人の声が玄関の方から聞えてくる。
 それに、オレは、慌ててリビングを飛び出した。
 ずっと心配していた人が戻ってきたのだと、安心して走り寄る。

「やっと戻ってきた!!心配してたんだよ……えっ?えっ?ヤ、ヤマト?!」

 その姿を確認して、安心したように言葉を告げ、そして、文句を言おうとした瞬間、誰よりも良く知っている髪の色を見つけ、驚いてその名前を呼んでしまう。

 あの頃よりもずっと身長も高くなって、昔以上に格好良くなっているけど、その瞳の色と髪の色は変わっていない。
 オレの大好きな色。

 だけど、オレが名前を呼んだ瞬間、ヤマトが困惑した表情を見せる。

「……こいつが、お前の言っていた俺に会わせたい奴か?」

 そしてタイチへと質問されたその言葉に、オレは、覚悟していた事実を目の前に、付きつけられた。
 コウシロウやタケル達を見ているから、分かっていた事だけど、もしかしたらと言う期待を持っていたのは、拭えない事実。

「ヤマトは、やっぱりオレの事、覚えてないんだ……」
「す、すまない」

 分かっていたけど、そう呟いた瞬間、ヤマトが謝罪の言葉を口にする。
 覚えていないのは、ヤマトが悪い訳じゃないのに、本当にすまなさそうにオレを見詰めるヤマトに、オレは慌てて首を振ってから、笑顔を返す。

「ううん、ヤマトが、悪いんじゃない。それに、今、こうしてヤマトに会えただけで嬉しいんだ」

 それは、本心。
 ヤマトがオレのことを覚えていなくっても、オレはヤマトの事を覚えてる。
 そして、こうしてまた会えた事が、本当に嬉しい。

「なんにしても、こんな所で話をするより、移動した方がいいでしょう。武之内先輩は、どうしてますか?」

 オレ達の会話が一段落した瞬間、コウシロウが声を掛けてくる。

「武之内って、ソラの事だね?だったら、今は落ち着いて、向こうに居るよ」

 コウシロウの質問に、一瞬だけ考えてから返事を返す。オレのその言葉に、コウシロウが頷いて皆を部屋の中へと導いた。

「では、狭いですが、上がってください。武之内先輩も、中にいらっしゃるようなので」

 言われた言葉に、タイチが頷く。
 アグモンもタイチと同じように頷いて、進められるままに部屋の中へと入っていた。
 そして、今気が付いたんだけど、レオモンもタイチ達に続いて部屋の中へと入っていく。

 でも、何でレオモンが居るんだろう?

 そんな事を疑問に思いながらも、オレもその後に続く。
 だけど、オレ達とは違って、動かないヤマトに気が付いて、その足を止めた。

「石田先輩、どうかなさったんですか?もう、皆さん部屋に入られてますけど…」

 そんなヤマトに、コウシロウが声を掛けているのが聞えてきて、オレは立ち止ったその場所で、何となく聞えてくる声を聞いてしまう。

「今、行く……」

 コウシロウに声を掛けられて、ヤマトが不機嫌そうな声で返事を返すのが聞えてくる。
 そして、視線を向ければ、ヤマトが靴を脱いでいるのが見えた。

「……武之内先輩にお会いしたくないんですね。告白を、断ったんですか?」

 靴を脱ぎ上がってきたヤマトがコウシロウの横を通り過ぎようとした瞬間、聞えてきたその声に、オレは言葉を無くす。

 ソラが、ヤマトに告白?それを、ヤマトは、断った??

 オレが驚いて、言葉を失っている中、ヤマトもオレと同じように驚いて、コウシロウを見詰めている。

「……有名な話ですよ。驚く事ではありません。告白を断ったお相手が、貴方にとって『仲間』であるその気持ち、残念ながら僕には分かりません。ただ、約束してくださいませんか。彼を、苦しめる事だけはなさらないと……」

 『彼』とコウシロウが、言った相手の事が、嫌でも分かってしまう。
 だけど、オレにはヤマトの答えは、聞かなくても分かった。
 だって、オレは、ヤマトの気持ちを誰よりも知っているから。
 だから、ヤマトがソラの告白を断った理由も、知っている。

「……お前に、言われるまでもないはずだ……」

 そして、聞えてきたのは、オレが想像していた通りの言葉。

「ガブモン……」

 ヤマトがそう言葉を返した瞬間、名前を呼ばれて顔を上げる。

「タイチ」

 多分、オレと同じように話を聞いてだろうと分かるタイチが、少しだけ困ったような笑みを浮かべてオレを見ていた。
 まるで、何もかもを知っているようなその笑顔に、オレは言葉を失う。

「ヤマト、光子郎!んな処で、何やってるんだよ!!」

 だけど、その笑顔は一瞬だけで、次の瞬間には、何時もの明るい声で、ヤマト達を呼ぶ。
 そして、ひょっこりと自分の姿を隠すように、玄関を覗き込む。

「すみません。今、行きます」

 その声に、コウシロウの声が聞えてくる。
 それに、少しだけホッとしたように、オレは息を吐き出した。

「大丈夫だから、ガブモン」

 胸を撫で下ろしたオレに、タイチがポンポンと優しくその頭に手をやって、笑顔を浮かべる。

 ねぇ、君は、何処まで知っているの?
 本当は、知らない事なんて、ないように……。
 ヤマトの気持ちも、コウシロウの気持ちも、そして、ソラの気持ちも、本当は知ってるんじゃないの?

 なら、君の心は、何処にあるんだろう。

 みんなを思う君の気持ち。

 オレ達みんなの気持ちを知っている君が、誰よりも、辛いのかもしれない。
 君は、オレ達デジモンまでも、その広い心で、支えてくれるから。

 決して、弱さを見せない、悲しいまでに強い、心。

「タイチ」
「んっ?」
「ヤマトを連れてきてくれてありがとう」

 本当に、言いたい言葉は、そんな事じゃないけど、君の心が少しでも軽くなるのなら、オレは笑うよ。
 オレの世界で一番大切なパートナーが、誰を思っているのか知っているから。

「礼を言われる事じゃないよ」

 当たり前のように笑う君の笑顔を、オレもずっと見てきた。
 だからこそ、君のその笑顔が、途切れないように、オレも祈るよ。



                                             



   はい、続けての更新出来て良かったです。
   『裏・GATE』ガブモンの語り。(笑)
   実は、ガブモンだけでなく、太一さんもお話を聞いていたと言う事を書きたかったガブモン編でした。
   なので、次の26では、空が誰に告白して振られたのかを、太一が知っていると言う事で話が進んでいきます。
   勿論、『裏・GATE』を読まなくっても話が続くのをモットーにしておりますので、説明は、次回に!(おい!)
  
   そんな訳で、ガブモンの性格が偽者!の『裏・GATE』20作目でした。