「さっきから、何変な事言ってるんだ?本気で疲れてるのか??」
「大丈夫ですか?太一さん」

 心配そうに見詰めてくる大切な仲間達。
 でも、これは現実じゃない。
 俺が、望んだ世界。
 早く、現実に戻らなければ……。

 ……どうやって?

 それに、ここには、自分の望んだみんなが居てくれる。
 なのに、何で戻る必要があるんだ?

「お兄ちゃん?」

 心配そうに見詰めてくる大切な妹。
 今は、もう傍に居て抱き締めてあげる事も出来ない存在。

「本当に大丈夫なの、太一?」

 お節介で、お姉さんのような存在の、幼馴染。
 今、本当の彼女はどうしているんだろう?

「お前なぁ、人が心配してるのに、変な顔するなよな!」

 そして、ぼんやりとみんなを見ている俺を、呆れたように怒りながらも本気で俺と言う相手にぶつかってくれた存在。
 親友と言うのは、きっと彼のような相手を言うのだろう。

「あちらに休める場所があるようです、移動しましょう」

 大事なパソコンを片手に、言われた言葉。
 それに、みんなが頷いて歩き出す。

 ああ、ここには望んでいるみんなが居るのに、どうして俺は……。

「太一?」

 この世界が、自分が望んだ世界だとしても、自分はここに居る資格などない。

「なっ!」

 立ち止まったままの俺を、不思議そうに振り返ったみんなが驚きの表情を見せる。
 頬を流れているのは、温かな涙。

「……夢でも、こうしてみんなに会えて、良かった……俺は、ちゃんと頑張れるから……」
「お前、何言って……」
「有難う」

 そっと涙を拭って、驚いているみんなに笑顔を見せる。

 温かで、残酷な夢。

 自分が望んでいた夢なのに、違うとはっきりと分かるから……。
 みんなは、自分が望んだみんなじゃないと……。
 だから、ちゃんと戻る事ができる。

 今、自分を呼んでくれている大切なパートナーの元へ。

「夢でも、みんなに会えた事、本当に嬉しかったから……だから、有難う・……」

 見せられた夢は残酷だとしても、望んでいたモノだったから、だから心から感謝しよう。
 こうして、また夢の中ででも出会えた事を……。

「……さよなら……俺は、俺の居るべき所に戻る」

 ゆっくりと瞳を閉じて、自分の名前を呼ぶ大切な相手を想う。
 この世界では、想いこそが全ての力になるから……。

「太一!」

 遠くで聞こえる懐かしい人達の声。
 それでも、自分の要るべき場所はここではないから、だから、戻る事が出来る。

「……アグモン……」





「タイチ!タイチ!!」

 聞こえてくるのは、泣き叫ぶように自分の名前を呼んでいるその声。
 その声を聞きながら、太一はゆっくりと重いまぶたを開く。

「…ア、グ…モン?」

 重い体は、まるで自分の物ではないかのように動かす事が出来ない。
 それでも必死に、自分の名前を呼んでいる大切なパートナーを呼ぶ。

「タイチ!気が付いたんだね。良かった」

 自分が目を覚ました事に気付いて、泣きながらも嬉しそうに言うアグモンに、太一は訳が分からずにゆっくりと瞼を閉じて視線だけで問い掛けた。

 何も覚えていない。
 懐かしい、そして悲しいまでの夢を見ていたような気がする。

 覚えているのは、それだけ。

「覚えてない。タイチは敵の攻撃を受けちゃったんだよ。あいつの技は、相手を夢の中に閉じ込めてしまう攻撃。本人が望まなければ、決して戻ってくる事は出来ない攻撃だから、ボク、タイチがずっと寝たままになっちゃたらどうしようかと思って……」

 説明されながら自分に泣き付いてくるアグモンに、太一はそっと息を吐き出した。

 その言葉が納得出来る夢。
 自分の望んだ世界。

 もしも、あの夢の中にアグモン達が出てきたのなら、自分は決して帰ってくる事は出来なかっただろうと、そう思う。
 それだけ、あの夢は自分にとっては、残酷で暖かな夢だった。

「……心配掛けて、ごめんな……」
「ううん、タイチが無事なら、ボクはそれだけでいいよ」

 嬉しそうに笑ったアグモンに、太一も笑顔を返す。

 きっと、このパートナーが居なければ、自分はあの夢の中に囚われていただろう。
 それだけ、あの夢は自分にとって、もっとも望むべき世界だったのだ。
 みんなが居て、自分に笑いかけてくれる事。
 それは、望んでももう叶う事など出来ない夢。

「タイチ、ゆっくり休んでね!ボク、食料調達してくるから!」

 言ってすでに走り去っていく大切なパートナーに太一は、苦笑を零した。

 本当に心配掛けてしまったのだろう。
 それは、嫌と言うほど分かっているからこそ、感謝の気持ちでいっぱいなのだ。

「……ごめんな、アグモン……」

 そっと謝罪の言葉を口にして、体が望むままに瞳を閉じる。
 今度見る夢は、きっと望んだものではないかもしれないが、体にも心にも安らぎを与えてくれるものだと信じて、そのまま意識を飛ばした。


 望んでいる夢は叶わない事だと誰よりも自分自身が分かっている事。

 それでも、望んでしまう。
 いつか、また彼等と笑い会えるその日を……。