― 君の隣に居る理由 ―

 俺の恋人は、何かに付けて機嫌が悪くなる。
 今日だって、急に機嫌が悪くなって、一言も口をきかなくなった。
 そんなのは、何時の事なんだけど、本当にくだらない事で怒ってしまうのだ。
 今だって、怒った原因は……。

「だから、大輔と話をしていたのは、悪かったって……でも、話してただけだろう!」

 何度目かのその言葉に、漸くヤマトが振り返る。それにホッとしたのもつかの間で、不機嫌そうな瞳に、盛大なため息をついた。
 何時もそうだ、俺が誰かと話しをした後は、こうやって睨んでくる。
 人も気も知らないで、俺だけが悪いと言うように……。


                                

 初めてその事に気がついたのは、どれくらい前だろう。
 あれは、偶々会った大輔とサッカーの練習をしていた時。俺が、ドジって転んで、大輔に手を借りて立ち上がった所をヤマトが見ていて、それから、すごく怒ってて、まともに話しも出来ない状態だった。
 何とか機嫌を直してもらったのは、俺の努力の賜だと思う。
 怒っているからって、そのままにしていると、ますます機嫌が悪くなるんだよなぁ。
 だからって、俺が苦労してるって事、本当に分かってるのだろうか?
 そりゃ確かに、俺だって、何時もヤマトにベッタリって訳には行かないから、怒らせるような事しちまうかもしれないけど、だからって、ちょっと他のヤツと話しをしただけで、機嫌を悪くするって、どう言う事だよ!俺の事信用してないのか?!
 って、本人に言った事ないから、分かんないけど……xx

「太一!」

 ボンヤリと外を眺めていた俺は、後ろから名前を呼ばれて振り返った。

「……空…」
「ボンヤリしてどうしたのって……あなたが、そんなになるって言えば、原因は一つしかないわよねぇ…」

 俺の傍に来て、苦笑しながら言われたそれに、俺も思わず苦笑を零す。

「まぁた何かあったの?」

 呆れた様に呟かれたそれに、俺は盛大なため息をついた。何か合ったて言えば、あったんだろうなぁ……。
 昨日の夜から、ヤマトは一言も俺と口を利かないから……。

「あっちも不機嫌そうにしてたから、想像は付くけど、今度は何が原因なの?」

 呆れた様にため息をつきながら問われたそれに、俺は苦笑を零した。原因って言えば原因かもしれないけど、やっぱりあれで怒るヤマトの方が悪いと思うのだ、やっぱり……。

「…俺が、大輔と話してるところ、ヤマトに見られた……」

 言い難そうに言えば、空が『やっぱり』と言うように、ため息をつく。何度こうやって話しを聞いてもらったか分からないけれど、『そんな下らない事で一々喧嘩しないの!』そう言われたのは、1度や2度ではない。
 今回も同じように言われるんだろうなぁなんて思って、ため息をついた瞬間、空が笑顔を見せた。

「本当に、好かれてるのねぇ……」
「はぁ?」

 感心しながら言われた事に、俺は思わず聞き返してしまう。

「嫉妬されるくらい好かれてるって、事でしょう。それとも、分かってなかったの?」

 俺の素っ頓狂な声に、空が呆れた様にため息をつく。
 嫌、確かに、好かれてるって言うのは自覚してるけど……嫉妬ってそんな事で括っていいもんなのか?

「そ、空……?」
「どうかしたの、太一?」

 考え付かない事に頭を抱えて、空の名前を呼べば、不思議そうに首を傾げられてしまう。それに、俺はため息をつく。

「……何でもねぇよ……大丈夫、ちゃんと話しすれば、あいつの機嫌も直るはずだから、心配掛けて悪かったな」
「いいのよ、私は結構楽しんでるものvv」
「…楽しむって?」
「こっちの話しvvそれじゃ、早く仲直りするのよ。じゃないと、ヤマトくんのクラスの人達が、迷惑してるんだから」

 楽しそうに笑いながら言われたそれに、俺は苦笑を零した。
 聞いた話しだと、俺と喧嘩をしている時のヤマトは、誰カレ構わず睨み付けるらしい。しかも、それが迫力あるもんだから、誰も近付けなくなるのだと言う。
 俺自身は、体験した事ないけど、一度見てみたい気はするよなぁ……なんて、不謹慎な事を考えたのは、1度や2度ではない。

「……昼休み、何時もの所に来るといいんだけどなぁ……」

 休み時間終了のチャイムが聞こえてくる中、ポツリと呟いた言葉に、もう一度ため息をつく。
 このまま怒っていて、一緒に居られる時間が無くなるのは、俺としてはやっぱりいやだから……。
 別に、好きで喧嘩をしている訳ではないと思う。…うん、多分……xx



「ヤマト!」

 昼休み、何時もの様に屋上に上がった俺は、既に来ていたその姿に、笑顔を見せた。
 まだ少しだけ不機嫌そうな態度ではあるが、ちゃんとこの場所に来てくれた事が嬉しい。

「……まだ、怒ってるのか?」

 恐る恐るヤマトの隣に腰を下ろして、その表情を覗き込む。
 俺が覗き込めば、ヤマトはそっとため息をついた。

「…怒ってない……」

 ボソッと返されたそれに、ホッと胸を撫で下ろす。

「…良かった……」

 思わず笑顔を見せるのは、本当に嬉しいから……。やっぱり、ヤマトと喧嘩してる時は、落ち着かない。
 そんな事、ヤマトは知らないだろうけど、俺だって、本気で好きだから……。何て、ヤマトには、絶対に言えないけど……。

「お前、分かってるのか?」
「えっ?」

 嬉しそうに笑っていた俺は、ため息をつきながら言われたヤマトの言葉に、思わず首を傾げた。
 ヤマトに視線を向ければ、呆れたような視線が見詰めている事に、気が付く。

「……俺が、お前の事、スキだって……」
「/////し、知ってるに決まってるだろう!」

 ポツリと呟かれたそれに、自分の顔が赤くなるのが分かる。どうして、こいつは何時も真顔でこんな事をサラリと言えるのだろうか?
 言われた方が、すっごく恥ずかしい…xx

「分かってるなら、俺以外の奴に、笑いかけるな!」
「……って、なんだよそれ…」

 不機嫌そうに言われたそれに、赤くなった顔のまま俺はため息をついた。そんな我侭な事を言うのも、俺の事が好きだから?

「……俺は。独占欲が強いんだから、お前が俺以外の奴に笑い掛けるのは、許さない」
「……我侭な奴……」

 真剣な瞳が見詰めて来る中、呆れた様に笑いながらも、内心は嬉しいって思ってる事は秘密。

「だから、俺の事だけを見詰めてろよ…太一……」
「…出来る訳無いだろう…そんな事……」
「出来ないなら、お前の事、どっかに閉じ込める!」

 おいおい…そんな事を、本気で言っているヤマトに、俺は大笑いしてしまう。そんな事、出来ないって分かっているから……。

「…俺は、本気だからな!」

 大笑いした俺に、真っ直ぐにヤマトが見詰めて来る瞳。そんな瞳を見せられたら、それ以上笑う事は出来なくって、俺はため息を付いた。

「……ヤマト…お前さぁ、俺の事ばっかり言ってるけど、俺だって怒ってるんだぞ」
「…太一?」

 俺が誰かと話しをする度に機嫌を悪くするヤマト。それが面白くないって事が分かるのは、俺も何度も同じ思いを経験しているから…。
 ヤマトはこの学校の中だけでなく、女の子に人気がある。ラブレターを貰うのは、毎日の事だし、告白だって何度もされているのを知っているから……。それが、俺には面白くない。断ると分かっていても、ヤマトが女の子に告白される度に不安になるのだ。

「……昨日、また告白されたんだろう?」

 はっきりと口にすれば、ヤマトが俺から視線を逸らした。それは、無言の肯定。
 そんなヤマトの態度に俺はため息をつく。

「……だから、俺は大輔と話してたって言ったらどうする?」
「太一!」
「お前に、焼餅妬かせたかったんだよ!……卑怯だとは思ったけどさぁ……」

 ため息をつきながら、本当の事言う。それが、俺の気持ちだから……。

「……結局、俺もヤマトがスキだって事……お前だって、分かってるのかよ!」

 少しだけ顔を赤くしながら、ヤマトを睨み付ける。
  俺のそんな言葉に、ヤマトは驚いた様に自分の事を見詰めていた。そうだろうなぁ・・・俺から、スキって言う事は少ないから……。

「…悪かった…」

 ポツリと漏らされた謝罪の言葉に、俺は苦笑を零す。今、ヤマトの顔が少しだけ赤いから…。

「……俺が、お前の隣にいる理由、ちゃんと分かってるのか?」
「…分かってる……スキだからな……」
「分かればいいんだよ、分かれば!」

 先ほどまで赤くなっていた顔が、もう全く見られないまま真剣に言われたそれに、今度は俺の方が赤くなる。
 そんな俺をヤマトは楽しそうに、笑いながらそっと抱き寄せられた。

「…それじゃ、仲直りのキスな…」
「……ば〜か…」

 当然の様に言われたそれに、大人しくされるがままの状態。
 分かっているのだろうか、こんな事を当然の様にされて、大人しくしている理由…。


 なんて、分かってるんだろうなぁ、こいつの事だから……xx
 所詮は、スキだからお互い流されてしまう。そして、好きだから独占したい。そう思っているのは、自分だけじゃないから……。
 結局は、お互い様って事なのだ。

 




  はい、12000リクエスト小説です。
  ごめんなさい、Aska 様……リクエストは、独占欲の強いヤマトと流される太一だったはずなのですが・・…xx
  微塵もそんな様子が無いように思います…xx
  しかも、太一まで独占欲強いし……駄目駄目ですね。<苦笑>

  折角リクエスト頂いたのに、こんな内容で本当にすみません。
  これに懲りなければ、また宜しくお願いいたします。
  本当に、12000GET&リクエスト有難うございました。