― 鈍い君とボク ―

            



 突然の呼び出しに、家を飛び出してきたのは数十分も前の事。
 少し肌寒い季節に、外に呼び出されるとは考えていなかっただけに、ちょっとだけ薄着で出てきた事を後悔してしまう。
 小さく体を震わせれば、それに気がついて、自分がしていたマフラーを渡される。
 今まで、あいつがしていたマフラーは、とても暖かくって、まるで……。

「ヤ、ヤマト!何で、急に呼び出したんだよ!」

 自分が考えた事に思わず顔が赤くなってしまうのを感じて、俺は隣に居るヤマトに突然問い掛けた。
 だって、ずっとダンマリ状態で、いい加減不安になってくるから……。

「……いや、だったのか?」

 だが、逆に心配そうに聞き返された事に、即座に大きく首を振って返す。嫌なら、直に帰ってるに決まってる。
 そんな俺に、ヤマトが嬉しそうな笑顔を見せた。思わず俺が見惚れてしまいそうなほど、綺麗な笑顔。
 顔が赤くなるのは、やっぱり止められない。

「……太一と、一緒に居たいって思ったんだよ……迷惑だとは、思ったんだけどな」

 苦笑を零しながら言われる事に、ますます顔が赤くなるのを止められない。
 どうしてこいつは、そんな事を平気な顔で言えるのだろうか?言われた方は、恥ずかしいのに……。

「…め、迷惑な訳、ないだろう……ヤマトと一緒に居るのは、俺だって嬉しいんだからな……」

 ヤマトから視線を逸らして、少しだけ不機嫌そうに答えてしまうのは、恥ずかしいからである。
 やっぱり、こう言う事をいうのって、すっごく恥ずかしいよなぁ……。

「太一、歩こうぜ」

 俺の言葉に嬉しそうな表情をして、ヤマトが急に立ち上がった。それに驚いている中、そのまま手を引っ張られてしまう。

「ヤ、ヤマト……」

 余りにも突然な行動に、俺は否応なしについていくしかない。それにしても、今日のヤマトは、すっごく積極的って言うよりも、強引だよなぁ……。
 珍しいヤマトの強引さに振り回されながら、俺たちはそのまま公園の中を歩き出した。

「……ヤマト、手……」

 だが、今だに俺の手を掴んでいるヤマトに、そっと手を離すように名前を呼ぶ。だが、ヤマトは一度俺を見てから笑顔を見せると、そのまま掴んでいる手に力を込めた。

「ヤ、ヤマト?」

 離さないように捕まれている手に、ヤマトの体温を感じて、俺は内心の動揺を隠せない。

「誰も居ないんだから、いいだろう?」

 そ、そりゃ、季節が季節だから、人の姿なんて見当たらないのは本当の事だけど、やっぱり、ヤマトと手を繋いで歩いて居るという今の状態は、恥ずかしいと思うのは仕方ないと思う。
 そう考えると、今日のヤマトはやっぱり様子が可笑しいよな、うん。

「……ヤマト、何かあったのか?」
「…なんで、そう思う?」

 心配そうに尋ねたそれに、逆に聞き返されて、俺は言葉に詰まる。だって、何が可笑しいのかって言われたら説明なんて出来ないから……。

「何となく、だけどさぁ……えっと、今日は、その強引だから……」
「強引な俺は、嫌?」

 言い淀む俺に、更にヤマトが問い掛けてくる。

「い、嫌な訳ないだろう!どっちもヤマトなんだから!!……あっ!」

 ヤマトの質問に慌てて言葉を返した瞬間、自分の言った事に、思わず顔が赤くなるの止められない。
 だけど、俺の言葉に嬉しそうな笑顔があって、俺は思わず見惚れてしまった。

「太一なら、そう言ってくれると思った……実は、太一の顔が見たくなった理由は……」

 苦笑を零しながら話し始めたヤマトに、俺は黙ってただその話を聞く。
 ヤマトの話は、こうだった。



 放課後、何時ものようにバンドの練習のため急いでいたヤマトは、一人の女子に捕まった。
 そして、何時ものように告白されて、それを断ったんだそうだけど……。

『石田君って、思っていたよりも、ずっと冷たい人だったのね』

 最後に言われたその言葉が、どうやらヤマトを傷付けてしまったようだ。
 勝手に理想を押し付けられてしまうのにも、いい加減うんざりするけど、フラれたからって、そんな事を言うのもどうかと思ってしまう。
 だが、相手がそう言ったと言う事は、ヤマトもきっとそれなりの返事を返したと思ってしまうのは、ヤマトの事を知ってしっているから……。
 俺は、ヤマトが不器用な奴だって知ってるし、なぁ。

「お前、何て言って断ったんだ?」

 苦笑を零しながら、ヤマトに尋ねれば不思議そうな表情で見詰められてしまう。

「えっ?だから、『あんたに、興味はない』って……」

 俺の質問に、女の子に言った台詞をそのまま教えてくれたヤマトに、思わずため息をつく。
 確かに、間違いは言ってないけれど、それじゃ相手の奴怒るよなぁ。フルにしたって、もうちょっと言葉を選んだ方がいいと思うぞ、俺は!

「……ヤマト…お前が、不器用な奴なのは、知ってるけど、それじゃ誰だって怒るって……」
「…そ、そうなのか?」

 盛大なため息をつきながら言った俺の言葉に、ヤマトが困ったように聞き返してくる。
 そんなヤマトに俺は、思わず苦笑を零した。

「……本当は俺、怒っていいと思うんだよなぁ……俺というものが居ながら、『興味がない』って断るか、普通!」

 俺とヤマトが付き合い始めて、既に3ヶ月は経っている。それなのに、『興味がない』と言って相手をフルのは、間違ってるよなぁ、やっぱり。

「それじゃ、お前は、何て言って断ってるんだよ……」

 俺の言葉で、不機嫌そうにヤマトが問い掛けてきた事に、俺は顔を上げてヤマトに笑顔を見せた。

「俺?俺は、ヤマトと違って、告白なんてされた事ねぇもん」

 うん、嘘じゃねよなぁ。俺は、女子から告白などされた事は、一度もない。

「……鈍いんだよなぁ、お前の場合……」

 笑顔で答えた俺の耳に、ヤマトが呆れたようにポツリと呟いた言葉が聞こえてきた。
 た、確かに、俺は鈍いかもしれないけど、告白されてるのかどうかって事くらいは、分かるぞ。いくらなんでも…。

「だ、誰が、鈍いんだよ!」
「お前以外に誰が居るんだ、太一」

 呆れたように呟かれたそれに、俺は不機嫌そうにヤマトを睨みつける。だが、それはヤマトの笑顔によって無意味なものになってしまった。

「俺が、何度も告白してるのに、気が付かなかったのは、お前だろう?」

 笑顔のままに言われたその言葉に反論できない自分が、情けない。確かに、俺は何度も告白されていたらしい、だけど、それを友情と勘違いしてその、恋愛だって分かったのが、3ヶ月前の話なのである。

「あ、あれは……」
「俺は、結構それで悩まされたんだぞ……」

 ため息をつきながら言われたそれに、何も返せない。全部本当の事だから……。

 ど、どうせ、俺は鈍いですよ!

「そんなに怒るなよ……今は、俺の気持ち、ちゃんと知っててくれてるんだろう、太一」

 不機嫌そうにそっぽを向いた俺に、ヤマトが苦笑をしながらそんな俺を抱き締める。少しだけ冷えてしまっていた体に、ヤマトの体温を感じて、一瞬胸がドキッとしてしまうのは止められない。

「そ、そんな話をするために、俺を呼び出したんじゃないんだろう!」
「……そうだったけ?」

 真っ赤になる顔を見られないようにしながら、俺が少し大きな声で言えば、耳元で楽しそうな声が小さく呟く。

「……興味ないんだろう……」
「太一には、興味あるさ。お前だけにしか、興味ないとも言う」

 ポツリと漏らした言葉に、嬉しそうに言葉が返される。それに、ますます顔が赤くなるのが自分でも分かって、俺は慌ててヤマトから体を離そうと暴れだした。

「だ、だったら、告白されたら、『俺には、付き合ってる奴が居る』くらい、言ってみろよな!」
「……そう言う方法もあるな」

 感心したように呟かれたそれに、俺は盛大なため息をつく。本当に、こいつ分かってなかったのか?
 人の事、鈍いって言うけど、十分こいつだって鈍いと思うぞ、俺は!!

「よ、用事終わったんなら、俺は帰るからな!」
「待ってて、太一……」

 納得しただろうヤマトに呆れながら、俺はその腕から離れると走り出そうとする。だがその時に、腕を捕まれて自分の意思とは反対に、その場所から離れる事は出来なくなってしまった。

「ま、まだ何かあるのか?」
「……もう少し、散歩しよう。太一と一緒に居たいからな」

 ニッコリと、嬉しそうにそんな台詞を言うなよなぁ!そんな顔で言われたら、『嫌』とは言えない。
 そのまま素直に頷いて、夜の散歩に付き合った事は、俺の意志が弱いからなのか、それともやっぱり惚れてしまった所為なのか、分からない。
 だけど、その散歩の中で、ずっと繋がれていた手が、寒いと言う事を感じさせないほど幸せだった。
 きっとそれも、好きな人と一緒に居るからだろう、なんて思いながら、そんな事絶対にこいつには教えてやれないと思ってしまう辺り、やっぱり俺は、こいつの事好きなんだろう。



 そして、それから暫く経って、学校の中に石田ヤマトに彼女が出来たという噂で持ちきりになったと言う事は、また別の話である。


 




  はい、20000HITリクエスト小説です。
  リクエスト内容は、『夜のお散歩』でした。……これて、一様お散歩でしょうか?
  やっぱり、またしてもリクエストには、答えていないような気がします。<苦笑>
  折角、リクエストして下さった ゆな様本当に、すみません(><)
  こんな小説でも、少しでも気に入っていただければ、いいんですけどね。(無理だって……xx)

  そんな訳で、本当に20000GET&リクエスト有難うございました。
  宜しければ、またお願いいたしますね。