「ヤマトくん、太一に、何したの?」
「はぁ?」

 突然のその質問に、ヤマトが素っ頓狂な声を上げた。

「そうですね、ヤマトさんが、何かしたとしか思えませんね」

 そして、続けられたその言葉に、ますます訳が分からずに、ヤマトは首を傾げる。
 『何かした』と言われても、本当に、自分には、思い当たる理由など何にも浮かばないのだ。

「俺が、何したって言うんだ?」
「それが分からないから、聞いているのよ」

 分からないからこそ質問すれば、呆れたようにため息をつかれてしまう。
 しかし、ここ数日、自分は太一とまともに話しさえ出来ないほどの多忙さだった為、その理由は、思い当たる筈も無かった。

「……それが、原因だって、何で気付かないのかしら……」

 自分が考えた事をそのまま伝えれば、またしても盛大なため息をつかれてしまう。

「……それは、ヤマトさんですから、仕方ありませんよ」

 そして続けて、呆れたように言われたそれに、不機嫌な表情を見せるのは仕方ない事だ。

「それは、どう言う意味だ、光子郎?」
「言葉通りですよ、気になさらないで下さい」

 不機嫌そのままに睨み付けて問い掛けたそれに、ニッコリと全く気にしてないと言うような笑顔で、返事が返される。
 いや、しかし、気にするなといって、納得できる内容ではないだろう。

「まぁ、それは置いといて、で、ヤマトくんは、太一の所に行かないの?」
「そ、それは……」

 ここまで言われて、相手の様子が気にならないかと言うように聞かれたそれに、ヤマトは言葉を濁す。

「それは?」
「……ここ数日、メールも電話も着信拒否されて……」

 言い難い事を言えば、またしても盛大なため息。

「…そこまでされているのに、理由も思い浮かばないなんて、やっぱり鈍いわよね」
「全く、同意見ですよ」

 盛大なため息をつきながら呆れたように言われる言葉に、ヤマトは立場が弱くなっていく。
 確かに、ここまでされてもなお、自分が太一を怒らしたと言う理由は、一つも思い浮かばない。
 しかも、最近全く会っていなかったのだ、分かれてと言う方が無理な話であろう。

「……本当に、馬鹿ですよね」
「本当ね。太一も、どういてこんなのがいいのかしら……」
「自分に無いモノしか持っていないからじゃないんですか?」
「確かに、正反対よね。独占欲は強いし、直ぐに悲観的になるし……」
「鈍いですし、何よりも……」
「放っとけよ!!!」

 目の前で自分の悪口を言う二人に、ヤマトが声を荒げて遮る。

「……何にしても、このままにして置くつもりなんですか?会わなければ、何も変わりはしませんよ」
「そんな事、言われなくっても分かっている!」

 大声で、その言葉だけを言うと、その場から走り去っていく。

「分かっていらっしゃらないから、言ってるんですけどね……」

 走り去っていくヤマトの後姿を見送りながら、光子郎が盛大なため息をつきながら、呆れたように呟いた。
 そんな光子郎に、空も、苦笑交じりにため息をつく。

「本当、独占欲強いし、直ぐに悲観的になるし……」
「鈍いですし、何よりも、真っ直ぐで、隠し事なんて出来ない人ですからね」
「本当、太一とは、正反対よね」

 くすくすと楽しそうに笑いながら、言われる言葉。
 どうして、太一が、ヤマトを選んだのか、それは、誰が見て、その真っ直ぐで隠し事の出来ない処に惹かれたからだと分かる。

「それにしても、太一さんが、珍しいですよね」
「そうねぇ。確かに、太一には、珍しいわね。でも、こればっかりは、他人がどうこう言う問題じゃないのよね」

 困ったと言わんばかりにため息をつく空に、光子郎も、小さくため息をつく。

「こればっかりは、ヤマトさんに、頑張っていただくしか方法は、ありませんからね」





 あいつの顔を見なくなって、何日経ったんだろう。
 電話やメールも着信拒否。
 こんな事で、終わりになんてしたくないのに、頭では分かっていても、心がそれについて来ない。
 分かっているのだ。こんなのは、下らない事だと言うことを……。
 それでも、やっぱり、心は納得してくれなくって、モヤモヤとした気持ちを吐き出したくって、大きく息を吐く。

「お兄ちゃん?」

 その瞬間、心配そうに声が掛けられて、驚いて振り返った。

「ヒカリ、帰ってたのか?」

 振り返った瞬間、自分のたった一人の妹が、心配そうに見詰めてくるのに、少しだけ困ったような笑みを浮かべて、疑問を口にする。

「うん、さっき………お兄ちゃん、何かあったの?」

 俺の疑問に、答えてから、ヒカリが言い難そうに質問してくる。それに、俺は曖昧な笑みを浮かべた。

「……いや、何でも……」

 そう返しながら、心中で、『嘘だ』と言う自分が居る。
 本当は、自分の気持ちに押し潰されそうで、どうしていいのか分からない。
 誰かに助けてもらいたいのに、自分のこの気持ちを誰にも話すことが出来ないのだ。

「……そう?何かあったら、ヒカリに絶対に話してね」

 自分の言葉が、嘘だと言う事を、きっと気が付いているのだろう。少しだけ悲しそうな表情を見せながらも、それ以上何もいかないヒカリに、感謝する。
 どうして、こんな気持ちを持つんだろう。
 本当は、こんな事考えたくないのに……。

「………ヤマトさん、絶対に許さないんだから………」
「えっ?」

 自分の考えに没頭していて、ポツリと呟かれた言葉を聞き逃し、俺はヒカリへと視線を向けた。

「ううん、何にも言ってないよ」

 だが、ヒカリにニッコリと何時もの笑顔を見せて、首を振る。
 なんか、聞えたような気がするんだけど……、気の所為、なんだろうか??

「そうか…」
「うん、あっ!お友達に電話する約束していたの忘れてた。電話、今から使うね」

 疑問に思いながらも納得するように言葉を返せば、ニッコリと笑顔で頷かれてしまう。そして続けて言われた言葉に、俺はうなずいて返した。

「俺は、使わないから、気にしなくってもいい」

 もし使いたいのなら、携帯だって持っているのだ、家の電話を使う必要なんて、ない。
 でも、もしかしたら、あいつから電話が………。
 携帯は、着信拒否しているから、あいつから連絡が来るとすれば、家の電話だけ……。
 底まで考えて、俺は頭を振る。
 自分から着信拒否しておいて、何を望んでいるんだろう、俺は……。

「本当、我ままだよな……」

 誰かが、あいつに触れるところを見た。
 分かっている。あいつからしたんじゃなくって、相手が強引に仕掛けた事だって……。
 そんな事も、許せないほど、自分は心の狭い人間になってしまったのだろうか……。




 重くなっていく気分は、隠せない。
 今すぐ会いたいとと思うのに、怖くて会いに行くことすら出来ないのだ。

「……嫌われたのか、俺……」

 避けられたあげくに、着信拒否。この答えから導き出されるのは、これだけ。
 あの、ライブが終って、ファンの女の子達に捕まってから、太一の後姿を見つけて追いかけようとしても、それは邪魔されてしまった。

「………どうやったら、許してもらえるんだ……」

 盛大なため息が止まらない。それと同時に、電話のベル。

「……どうせ、親父だ……」

 その音を無視するように布団を被る。電話なんかに出る気は、起きないのだ。
 だが、何時までも鳴り止まないその音に、慌てて起き上がった。
 親父なら、こんなに鳴らす事はない。だったら、もしかして、もしかするかも……。

「はい、石田です!」

 そう考えると俺は、慌てて受話器を取った。

『………ずいぶん、ごゆっくりなんですね、ヤマトさん』

 数秒の沈黙の後聞えてきたのは、自分のよく知っている相手。
 多分、この世で怒らせたら、一番怖いと思わせる相手ではないだろうか。

「ヒ、ヒカリちゃん?」
『はい、私がお電話した理由は、もう分かってますよね』

 自分の問い掛けに、可愛らしい声が聞えてくる。きっと、電話の向こうでは、本当に可愛らしい笑顔を浮かべている事だろう。

「良く、俺が居るって………」
『勿論、分かりますよ。お兄ちゃんに、着信拒否されているヤマトさんが、元気にお出かけしているとは思えませんからね』

 自分の心を良く理解しているその言葉に、俺は苦笑を零す。

「それで、そんな俺に用事は?」
『簡単な事です。今から10分以内に、家に来てください』
「はぁ?」
『来られない場合は、今後、お兄ちゃんが望んだとしても、二度と会わせません。では、お待ちしてますね』

 自分の言いたい事だけ言うと、電話が切られてしまう。

 って、10分だと!!

 俺は慌てて、家の鍵を握ると、そのまま部屋を飛び出した。
 彼女が、そう言うからには、本気だと分かる。
 これ以上、太一に会えなくなることなど、絶対に嫌だ。

「時間、ピッタリですね」

 太一の住むアパートに辿り着けば、腕時計で時間を確認していたヒカリちゃんが、ニッコリと出迎えてくれた。

「……今回限りです。もしも、これ以上お兄ちゃんを悲しませるような事をすれば、容赦はしません」
「ヒカリちゃん……」
「家の鍵は開いてますから、早く行ってください」

 俺の呼びかけに、それだけの言葉が返される。

「早く、お兄ちゃんに何時もの笑顔を返してくださいね」

 そして、少しだけ寂しそうに言われた言葉に、俺は大きく頷いた。
 本当は、分かっている。
 ヒカリちゃんが、光子郎や空が、何を望んでいるのかを。そして、今、自分が何をしなければいけないかと言う事も。

「太一!」

 ぼんやりと自分の部屋で外を見詰めている太一の名前を呼ぶ。

「……ヤ、ヤマト?」

 俺に名前を呼ばれて、太一が驚いたように顔見せた。

「遅くなって、すまない」


 ただ、目の前に居るのが、信じられない。
 ヒカリが、用事があるからと出かけていった後、ぼんやりと何にもする事がなくって、外を見てた。
 そして、突然現れたヤマトに、驚きは隠せない。
 自分から遠避けた。きっと、怒っていると思っていたのに、肩で息をして、急いで会いに来てくれたと分かるヤマトのその姿に、俺は、言葉を無くす。

「分かっていたのに、太一から、嫌われたと思ったから、落ち込んでた」

 すまなさそうに、俺に近付いてくるヤマトの姿を、ただ呆然と見詰めてしまう。

 これは、夢だろうか?
 自分が見ている、都合のいい夢。

「太一が、何に怒っているかも、本当は知っていて、忙しい事に理由つけていた」

 聞えてくる声が、優しく耳に届く。

 本当に、夢?
 都合のいい、幻…。

「本当は、あの時に、俺は太一を追いかけなきゃいけなかったんだ。ファンなんて、無視すればよかったのに」
「……ヤマト?」

 言われる言葉の意味が分からない。

「数日前のライブに、太一が来てくれていたのに、俺はファンに捕まっていて、太一の傍にいけなかった」

 ピクリと俺の体が、震える。
 あの時、ヤマトは俺が居た事を知っていた?

「しかも、太一の前で、あんな奴等にキスされるなんて、太一に嫌われても仕方がないと思ってたんだ」
「違う!」

 ヤマトの言葉に、俺は大きく首を振って、大声を出す。
 知っている。俺は、嫉妬したんだ。女の子達に……。
 自分とは違って、人までもヤマトと仲良く腕を組んだり、キスしたり出来る事が……。

「ヤマトは悪くない!悪いのは、勝手に嫉妬してた俺が、悪いんだよ!!」

 本当は、分かっていた。
 どうして、こんなにモヤモヤした気持ちになるのか。

「太一は、悪くない。悪くなんか、ないんだ」

 自分の気持ちを吐き出した俺を、ヤマトが強い力で抱き寄せる。
 そして、耳元で囁かれた言葉に、俺は泣きたい気持ちを必死で堪えた。

「太一は、何も悪くない。悪いのは、太一の気持ちに気付いてやれなかった俺が、悪いんだ」

 優しく囁かれる言葉に、俺は堪えてた涙が零れるのを感じる。
 不器用で、どうしようもないのに、どうしてこんな時だけ、俺の欲しい言葉をくれるんだろう。
 だから、俺は、こいつから、離れる事が出来ないのだ。

「何時でも、嫉妬してくれ。俺も、太一と同じ、それ以上に回りの奴等に嫉妬してるんだから……」

 言われる言葉に、大きく頷いた。
 

 本当に、大好きだから、嫉妬する。
 普通とは違う、俺たち。
 だから、何時だって、不安で仕方ない。
 この気持ちは、君を本当に思っているから。

 だから、嫉妬するのも、大切な事。
 それは、君が大好きな証拠だから……。

 




  書いてて、訳が分からなくなってしまいました。
  鯖江さま、お待たせしてしまったのに、意味不明な駄文にて、本当に申し訳ございません。(><)
  
  それにしても、言い訳できないくらいの、駄文です。
  う〜ん、困った。
  時間が、ないので、とりあえずUP!
  その内、こっそりと手直しします。
  本当に、すみませんでした。
  
  そして、100000GET&リクエスト、本当に有難うございました。