「あれって、芸能科のヤマトじゃない?」

 耳に入ったその会話に、思わず意識が向いてしまう。
 同じ学校であっても、滅多に会うことの出来なくなった相手の名前に、反応してしまう自分に思わず苦笑を零す。

「八神!面会人」

 その瞬間クラスメートに呼ばれて、そちらに視線を向けて首を傾げた。

「面会人?」

 ドアには、人の姿は見えない。

「外で待ってるからって、よ」

 廊下を指差してのその台詞に、太一は仕方ないとばかりに椅子から立ち上がると教室を後にした。
 廊下に出て、自分に会いに来たと言う人物を探す。しかし、それらしい人物が見つからずに、太一は盛大なため息をついた。

「……騙され…」
「太一!」

 盛大なため息と同時に文句の一つでも言ってやろうと教室に戻るように振り返った瞬間、後ろから声が掛けられる。
 勿論、その声に心当たりは一人しか居ない。

「……ヤマト??」
「ちょっと、いいか?」

 そしてそのまま言われた言葉に、意味も分からずに頷いて返した。




「で、どうしたんだ?」

 校舎が違うのに、わざわざ来たという事は、大事な用事があるからだと思うのが普通だろう。しかも、芸能科と言えば、アイドルと科したモノが通う所で、こうして一般の教室に来るのは、やはり目立つのだ。
 何も言い出さないヤマトを前に、太一は小さく息を吐き出す。

「……バンドの方、大丈夫なのか?」

 本格的に、プロ活動をしているヤマト。しかも、高校生バンドと言うのに、人気は高く今では学校に来るのもかなり難しくなっていると聞いている。

「……そっちは、問題ない…」

 自分の質問に、漸くヤマトが返事を返す。しかし、それは正確な答えではなく、気不味い雰囲気が流れて、沈黙。
 その沈黙を先に破ったのは、ここに呼び出した人物だった。

「太一は、将来やっぱり、プロ選手になるのか?」

 沈黙を破っての突然の質問に、太一は複雑な表情を見せる。突然呼び出しての内容が、こんな話だとは思っても居なかっただけに、ため息は止められない。

「……ヤマト…話って、それなのか??」

 突然呼び出されたのだから、それなりの理由があると思っていた。
 なのに、突然質問された内容は、将来の事。そんな話をするために呼び出されたと言うのは、流石に面白くない。

「えっ、いや、違う……」

 太一が不機嫌なのに気が付いて、慌ててヤマトが首を振る。

「じゃあ、何だよ!」

 確かに高校3年と言う自分たちの立場から言えば、卒業してどうしたいのかと言う質問が出ても不思議ではない。しかし、本当に久し振りに会った相手に、行き成り質問されるような内容ではないだろう。

「……あのな、その……」

 言葉に困っているヤマトを前に、太一はただ大人しくその先の言葉を待つ。
 久し振りに会った大切な人。電話で話す事しか出来ない相手に、少しだけ寂しい思いをしていたのだって認めている。

「……2年、アメリカに行く事が決まった……」

 そして、漸く口を開いて出たその言葉に、太一は意味が分からないと言うような表情を見せた。

「アメリカ??」
「ああ…」
「2年も??」
「……ああ…いい勉強になるからって……」

 信じられないと言うように聞き返せば、頷いて返される。
 冗談だと言ってもらいたかったのに、しかし、その気持ちは裏切られてしまった。

「……い、何時から??」
「卒業と同時に……」

 ポツリと言われた言葉は、まるで残酷な言葉のように聞こえる。卒業まで、もう半年と残っていないのだ。

「……それで、俺にどうしろって言うんだ?」
「太一が、一緒に行ってくれれば……」
「行ける訳ないだろう!関係ない俺が行けば、変に思われる……お前、自分が人気あるって事、自覚してるのか?」

 ヤマトの言葉を遮って、太一は自嘲的な笑みを浮かべる。
 だから、あんな質問をされたのだと、今更ながらに納得してしまった。
 自分の夢を聞いたのは、自分の気持ちも考えてくれたから……。その上で、一緒に居たいと望んでくれた事は嬉しいけれど、そんな事を、自分は望んでいない。
 太一は、ヤマトから視線を外すように瞳を閉じると、ゆっくりと息を吐き出した。

「……俺の夢は、サッカークラブ作る事。プロのサッカー選手を夢見る子供に、サッカー教えてやりたい。それが、俺の夢だ」
「太一……」
「だから、ライセンスがいる……取らないといけないんだ……それって、結構、大変なんだぜ」

 自分の名前を呼ぶヤマトに、笑顔を見せる。
 ずっと、誰にも言わないで暖めていた自分の夢。それは、小さいけれど、今現実にしようと頑張っているところなのだ。

「ヤマトは、ヤマトの夢を……俺は、俺の夢の為に頑張る。だから、約束、してくれよ……」
「何を?」

 真剣にヤマトを見詰めれば、しっかりと受け止めてくれる瞳がある。

「……気持ちを変えないでくれ……」
「太一?」
「俺の事、好きだと言う気持ち。それから、夢を諦めないと言う気持ち……俺は、信じるから、ヤマトの気持ちを……」
「…太一……」
「約束、だから、な……」
「ああ……」

 しっかりと頷く相手に、太一も笑顔を見せて大きく頷いた。

「なぁ〜んて、まだ半年近くあるんだから、気が早いかぁ………それにしても、アメリカで武者修行させようなんて、お前らのマネージャーって、スゲー人なんだな」

 感心したように呟かれた言葉に、ヤマトが苦笑を零す。出来るだけ明るく見せるその姿は、自分を偽って居ると分かるから、かける言葉が見つからない。
 きっと、目の前の人物は、今すぐに自分がアメリカに行くと言っても、決して泣かないだろうと分かるから……。
 自分の前でさえ、弱さを見せてくれないのは、悲しい事だ。

「太一……」
「ああ?」

 空を見上げている太一に、ヤマトがそっと名前を呼ぶ。

「……俺からも、いいか?」

 そして続けられた事に、太一は少し驚いたよう表情を見せるが、直ぐにしっかりと頷いた。
 自分の言葉に頷いてくれたのに、笑みを見せてから、ヤマトは真剣な表情を見せて、真っ直ぐに太一を見詰める。

「約束して欲しい……戻ってきたら、一緒に暮らすと……」
「……ヤマト??」

 一瞬言われたことの意味が理解できずに、太一はヤマトを見た。そして、真剣に自分を見詰めている瞳とぶつかって、漸く言われた事の意味を理解する。

「……それって、もしかしなくっても……」
「プロポーズに決まってるだろう!…で、どうなんだ?」

 恐る恐る自分に確認してくる太一に、ヤマトは呆れたようにきっぱりと答えると、返事を促す。
 自分の返事を待っているヤマトを前に、太一は笑みを零した。

「そんなの、決まってるだろう!」

 ぎゅっと腕に抱き付きながら、当然と言うように返事を返す。
 他の言葉なんて、知らない。自分の心は決まっているから……。
 太一の言葉に、ヤマトが嬉しそうな笑顔を見せる。

「約束、したからな……」
「俺だって、約束、忘れるなよ……」

 お互いに伝えあってから、同時に笑う。
 儀式的な約束のキス。だから、約束は絶対。



 それから、卒業と同時にヤマトはアメリカへ。
 2年後の約束を護る為に……。


 そして2年後、ヤマトと太一の左手薬指に、お揃いの銀の指輪が輝く。


 

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  47000HITリクエスト小説。
  リクエスト内容は、『高校生のヤマ太』だったはず……xx
  高校生?あれ??可笑しいなぁ……xx
  何か、気分的には、『新婚シリーズ』の高校生バージョンのような気がするのは、私だけでしょうか??
  不思議すぎる……xx

  すみません、またしてもリクエスト失敗。
  今度こそはと言ったのに、本当にすみません、晃様。
  私には、やっぱり才能無いんでしょうね、本当……xx