目の前で、大切な人が眠っている。
 自分が、守りたいと、誓った人。
 どんなに辛くっても、笑顔を絶やさない優しいボクの唯一のパートナー。

 ねぇ、ボクは君を守る為だけに、ここに居るんだよ。
 だから、一人で苦しまないで……。

「眠ってしまったようですね……」

 不意に、声が聞こえて、振り返る。

「コウシロウ?」
「薬が効いているんですよ。だから、このまま寝かしておきましょう」

 にっこりと優しい笑顔を見せる相手に、頷いて返す。
 だって、誰よりも君が疲れている事を、ボクは知っていたから……。

「話が、あるのですが、宜しいですか?」

 大切な君を見詰めていたら、そっと尋ねられた事に、ボクは不思議に思って視線を相手に向けた。

「ボクに?」
「はい…貴方は、彼のパートナーなんですよね?」

 落ち着いた声が尋ねてきた事に、ボクは黙って頷く。
 だって、ボクは君のパートナーだから……。

「だから、お話を、聞かせてください。もう少ししたら、高石くんもいらっしゃいますよ」

 ボクに、聞きたい事って何なんだろう?

 だって、ボクは、テントモンや他の皆みたいに考える事を得意とはしていない。
 だから、ボクなんかに、話を聞いても、きっと何も分からないと思うんだ。
 だけど、コウシロウの瞳は真剣で、ボクはただ小さく頷く事しか出来なかった。



「話と言うのは、あの人の事なのです」
「あの人?って、タイチの事??」

 タイチが眠っている部屋を後にして、言われた通りソファに座る。
 ずっとここに居た、ガブモンやテイルモン。
 それに、テントモンやピヨモンが、ただ黙ってボクの行動を見守っているように思うのは、気の所為なのかなぁ?
 ボクの問い掛けるようなその言葉に、コウシロウが少しだけ困ったような顔をする。

「貴方が、名前を言ってくださっても、僕にはあの人の名前は、聞こえないんです」

 そして、複雑な表情をして、小さくため息をつくと、信じられない言葉を口にした。
 だって、名前が聞こえないって……。

「コウシロウ?」
「僕には、貴方や、あの人の名前が聞こえないんですよ」

 意味が分からないと言うように名前を呼べば、困ったような表情で再度同じ言葉が口に出される。
 信じられなくって、ボクは他のみんなの顔を見た。
 だけど、みんなの表情は、複雑な表情を浮かべているだけで、誰も、それを否定してくれない。

「うそ、何で、タイチの名前、聞こえないの?ボクは、アグモンで、テントモンにガブモン!!コウシロウ、本当に聞こえないの??」
「アグモン……これは、仕方のない事なんだよ…」

 信じたくなくって、コウシロウに詰め寄ったボクを、ガブモンが少しだけ寂しそうに口を挟んだ。

 仕方のない事?何で?どうして??
 どうして、そんな悲しい事ばっかり、こうして突き付けられるの?
 どうして、ボクの大切な人を傷付けるの?

「ガブモン……どうして、タイチが、悲しむような事ばかり、起こるの?どうして、ボクは、タイチを守ってあげられないの?」
「……アグモン……」

 こんな事、ガブモンに言ってもどうにかなるなんて思ってない。
 だけど、どうしても口に出てしまう。

 だって、何時もボクの大切な人が、悲しい顔を見せるから……。
 ボクは、何も出来ない。ねぇ、どうすれば、ボクは君を救えるの??

「貴方が傍に居る事で、彼は、救われていると思うのですが……」

 皆を困らせるような事を言うボクの耳に、コウシロウの静かな声が聞こえた。

「…ボクが居る事で、タイチを救えてるの?」
「僕は、そう思えますよ。現に僕が、彼に救われたのですから……」

 ボクの問い掛けに、コウシロウが優しい笑顔を見せて、テントモンへと視線を向ける。
 コウシロウが言いたいのは、きっとテントモンが居て、救われたって事を言いたいんだと思うけど、だけど、ボクには、タイチを救えているなんて思える自信はない。

「俺も、そう思うよ。タイチは、アグモンが居てくれてよかったって、何時も言ってるじゃないか。ねぇ、その言葉を信じてあげなよ」

 不安な気持ちを吹き飛ばすように、ガブモンがボクに笑顔を見せる。
 ねぇ、本当にボクは、君を救えてるの?

「わてもそう思います。太一はんは、アグモンに、救われてるんやって……」
「テントモン…」

 皆が、ボクを慰めてくれる。
 ねぇ、ボクの大切な君、君は、一人じゃないよね……。

「あっ!高石くんがいらっしゃったようですね」

 足音と、人の話し声。それに、コウシロウが立ち上がって、玄関へと歩いていく。
 それを見送りながら、ボクはそっと息を吐き出す。

「……ガブモン…きっと、タイチはこの事を知ったら、悲しむよね……」

 コウシロウの姿が見えなくなってから、ボクは、自分の隣に居るガブモンへと口を開いた。
 ねぇ、ボクの大切な人を、これ以上悲しませないで……。

「……タイチは、知っていたのかもしれないね……だから、自分の名前も、言わなかったのかも……」

 ねぇ、君は、何処まで知っているの?
 どうして、一人で苦しむの?ボクは、君のパートナーなのに……。

「そうかも知れない……タイチは、他の子供達の前で、私達の名前も言わなかった……」

 テイルモンの言葉に、皆が俯く。
 ねぇ、ボクは、本当に君のパートナーとして、必要とされているの?

「わては、太一はんは、皆さんに、自分で思い出して貰いたいんやろうと思います……」

 テントモンの言うように、タイチの気持ちは、ボクにも分かる。
 だって、君が言えば、それだけで、皆を混乱させると分かっているから……。

 なのにどうして、そんな優しいあの人を傷付けるような現実しか用意されていないんだろう。

 ねぇ、どれだけボクの大切な人を傷付ければ、気が済むの?
 ねぇ、どうして、あの人だけを苦しめるの??

 ボクには、君を救えない。
 ねぇ、だから、誰かボクの大切な人を助けて……。

「アグモン、タイチに説明するのは、オレがするよ……だから、そんな顔しないで……」
「ガブモン……」

 そっとボクの肩に手を添えるガブモンに視線を向ければ、優しい笑顔が向けられていた。

「それやったら、話さない方がいいんとちがいますか?」
「テントモン?」
「このまま、何も言わない方が、タイチの為には、いいのかもしれないな……」
「テイルモン??」

 皆が、タイチの為に考えてくれている。

 ねぇ、君は、一人じゃないよ。
 ボクが、皆が君を大切だと思っているんだ。
 だから、一人で苦しまないで……。

「それは、違いますよ」
「コウシロウ?」

 みんなで話をしている中、コウシロウの声で、全員がそちらに視線を向ける。
 そこには、コウシロウとパタモンを連れたタケルの姿。

「ボクも、隠し事はしない方がいいと思うよ」
「タケル?」
「今から、その事について、話をしましょう」

 少しだけ困ったような表情で、コウシロウがソファに座る。
 ねぇ、どうすれば、一番君を傷付けないで居られるんだろう?
 ねぇ、ボクは、どうすれば、君を救えるの??

 ボクの、一番大切な君。ねぇ、誰か、彼を助けてください……。
 ボクの願いは、それだけです…。



                                             



   はい、『裏・GATE』3話目となりました。
   アグモン視点となっております。なのに、意味不明…(駄目過ぎ…xx)
   少しだけ、切ない感じで書きたかった筈なのですが、失敗に終わってますね……xx
   そして、とってもいい場所で話を打ち切っております。
   この後は、『GATE 13』に続く訳なのですが……。(って、事は、太一さんお目覚め??)
   太一さんを泣かせようと考えていた筈なのに、『GATE』の中で、まだ一度も泣いてません。(ですよね??)
   何時、太一さんを泣かせましょう。(おいおい)