― 尊敬出来る人 ―


                         

「デジタルゲートオープン!選ばれし子供…」
「よっ!」

 京がゲートを開き今まさにデジタルワールドへと向かおうとした瞬間、声を掛けられ、そこに居た全員がわたわたと慌て出す。

「脅かしちまったみたいだな」
「お兄ちゃん!」

 扉を開いて入ってきた人物は、自分が彼等を驚かせてしまったことに、思わず苦笑を零してしまう。
 そんな相手に、ヒカリが驚いたように声を上げた。

「太一さん、今日はいらっしゃる話しは聞いていませんでしたけど……」

 旧選ばれし子供達の中で、パソコン部に所属していた光子郎が、新選ばれし子供達のサポートをするのは、もう日課となっている事。
 余程の用事が無い限り光子郎は、毎日でもここに来ている。だが、それ以外の者達は、クラブや塾に縛られ、ここに来る時間はどうしても限られていた。だからこそ、来られる時には、前もって連絡がある。なのに、今日に限っては、何も聞かされていなかったのだから、彼等の驚きは当然の反応だろう。

「ああ、急に時間が出来ちまってな。今からあっちに行くみたいだし、タイミング良かったみたいだな」

 光子郎の質問に笑顔で返事を返して、そのまま教室に入ってくる。

「確かにそうですね。今日は太一さんがいらっしゃるのであれば、何時もよりダークタワーを排除出来ますね」
「……光子郎、それは俺に思いっきり働けって事か?」

 ニッコリと笑顔で返された光子郎の言葉に、ゲンナリとした表情で太一が聞き返す。

「えっ?それって、どう言う意味なんですか?」
「向こうに行けば分かりますよ。一乗寺くんをお待たせしてしまいますね、では、いってらっしゃい」
「あっ、はい、では、行って来ます」

 ニッコリと優しい笑顔で言われた言葉に、伊織が意味も分からずに返事を返した。
 そして、開かれていたゲートから、子供達がデジタルワールドへと向かう。
 全員がモニターの向こうへと消えていくのを見送ってから、太一が光子郎へとその視線を向けた。

「それでは、気を付けてくださいね」

 そんな太一へと光子郎が、声を掛ける。

「……フォローは頼むぞ」
「それが、僕の役目ですから」

 3年前に決められた位置。彼をサポートするのが、自分の役目。

「んじゃ、行ってくる!」

 笑顔で手を振ると、そのままデジヴァイスを翳して、モニターの中へと吸い込まれていく。

「心配なんて、していませんよ。だって、僕は貴方を信じていますから……」

 その姿を見送りながら呟かれた言葉は、誰にも聞かれる事は無く、そのまま静かに流れていった。




「タイチ!!」
「よぉ!アグモン、久し振りだな」
「うん、タイチ忙しいって言っていたけど、今日こっちに来たりして大丈夫なの?」
「おう、大丈夫じゃねぇと来ねぇよ。それよりも、今日のエリアは?」

 着いた早々、嬉しそうな笑顔で自分に走り寄って来るパートナーに、太一も笑顔で返事を返す。
 そして、真剣な表情で、質問を投げ掛けた。

「えっとね、向こうにケンが待っているから、まずは、移動しようよ」
「そうだな……お〜い、一乗寺、向こうに居るんだってよ」
「えっ?はい!」

 自分とアグモンの遣り取りを少し離れた場所で見ていた小学生組に声を掛ければ、慌てて返事が返された。そして、自分の所に走り寄って来るその姿に、太一は思わず笑みを零す。

「んなに、急がなくってもいいぞ」

 可愛い後輩達の姿に、笑いながら、ゆっくりと歩き出す。

「んじゃ、向こうに行くまでに、今日のエリアの事、話してくれ」
「うん、えっとね、タイチが来たんなら、今日は範囲広げられるからって、さっきコウシロウから、連絡貰ったんだけどね」
「……やっぱり、思いっきり働けって事かよ……」
「えっ、えっ?あの、それって、どう言う事なんですか?」

 目の前で話される内容に、京が、意味が分からないと言うように首を傾げる。
 ここに来る前も、確か同じような会話をしていたのを思い出して、大輔と伊織も、同じように首を傾げた。

「それはね、太一さんが、来てくれたからだよ」

 意味が分からないと言う仲間に、答えたのはタケル。どうやら、太一が言う意味を理解しているらしいその言葉に、再度皆が首を傾げた。

「あの、八神さんが来てくださると、どうして範囲が広がるんですか?」
「う〜んと、それはね、やっぱりお兄ちゃんだからvv」

 話が分からないと言うように、再度質問された言葉に、今度は光が少しだけ誇らしげな表情で言葉を返す。
 だがそれは、どう考えてもループしている。
 太一が来たから、範囲が広がる。
 どうして、広がるのかと言えば、太一が来たから……。
 それでは、何時までたっても、自分達の疑問は解決されない。

「なぁ、なんで太一さんが来たら、範囲が広がるんだよ」
「それは、今日が終われば、分かると思うよ」

 じれったそうに、大輔が声を荒げて質問してくるのに、タケルがただ笑いながら、言葉を返した。
 そう言われてしまえば、もう何も言う事は出来ない。
 3人は不思議そうに、パートナーと話をしながら、少し前を歩いている人物へと視線を向けた。
 その表情は、パートナーへと優しい視線を送っていて、別段変わった所など見受けられない。

「……一体、何があるんでしょうか?」
「………分からないわよ、そんな事!でも、タケルくんの言葉を信じるなら、直ぐに分かるって……」
「どっちにしたって、太一さんは、凄いって事だと思うんだよなぁ……なんてったって、太一さんだし!」
「…大輔さん、根拠がありませんよ、それ……」

 自信満万に言われた大輔の言葉に、伊織がため息をつく。

「お〜い、お前等、置いてくぞ!」

 3人で話をしていた為、足が止まってしまった事に、声を掛けられて、気付かされる。その声に、慌てて、その足を進め、少し前で自分達を待っている人の所へと急ぐ。

「一乗寺、待たせちまったな」

 そして、一人先に来ていた待ち人へと声を掛けた。

「いえ、あの言われた通り、この周辺は確認しました。えっと、見える範囲には、ダークタワーはありませんでしたけど……」

 太一に声を掛けられて、慌てて首を振ると、そのまま自分が確認してきた事を伝える。

「おう、サンキュ、一乗寺」
「いえ、時間はありましたから……」

 太一に礼を言われて、少し照れたように、一乗寺が俯きながらも言葉を返す。

「えっ?何時の間に、賢と連絡取り合ってたんですか?」

 そんな二人の遣り取りに、大輔が驚いた声を出した。ずっと一緒に居たが、太一が一乗寺に連絡を取っていたなど、全く気付けなかったのだ。

「ココに来る前だよ。一乗寺の場所の確認と、その周辺の状況を確認する。そんなのは来る前に確認しとくもんだからな」

 後輩の質問に、太一は、あっさりと言葉を返した。

「一応、ダークタワーがねぇって事は、地図で確認してたんだけど、実際何があるか分かんねぇし、だから、一乗寺に頼んどいたんだ」

 当然とばかりに言われた言葉に、誰もが言葉を失ってしまう。
 何時も、自分達は行き当たりばったりで、作業をしているのだ。だからこそ、前もって何かを考えた事など、ない。

「んでだ、光子郎にも、言われちまっているから、今日は範囲広げるぞ」
「えっ?あの、それって……」

 ずっと言われ続けてきた、『範囲が広がる』と言う事を、今度は太一の口から聞いて、京が声を掛けようと口を開く。だが、それは、太一の次の言葉が、遮った。

「お前等が、何時も頑張っているのは分かる。だけどな、効率悪すぎだ。全員で一気にやるって言うのもいいが、何人かに別れて行動した方が、範囲は広がるんだよ」
「えっ、えっ?」
「あ、あの……」

 ニッコリと笑顔で告げられた言葉に、驚いて質問をしようと口を開こうとするが、上手く言葉が見つからない。
 そんな後輩達に気付きながらも、そのまま言葉を続けた。

「何か問題が起こったら、Dターミナルに連絡しろよ。特に、マミーモン達には気をつけるように。以上、質問は?」
「えっ?あの、何処をどう別れるんですか?」

 ニッコリ笑顔で問い掛けられて、漸く思考が動き出す。一番に質問を投げ掛けたのは、京だった。それに、一瞬だけ、考える素振りを見せてから、太一が口を開く。

「そうだな、今日は、一乗寺と大輔。タケルと伊織、京ちゃんとヒカリだな」
「それじゃ、太一さんは?もしかして、一人で!そんなの危険ですよ!!」

 あっさりと言われた言葉に、大輔が慌てて声を出す。しかし、そんな後輩に、太一はもう一度ニッコリと笑顔で、あっさりと返事を返した。

「俺は、アグモンと二人で、大丈夫だ」
「そうだろうね……でも、なんで、その組み合わせなの、太一さん」

 あっさりと言われた言葉に、大輔が言葉を失う。それを目前に、タケルが苦笑を零しながらも、太一へと質問を投げ掛けた。

「う〜ん、直感。ってのもあるけど、お前とヒカリは、何だかんだ言っても、経験者だからな、相手を引っ張っていく事が出来るだろう?だから、京ちゃんと伊織を任せられる」
「それじゃ、大輔君と一乗寺くんは?」
「それは……一乗寺の実績は、カイザー時代にしっかりと実証済みだ。だから、大輔には、一乗寺。タケル相手じゃ素直になれないみたいだし、ヒカリだと、空回りしちまいそうだからな」

 太一の説明に、ヒカリとタケルは、納得させられてしまう。

「……本当、こう言う時、太一さんって凄いって思うよね……」
「なんだ、こんな時だけか?」

 思わず感心したように呟けば、少しだけ意地悪そうな笑顔が、質問を投げ掛けてくる。
 質問された内容に、タケルは一瞬驚いて、瞳を見開いて相手を見るが、自分を見詰めてくる相手に、思わず苦笑を零してしまう。

「……分かっているくせに、そんな事聞くんだから……」

 意地悪い質問に、少しだけ拗ねたように答えれば、優しい笑顔が返される。

「それじゃ、次は分担だ。本当は、お前等に決めさせちまうのがこれからのためにはいいんだろうけど、今回は俺が決めちまう。まずタケルと伊織は、この地帯な。ヒカリと京ちゃんは、ここ。最後に大輔と一乗寺は、ここだ」

 地図を広げて、それぞれの場所を指示。

「あの、なんで、こんな別れ方なんですか?」

 キッパリと言い切った太一に、伊織が分からないというように、首を傾げる。

「そうだな。まずタケルと伊織の場所は、森と湖がある場所だから、空を飛べるペガスモンと水の中を得意とするサブマリモンのコンビには、ちょうどいい。んで、ヒカリと京ちゃんは、どっちも飛べるパートナーだから、山岳地帯が有利。最後に、大輔と一乗寺は、結構なんでも出来るタイプのパートナーだから、見晴らしのいい荒野担当。んで、俺とアグモンは、のんびりとするために、ここな」

 伊織の質問に答えてから、しっかりと自分の担当場所を指差す。

「そののんびりするためって……」
「俺は、老体なんだよ。だから、若い奴が働け!この地域それぞれのダークタワーの数だ。しっかりと頭に入れて、頑張ってこいよ。んじゃ、解散!」

 太一の言葉に、誰もが大人しく従うように歩き出す。
 他の子供達が歩き出したその後に、タケルとヒカリだけが、心配そうに太一を見詰めた。

「太一さん、太一さんが向かう場所って、もしかして……」
「ああ、やっぱり、気付いちまったか……いいんだよ、俺が行った方が、大輔達には、無理だろうからな」
「お兄ちゃん……」

 そして、皆が少し離れたのを確認してから、問い掛ければ、苦笑交じりに返される言葉。

「ほら、お前等は、しっかりとサポートしてやれよ。今回は、二人組での初挑戦なんだからな」

 ニッコリと笑顔で言われた言葉に、複雑な気持ちのまま頷いて返す。
 分かっているのだ、自分達ではまだ、彼をサポートできないという事を……。
 励まされるように言われた言葉に、タケルとヒカリも、それぞれ待っている相手の場所へと急ぐ。そんな二人の後姿を見送って、太一は小さく息をついた。

「さて、アグモン。俺達も行くか?」
「うん、大変そうだけど、ボクはタイチが一緒なら、幾らだって頑張れるよ」

 そして、自分の大切なパートナーへと声を掛ければ、しっかりとした言葉が返される。それに、嬉しそうな笑みを浮かべて、太一もゆっくりと歩き出した。






「お疲れ様でした。今日の成果は、十分なものですよ」

 デジタルワールドから戻ってくれば、優しい光子郎の笑顔が出迎えてくれる。
 何時も以上に疲労している子供達は、そんな笑顔に力無く笑い返した。

「今日は、良くやったな。疲れただろう、ゆっくり休めよ」
「は〜い」

 疲労の伺える後輩の姿に、一人爽やかな笑顔を浮かべているのは、自分達と一緒にデジタルワールドで作業をしていた人物。
 それに、力無い返事を返して、皆は、その場に座り込んだ。

「でだ、これで、後どのぐらい残ってるんだ?」
「そうですね…ファイル島の方は片付いたみたいです。後は、サーバー大陸の方を重点的に……」

 光子郎が太一の言葉に、パソコンを打ち込んでいく。それ作業を覗き込みながら、確認する太一にその場に座り込んでしまった子供達は、感心したように、呟いた。

「……私、分かっちゃった。太一さんが来てくれたら、範囲が広がる訳……」
「はい、ボクも分かりました」
「やっぱり、太一さんって凄い人だよなぁ……」

 感心したような3人の言葉に、ヒカリとタケルはお互いの顔を見合わせて、苦笑を零す。
 本当に、凄い事は、きっと3人とも知らない事。

「お前等、今日はもう帰っても、いいぞ。もっとも、ちゃんと帰れるか?」
「だ、大丈夫ですよ!サッカーに比べれば、これくらい!!」

 光子郎と話をしていた太一が、座り込んでいる後輩へと声を掛ければ、大輔が勢い良く立ち上がって胸を叩く。

「ダイスケ、足がガクガクしてるぞ」

 だが、その直ぐ傍に居たチビモンが、大輔の足を軽く叩くように突っ込みをいれた事で、笑いが起こる。

「んじゃ、光子郎、今日は、ちょっと早いけど、お開きだな」
「そうですね。皆さんお疲れのようですし、今日は早く帰りましょうか」

 太一の提案に、光子郎も素直にパソコンの電源を落とす。そして、この日は少し早めの帰宅となった。



 伊織、京、大輔を家へと送ってから、太一が小さくため息をつく。

「流石の太一さんも、お疲れですか?」

 そんな太一の様子に、光子郎が心配そうに声を掛けた。

「流石のってのが気になるけど、あいつ等弱いくせに襲ってくるからなぁ……」

 光子郎の言葉に、今度は盛大なため息をついて、太一が答える。
 そんな太一に、タケルは困ったように口を開いた。

「でも、僕達は、太一さんがバケモンの居るあの場所を片付けてくれたから、助かったって言うのが、正直なところだよ」
「うん、私達だけじゃ、あそこは行けないと思っていたから……」

 タケルに続いて、ヒカリも正直に言葉を述べる。

「そうですね。大輔くん達では、操られていないデジモンを相手に戦う事は無理ですからね、僕としても、太一さんが来てくださったのは、嬉しい誤算でした」

 光子郎も、二人に同意して、小さくため息をつく。
 まだまだ、新しいく選ばれた子供たちには、自分の意思で襲ってくるデジモンの相手は不向きだと、そう判断を下しているのだ。

「……まぁ、俺としては、とっくにサーバー大陸に入っているつもりだったんだけどな。なのに、現実はファイル島が終わってない状態だろう?流石にまずいと思って、手を貸しちまったんだ。ファイル島で、一番の問題になるって言うのは、あそこだからな」
「はい、クワガーモンのように単体であれば、いいのですが、バケモンは集団での行動ですからね……」

 命ある相手と戦う事の意味を、深く理解していない彼等に、本当の意味を理解するのは、早いと感じて、手を差し伸べた。
 本当の戦いの意味を知った時、今の彼等では、戦えなくなると考えたから……。

「俺としては、早く成長してもらいたいけど、本当なら、その意味を知らずに居てもらいたいのかもな……」
「……太一さん」

 諦めたように、少しだけ困ったような笑みを浮かべる太一に、ただその名前を呼ぶ事しか出来ない。
 そう望むのは、決して悪い事ではない。だけど、それだけでは、無理な事を、自分達は誰よりも知っている。
 そして、このままでは、先に進む事が出来ない事も……。

「あいつ等には、まだまだ頑張ってもらわないとだからな、しっかりとフォロー頼むぞ、ヒカリ、タケル」
「うん、勿論だよ」
「分かっているわ、お兄ちゃん」

 少しからかうような励ましの言葉に、しっかりと頷く。
 それに、太一は満足そうな笑みを浮かべた。

「んじゃ、帰るぞ!流石に、腹減っちまったからなぁ」
「あっ!今日、お母さんとお父さん、仕事で帰り遅くなるからって、言われてたんだった!!」
「……って事は、帰ったらメシ作らないといけないのか?……ヒカリ、そう言う事は、もっと早く言えよ!」
「ごめんなさい、お兄ちゃん」

 突然言われた内容に、太一が疲れたように、盛大なため息をつく。そんな兄に、ヒカリが申し訳なさそうに謝罪した。

「お詫びに、私が作るから!」
「いいよ、お前も今日は疲れたんだろう。今日は、俺が作るよ」

 すまなさそうに申し出された言葉に、太一が慰めるようにその頭をポンポンと叩くと、笑みを浮かべる。

「それじゃ、私、お兄ちゃん特性のオムライスがいいな」
「ヤマト直伝か……久し振りだな」

 そんな自分の言葉に、現金にもリクエストされたモノを聞いて、太一は懐かしいと小さく呟く。
 あの冒険の中で、教えてもらった料理の一つは、今でも家族達には好評だった。

「へえ、いいな、僕も食べたいかも……」
「んじゃ、タケルも家に来るか?」

 二人の遣り取りに、ポツリと呟かれた言葉。それを耳聡く聞き付けた太一が、サラリとタケルを誘う。

「いいの?」
「お袋さん、どうせ仕事で居ないんだろう?一人で食べる食事より、皆で食べた方が、美味いからな」
「やった!お兄ちゃんに、自慢しようvv」
「なんで、そこでヤマトの名前が出てくるんだ?」

 自分の言葉に喜んでいる弟のような存在に、思わず疑問符を浮かべても仕方ないだろう。

「それじゃ、僕はこちらなので、太一さん、今日は本当にお疲れ様でした」
「ああ、別に大した事はしてねぇよ。頑張ったのはアグモンだからな」

 自分の住んでいる棟の前で、光子郎が頭を下げれば、あっさりと返される言葉。
 その言葉に、光子郎は小さく笑う。

「そんな貴方だから、僕達は、頼ってしまうんですよ」
「えっ?なんだ??」

 ポツリと呟かれた言葉を聞き逃してしまって、太一が思わず聞き返す。それに、光子郎は何時もの笑みを浮かべた。

「いえ、何でもありません。それじゃ、また」
「おう!またな、光子郎!!」
「明日も、お願いしますね、光子郎さん」
「お願いします」

 別れの言葉を伝えれば、元気に返される返事。
 『また』と言われる言葉が、嬉しくって、思わず笑みを零す。
 二人を両脇に置いて歩き出すその後姿を見送りながら、訳の分からない気持ちを感じて、持っていたパソコンを持つ手に力が入る。

「あっ!光子郎、こいつ等のフォロー頼むな!」

 見送る中、思い出したとばかりに、振り返った相手が満面の笑顔を張りつけて、両脇の二人の頭を抱え込むように伝えて来た言葉に、一瞬驚いて瞳を見開いてしまう。
 自分の返事も待たずに、また歩き出した後姿を見詰めながら、先ほど感じた嬉しさが、心の中に広がっていくのを感じた。

「本当に、貴方と言う人は……」

 凄いと思えるのは、こんな時。
 何時だって、適わないと思わせる事が出来るたった一人の相手。
 自分が、認めているこの世で、唯一の存在。

「……大輔くんが、あそこまで陶酔する気持ちが分かりますね……」

 小さくなる後姿を見送りながら、何時だって、真っ直ぐに見詰める後輩を思い出して、苦笑をこぼす。
 自分も、多分同じような瞳を彼に向けていると分かるから……。


 また明日からも、同じような日常と、非日常が共に有り続ける。
 だけど、そんな日常を受け入れる事が出来るのは、自分達が迷わず信じられる人が居るから……。

 

 

                        
   はい、本当にお待たせいたしました。
   130000HITのリクエスト小説になります。
   
   リクエスト内容は、デジ02でデジタルワールド編。そして、太一さん賛美小説。
   ええ、最後のリクにはお答えしていると思うんです。
   ああ、一応、02と言うところも、クリアーしているかも……。
   でも、デジタルワールドは、どこへ???
   今回の小説は、ひたすらに、太一さんという人を誉めてみました。
   私の太一さん像は、こう言う方です。そして、周りには、彼を崇拝している人達が居る。
   その筆頭が、光子郎さんと大輔君だと思っているわけであります。

   そんな訳で、ただダラダラと長くなってしまいましたが、本当にお待たせしてすみませんでした。
   改めまして、むぎ様、130000GET&リクエスト有難うございました。
   お答えしてない小説となりますが、お受取り下さいませ。