― 思い出 ―


                           

「残念だったよなぁ……」

 六年生、最後の思い出の修学旅行。
 折角の楽しい旅行のはずなのに、気分は複雑である。
 いや、そう書くと誤解があるかもしれない。
 楽しいとは思っているのだから、それは間違いだ。

 なら、何が楽しくないのかと言えば、一番一緒に行動したい相手と行動できないから……。

「…折角の修学旅行なんだから、クラスなんて無視出来りゃいいのに……」

 ぶつぶつと文句を言いながら、再度ため息。
 勿論、修学旅行だからこそ、クラスが違えばどうしても一緒には行動できないのも仕方ないだろう。
 食事をするのも、部屋の割り当ても、どうしてもクラスの班で別れているのだ。

「……仕方、無いかぁ……」

 再度ため息をついて、慰めるように自分に言い聞かせる。

 今、旅館の一室で、自分一人だというのをいいことに、こうしてぶつぶつと独り言を言っているのだが、これが誰か居たとしたら、きっと変な目で見られるだろう。
 そんな事を考えて、太一は再度ため息をついた。
 そして、そのため息と同時にノックの音がする。
 今日泊まっている旅館の部屋は、6人部屋になっている。
 他の同室者達は、旅館の中を見て回るとかで、荷物を置いてさっさと出掛けてしまっているのだ。
 だからこそ、同室の者達が戻ってくるには、まだ少し早すぎる。
 太一は、そう思いながらも、素直に部屋のドアを開けるために、立ち上がった。

「なんだよ、早かった……って、ヤマト!」

 ため息をつきながら部屋のドアを開けた瞬間、目の前に立っているその姿に、太一は驚いたように名前を呼ぶ。

「お前の部屋、誰も居ないのか?」

 もう既に風呂に入ってきたのだろう、ヤマトの姿は旅館の浴衣である。
 しかも、その髪はまだ少しだけ濡れているのが分かった。

「……風呂、入ってきたのか?」

 目の前に立っている人物の姿に、質問すれば、笑顔が返ってくる。

「ああ、俺達の班、一番初めに時間指定されてたからな」

 部屋の中に入りながら、ヤマトは自分が持ってきたジュースの缶を太一に差し出した。

「ポカリでいいか?」
「ああ、サンキュー」

 差し出されたものを素直に受け取って、そっとヤマトに視線を向ける。
 もう一つ持っていたジュースを飲んでいるヤマトを前に、太一は複雑な表情を見せた。
 髪が濡れて、浴衣姿のヤマトはどう見ても年齢よりも大人っぽく見える。
 そんな風に見えるヤマトから慌てて視線を逸らして、太一は貰ったポカリを口に流し込んだ。

「……で、一人部屋に残ってどうしたんだ?」

 飲み物を飲んで少し落ち着いた状態になった時、ヤマトが不思議そうに尋ねてくる。
 確かに、何時もの太一なら、一緒になって旅館の中を見て回るだろう。

「……そんな気分じゃなかったんだよ……」

 ヤマトの質問に、拗ねたようにそっぽを向いて呟かれたそれに、ヤマトは不思議そうに太一を見る。
 この修学旅行を楽しみにしていた事を知っているので、今目の前で見せている表情が自分に疑問を投げかけた。

「…折角の修学旅行だって言うのに、どうかしたのか?」
「……別に……ただ、見学コースの時に思ったんだよ、お前とクラス違うって事が、すごく距離があるんだって……」

 自分の質問に言い難そうに呟かれたその言葉が、自分を驚かせる。
 まさか、そんな風に言われるなんて思ってもいなかったのだ。

「…写真なんかも、クラスで撮るし…折角の修学旅行なのに、ヤマトと一緒の写真って少ないなぁって……」

 驚いて太一のことを見詰めている自分に全く気がつく様子も無く、俯いて話をしている相手に、ヤマトはどう反応を返していいのか、分からなくなった。
 確かに、自分も同じ事を思ったのだ。
 折角の旅行だと言うのに、自由は少なくって、太一と一緒に行動できない苛立ちを感じていた事だって認める。
 あの夏の冒険のように、ずっと一緒に居られないと言う事が、こんなにももどかしいと感じている自分がいる事に気づかされた。

「だから、何か面白くないんだよ……」

 ポツリと最後に言葉をまとめるように言われたそれに、思わず苦笑を零す。
 正反対だと言われている自分達なのに、根っこの方は同じだと言われた言葉を思い出して、ヤマトは小さくため息をつく。

「ヤマト?」

 ずっと一人で話をしていて、何も返さないヤマトを前に、心配そうに太一がその顔を覗き込む。
 そんな太一に、ヤマトは笑みを零した。

「……同じだ…俺も、一緒の事思ってた……」

 じっと自分の事を見詰めてくる相手に、苦笑を零しながら正直に自分の気持ちを伝える。
 全く同じことを考えていたそれが、可笑しい。
 それぞれ自分達のクラスに、親しい友人は居る。
 だけど、本当に心を許せた相手が、目の前に居るその人だからこそ、一緒に行動できない苛立ちを感じてしまうのだ。

「…同じって、ヤマトもそう思ってたのか?」

 自分の言葉に信じられないと言うように聞き返されて、小さく頷いて返す。
 今日、行った場所全てで、自分の隣を確認しては、複雑な気分だったのだ。
 何時も居る、その相手を確認するように向けられた視線の先には、その姿が無い。

 たったそれだけの事が、しっくり行かないのだ。

 いや、それだけの事が、大切なのだと思い知らされた。

「そっか、こんな事考えてるの、俺だけだと思ってた……」

 素直に頷いて見せたヤマトを前に、少しだけほっとしたように、太一が呟く。
 ずっと、こんなことを考えている自分が変だと思っていたからこそ、ヤマトからの同意の言葉は、安心させてくれるものだったのだ。
 目の前で安心したように笑顔を見せる太一に、ヤマトもそっと笑顔を見せる。

「なぁ、ヤマト……」

 そして、そっと名前を呼ばれて、不思議そうに相手を見た。

「…明日からは、自由時間あるんだったよな?」
「ああ、確かに……」

 質問されたその言葉に、予定を思い出して、ヤマトが頷く。
 そして、自分の目の前で太一が嬉しそうに笑ったのを見た瞬間、その言葉の意味を理解した。

「自由時間は、一緒に行動しような」
「ああ、約束だ」

 にっこりと尋ねられたその言葉に、ヤマトも笑顔で返事を返す。
 自分も、その言葉を言いたくって、ここに来たのだから、断る理由などない。
 すぐに返されたその言葉に、嬉しそうに笑う。
 そんな笑顔を見れるのも、自分だけだと言う嬉しさに、ヤマトも笑顔を返した。
 それから、いろいろと話をしている間に、太一の同室のメンバー達が戻って来て、消灯時間前に、ヤマトが自分の部屋へと戻って行く。

「なぁ、八神」

 そして、ヤマトが居なくなってから、寝る準備をしていた太一は名前を呼ばれて、不思議そうに相手を見る。

「明日の自由時間、決まってなかったら、俺達と一緒に行動しねぇか?」

 そして、楽しそうに質問されたその言葉に、太一は思わず苦笑を零す。

「悪い、ヤマトと一緒に行動する約束しちまった」
「別に、石田も一緒でもいいんだぜ」

 申し訳なさそうに言われたそれに、慌てて言葉が付け足される。
 その言葉に、一瞬だけ太一は考えてから、もう一度謝罪した。

「折角だけど……ごめんな」

 折角ヤマトと一緒に行動出来るのを、邪魔されたくなかったから、素直に謝罪する。
 そんな自分に、友人は『気にするな』と返してくれるのに、苦笑を零した。
 それから、『恒例だ!』と言う誰かの言葉から、枕投げへと発展して行き、先生に注意されたりと、賑やかな時間が流れていく。


 そして、修学旅行は、そんな賑やかな状態で、幕を閉じていった。





    ― おまけ ―

「なぁ、気の所為か、石田と八神のショトが多くないか?」

 修学旅行の写真が張り出されているのを見上げながら、ポツリと呟かれたその言葉。

「…確か、あいつ等って、クラス違うはずだよなぁ……」

 更に違う生徒が、呟いたその言葉に、誰とはなしに頷いて返す。
 張り出されている写真の中、太一とヤマトだけの写真と言うのが、5枚に1枚の割り合いである事に、気が付くなと言う方が、無理な話であろう。
 楽しそうに笑い合っているその写真を前にして、生徒達が思わず疑問に思ったのは、当然と言えば当然のことであろう。
 小学生の修学旅行は、カメラなどは持っていっては行けない事になっている。
 だから、写真を撮っているのは、先生達のはずなのだ。
 だからこそ、一部の生徒の写真が多くなると言うのは、仕方ないかもしれないのだが、ここまであるのは、問題があるだろう。

「ねぇ、石田君と八神君の写真絶対に買うよねvv」
「勿論だよ、その為に、先生にお願いしたんだからvv」

 そして、何気なく聞こえて来た女子の会話。
 確かに、人気のある二人だからこそ、どうしてもと言う女子の希望で、先生達が頑張ってヤマトと太一の写真を撮ったと言うのが原因である。
 そのことに対して、その場にいた誰もが思わず納得したのは言うまでもない。


「ヤマト!修学旅行の写真見に行こうぜvv」

 嬉しそうに自分の所に来たその姿に、ヤマトも笑みを返す。

「そう言えば、出来たって、言ってたな……」
「お前、先生の話聞いてなかったろう?」

 自分の言葉に思い出したように呟かれたそれに、太一が呆れたようにため息をつく。

「お前にだけは、言われたくない台詞だよな……」
「……今回だけは、言えるかんな!」

 びしっと指を突きつけて自慢気に言う太一の姿に、ヤマトは思わず盛大なため息をついてしまう。

「そう言う話だけしか、聞いてないんだろう?」

 ため息をつきながら、呆れたように言葉を返す。

「……本当、お前って性格変わらないよなぁ……」
「それは、お互い様だ」

 ポツリと呟かれたそれに、ヤマトが笑顔を見せてきっぱりとした口調で返事をする。

「……確かに、その通りだよなぁ……ヤマト、そのまんま、変わるなよ!」

 にっと笑顔を見せて言われたそれに、ヤマトも太一を真っ直ぐに見返して頷いた。

「そっちこそ変わるなよ!」
「変わんねぇよ!……変わる訳ねぇじゃん。ずっと、ヤマトと一緒に居たいからさ」

 嬉しそうに言われたその言葉に、ただ驚いて相手を見詰めてしまう。
 一緒に居たいと思ったからこそ、変わらないでいたい。
 そう思うのは、やっぱりどちらも同じ。

 やっぱり、根っこの方では、二人は一緒なのかもね。(笑)




 

   



  39000HITリクエストは、『ヤマ太の修学旅行』だったはずなのですが、何処が…?
  いや、その前に、すっごく意味不明。
  結局、私は何が書きたかったのでしょうか?(聞いてどうする!)
  弁解の言葉もありません、本当にごめんなさい、晃様……xx
  折角のリクエストなのに、不甲斐ない管理人で、申し訳ないです。
  どうやら、設定を小学生にしたのが、間違いだったようで……(言い訳<苦笑>)
         
  本当に、すみません。
  そして、キリ番GET&リクエスト心から感謝いたします。
  なのに、恩をあだで返すような小説で、ごめんなさい(><)