贈り物                    

 たった一人の大好きな君に、心からのプレゼントを贈りたい。
 でも、何を送れば、喜んでもらえるのだろうか?

 何時だって、自分に優しい相手に、俺は、何をして上げられるのだろうか……。


                                   



『そうねぇ、ヤマトくんなら、そのまま自分にリボン付けて渡せば、喜んでもらってくれるんじゃないの?』

 悩んで悩んだ末に、幼馴染であり、選ばれし子供の仲間でもある相手にそう聞けば、そんな言葉が返ってきた。

 いや、自分にリボンって……。
 確かに、喜びそうだけど、それは何かが違うような気がする……。

「……出来れば、モノを渡したいんだよ……」

 自分をやるなんて言うのは、俺の趣味じゃない。
 大体、そんな恥かしい事、出来る訳がないだろう。

『そう?それじゃ、私じゃなくって、タケルくんにでも聞いてみたら?きっと、相談に乗ってくれると思うわよ』
「タケルかぁ……サンキュー 空、タケルにも電話してみるよ」
『それがいいわ、頑張ってね』

 俺の言葉に、空が応援の言葉をくれる。
 それに、再度御礼を言って、電話を切った。
 そしてそのまま、タケルの家へ……。
 数回コールの後、良く知った声が受話器から聞えてくる。

『はい、高石です』
「タケルか?俺、太一だけど…」
『太一さん?何か、あったんですか?』

 自分の名前を告げた瞬間、少しだけ驚いたように尋ねられて、思わず苦笑を零す。
 そんなに、俺って、タケルに電話した事なかったけか?

「いや、大した事はないんだけど……ほら、もう直ぐあいつの誕生日だろう?」

 思わず苦笑を零しながらそう言えば、電話の向こうで笑う気配がする。

 俺、変な事、言ったんだろうか???

『お兄ちゃんへの誕生日プレゼントですか?』

 少し笑いながらの質問に、俺は見えないと分かっていても、思わず大きく頷いてしまう。

「……何をやったら喜ぶかって、考えてて……」
『そんなの、太一さんにリボン付ければ、喜ぶと思いますよ』

 って、何で、空と同じ事言うんだ?!

「……それ、空にも言われて、却下した。大体、俺がそんなキャラかよ!!」
『確かに、太一さんは、そんな事しませんよね……それじゃ今度、それとなく聞いてみましょうか?』
「えっ?いいのか??」

 俺の言葉に苦笑交じりに答えて、続けて言われたその言葉に、俺は思わず飛びついてしまう。
 だって、自分で聞けないけど、回りの誰かが聞いてくれれば、あいつが何を欲しがっているのか、良く分かるし、これ以上悩まなくっていいって事だ。

『勿論、いいですよ』
「だって、お前も渡すんじゃ……」
『大丈夫ですよ、今年のプレゼントは、もう決めてますから。勿論、それには、太一さんの協力が、必要ですけど』
「……それって、交換条件?」

 恐る恐る尋ねたそれに、嬉しそうな声で返されて、思わず身構えてしまう。

 一体、何をさせるつもりなんだ?

『そんなに、大した事じゃないから、大丈夫。それに、交換条件出さなくっても、太一さんが協力してくれるのは、分かってるから』

 サラリと返された言葉に、俺は思わず首を傾げた。

 無条件で、俺がタケルに協力??
 一体、どう言った内容なんだろう。

「…何か、良く分かんねぇけど、分かった」

 意味の分からない返事を返せば、向こうから笑い声が聞えてくる。
 だけど、今は内容を聞いても答えてくれないだろう事が分かるから、そう返す以外に返事が思いつかなかったのだ。

『太一さんらしい返事だよね。それじゃ、また分かり次第、連絡します』
「おう、頼んじまって悪いな」
『気にしなくって、大丈夫だよ。おやすみなさい、太一さん』
「ああ、おやすみ」

 挨拶を交わして、電話を切る。
 これで、難しい事は考えなくっても良くなったと、俺は盛大に安堵のため息をついた。

 後は、タケルからの連絡を待つのみ。

「……後、1ヶ月だよなぁ……」

 カレンダーへと視線を移して、丸印の入ったその日に、笑みを零す。
 大好きな人の誕生日、だから、思い出に残るものをプレゼントしよう。
 それを見る度に、自分を思い出してもらえるようなものを……。

「あいつが、何を欲しがるかにもよるけど、な」

 ずっと身に付けていられるものを欲しがってくれれば、自分の思いは届くだろうか?

 大好きな、君へ。
 最高の贈り物を……。





「シルバーアクセサリー??」
『はい、何でもいいから欲しいって言ってました』
「……アクセサリー系は、俺詳しくないなぁ……」

 数日後、自分の要望通り相手の欲しい物を聞き出してくれたタケルからの連絡で、俺は複雑な表情を見せる。

 アクセサリーには、興味がない。
 だから、絶対に自分ではつけないし、そんな店にも見に行った事が一度もないのだ。

『僕、付き合いましょうか?』

 俺の言葉に、タケルからの申し出は非常に有難いものだった。
 だが、今回の俺は、あいつへのプレゼントを、俺一人で選びたいと考えていたから、その申し出を断る。

「……明日、練習休みだし、行ってみるよ。サンキュータケル。面倒な事、頼んじまって悪かったな」
『いいえ、お役に立てて僕も嬉しいな。太一さんの、気に入るプレゼントが見付かるといいね』

 俺の断りに、気分を悪くした様子もなく、タケルが言ってくれたその言葉に、俺は再度お礼の言葉を述べて電話を切った。

 欲しいものは、分かった。後は、いいものが見付かればいいんだけど……。
 アクセサリーの店なんて分からないから、ヒカリにアドバイスを貰う。
 俺の質問に、苦笑を零しながらも、ヒカリは地図まで用意してくれて、教えてくれた。

「ヤマトさんが、好きそうなアクセサリーは、この辺だと思うよ。この辺は、女の子モノが多いけど、この辺なら、大丈夫だと思うし……あっ!ここのお店は、オリジナルの一点ものアクセサリーなんかが、あるよ」

 地図を指しながらのヒカリの説明。
 そして、最後に言われたその言葉に、俺は思わず首を傾げる。

「一点もの?」
「うん、世界に一つだけのアクセサリーって、人気だよ。それに、お願いすれば、デザインしたモノなんかも作ってくれるって、聞いてるし……」
「それだ!!」
「えっ?どれ??」

 ヒカリの説明に、ピンときた。
 俺が求めていたもの。
 これだったら、世界でたった一つのモノをヤマトにプレゼントできる。

「サンキューヒカリvv早速、明日行ってみるな!!」

 満面の笑顔で御礼を言って、その地図を貰う。

 後は、それを作ってもらうのに、どれぐらいの日数がかかるかだよなぁ……。
 ヤマトの誕生日に間に合わなかったら、意味ねぇし……。

「本当、ヤマトさんの事になると、一生懸命だよね」

 決まった事で、上機嫌の俺は、ポツリと苦笑交じりに呟かれた、その言葉は、聞えなかった。





 教えてもらったその店で、特注の指輪を頼んだ。
 俺のデザインで、世界に一つだけの指輪。
 大体20日前後くらいで出来ると言われて、今日それが出来上がったので、取りに行く。

 でも、間に合ってよかった。
 だって、今日出来なかったら、もう間に合わない所だったのだから……。

 そんでもって俺は、スーパーで夕飯の材料を買って、ヤマトん家へ向っている。
 今日のヤマトの予定は、何時も通りバンドの練習。
 だから、先回りして、俺があいつを驚かせてやるんだ。

「えっと、鍵、鍵」

 ポケットから貰った合鍵を取り出して、当然のように家に入る。
 そして、キッチンに入ると、買って来た材料を袋から取り出した。
 戻ってくるのは遅いだろうから、あいつが戻ってくる前に、お祝いの準備。

「えっと、これでよし!」

 数時間掛けて、ヤマトの好物を作ってみた。

 いや、だって、あいつの誕生日だから……。
 それに、ここ数週間、企みがばれると嫌だからって、あいつの事避けてたし、だから、機嫌が悪いって言うヤマトへのご機嫌伺いって奴かも…。

「これで、後はヤマトが戻ってくるのを待つばかり……」

 バタン!!俺が呟いたその瞬間、玄関からもの凄い音が…。
 俺、鍵掛けてなかったか??

「太一!!」
「ヤマト?えっ?早い……」

 そして走り込んできた人物を見て、俺は突然の事にただ驚いて時計へと視線を向けてしまう。
 だって、戻ってくるまで、後1時間以上はあると思っていたのだ。

「タケルから、連絡貰った。プレゼントが家に辿り着いてるから、今日は早く戻れって……」

 驚いている俺に、ヤマトが理由を話してくれる。

 って、タケルのプレゼントって俺なのか??

「お前、だから最近、俺の事避けてたのか?」
「……気付いてたのかよ……」

 バレていないと言う自信は流石になかったけど、呆れたように言われたそれに、複雑な表情を見せてしまう。
 だって、俺だって好きで、避けてたわけじゃないんだし……。

「……まぁ、深くは考えないとして、まずは、誕生日おめでとう、ヤマト」
「えっ?あっ、ああ……俺の誕生日だから、料理して待っててくれたのか?」
「他でもない、お前の為に頑張ったんだよ!しかも、俺が生まれて初めて、アクセサリーショップになんて行ったぞ!」
「アクセサリーショップ?太一が???」
「おう!お前が欲しい物がシルバーアクセって聞いたから、行ってきた。ちなみに、これがプレゼント……」

 少し照れくさかったから、ズイッとそのままヤマトへとその箱を差し出す。
 これを見て、俺の事、忘れないで欲しいなぁって言うのが、俺の願い。

「…開けても、いいのか?」
「お前のモンだ。いいぞ」

 質問してくるヤマトに、そう言えば、ニッコリと笑顔。……その笑顔は、反則のような気がする。
 ガサガサと包みを開いていくヤマトをただ黙って、見詰めれば、箱を開いた瞬間、驚いたような表情と、そして嬉しそうな表情が、見られた。

「……わざわざ作ってくれたのか?」

 そう、今ヤマトが手に持っているのは、俺が特注で作ってもらった指輪。
 俺の紋章である勇気と、ヤマトの紋章である友情の紋章が交互にあしらわれたシルバーリング。

「その模様以外、思いつかなかったから……」

 そしてその裏側には、デジモン文字で、俺とヤマトの名前。
 読める人でなければ読めない、暗号のようなもの。

「有難う、太一。大切にする」

 本当に嬉しそうに俺の目の前でヤマトが笑う。
 うん、その笑顔が見れただけでも、俺としては満足だ。

「ヤマト、本当に誕生日おめでとう。んで、生まれてきてくれて、サンキュー」
「ああ」

 贈り物。大切な人へ、特別な日へのプレゼント。
 自分が送ったものを喜んでもらえるだけで、嬉しい。
 それが、一番大好きな人なら、尚更。


 そして、次の日から、ヤマトの指には、俺が送ったそのリングが光ってる。
 ほら、それだけで、こんなにも嬉しいと思える自分が居るのだ。



 

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  お待たせいたしました!!
  90000HIT サクヤさまからのリクエスト小説であります。(何処が??)
  こんなにお待たせしたのに、ショボ小説で本当にすみません。
  恩を仇で返しまくっております。<苦笑>
  こんな私ですが、見捨てないでやって下さい、サクヤさん。