彼の印象は、頼りない奴。

 そんな言葉しか出てこない、一つ年上の先輩。
 それが、何時の間にこんなにも大切な相手になったのだろうか?

 隣に居て安心できるようなそんな相手になったのは、中学を卒業する少し前だった。


                                               大切な人


「もう、僕の気持ちには気付いていると思うんだけど……僕は、君の事が好きなんだ」

 突然の呼び出しの中言われたその言葉に、俺はなんと返していいのか正直言って迷った。
 だって、そんな風に言われたのは初めての事だったから……。

 しかも、俺も男で相手も男。同じ選ばれし子供でもある相手。

「えっと、そんな事急に言われても……俺、そう言うの鈍いって言うか……」

 気付いていると言われたけど、正直言えば全く気付いていませんでした。
 俺は、ヒカリ曰く、自分に向けられる感情には鈍感らしい。

「なら、今からでもいいから考えてみてくれないかな。僕の事」

 真剣に見詰めてくるその瞳に、俺は頷く事で返事を返してしまう。

 いや、だって、余りにもその瞳が真剣だったからだ。
 だからこそ、その気持ちの強さが分かって、頷く事しか出来なかった。

 そんな俺に、目の前の相手は、嬉しそうに笑う。

「有難う、太一」

 笑顔のままお礼を言われて、胸がドキリとする。
 何時も見せる何処か気の抜けたような笑顔と違って、嬉しそうなその笑顔は初めて見せられたものだから、まるで知らない人のように思えた。

「なら、まずは僕の事を知って貰わないとだね。これから時間大丈夫なら、一緒に出掛けないかい?」

 そして、続けて言われたそれに、俺は困惑する。
 だって、目の前の相手とは数年前にずっと一緒に旅をしていたのだ。今更知らない仲ではない。

「いや、今更そんな……」

「今更じゃないよ。だって、君が知ってるのは昔の僕だからね。君には今の僕を知って貰わなくっちゃね」

 ニッコリと人の良さそうな笑顔なのに、有無を言わせない強引さは、確かに昔は持っていなかったような気がする。

「君にはちゃんと僕を知ってもらってから、返事を貰いたいから……それだけ、僕も必死なんだよ」

 優しい笑顔なのに、拒絶できない強さを持って居る。


 えっと、丈ってこんなに強引だったか??

「あ、あの……」

「言っただろう。僕も必死なんだって」

 まるで違う誰かを見ているようで口を開こうとした俺の言葉は、丈の言葉で遮られた。

 ……でも、俺は知っている筈だ。
 本当は、頑固で一途な彼の事を……。

「…丈」

「どこに行こうか?」

 質問されたそれに、俺はなんと返せばいいのか分からずに、ただ曖昧な笑顔を返す事しか出来なかった。



 そう、それはほんの数ヶ月前の事。

 なのに、今では……。

「ほら、太一!そこの問題間違ってるよ」

 目の前に居る人が、俺のノートを見てポコリと軽く頭を叩く。

 試験勉強の家庭教師をしてくれる彼の頭脳は、間違いなく自分達の中ではピカイチだろう。
 そんな相手に勉強を教えてもらえるのは非常にありがたいのだが、容赦ないその態度に俺は知らずため息をついた。

「丈、ちょっと休憩………」

「駄目だよ!その問題を解くまではお預け!」

 真面目な彼らしく、俺の言葉は簡単に却下されてしまう。
 可笑しい、ほんの数ヶ月前までは、あんなに自分に優しくって、甘やかしてくれていたと言うのに恋人と言う立場になるとなんでこんなにも容赦がなくなってしまうのか……。

「…丈……」

 腕組みして俺を見詰めてくる相手に、思わず上目遣いで恨めしく見詰めたら、その顔が一瞬赤くなって逸らされてしまった。

「仕方ないね。なら5分間休憩」

「本当?」

「僕は、嘘なんて言わないよ。太一相手には絶対ね」

 それに、諦めかけていた俺の耳に、呆れたように丈がため息をついて、休憩の言葉を口にする。
 信じられないその言葉に、俺が聞き返せば、誠実の紋章を持つ丈らしい言葉が返って来た。

「そうだったな…………うん、丈は俺に嘘なんて付かない。だから、俺も丈に嘘はつかないって約束したんだもんな…」

 そして、そんな奴だから、俺は今ここに居るのだ。

「そう言えば、ヤマト達とも試験勉強するんじゃなかったっけ?」

「えっ?うん、放課後に……でも、俺は丈と約束してたから……」

「断ったの?」

 ぐったりと机に突っ伏した俺に、丈が笑いながら質問してきたそれに、俺は顔を上げて少しだけ困ったような表情で返事を返した。

「断ったって言うか……辞退したっていうか……だって、丈が塾そっちのけで俺に勉強教えてくれるって言ったから…………」

「そっちのけって…違うよ、たまたま時間が空いたから、君の勉強を見ることにしたんだよ。僕としては、僕を選んでくれたのは嬉しいけどね」

 ニッコリと言われたそれに、自然と顔が赤くなってしまうのを止められない。

「でも、そうなると……」

「えっ?」

 だけど、続けて言われたそれに、俺は意味が分からずに首を傾げた。
 それと同時に響き渡る呼び鈴の音。

「……やっぱり、ね」

 何がやっぱりなのかさっぱり分からなくって、俺はただ丈を見上げる。

「ちょっと賑やかになるかもしれないね」

 見上げた俺に、丈が苦笑をこぼしながら部屋から出て行く。
 俺には、さっぱり丈が何を言いたいのか分からなかったんだけど……

 まぁ待ってれば、理由は分かるかな?

 と、思っていたら

「太一!!!!」
「太一さん!!!!」

 複数人の声で名前を呼ばれた。

「どういう事なの?!」
「どういう事なんだ?!」

 更に、訳の分からない質問。

 どういう事って、どう言う意味だ??

 新・旧選ばれし子供が勢ぞろいで俺の周りを取り囲んでいる状態に、意味が分からず目を見開く事しか出来ない。
 何で皆してこんなに興奮してるんだ?

「な、何があったんだよ」

 だから、何かあったのだろうと思って、その理由を質問する事にする。
 何も分からないままでは、正直言って話しも進まないから

「そんなに太一に詰め寄っても、分かってもらえないと思うよ」

 質問した俺に、丈の声が聞こえて来てまたしても首をかしげてしまう。
 どうやら丈には、皆がここに来た理由が分かっているみたいだ。

「お、お前、その……」

「何だよ、ヤマト」

 ますます意味が分からないというような表情をしてしまっても、仕方ないだろう。
 そんな俺に、まず一番近くに居たヤマトが、恐る恐ると言った様子で口を開く。
 言い難そうなヤマトを前に、俺は先を促すようにその名前を呼ぶ。
 そうすれば、ヤマトはますます口を閉ざしてしまった。

「だから、一体なんなんだよ!!」

「太一先輩!丈先輩と付き合ってるって本当ですか?!」

 再に進まない話に、俺が声を荒げれば、凄い勢いで大輔が質問の内容を口にする。

 まさか、そんな事を聞かれるなんて思っても居なくって、一瞬頭が真っ白になってしまったのは許して欲しい。

 そして、その質問の内容を頭の中で理解した瞬間、ボンッと自分でも分かるぐらい顔が真っ赤になってしまったのが分かった。
 そんな俺の反応に、直ぐ傍で丈の笑い声が聞こえる。

「結構早かったね、知られるの」

 楽しそうな丈の笑い声は直ぐ傍で聞こえてきたかと思ったら、グイッと後ろに体が引かれてちょっと驚いた。
 そして、俺の体が丈に後ろから抱き締められているのだと気付いた瞬間、更に顔が赤くなってしまう。

「じょ、丈!」

「悪いけど、コレだけは譲れないからね」

 真剣に言われた丈の言葉。

 それは、数ヶ月前に聞いた時と同じように、きっぱりとそして力強く言われた。
 ああ、俺が好きになった丈だ。

 でも、だからってみんなの前で抱き締められている項状況に俺は慌てて丈の腕から抜け出そうともがき始める。

「丈、何がなんだか分からないけど、兎に角離せって!」

「嫌だね。言ったはずだよ。僕も必死なんだって……」

「必死って……俺は……」

 ちゃんと、丈の気持ちに答えた筈なのに、何で今更そんな事を言うんだろう。


 本気で分からない。
 何が必死で、何を譲れないのか

「なぁ、何が心配なんだよ。俺は、ちゃんと丈に答えたのに」

 どうして、そんな悲しそうな顔してるんだよ。

 俺のこと、そんなに信じられない?
 丈の紋章は、誠実じゃないのかよ!!

「太一」

 確かに俺は、鈍くって恥ずかしがり屋で丈の気持ちに半分も答えられてないかもしれないけど、でもコレだけは譲れないって思いを返したはずなのに
 俺を抱き締めてくれる丈を振り返って、まっすぐにその瞳を見詰める。

 なぁ、俺はちゃんと自分の気持ちに気付いたんだ。
 だから、今は誰が一番大切な人なのかを分かってる。

「はい、みなさんそこまでです!」

「ヒカリ?」

「お兄ちゃんのお気持ちはコレで分かりましたよね?ちゃんと約束は守ってください」

 じっと丈の瞳を見詰めている中、聞こえて来た新たな声に、驚いてその名前を呼べば、ニッコリと笑顔で言われる言葉。


 えっと、本気でどういう意味なんだ?

「けど……」

「お兄ちゃん、丈さんと付き合ってるんだよね?」

 訳が分からずにきょとんとしている中、ヒカリに反論しようとした誰かの声が聞こえたけど、再度ヒカリが大輔と同じ事を質問してきたお陰で、またしても顔を赤くしてしまった。
 それから、一瞬チラリと丈を見れば、何処か嬉しそうな視線とぶち当たる。
 でも、このまま黙っているわけにもいかないし、何よりも皆に嘘はつけないと思って、俺は顔を赤くしたまま、コクリと小さく頷いて返した。

「と、言う訳ですので、邪魔しちゃ悪いですから、皆さん帰りますよ」

「って、ヒカリ?」

「お兄ちゃんが、丈さんと付き合っている事を認めたんですから、文句はありません。でも、コレだけは忘れないで下さいね」

「勿論、肝に銘じておくよ」

 俺が頷いた事で、満足そうな表情をしてヒカリが皆を促すように部屋から出て行く。
 それを呼び止めれば、ニッコリと笑顔で言われた言葉。

 全てを口に出した訳じゃないのに、丈は何を言われるのかが分かっているのか、しっかりと返事を返す。
 丈の返事にヒカリは満足そうに笑って、一体何をしに来たのか分からない皆を引き連れて出て行ってしまった。

「一体、なんだったんだ?」

「……分からないところが君らしいけど、皆が哀れになってくるね」

 訳が分からない状況に小さく息を吐いて口を開けば、丈が呆れたように返しくる。
 それってどう言う意味だ?

「なんにしても、皆が太陽を欲しがっているって事だよ」

「太陽って何だよ!大体太陽なんて手に入らないだろう」

「う〜ん、そうでもないよ、僕は手に入れる事が出来たからね」

 丈の言う事が分からなくって反論すれば、返された言葉に更に混乱してしまう。

「丈?」

「君と言う太陽を誰もが欲してるって事だよ」

「はぁ?」

 訳の分からない事言われて、思わず聞き返してしまった。

 うーん、本気で丈が何を言いたいのか分からないんだけど

「分からないなら、それでいいよ」

 楽しそうに笑われて、複雑な表情をしてしまう。

 まぁ、結局意味は分からなかったけど、コレで仲間達に俺と丈の事が知られてしまったという訳だ。
 別段黙っていた訳じゃないんだけど、恥ずかしいと思ってしまうのはどうしても止められなかったから……

「でも、これで皆に知られたから良かったのかも……」

 いずれは話さなきゃいけない事。
 だったら、今だっていい事だ。

「そうだね。僕としても、皆に君が僕のモノだって宣言できて嬉しかったしね」

「……またお前はそういう事を平気な顔して言うなって何時も言ってるのに……」

 楽しそうに俺の事を抱き締めている丈に、顔を赤くしたまま睨みつけても威力がないって分かっていても睨まずには居られない。
 だって、人が赤面するような事を平気な顔して言うんだぞ、昔の丈は何処に行ったんだよ!!
 
 って、言っても結局はそんな丈を嫌いじゃないから、負けてるのかもしれない。
 だって、結局は大切な人なのに変わりはない。

「俺が太陽だって言うなら、丈だって太陽だからな」

「太一?」

 結局は、大切な人が自分にとっての太陽のような存在。
 俺にとってそれが、丈だって事。

「何でもない。ほら、勉強しようぜ」


 でも、そんな事一生言えるがないだろう。
 だって、結局それは、俺が丈が好きだって事なんだから……


 

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 19000HIT有難うございました。
 本当に、本当にお待たせして申し訳ございません。
 しかも、リクエストにお答えしていないモノに……
 ギャグってなんですか??状態です。
 本気でただのラブ小説になってしまいました。

 お待たせした上に、こんな駄文で本当にすみません。
 こんな小説で宜しければ、貰ってやってください。

 HX2さま、リクエスト本当に有難うございました。
 そして、お待たせして、本当にごめんなさい。