだ。親友って、そう言うんだよね?」
ニッコリと笑顔を見せる八神に、言葉を失う。
確かに、ヤマトは、俺の前では何時だって普通だった。
弱音だって愚痴だって良く零す。それは、俺とヤマトが親友だから。
そう言う相手だから、遠慮なんてしなくていいのだと、知っているからだ。
「だから、これ以上ヤマトの事、苛めないでやって……」
そして、続けて言われた言葉に、俺は苦笑を零した。
しっかりと釘をさす事も忘れないんだから、参る。
何処まで分かってるのだろう、目の前の相手は。
何もかもを見透かして居るのではないだろうかと、本気で考えてしまう。
本当は、タケルの気持ちも、ヤマトの不安に思う気持ちも知っているのかも……。
「全部、分かる訳じゃないんですよ。だから、俺はヤマトが言ってくれるまで、待つんです」
ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、絶句。
本当に、全てを知っているのではと思える相手。これでは、ヤマトの心配など、皆無かもしれない。
その笑顔は、あいつの気持ちを知っているから、何時だって柔らかで温かい。
「本当、お前には負けた」
「勝ち負けじゃないでしょう?それに、橘さんのは、ヤマトの為じゃなくって、自分の遊びの為みたいだもんな」
降参ポーズをとって言えば、くすくすと楽しそうに笑いながら、八神が言葉を返してくる。
「……本当、参った。何でも、お見通しってヤツだな……でも、安心した。遊び半分だったけど、俺が手を貸す必要は、無いな」
「十分必要だよ。ヤマトは、橘さんにしか、愚痴零せないみたいだからね」
ニッコリ笑顔で最後に言われた言葉に、俺は苦笑を零す。
それは、闇にヤマトを任された証拠。
「まぁ、簡単に親友って立場を放棄するのもなんだからな、もう暫くヤマトでは、楽しませてもらうさ」
「そうですね、放棄されちゃうと、ヤマトはすっごく困ると思う。橘さんに頼ってる所、強いから」
「俺、そんなにヤマトに頼りにされてるのか??」
「はい、俺も、橘さんの事、尊敬してるよ」
あっさり言われた言葉は、悪い気がしない。
「まぁ、これからも頼られるように、今日のテストもばっちりと決めないとな」
「始業5分前だから、悪あがきも出来ないかな?」
腕時計を確認する八神に、俺も同じように自分の時計に視線を向ける。
確かに、今から戻って単語の一つを覚える時間も、なさそうだ。
「んじゃ、まぁ、ヤマトに続くか?」
相手に笑いかければ、大きく頷いて返される。
結局は、他人がどう言っても、本人達の問題。
だから、周りは見守るしかないのだ。
この笑顔と、あいつの気持ちを……。
「まぁ、それはそれで、楽しいけどな」
最後は、結局それ。
今、この二人の傍に居られる事を、素直に感謝しよう。
それが今出せる最大の、答え。
100000HITお礼部屋小説、再UPの『君笑顔シリーズ』になります。
今回の主人公は、完全に智成くん。(笑)
苦手な方は、すみません。しかし、ここまで読んでくださってるのなら、大丈夫なのかな??
苦手だけど、読んでみたという人、すみません。でも、読んでくださって有難うございますね。
このような駄文ですが、少しでも楽しんでいたでいただけたのなら、幸いでございます。
そして、このシリーズは、これから続くかどうかは、謎です。
書いていて楽しいシリーズではあるんですが、題名考えるのがそろそろ限界なのであります。<苦笑>
一応、『君笑顔』と付いていますので、題名には全て、君と笑顔が入るんですが、もうこれ以上考えつきません。
続きを望んでくださる奇特な方がいらっしゃいましたら、君笑顔の題名募集していいですか?(聞くな!)
もし宜しければ、題名募集いたします!
メール又はBBSで、『『君笑顔シリーズ』題名参加』と題しまして、ご連絡ください。
得点は、その題名で小説が書かれるかも、です。(かもって、なんだ?!)
締め切りはありませんので、気長に考えていただければ、嬉しいです。
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