全てが、終った。
今、目の前に広がる世界を見詰めて、ホッと息を吐き出す。
平和を取り戻したと思えば、今度は、大切なパートナーとの別れの時間が迫っている。
それを考えると、平和を取り戻した事に、素直に喜ぶ事は出来ず、複雑な気持ちを隠せない。
「タイチ、大丈夫?」
そんな自分に、大切なパートナーが心配そうに問い掛けてくる。太一は、見詰めていた空から表情を笑顔に変え、アグモンへと視線を向けた。
「大丈夫だよ。それよりも、有難う。アグモンが居てくれたから、俺は、俺で居られた」
「ううん、それは、ボクも同じだよ。タイチが居てくれたから、戦う事が出来たんだ。タイチが、皆を護りたいって思う気持ちが、ボクにチカラをくれたんだよ」
嬉しそうに笑顔を見せながら言われる言葉に、何も返す言葉が見付からない。
本当に、自分は、皆を護る事が出来たのだろうか?空回りする気持ちは、逆に皆を危険な目に遭わせたのでは……そして、何よりも、自分の大切なパートナーを……。
「でもね、タイチ」
自分が考えている中、続けて名前を呼ばれて、ハッと意識を取り戻す。
「ボクは、タイチをちゃんと救えていたのかなぁ……」
「アグモン?」
そして、続けられた言葉は、少し悲しそうな表情で告げられた。
だが、言われた言葉の意味が分からずに、太一は、ただアグモンの名前を呼ぶ。
「だって、タイチは、何でも一人で頑張りすぎるんだもん。もっと、誰かを頼る事を覚えて欲しいよ」
「俺は、ずっとアグモンを頼ってた……」
「ううん、太一はボクを信頼してくれていたけれど、頼っては居なかったよ。何時だって、ボクよりも、自分が前に出て戦おうとしていた……」
少しだけ寂しそうに言われた言葉に、何も返す言葉が見つからない。
『頼る事』自分には、確かに欠けていたのかもしれないから……。
自分は、ずっとパートナーであるアグモンを、誰よりも信頼していた。その気持ちは、嘘偽りなどない紛れもない真実。
だが、『頼る事』と『信頼』すると言う事が違うのだとすれば、自分は、確かに誰も頼っては居なかった事になってしまうのだ。
「ねぇ、タイチ。頼らない事が強い事だと思わない。だから、頼る事も覚えて欲しいよ」
「アグモン」
「だからね、次にあえる時までに、それを覚えて。それが、ボクからタイチに出すシュクダイだよ」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、太一は複雑な表情を見せた。
宿題と言われても、きっと自分には、『頼る事』を覚える事は出来ないだろう。『信頼』する事と違うと言うその事を、自分は理解出来ないのだから……。
「……アグモン……」
「約束、だからね」
すっと差し出された手を太一は、戸惑いながらも握り返す。
自分の事を心配しているパートナーに、これ以上の心配をかけたくはないから……。
「これで、ボクも安心できるよ」
手を握り返した事で、アグモンが安心したように嬉しそうな笑顔を見せた。
これが最後になるかも知れないからこそ、大切なパートナーに不安を残したままで、別れる事など出来ない。
だからこそ、笑顔を見せてくれたパートナーに、太一も何とか笑顔を返す。自分を思い出してもらう時、泣き顔など絶対に思い出してもらいたくはないから、笑顔のままでこの場所を離れたい。
それは、自分だけではなく、みんなが思っていることだろう。
一緒に旅をしながら、どんな困難にも立ち向かう事が出来たのは、大切なパートナーが居てくれたからこそ。決して、自分一人では、前へ進むことなどできなかっただろう。
「では、そろそろ時間じゃ」
無常にも時間が、過ぎ去っていく。
最後に、言われた言葉を胸に、遠去かって行くデジタルワールドを振り返った。
『約束、だからね』
最後まで、自分を大切に思ってくれたパートナーとの約束。
でも、それは、自分には未知のモノ。ずっと、自分は、パートナーを頼っていると思っていた。
そう思っていたのに、『違う』と否定されたのだ。
『信頼する事』と『頼る事』。
「……何が、違うんだろうな……」
「お兄ちゃん?」
ポツリと呟いた言葉と共に、意識が遠去かって行く。そんな太一に気が付いたのは、すぐ隣に居た妹だった。
小さな体で、倒れそうになるその体を支えようと手を伸ばす。もちろん、その小さな体では、兄を支える事が出来ずに一緒になって倒れそうになる。
「太一!!」
その異変に気が付いて、次にその体を支えたのは、親友。
「太一!!!」
自分の名前を呼ぶ仲間達の声を遠くに聞きながら、その意識は、闇の中へと消えていく。
現実世界に戻り、誰もが安心する間もなく、一人の少年が倒れてしまった。
自分達のリーダーとなり、どんな時でも先頭に立って、前を進んでいた少年が……。
現実世界に戻り、長かった夜が明けた。
戻った瞬間には、すでに意識のなかった彼をここの病院に連れてきたのは、その両親。
疲れているだろうと、無理やり家に戻された自分達は、ただ目の前で救急車に乗せられる彼を見守る事だけしか出来なかったのだ。
しかし、家に戻されても、彼のことが心配で、眠る事などできず、朝一番に、病院へと駆け込む。何も出来ないと分かっていても、ずっと自分達を導いてくれた彼の無事をその目で確かめたかったから……。
「ヒカリちゃん、太一の様子は?」
「……ここに来た時、お医者様は、生きているのが不思議だって……峠は超えたけど、意識が戻らなければ、覚悟しなさいって……」
姿を見付けて、声を掛けたヒカリから聞かされた事実に、この場に集まった者達は、言葉をなくす。
一人で、無理をさせていたのだと言う事を、今更ながらに後悔してしまう。
「それで、太一さんは……」
「…面会謝絶です……目を覚ませば、会うことも出来るんですけど……」
「せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね……」
「あっ」
光子郎が不安そうに尋ねた言葉に、泣き出してしまいそうなヒカリが、言葉を返す。そして、それに続いて、申し訳なさそうな声が掛けられて、誰もが驚き、その声の主を振り返った。
「来てくれて、有難う。太一は、もう大丈夫よ」
「お母さん?」
「一度ね、意識が戻ったの。お医者様も、峠は超えたって仰って下さったわ。でも、今日は、まだ話したりする事は無理だろし、また眠ってしまったから、ごめんなさいね」
申し訳なさそうに、頭を下げながら伝えられた言葉。峠は越したと言うその言葉に、誰もが安堵のため息をつく。
戻ってくる電車の中で倒れた姿を見ているだけに、不安は消せなかったのだ。だが、『会えない』と言う言葉に、誰もが複雑な表情を見せた。
今すぐに会って、その無事な姿を確かめたいと言う気持ちは、隠せない。
「今日は、家でゆっくりと休みなさい。みんな顔色が悪いわよ。そんな顔じゃ、太一も心配してしまうわ」
そんな子供達の心情を察したのか、太一の母親は少し困ったような表情で言葉を伝える。
確かに、デジタルワールドでの過酷な戦いを終わらせて現実世界に戻ってきたのだ。しかも、戻ってきてすぐ、倒れてしまった彼が心配で、眠っても居ない。
これでは、見舞いに来た自分達の方が、心配されても仕方ないだろう。
「……そう、ですね……」
困ったように言われた言葉に、光子郎が素直にうなずいて返す。確かに、自分でも分かっているのだ、体が限界を訴えている事を……。
「ヒカリ、あなたも一度戻って寝てきなさい。起きた時には、太一もきっと目を覚ますわ」
素直にうなずいた子供達に安心して、笑顔を見せると、今度は自分の娘へと声を掛ける。
「でも……」
しかし、ヒカリは母の言葉に、反論の言葉を口に出そうとした。それに、優しくその頭に手を乗せると、その顔をまっすぐに見詰めた。
「…あの子は、自分よりも皆の事を心配してしまう子だから、あなた達が元気な姿を見せてくれた方がいいのよ」
どこか寂しそうな声が、告げる。その言葉に、ヒカリは、言葉を飲み込んだ。
誰よりも、その事を知っているから……。そしてそれは、一緒に冒険をしていた彼らも、分かっている事。
「…そうだね。僕達は、一度戻ろう。あの、また来てもいいですか?」
「もちろんよ。来てあげてね。その時には、ちゃんとした顔色で」
丈が代表して、言葉を伝える。それに、母は、笑顔で答えた。
「それじゃ、ヒカリちゃんは、私と一緒に……ヒカリちゃんの住んでいるアパートは、壊れてしまっていて、危ないでしょう?家の母も、その方がいいだろうって言っていましたから……」
「そうね、空ちゃん。お願いするわ。お母様に宜しく伝えてね」
「はい」
空に促されて、ヒカリが素直に歩いていく。それを見送りながら、母親は、小さくため息をついた。
ボロボロになって戻ってきた息子の姿を見て、後悔せずには居られない。妹のヒカリを守るため、そして、大切な仲間を守るために、自分の息子がどれだけ無茶をしていたのかと言う事を、いやと言う程理解してしまえるから……
「……あの子が、自分を大事にしてくれないのは、私が悪いんですものね……」
昔、妹のヒカリが死にかけたあの時、自分は息子の頬を叩いていた。
あの子が悪いんじゃないという事を、誰よりも知っているのに……。すべては、熱がある娘を置いて、出掛けていた自分が悪いと言うのに……。
あの時から、あの子は、自分を顧みなくなってしまった。他人を優先し、自分が傷つく事を厭わない。
「全部、私があの子を傷付けてしまったから……」
悔やんでも、悔やみきれない。
「お願いします。もう、これ以上、あの子が傷つく事がないように……」
『約束、だからね』
遠くで声が聞こえた。
大切なパートナーが笑ってくれる。
ここでなら、自分は、誰かに必要だと思ってもらえた。
ここでなら、自分が誰かを傷つける事なんてない。
そう思ったのに、そう、本気で思っていたのに……。自分は、大切なパートナーを傷つけた。
今にも、泣き出してしまいそうな、彼の瞳が頭から離れない。
「……アグモン……」
名前を口にした瞬間、意識が闇の中から引き戻された。目を開いた先に見えたのは、見慣れない天井。
「………戻って、来たのか………」
デジタルワールドでは、見る事などなかったその天井と言うものに、自分が今どこに居るのかを理解する。
体は、自分の体ではないように重い。腕を動かすのも辛いほどだ。
「……み、んなは?……」
体が悲鳴を上げるのを無視して、ゆっくりと体を起こす。
デジタルワールドでは、何度も感じていた体の不調。今は、それに、痛めつけられた個所が熱を持ち悲鳴を上げている。
それらすべてを無視して、ベッドから抜け出す。
誰も居ない、静か過ぎる場所。遠くで聞こえるのは、蝉の声と、子供達の笑い声。
「……みんなは、大丈夫……」
その声を遠くに聞きながら、顔を上げた先に見えたのは、蒼い空。あの世界で見たモノと同じ、どこまでも続いている空……。
「……アグモン……俺は……」
泣き笑うような顔が、頭に浮かぶ。
自分の所為ではない事は、いやと言う程分かっている。それでも、自分が大切な人を傷つけた事が、許せない。
「………俺は、誰かを傷付ける事しか、できないのか……」
昔、妹のヒカリを殺しかけて、自分の母を傷付けた。そして、何よりも、大切な自分の妹を、危険な目に合わせてしまったのだ。
今、大切な掛け替えのないパートナーを、また傷付けてしまった。
「………ヤマト達だって……」
本当は、戦いたくなんてないと言うのを、無理やり戦わせていたのは、他でもない自分。それが、皆を誰よりも、優しい心を持った彼らを傷付けた。
今、誰も居ないのは、そんな自分が見捨てられたから?
違うと分かっていても、考える事が止められない。
疲れているから、そう言われてしまえば、それまでかもしれない自分の状態。
それでも今、太一の思考を捕らえているものは、自分を否定するモノだけ。
家でなんて、ジッとしている事は出来なかった。
誰よりも、自分達の中心に居た彼が、今だに戦いに疲れた状態で眠っているのだ。会えないとしても、その傍に居たいと思ってしまう。
皆と別れて、そのまま家には戻らず、病院へと逆戻り。
自分のエゴだと分かっていても、自分を信じて戦ってくれたあいつの事を、今度は自分が支えたいと思ったのだ。
「……あいつに頼られるには、難しいかもしれないけどな……」
デジタルワールドから戻ってくる時、自分のパートナーが、話してくれた。
太一は、誰も『頼る事』をしないのだと。
そう、パートナーであるアグモンさえ、信頼していても、頼っていないのだと話してくれた。
だから、自分でいいのなら、彼に頼られたいと思ったのだ。
『今、タイチが近くに感じているのは、アグモンの次にヤマトだよ。だから、ヤマトが望むのなら、きっと大丈夫。オレも、応援してるから』
笑顔で言われた言葉を、思い出して、苦笑をこぼす。そう言われて、自分はなんと返したのだろうか?
「もし、それが本当なら………太一?」
エレベーターが目的の階に着き、扉が開いた瞬間、目の前のエレベーターへと入っていく後姿を見て首を傾げる。確か、面会謝絶になるほどの怪我で、峠は越したとしても、絶対安静だと聞いた。
その彼が、自分の目の前にフラフラの状態で現れたのだ、驚くなと言う方が無理な話だろう。
慌てて、そのエレベーターへと向かうが、目の前で無常にも扉は閉じられてしまった。
「くそ、あいつ、無茶ばっかりしやがって!」
ダンッとドアを叩いて、動いていくエレベーターの階を確認する。一度も止まる事なく、エレベーターは屋上で止まった。
それを確認して、そのまま開いているエレベーターに乗り込み、屋上に向かう。
遅く感じられるエレベーターのスピードにイライラしながら、チンと言う軽い音で扉が開いた瞬間、その中から飛び出した。
「太一!」
名前を呼んで、確かにここに向かっていたその姿を探す。
屋上いっぱいに干されているシーツが、風にハタめき、自分の邪魔をする。
「太一!!」
見えない姿を心配して、再度名前を呼ぶ。そして、その姿を、屋上の片隅で、見付ける事が出来た。
何箇所と巻かれた包帯が、見ているこちらには痛々しく移る。そんな傷だらけの手で、まるで胎児のように足を抱えて座っている姿は、触ってしまうと壊れてしまいそうなくらい危うい。
「……太一」
そっと、名前を呼ぶ。反応を示さない相手に、ヤマトは慌ててその手を伸ばした。
触れてしまうと壊れてしまいそうなその体に、そっと手を触れる。
「俺が居るから、皆が傷付くんだ……」
「えっ?」
触れた手に反応したように、小さな声が聞こえた。ヤマトはそれを聞き逃し、問い掛けるように声を出す。
「……俺が、アグモンを傷付けた……俺が、居るから、ヤマトは、離れていったんだ……俺が居るから、皆が傷付く………俺が、居るから……」
「太一?」
自分を責めるように繰り返し言われる言葉に、ヤマトは漸く太一が正常でない事を知る。
「俺が居るから、誰かが傷付く………ヒカリも、母さんも……俺は、居ちゃいけないんだ……」
「違う!!」
言われた言葉に、その体を抱き寄せて否定の言葉を返す。
絶対に、あり得ない事。彼が居たから、自分達は、こうして無事に戻ってこれたのだ。それは、自分だけでなく、誰もが思っている事。
「俺達は、おまえが居たから、無事で居られたんだ。俺だって、お前が居たから、戻ってこられたんだぞ!」
「………ヤ、マト?」
突然抱き寄せられた事で、初めて自分の傍に居る人物に気が付く。そして、その相手が誰か分かり、そっと名前を呼ぶ。
「お前が居ない時、俺達は本当にバラバラだった。お前が居たから、俺達は一緒に居られたんだ!お前が居たから、俺は、俺で居られたんだ!!お前を頼ってばっかりで、負担を掛けていたって事は、誰よりも、分かっている。それでも、もう少し、俺達を…俺を頼ってくれ!!」
『ねぇ、タイチ。頼らない事が強い事だと思わない。だから、頼る事も覚えて欲しいよ』
遠くで、アグモンの声が聞こえた気がする。
太一は、自分を抱き締めている腕を感じながら、そっと瞳を閉じた。
「………『頼る事』って、そう言う事なんだな……」
体も心も、預けられる場所。何も心配しなくていいのだと、言われているようで、安心できる。
「太一?」
一瞬何を言われたのか分からずに、心配して名前を呼ぶ。
「………胸張って、言えるかなぁ……アグモンに、宿題は、ちゃんと出来たって………」
「はぁ?宿題??って、太一!!」
満足そうに言われた言葉に、意味が分からずに聞き返す。だが、それは突然感じた腕の重みに、遮られてしまう。
意識を失ったと分かる相手に、ヤマトが慌てて名前を呼ぶ。だが、その顔を見て、小さくため息をついた。
満足そうに、笑っている顔。ここに居るのを見付けた時と違って、浮かべている表情は、安心し切っていると分かる、安らいだ表情。
「・……なぁ、ガブモン。俺は、少しでも、こいつに頼りにされてるんだろうか……」
「何、考えているのよ、あんたは!!」
次に太一が目を覚ました時、出迎えてくれたのは、空の怒声。
「まぁ、空くん落ち着いて、こうして無事だったんだし……」
「甘いですよ、丈先輩!みんなが甘やかすから、ちっとも分かってないんです、こいつは!!」
「そうですね。連絡頂いたのが、太一さんが居なくなったと言うものだったんですよ。どれだけ、僕達が心配した事か……」
「………いや、だから、俺も、あんまり記憶ねぇんだって……何か夢見てたような気がするだけで……目が覚めたら、今の状態だし……」
怒っていると分かる仲間に、慌てて言い訳をする。
「ヤマトくんが、見付けてくれなかったら、どうするつもりだったのよ!!あなたは、死に掛けていたのよ!!」
「う〜ん、らしいな」
「『らしいな』じゃないわよ!!」
怒っている空に、太一がまるで他人事のように返事を返す。それに、空が、更に声を張り上げた。
「空くん、ここは病院だから、もう少し落ち着いた方がいいと思うけど……」
空を落ち着かせようと、丈が声を掛ける。
「…お兄ちゃん、本当に、心配したんだから……」
「ヒカリ……ごめんな」
ぎゅっと自分の腕に抱きついてくる妹に、太一が困ったように笑みを見せた。
「太一さん、もう大丈夫なの?」
「ああ、暫く入院は必要だけど、大丈夫だ」
心配そうに言われた言葉に、いつもの笑顔で返す。
心配してくれる、仲間が居る。本気で、自分を叱ってくれる人が、居てくれる事。
それが、本当に大切だと思えるのだ。
ぼんやりとしか覚えていないけど、言われた言葉が、胸を暖かくする。
『お前が居たから、俺達は一緒に居られたんだ!お前が居たから、俺は、俺で居られたんだ!!お前を頼ってばっかりで、負担を掛けていたって事は、誰よりも、分かっている。それでも、もう少し、俺達を…俺を頼ってくれ!!』
誰かに頼りにされる事は、良くあった。
それを『嫌だ』と思った事は、一度もない。だけど、頼られる事が当たり前になっていた自分は、誰かを『頼る事』を忘れてしまった。
そんな自分だからこそ、『頼って欲しい』と言われた言葉は、本当に嬉しい言葉だったのだ。
『約束、だからね』
アグモンとの、約束。
最初で最後になってしまったかもしれないそれを、何とか守れそうで、ほっとする。
「ヤマト」
「んっ?」
目の前で繰り広げられている騒動を、少しだけ呆れながら見ている自分の服を引っ張り、小さな声で名前を呼ばれて、顔を相手へと向ける。
「俺、『頼る事』を、もっとちゃんと勉強するから、だから、それまで、俺の傍に居てくれか?」
「……太一?」
自分を、抱き締めながら言われた言葉。
「それとも、やっぱりだめか?」
「そんな事は、絶対にない!!」
自分の言葉に何も返せない相手を心配して問いかければ、音が聞こえそうなほど激しく首を振って返された。
それに、フワリと笑顔を見せる。
「ちょっと、聞いてるの、太一!!」
自分の話を聞いていない太一に気が付いて、空がその名前を呼ぶ。
「ああ、うん。有難うな、空vv」
「はぁ?」
散々説教されていたはずなのに、にっこりと笑顔で礼を言われて、思わず素っ頓狂な声をあげてしまうのは、当然の反応だろう。
「皆も心配掛けて、ごめん。そんでもって、心配してくれて、有難う」
誰もを黙らせる笑顔で言われた言葉に、皆何も返す事が出来ない。
「君、らしいね。太一」
呆れたように、返す言葉が唯一のものだろう。
「何にしても、無事で良かったよ」
呆れたようにそして、笑顔で言われた言葉に、ただ笑顔を返す。
まだ、完全に『頼る事』を覚えた訳ではない。
ただ、自分は、一人ではないと言う事を知ったのだ。
だから、今度会えた時、大切なパートナーに言う初めの言葉は、もう決まった。
自分は、誰よりも、みんなを頼っているのだと……。
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111111HITリクエスト小説になります。
はい、一年以上の日日が過ぎてしまいました。
遅くなって、本当にすみません、雪村さま。(T-T)
リクエスト内容は、D・Wから戻って倒れて入院してしまう太一さん。
そして、記憶混乱を起こす。もちろん、ヤマ太で。
だったんですが、リクエストにお答えしているんでしょうか?(どきどき)
ただ長い駄文になっただけのような気が……。(気の所為では、ないと思いますけど……xx)
本当に、お待たせしてしまってすみませんでした。
こんな駄文ですが、貰ってやってください。
11111GET&リクエスト、本当に有難うございました。
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