「一乗寺?」

 突然驚いたように名前を呼ばれた瞬間、顔を上げる。
 目の前に居たその人物は、自分が何度謝っても謝り足りない人。
 自分は、この人のパートナーデジモンに酷い事をしてしまったから……。

「……す、すみません」

 そして、それを認めた瞬間一乗寺賢は、深く頭を下げた。
 突然頭を下げられて、声を掛けた人物は、思わず困ったような表情を見せる。

「……別に、謝ってもらいたくって声掛けた訳じゃねぇから、頭上げろよ。それより、ちょっと話しようぜ」

 にっこりと自分に笑顔を見せる相手に、賢は困ったような表情を見せながらも小さく頷いた。
 それに、さらに満足そうな笑顔が見せられる。

「八神!」

 そんな二人に、少し離れた場所から声が掛けられて、呼ばれた者が振り返ると大きく手を振った。

「悪い、用事で来たから、先に帰っててくれ!」

 そして、大きな声でそう言えば、少しだけ残念そうな声が返事を返してくる。そんな遣り取りを見詰めながら、賢は小さく息を吐き出した。
 目の前の人物は、誰からも好かれるそんな人だと言う事を知っている。あの、間違いを犯していた自分にさえ、この目の前の人は笑顔を見せてくれるのだ。

「悪い、俺から声かけたのに……」

 友人が去って行くのを見送ってから、太一がすまなさそうに謝るのに対し、賢は慌てて首を振った。

「いえ、そんな事、ないです……」
「…そんなに緊張しなくってもいいぜ、とって食ったりはしねぇから」

 慌てている賢の姿に苦笑を零しながら、太一がポンッと軽く賢の背中を押すように叩く。

「あっちの方に、座れる場所があったよな……飲み物は奢ってやるよ、何がいい?」
「いえ、そんなのいいです……」

 促すように問われたそれに、小さく首を振って、賢が俯いてしまう。
 そんな相手の行動に、太一は困ったようにため息をつくが、直ぐにいつもの笑顔を見せた。

「気にすんなって!俺一人で飲むのは、寂しいだろう、だから、付き合ってくれないか?」
「えっ?」

 眩しいほどの笑顔で言われたそれは、自分に引け目を感じさせないように、サラリと言われる。

『自分が無理に付き合わせるのだから、悪いのは、自分だ』とばかりのその言葉に、賢は漸く頷いて見せた。

 それに、太一は嬉しそうな笑顔を見せると、自販機の前に立って小銭を入れる。

「好きなの押していいぜ」

 そして、ランプが付くのを確認してから、後ろに居る賢に声を掛けた。

「あっ、はい!」

 慌てて返事を返して、ホットのコーヒーを選ぶ賢に、太一も満足そうに頷く。
 そして、自分用にホットのお茶を選ぶとそれを持って、近くのベンチに腰を下ろした。

 暫くの間、二人の間に沈黙が流れる。
 賢は、買ったコーヒーを握り締めて、その手をただぼんやりと見詰める。

「……大輔に、仲間になってくれって誘われてるんだろう?」

 ぼんやりと手元を見詰めていた賢は、ポツリと口を開いた太一のそれに慌てて顔を上げて隣にいる相手を見詰めた。
 そして、その瞳が自分の事を優しく見詰めているのが分かって、慌てて視線をそらす。

「お前が、自分のした事を許せない気持ちは分かるぜ。俺も、似たような経験した事あるからな」

 苦笑しながらポツリと付け足されたその言葉に驚いて、そらしていた視線をもう一度太一に戻せば、優しい笑顔が目の前にある。

「……俺は、アグモンを暗黒進化させた事がある」
「えっ?」

 優しい笑顔なのに、少しだけ泣き出しそうな表情で言われた事の意味が分からずに、賢はただ太一を見詰めた。

「あの時は、気持ちばっかりが先走りして、その所為でみんなをそして、大切なパートナーであるアグモンを傷付けた」

 太一は、賢に向けていた視線を空へと向けて、泣き笑うような表情で話を続ける。

「皆は気にするなって言ってくれたけど、俺は俺自身が許せなかったぜ」

 『今はそんなこと無いけどな』と、続けられたその言葉に、賢はギュッとカンを持つ手に力を込めた。
 太一の話は、自分の環境とは全く違う。だけど、自分自身が許せないと言う点では、確かに同じモノ。

「……でも、それなら、どうやって自分を許したんですか?」

 俯いたままポツリと聞かれたその言葉に、太一はそっと笑顔を見せる。

「…仲間が居たから……」
「えっ?」
「そして、何よりも自分の事を思ってくれるパートナーが居たからだ」
「……パートナー……」
「お前にも居るはずだぜ。お前だけの事を思ってくれるパートナーが……」

 優しい笑顔を見えて、太一はそっと賢の頭に手を置くとポンポンと数回軽く撫でるように叩く。

「それに、迎えてくれる仲間だって居るだろう?」
「…そ、それは……」
「仲間が出来るって言うのは、理屈じゃないんだぜ」

 にっこりと笑顔を見せて、太一は賢の後ろを指差した。それに、賢も思わず後ろを振り返る。

「太一先輩!!」

 それと同時に嬉しそうな知った声が聞こえて、賢が驚いて太一に視線を向ければ、満足そうな笑顔と共に頷いて返されてしまう。

「ほら、仲間が走ってくるぜ」

 大輔が自分達に向かって走ってくる。それは、大好きな先輩を見つけて嬉しそうに……。

「一乗寺!太一先輩!!」

 満面の笑顔で名前を呼ばれて、賢は思わず複雑な表情を見せる。

「よぅ!大輔!」

 大輔から視線を逸らす賢を気にしながらも、太一は片手を挙げて大輔に笑顔を見せた。

「先輩、ここで、一乗寺と何してるんすか?」

 自分に笑顔を見せてくれる先輩に、不思議そうな表情を浮かべて、隣に居る賢と交互に顔を見てから不思議そうに首をかしげる。
 珍しい組み合わせと言うよりも、初めて見る組み合わせだ。
 しかも、太一は昔デジモンカイザーであった賢にアグモンを酷い目に合わされた経験を持っているだけに、思わず心配してしまうのは、仕方ないだろう。

「何って、お茶飲んでるに決まってるだろう、見て分からないか?」
「お茶って……確かに、先輩が持ってるのお茶だけど……」

 自分の心配を他所に、あっさりと言われたその言葉に、大輔は複雑な表情を見せるともう一度太一と賢を見比べた。

「お前が心配するよう事はないぜ」

 心配そうに自分のことを見詰めてくる大輔に、苦笑を零して呟けば大輔がごま隠そうな笑いを零す。

「俺は、太一先輩の事、信じてますよ!!」

 そして、慌てて言葉を述べる大輔に、太一は苦笑を零してしまう。
 確かに、大輔が心配するのは分かるから……。

 自分は、デジモンカイザーには、沢山の恨みを持っている。だが、それはあくまでも、デジモンカイザーに対してなのだ。
 今目の前に居る、一乗寺賢に対してではない。

「結局、一乗寺が悪い訳じゃないって、分かったんだろう?だったら、俺は過ぎた事をひっくり返してどうこう言うつもりはない。それに、一乗寺は、俺達の仲間になったんだからな」
「八神さん……」

 にっこりと優しく言われたその言葉に、賢が困ったような表情で太一を見詰める。

「ですよね!俺も、太一先輩と同じ考えなんですよ!!でも、タケル達は、まだそれを認めてくれなくって……」
「ああ、知ってる。だけど、あいつ等だって、直ぐに認めてくれるさ。今は、感情がついていかないだけだろうからな」

 大輔の言葉に、苦笑を零しながら太一が答えたそれに、大輔も納得しているのだろう素直に頷いた。
 目の前で交わされる会話に、賢が困ったようにもうかなり冷たくなったコーヒーのカンを握り締める。

「……元宮くん…八神さん…でも、ボクは……」

 そして、ポツリと漏らされたそれに、太一達の視線が賢へと向けられた。それに、キマリ悪そう俯いて、賢が口を開く。

「……高石くん達の反応の方が、普通だと思う……」
「んな事、分かって……」
「大輔!」

 俯いて呟かれたそれに、大輔が少しだけイライラしたように大声を上げるのを、慌てて太一が名前を呼ぶ事で遮る。
 太一に名前を呼ばれて、大輔は大人しく言葉を飲み込んだ。

「……悪いって、思う気持ちがあれば、遣り直せるさ……そして、そう思っている限り、相手にもちゃんと伝わるもんなんだ」

 当然のように伝えられる言葉は、スンナリト自分の中に入ってくる。
 賢は、何故目の前の人物が皆から好かれているのかを改めて理解した。
 自分のした事を許せる勇気。そして、周りを包み込めるほどの底知れない優しさ……。

「……あなたが、皆に好かれる理由が、分かります……もっと早くにあなたに会っていたら、ボクは変われって居たかもしれませんね……」

 苦笑しながら言われたそれに、太一は一瞬驚いたような表情を見せるが、直ぐに笑顔に変える。

「…今から、変わればいいんじゃないのか?」
「えっ?」
「今からでも、遅くはないだろう?」
「そうだぜ、一乗寺!太一先輩の言う通りじゃんか!!今からだって、幾らでも変われるんだぜ!!」

 太一の言葉に便乗するように言われた大輔の言葉にも、賢は驚いた表情を見せた。確かに、今からでも遅くは無いのかも知れない。そして、今目の前で笑っている二つの顔を見比べて、賢はそっと息を吐き出した。

「……確かに、今からでも遅くないのかも知れない……変われたら、ボクは貴方の隣にいる事を許して貰えるんだろうか…」

 真っ直ぐに太一を見詰めながら言われたそれに、言われた相手は、一瞬意味が分からないと言う顔をしたが、直ぐに意味を理解して、笑顔を作る。

「許しなんて、必要ないだろう?俺も、お前の事を大切な仲間だと思っているんだぜ」
「……そう言う意味じゃないですよ……でも、了解を貰ったって思っていいんでしたら……」
「えっ?」
「なっ!」

 言葉と同時に、賢が太一の頬にそっとキスをした。余りにも突然な行動に、太一は瞳を見開いて賢を見詰め、それを見ていた大輔は、余りの事に賢を睨み付ける。

「それじゃ、失礼します。コーヒーをご馳走様でした」

 ベンチから立ち上がって、まだ驚いたような表情をしている太一に頭を下げる。そして、大輔の隣を通り過ぎる時、賢はにっこりと笑顔を見せた。

「…元宮くん、これだけは、譲れないよ」
「一乗寺!」

 去り際に言われたそれの言葉に、大輔の大声が響く。それに、楽しそうな笑いを浮かべて、賢はそのまま走り去ってしまった。

「……あいつ、十分変わったんじゃないのか?」

 後姿を見送りながら、ポツリと呟かれた太一の言葉に、大輔が突然その肩を掴む。

「太一先輩、あいつを甘やかすのだけは、もうやめてください!!」

 行き成り肩を掴まれて言われたその言葉に、太一は意味も分からず小さく頷いて返す。それは、大輔の迫力に負けた為。
 そして、そんな遣り取りを初めから見ていた人物の影が二つ。


「……お兄ちゃん、どうやらライバルが増えたみたいだよ」

 にっこりと笑っているのに怖いと感じられるその笑顔を浮かべる実の弟に、ヤマトは盛大なため息をつく。

「……あいつは、無防備すぎるんだ……タケル、悪いけど、あいつだけは譲れないからな」
「大丈夫、今にお兄ちゃんから奪い取るからねvv」

 にっこりと空気凍るような笑顔をお互いに浮かべて、語られる二人の会話。

「でも、何が一番許せないって、後から出てきたのに、ズーズーしいよね、本当……」
「……タケル、もしかしなくっても、だからあいつの事認めてないのか?」
「それ以外に、どんな理由があると思うの、お兄ちゃん」

 にっこりと言われたその内容に、ヤマトはそれ以上の言葉を失う。
 実に恐ろしきは、我が弟なり……ヤマトの内心では、そんな言葉が浮かんで消えるのだった。


 

 

       


     はい、22000HITリクエスト小説です。
     リクエスト内容は確か、ヤマ太←賢←大輔(タケル)だった筈なのですが、私は、意味を履き違えているかも……xx
     すみません、またしてもリクエストにお答えしていないモノを書いてしまいました。<苦笑>
     しかも、何処がヤマ太……これでは、賢太モドキ…xx
     折角リクエストしていただいたのに、本当にすみません(><)
     こんな小説でも、構いませんか、壱夏 菜様……xx
     
     本当に、折角リクエストしていただいたのに、こんな下らないものですみません。
     こんなものでも良いとおっしゃって頂けるようでしたら、またよろしくお願いいたします。
     では、22000GET&リクエスト心から感謝いたします。