― 太陽 ―

 

 一瞬、言われた事の意味が分からなくって、太一は不思議そうに首を傾げた。

「……どう言う事だ?」

 驚いた様に瞬きを繰り返している太一に代わって、前の席に座っていたヤマトがクラスメートに問い掛ける。

「だから、八神、お前さぁ、デジカメのモデルしてたんだなぁ」

 聞き返された事に、目の前の人物は感心した様に呟く。

「だから、それがどう言う事なのかを、聞いてるんだよ!」

 盛大なため息をついて、意味の分からないその内容に、正気を取り戻した太一が聞き返す。
 突然言われた内容はこうだった。
 今行われているデパートの企画で、素人のデジカメ作品の展示会があるのだが、その作品の中に太一をモデルにした作品が金賞を取っていたと言うのである。

「……俺、そんなモデルした事ないぜ……で、その作品の作者って誰なんだ?」
「ああ?確か、匿名希望だったぜ……」
「匿名希望?そんなヤツの作品が、金賞なんて取れるのか?」

 思い出した事をそのままに告げられて、思わず大声を上げてしまうのは止められない。

「まぁ、簡単な作品展だったからなぁ…そんなモンじゃないのか?」

 呆れた様に呟かれたその言葉に、その人物は笑いながらもそう答えた。それから、一枚のチケットを差し出す。

「その作品展なら、まだやってるぜ。行ってみろよ…場所は、このチケットに書いてるからさ」

 片手を上げて、自分の言いたい事だけを伝えると、その人物は自分達から離れて行く。

「はぁ……だってさ、どうするヤマト?」

 自分達の会話を黙って聞いているヤマトに、心配そうに声を掛ければ不機嫌そうな表情で返されてしまう。

「当然、行くに決まってるだろう!」

 当たり前とばかりに返されたその言葉に、太一は盛大なため息をついて見せた。
 そして、この事件がまた厄介な事になるなんて、太一は想像もしていなかっただろう。


                                          


 貰ったチケットの通りにその場所に辿り着けば、展示会場には自分達以外にも何人かのお客が居る事に驚かされてしまった。

「結構人居るんだなぁ……でも、今日って平日じゃ……って、ヤマト!!」

 自分の呟きを完全に無視して、ヤマトが会場の中をずんずんと進んで行く。それに慌てて、太一は後に続いた。
 ここに来るまでは、ハッキリ言ってヤマトの機嫌は最悪で、殆ど口も聞いてくれない状態だったのだ。その事を思い出して、太一はこっそりとため息をついてしまう。

「これだな…」
「えっ?」

 そして、突然立ち止まったヤマトが、呟いたその言葉に釣られた様にそちらに視線を向ければ、目の前に飛び込んできたのは満身の笑顔を見せている自分の姿。

「う、嘘だろう!!」

 ハッキリ言って恥ずかしい事、この上ない。
 太陽の光を一杯に浴びながら嬉しそうに笑っている自分の姿はどう見ても幸せそうで、そんな顔を自分がしていたと言う事さえ信じられない気分である。
 しかも、おまけとばかりに、その作品のタイトルが『太陽』と付けられている当り、ますます持って恥ずかしい。

「太一、本当に記憶に無いのか?」
「……あるわけ無いだろう……大体、いつの写真だよ、これ……」

 余りの恥ずかしさに写真をまともに見ることも出来ないで、太一は盛大なため息をついた。
 勿論、こんな写真を誰かに撮って貰った覚えなんて全く無い。
 それに、自分がこんなに嬉しそうな笑顔を向ける相手なんて、きっと一人しか存在しないと分かっているから……。

「……気に居らない……」
「えっ?」

 自分の考えに入り込んでいた太一は、ポツリと聞こえたその声に、ハッとして顔を上げた。

『ヤ、ヤバイ…』

 そして、顔を上げた先にあったヤマトの不機嫌そうなその顔に、思わず慌てて顔を逸らしてしまう。
 ハッキリ言って、ヤマトは独占欲が強い。それが、イヤだとは思わないが、時々本当にどうしようもない事で怒ってしまうので、どうしていいのか分からない事があるのだ。今も、自分の写真を見た瞬間、ヤマトの怒りは頂点に達したらしいと分かって、太一は真剣に頭を抱えたくなってしまった。

『これは、俺の所為じゃねぇだう!!』

 などと、心の中で文句を言っても許されるだろうか?
 もっとも、それを口に出す勇気が、今の自分にない事に、太一は盛大なため息をついてしまう。

「帰る!」

 そして、一言漏らされたその言葉と同時に、ヤマトは既に踵を返していた。

「おい、ヤマト!」

 突然の行動に、太一が慌ててその後を追うように手を伸ばした瞬間、後ろから誰かに手を掴まれてしまう。
 掴まれた腕の所為で、ヤマトを追う事の出来なくなった太一は、遠去かって行くその背中を見送る形になってしまった。

「ヤマト……」

 自分が後を付いて行って居ないのに、スタスタと歩いて行くその後姿はどう見ても不機嫌そのままで、太一は盛大なため息をつくと自分の動きを止めた人物を振り返って確認しようと勢い良く首を後ろに向ける。

「……光子郎!」

 振り返った瞬間、自分の腕を掴んでいる人物が、良く知った人である事に、太一は驚いた様にその名前を呼ぶ。

「こんにちは、太一さん。ヤマトさんはどうかなさったんですか?」

 自分の腕を掴んだまま、ニッコリと挨拶をされて尋ねられたその言葉に、太一は一瞬返答に困ってしまう。そんな太一の態度に、光子郎は苦笑を零した。

「まっ、理由なんて聞かなくっても、分かるんですけどね……」

 呆れたような笑顔を見せて、光子郎は壁に飾られている太一の写真へと視線を向ける。その視線に気が付いた瞬間、太一は思い当たった事が一つ。

「光子郎…お前か、この写真……」
「はい、まさか金賞なんて頂けるとは思っていなかったのですが、やはり被写体が良かったのでしょうかね」

 太一の確認する様に言われたその言葉に、ニッコリと笑顔を見せて光子郎が頷く事に、太一は正直頭を抱えたくなってしまう。

「お前なぁ……」

 呆れて文句の言葉も出てこない自分を前に、光子郎は嬉しそうにニコニコと笑顔を見せてくるのに、太一は疲れた様にため息をついた。

「……こんな写真、何時撮ったんだ?」
「……秘密です」

 仕方なく、問い掛けたそれに、サラリと返されたその言葉。太一は、少しだけ怒ったように光子郎を睨み付けた。

「光子郎!!」
「睨まれても、言いたくありません。それよりも、いいんですか、ヤマトさんが睨んでますよ」
「えっ?」

 苦笑をこぼす様に言われたその言葉に、太一は慌てて出入り口の方に視線を向ける。そして、そこにいる人物と目が合った瞬間、ぞっとしてしまったのは、怒った様に自分を見詰めているその視線が余りにも怖すぎるから・・・・・・。

「……ヤバイ……光子郎、これの説明、後でちゃんとしてもらうからな!」
「……ええ…でも、何も話すことは無いと思いますよ」

 自分にこっそりと言われたそれに、光子郎は苦笑を零す。だが、自分の言葉を聞かずに慌てた様にヤマトの方へ走って行く太一に、光子郎は再度ため息をついた。

「……独占欲、強過ぎです…ヤマトさん……」

 太一が自分のところに戻ってきた事で、少しだけ機嫌を直したヤマトが去り際に自分を睨んでいる事にため息をついて、光子郎はもう一度自分の写真に視線を向ける。

「……本当、言いたくはありません…だって、この写真は、あなたがヤマトさんに向けている笑顔なんですから……」

 苦笑を零しながら、そっとその写真に手を伸ばす。
 自分だけに向けて欲しいと思う太陽の笑顔。
 なのに、その笑顔を向けて貰える相手は自分では無い。たった一人だけに向けられるその笑顔。

「……ボクの太陽を独り占めしているんです。この位の事は、許してもらいたいですよ……ヤマトさん……」

 そっと呟いて、光子郎は苦笑を零した。

「……でも、太一さんには、悪い事をしてしまいましたね。きっと、今日はヤマトさん離して下さらないでしょうから……」

 自分の考えた事に、再度苦笑を零して、光子郎は笑顔を見せる。

「……やはり、モデル代はお支払いしなくっては、いけませんよねvv」

 そして、思い付いた事に、一人嬉しそうにしてから、ゆっくりとその会場を後にした。



― 後日談 ―

「これ太一さんに、あの写真のお礼ですよ」

 ニッコリと笑顔を見せながら差し出されたそれに、一瞬太一は困惑した様に差し出されている物と光子郎の顔を交互に見てしまう。

「光子郎?」
「悪いものではありませんので、貰ってください」
「だけど、これ……」

 差し出されたのは、真新しいデジタルカメラ。どう見ても新品だと分かるそのカメラをどうしても受け取る事は出来ない。

「これが、金賞の商品なんですよ。ボクは既に持っていますので、これは太一さんに差し上げます」
「差し上げますって……俺、何もしてないし……」
「モデルになってくださっただけで、十分ですよ」

 困った様に断ろうとした太一のそれに、ニッコリと笑顔。
 勿論、太一はモデルになった覚えは全くない。

「……だけど…」
「ああ、でしたら、これはヤマトさんに差し上げた方がいいんでしょうか?」
「はぁ?」

 更に断ろうとした瞬間、突然出来てた名前に太一は驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。

「あの写真は、太一さんがヤマトさんに向けている、笑顔なんですからね」

 意味の分からないと言う表情をしている太一にこっそりと呟けば、その言葉だけで太一の顔が真っ赤になってしまう。
 それを目の前にして、光子郎は苦笑を零した。先ほどから感じている痛いほどの視線も、そろそろ限界が近付いているらしいと悟って、そっとデジカメを太一の机の上に置くと、そのまま太一の頬にキス一つ。

「それでは、ボクは失礼しますね」

 用事は終わったとばかりに、光子郎は頭を下げると教室を後にした。

「……少し、意地悪だったかもしれませんね……でも、この位は許してください、太一さん……」

 教室を出た後に、そう呟いて苦笑を零す。
 

 太陽を手に入れる事は、出来ないけれど、太陽を見詰める事だけは、許して欲しい。
 だけど、眩しすぎるその光に、ずっと見詰めつづける事が出来ないから……。
 眩しい太陽。それは、きっと絶対に手に入らない、自分の憧れの炎。


 そして、今日も太陽の光が地上を照らす。


                                             

 


   
  はい、6000HIT 高野 みやこ 様からのリクエストです。
  でも、確かリクエストでは、光子郎を絡ませたシリアスってあったようなぁ……xx
  シ、シリアスって何ですか? 状態ですね<苦笑>
  それにしても、太陽って、光子郎さん、あんたねぇ……xxしかも、商品がデジカメって、結構豪華なのでは?
  深く考えるのはやめましょう…xx 
  お話の続きとしましては、この後きっと太一は怒ったヤマトさんの餌食に……xx
  本当にヤマトさんてば独占欲強そうだしね。(笑)
  頑張れ、太一、負けるな、太一!きっと明るい未来が、待ってるはずよ。(笑)

  ってな訳で、またしてもリクエスト失敗……リクエストにお答えするのって、本当に難しいですねぇ。(反省)
  もし、これでもOKと言ってくださる様でしたら、また宜しくお願いします。

  6000GET&リクエスト、有難うございました 高野様vv