雪は降る、あなたは来ない…。

 昔そんな歌を聞いた事があるのを思い出して、ヤマトは盛大なため息をついた。

「たく、何やってるんだ……」

 メールで相手を呼び出したのは、1時間も前の事。
 なのに、その呼びだした相手は今だ現れない。

 流石に、こう寒い中で待たされるのは、寒さを苦手としていない人物にも堪えるだろう。
 しかも、何の連絡もないのだから、余計に心配になってくるのだ。
 いくら住んでいる場所の直ぐ傍の公園だと言っても、何かあったのかと心配でたまらない。

「本当に、何かあったのか?」

 心配になって、様子を見に行こうとヤマトはとうとうその場所から移動しようと歩き出そうとした瞬間、漸く待ち人が現れた。

「…ヤマト!」

 自分の方に走ってくる人物を見つけて、今までのイライラを忘れたかのように、思わず笑顔になってしまうのを止められない。

「太一……」

 だが、そこではっとして、ヤマトは少し怒ったような表情を作った。

「遅くなって悪い……これ、寒かっただろう?」

 申し訳無さそうに差し出されたのは、缶コーヒー。
 それを黙って受け取れば、まだ温かいそれは、冷たくなった手を暖めてくれる。
 それを両手で持つと、ヤマトは盛大にため息をついた。

「……で、理由は?」

 そして、不機嫌な声で質問をする。
 その問い掛けに、一瞬太一が困ったような表情を見せた。

「………ヒカリが熱出してて、今日お袋達居ないから、看病してた……それで、今は、漸くヒカリが寝たから、抜け出してきたんだけど……」

 申し訳無さそうに言われるそれに、ヤマトがもう一度ため息をつく。

「なら、メールでもいいから、連絡くらいしてくれ……心配したんだからな」
「…ごめん……」

 心配そうに言われたそれに、太一が素直に謝った。

「ヒカリちゃんの事を知ってたら、呼び出したりしなかったのにな……」

 ため息をつきながら言われたそれに、太一が小さく首を振る。

「…でも、俺も久し振りに会いたかったから……」

 ポツリと漏らされたその言葉に、一瞬ヤマトが幸せを感じてしまう。

 時々しか聞けない、太一の本音。
 それは、可愛いと思うし、やっぱり嬉しいのだ。

「太一vv」
「で、でも、ヒカリの事が心配だから、早く帰るからな!」

 嬉しそうに自分に抱きついてくる相手に、赤い顔のまま慌てて言葉を付け足す。
 それに、少しだけ残念そうな顔を見せるが、それでも、ちゃんと相手を抱きしめる。
 ずっとこの場所に居た所為で冷たくなっている体に、太一の体温を感じられて、思わず目を閉じた。

「…でも、今日は本当に珍しくヒカリが我がまま言うから、戸惑ったんだ……」
「えっ?」

 大人しく自分に抱きしめられている太一が、ため息をつきながら漏らしたそれに、一瞬訳が分からずに聞き返す。

「…今日、ヒカリが、一人になるの嫌がって大変だったんだよ。テイルモンも、困ってるみたいだったし、俺としては、珍しく甘えてくるヒカリに、答えてやりたかったんだけどな…」

 苦笑を零すように言われたそれに、ヤマトは一瞬どう答えるべきなのか返答に困ってしまった。
 ヒカリが太一の事をどう思っているのかを知って居るだけに、素直に『そうだな』なんて返す事は出来ない。

「…ヒ、ヒカリちゃん、何て言ってたんだ?」

 だから、これが精一杯である。

「えっ?ああ、ヤマトからメール貰った後に、泣き出すから、困った。ほら、あいつあんまり我がまま言わないだろう?だから、どうしようかずごく困って、取りあえず落ち着くまで宥めてたら、こんな時間になになっちまった……本当にごめんな、ヤマト……」

 すまなさそうに謝られて、ヤマトは慌てて首を振った。
 それは、どう聞いても太一が悪い訳ではないだろう。

 しかも、珍しくわがままを言ったと言うヒカリの行動は全て、自分達の邪魔をする為の芝居だと言う事が分るだけに、ヤマトは盛大なため息をついてしまうのを止められない。

 流石は、兄大好き少女の言ったところであろうか……。
 しかも、太一はそんな妹に気が付いていないだけに、ヤマトの悩みは尽きないのである。

「た、太一……お前、俺とヒカリちゃんが同時に危険に曝されてたら、どっちを助ける?」
「なんだよ、急に…そんなの、ヒカリに決まってるだろう!」

 突然の質問に即答で返されたそれ。それに、ヤマトは、盛大なため息をついてしまう。
 恋人から、そんな言葉が返ってくるとは、想像していたといっても、ショックは大きい。

「…仕方ないだろう。あいつは女の子なんだし、それに俺にとっては、大切な妹なんだからな」

 更に追い討ちを掛けるように言われたその言葉に、ヤマトは再度ため息をつく。
 分っていたとしても、せめてもっと甘い言葉を期待したいと言うのは、無理な話なのだろうか…。

「……そりゃ、ヒカリちゃんは、お前にとって可愛い妹かもしれないけどな……」

 拗ねたような言葉を呟くのは、許されるだろう。
 そんな風に、拗ねている相手を前に、太一は思わず苦笑を零す。

「……どうせ、俺は、お前にとって、どうでもいい存在なんだよなぁ……」
「って、ちょっと、待て!誰もそんな事言ってないだろう!」

 段々落ち込みがエスカレートしていくヤマトを前に、太一が慌ててその言葉を遮る。

「いいさ…お前は、ヒカリちゃんの方が大事なんだろう?」
「だから、人の話を聞け!!」

 自嘲的な笑みを見せる相手に、太一が少し怒ったように声を上げた。

「なに、ヒカリにヤキモチ妬いてるんだ!違うだろう!お前とヒカリが危なくなってたら、先にヒカリを助けるけど、俺は、お前だって絶対に助ける!」

 キッパリとした口調で言われたそれに、ヤマトは一瞬驚いたように瞳を見開く。
 しかし、その後、少しだけ呆れたようにため息をつくと口を開いた。

「…けどな、そう言う時の場合は、残された方は、助からないんだぞ……」
「そんな事ない!俺は、絶対に助けるからな!」

 呆れたように言われたそれにも、キッパリと言葉を返す太一に、ヤマトは呆れたような表情を見せる。
 本当に、何処から来るのか分らないが、その自信は、何時だって自分達に勇気を与えてくれるから、不思議なのだ。
 根拠だって全くないのに、彼が言うと、不安はなくなる。

「……俺も絶対に助けるって事は、大切だと思ってくれてるのか?」
「あ、当たり前だろう、バカ!!」

 少しだけ顔を赤くして返事を返す太一に、ヤマトは笑みを零す。

「お、お前なぁ……何とも思ってない奴なんかと、無理してまで会おうとは思わないだろうが!」

 不機嫌そうに言われるそれに、ヤマトは今度こそ幸せそうな笑顔を見せた。

「そっか、無理してくれたんだなvv」

 嬉しそうな笑顔を見せる相手に、太一の顔が赤くなる。

「…む、無理なんてしてないけど……」

 段々と小さくなる言い訳に、ヤマトは幸せそうに太一を抱きしめた。

「…言い訳なんていい……好きだぜ、太一vv」
「…バ、バカ……耳元で言うなって、何時も言ってるだろう!」

 囁かれた言葉と同時に、真っ赤になった太一の声が響く。
 ヤマトはそんな相手に苦笑を零しながらも、幸せを実感せずにいられなかった。

「……ところで、今更かもしれないけど、何の用事だったんだ?」

 自分のことを嬉しそうに抱きしめている相手を見上げながら疑問に思ったことを素直に尋ねてみる。
 そもそも、自分はここに呼び出された理由をまだ聞いていない。

「……用事…」
「そう、何かあるから、呼び出したんだろう?」

 自分の質問に困っているような表情を見せるヤマトを前に、太一は不思議そうに首を傾げた。
 自分の事を見詰めてくる視線を感じながら、ヤマトは苦笑を零す。

「……その、久し振りだから、顔が見たかったって言ったら、怒るか?」

 言い難そうに聞き返されたそれに、一瞬太一が呆れたような表情を見せる。

「……確かに、二人で会うのは久し振りだけど……お前なぁ、こんな寒い所での待ち合わせはやめろよ。お前を待たせてるって思うと、落ち着かないから……」
「た、太一…」

 ポツリと呟かれたその言葉に、ヤマトが、太一を抱きしめている腕に力を込めた。

「か、風邪ひいたら、大変だろう…お前、ボーカルしてるから、声とか出なくなったら、困るし……」

 慌てたように付け加えられるそれにさえ、幸せを感じてしまう。

「もし、俺が風邪ひいたら、太一が看病してくれるんだろう?」

 嬉しそうに腕の中に居る相手に呟けば、真っ赤な顔のまま見上げてくる。

「そ、そんなの、当たり前だろう!!」

 そして、即答。
 きっと、分っていないだろう。

 そんな相手の言葉がどれだけ自分に幸せをくれるのかと言う事を……。

「なぁ、太一。もしも、本当にもしもだけど、その危険な状態で、俺が助からなかったとしたら、お前はどうする?」

 だから、少しだけ意地悪な質問。

 それは、きっと、相手の答えなんて聞かなくっても分ってるから……。

「……お前、ズルイ……そんなの、俺が答えられないの知ってる癖に……」

 不機嫌そうに自分を見上げてくる太一に笑顔を見せる。
 ズルイのは分っているから……。答えに困るのが、当然の事。

「……でも、もしもなんて、絶対に俺が食い止める。それじゃ、答えにならないか?」
「今は、十分だ……」

 見上げてくる視線を受け止めて、優しく笑う。

 大切な人が腕の中に居る。
 それが、一番大事なこと。

 この時間が一番大切だから、想うのだ。
 想いは、何時だって一つだけ、それは、大切な人が何時でも傍にいるという事。


 

 




  はい、23000HITリクエスト小説です。
  何処が、状態なんですが……リクエスト内容は、確か『ヤマトの妬きもち』
  だったはずなんですけど……どこが、ヤキモチ?ただのバカップルな話になってしまいました。
  折角、リクエストを下さったのに、本当にすみません悠美様(T-T)
  またしても、リクエスト失敗小説ですね。<苦笑>
  今年こそは、と想っていたのに、本当にごめんなさい(><)

  今年もこんな調子ですが、またよろしくお願いいたします。
  本当に、23000HIT&リクエスト有難うございました。