「大丈夫、魘されてたみたいだけど……」

 心配そうに見詰めてくる深い緑色の瞳。
 その瞳を前に、太一はホッと息を吐き出した。

「大丈夫。ごめんな、起こしちまったんだよな?」
「ううん、そんな事ないよ……」

 自分の問い掛けに大きく首を振って返してくれるパートナーに、太一はただ複雑な表情を見せる。
 デジモンの攻撃によって見せられた夢は、今だに自分を苦しめている。

 残酷な夢。

 どうして、こんなにも胸が苦しくなるのだろう…。
 見る夢が、幸せであれば幸せであるほど、目覚めた時絶望は大きくなる。

「タイチ…」

 心配気に見詰めてくる大切なパートナーが、自分の名前を呼ぶ。
 それに答えるように、太一はその思いを全て忘れたように笑顔を浮かべた。

「心配しなくっても大丈夫だよ。さぁ、朝まで時間あるんだから、アグモンはしっかりと休んどけよ。いざって時に進化出来なかったら大変だからな」

 自分で出来る精一杯の笑顔を見せて、パートナーの頭を撫でる。

「……タイチも、ちゃんと寝ないと、倒れちゃうよ」

 そんな自分に、アグモンも漸く笑顔を見せて、冗談のように言われたそれに、太一は素直に笑顔を見せた。

「だな……んじゃ、しっかりと休まないとな」

 アグモンに言われた言葉に頷いて、ぎゅっとその体を抱き締める。

「何、どうしたのタイチ?」

 突然抱き締められた事に、アグモンが驚いた声を上げる。

「今日は、このまま寝てもいいか?」

 だけど、そんなアグモンに太一の問い掛けは小さく、頼りないものだった。

「……勿論だよ。へへ、こうやってると、すっごく暖かいね、タイチ」

 言われたその言葉に、アグモンも太一の背へと手を回す。
 お互いに抱き締めるような格好のまま、その場に横になった。

「だな……お休み、アグモン」
「お休み、タイチ」

 嬉しそうに擦り寄ってくるアグモンに、笑顔を見せれば返される温かな笑み。
 そして直ぐに聞えてくる安心した寝息に、太一はそっと息を吐き出した。

 腕に感じる確かな温もり。

 今は、それだけが自分にとっての安らぎ。