ずっと探していた。
 誰も覚えていなかったけど、唯一の大切な人。

 自分だけが、覚えていた。
 だって、あの人を、私が忘れる事は、絶対にあり得ない。

 だから、私だけが、覚えていたの。

 あの人の事を……。



 タケルくんが連れていたデジモンが、あの人の名前を呼んだ。

 ずっと探していた名前。
 そして、何よりも聞きたかった名前。

「タケリュ、タイチに会いに行くんでしょう?」

 聞こえてきた声に、その足を止める。

 今日、タケルくんがデジモンを学校に連れて来ていた。
 私以外の人には、見えない事は分かっていたから、そのまま見えない振りをしていたけど、聞こえてきた言葉に、思わず振り返ってしまう。

「えっと、多分あの人の事を言ったんだよね?うん、泉さんの家には、行こうと思っているよ」

 小さな声で、デジモンに返事を返しているタケルくんの言葉。

 ああ、やっぱり、あの人の名前は、彼には届かないのね……。
 だって、私がどんなにあの人の名前を言っても、誰も聞こうとはしなかった。

 まるで、その言葉が聞こえていないかのように……。

 だけど、今、あの人の名前が聞こえた。
 そう、今ならきっと、あの人に会える。

「タケルくん!」
「あっ、えっと、何、ヒカリちゃん」

 私が突然、彼の名前を呼べば、驚いたように、少し焦ったように彼が振り返った。

「私を、その人に、会わせて!!」
「えっ?その人って??」

 意味が分からないと言うように、聞き返される。
 そうよね、彼には、デジモンが見える事を話していないもの。

「その子が言う人に、会わせてもらいたいの」

 だから、タケルくんの頭の上に乗っかっている子を指しながら、言えば、ますます驚いたような表情を浮かべた。

「ヒカリちゃんにも、見えるの?」
「うん、だから、お願い」

 見えるよ。
 ずっと小さい時から、見えていたもの。
 誰にも見えない、デジモンと言う生き物を……。

「タケリュ、ボクからもお願い、ヒカリをタイチの所へ連れて行ってあげてよ」
「えっ、でも………」

 この子は、知っている。
 私と、あの人の関係を……。

 小さなデジモンからも、お願いされて、タケルくんが、困惑した表情を見せた。

「どうしても会いたいの、会って、確かめたいから!」

 どうして、皆の記憶が無くなってしまったのか。
 私の記憶までも、薄れている理由。
 あの人の事は覚えている。
 そして、タケルくんや、他の仲間と一緒に旅をした事も。

 私に、パートナーデジモンが居る事、なのに、その名前を覚えていない理由が知りたい。

「……分かった。一緒に行こう」

 必死でお願いする私に、タケルくんが、手を差し伸べてくれる。

「有難う」

 それに、私は笑顔でお礼の言葉を述べた。

 あの人に会える。
 それだけで、嬉しい。


 ずっと探していた、私の大切な人。

 何時だって、私を守ってくれた。
 どんな時でも、安心を与えてくれた人。

 本当に、探していたの。

 誰も覚えていなかったけど、それでも、私は信じて探していた。

 何時か、戻ってきてくれる事を……。
 例えそれが、新たな戦いを意味していると分かっていても、私は、感謝できる。


                                             



   ヒカリちゃんの語りですね。<苦笑>
   ああ、こうして『裏・GATE』が、表との関連線をどんどん強くしていくんです。
   でも、表だけでも、話は繋がっていますよね?(聞いてどうする!?)
   考えていた内容から、違ったものになりました。
   ヒカリ様が、好きに語ってくれたので、早く書けたんですけど、考えていた内容と全く違うよ。(T-T)
   本編とちゃんと絡めるつもりだったのに……。
   仕方が無いので、もう一つ『裏・GATE』UP予定。
   タケルくん視点で頑張ってみますね。
   何時UPできるかは、謎ですけど。<苦笑>