「絶対に、嫌だ!」

 にっこりと笑顔で差し出されたそれを前に、太一が一歩下がる。

「あら、約束したでしょう?」

 しかし、これまたにっこりと笑顔で言われた言葉に、その動きが止まった。

「それとも、『約束なんてしてない』なんて、言うのかしら?」

 ニコニコと質問される言葉に、『うっ』と言葉に詰まるのは、一度自分が言った事を認めているから……。

「大丈夫よ、絶対に似合うんだから!」

 不満げに見詰める中、空がにっこりと笑顔で、キッパリと言われたその言葉に、太一は複雑な表情を見せた。
 そう、似合うと言われて、素直に喜べるようなものを差し出されてはいなかったかったから……。





「兄さん、約束は約束だよねvv」

 にっこりと可愛らしい笑顔を見せる実の弟を前に、ヤマトは盛大なため息をつく。

「……どうしても、やらないといけないのか?」
「勿論だよ。そう言う罰ゲームなんだから」

 ニコニコと笑顔を見せているのに、何故か逆らえない迫力を感じるのは、自分の気の所為だろうか?

「別に、兄さんにとっては、大した問題じゃないと思うんだけどなぁ。逆ナンパは何時もされてるんでしょう?」

 更に追い討ちを掛けるようにさらりと言われたその言葉に、ヤマトはただ複雑な表情を見せた。

 いや、確かにその事に関しては、否定できない。
 だが、望んでもいないのに、声を掛けられるのは、はっきり言って煩わしいと思うのだ。

 自分は、人見知りが激しいと、自覚しているだけに……。

「大丈夫、太一さんには内緒にしてあげるからね」

 続けて笑顔で言われた言葉に、一抹の不安を覚える。
 実の弟の気持ちを知っているから……。

「やだなぁ、心配しなくっても、大丈夫だよ。光子郎さんも、約束してくれてるからね」

 ニコニコと更に笑顔で言われた言葉に、複雑な表情になるのは、仕方ないだろう。
 ライバルと言ってもいい相手の名前を出されても、素直に認める事など出来ない。

「あっ!僕が監視役だから、ちゃんとナンパして見せてよ、兄さんvv」

 可愛らしい笑顔なのに、言っている事は悪魔のようなそれに、ヤマトはただ盛大なため息をつく。

「兄さんの好みの相手をナンパすればいいだけなんだよ。まぁ、成功するかどうかは、謎だけどね」

 簡単に伝えられるその言葉に、頭を抱えたくなる。

 いや、確かにこれは、ゲームに負けた事への罰ゲームだと言う事は、認めているのだ。
 確かに、遣りたくもないゲームだったが、負けは負けなのだ。
 だがしかし、何故、その罰ゲームがナンパかという事を、疑問に思っても許される事ではないだろうか?

「……分かった……ナンパした相手と、お茶をするだけでいいんだったな!」

 しかし、そんな事を疑問に思っても、相手が答えてくれるような人物達ではない。
 だから、早く終わらせる為にも、ヤマトは決められた内容を確認するように口に出す。

 そんな自分に、にっこりと悪魔の笑みが向けられて、相手が頷いた。
 そんな弟の姿に再度盛大なため息をついてから、ヤマトはゆっくりと顔を上げる。

 人通りの多いこの場所は、ナンパするには、最適な場所。

 ざっと、周りを見回して、重い足を一歩踏み出す。

「頑張ってね、兄さんvv」

 自分に手を振って応援するその言葉を後ろに受けながら、ヤマトは声を掛ける相手を物色し始める。
 タケルから少し離れた場所で、壁に凭れて回りの様子を伺う。

 自分が目立つ容姿を知っていると自覚しているからこそ、わざと目立たない場所で、しかも周りが良く見える場所を選んだ。
 勿論、先ほどから自分へと向けられている視線も感じている。
 それを完全に無視して、自分へと視線を向けていない人物を探すように目線だけで辺りを見回した。

 そして、一人の少女に視線が止まる。

 人を待っているのか、落ち着かなさ気に、そわそわとしている雰囲気と、そして、恥ずかしそうに頬を染めているその姿は、一際自分の興味を誘う。

「……今時、珍しい子だなぁ……」

 焦げ茶の肩までの伸びているストレートの髪。
 その髪の色が、自分にとって一番大切な人を思い出させる。
 そして、ふっと顔を上げたその少女の顔を見た瞬間、ヤマトは言葉を失った。

 それは、自分にとって大切な相手と同じ瞳をしていたから……。

「……太一?」

 そっと、その同じ瞳を持つ人物の名前が口からこぼれる。
 しかし、自分の目の前に居るその少女は、どう見ても女の子で、自分が考えた相手ではない。

「……でも……」

 頭では違うと分かっていても、その少女から視線が外せなくなってしまう。
 そして、自分が見守る中、その少女に二人組みの男達が近付いて行くのが目に入った。

「彼女、一人なの?」

 優しく声を掛けた男に、少女の肩が、怯えたように小さく震える。

「さっきから、ずっとそこに居るよね?もしかして、振られちゃった?」

 そして、もう一人の男が、からかうような口調で少女に問い掛けた。

「そんなところで、ずっと待ってないで、俺達と、遊びに行かない?」

『ナンパするなら、もっと言葉選べよ!』

 聞えてきたそ会話に、そんな事を考えて、ヤマトは盛大なため息をつく。

 こんなナンパに、今時の少女が魅力を感じる筈はないだろう。
 しかし、少女は、怯えているのか、何もしゃべらない。
 それを見ながら、ヤマトはゆっくりと壁から離れ、その少女の傍へと歩き出す。

「ごめん、待ったか?」

 そして、いかにも遅れて来た彼氏役を演じるように少女に笑顔を向けて手を上げた。

「ああ?」

 自分の声に二人の男が振り返る。
 それに、ヤマトはにっこりと笑顔を見せた。

「俺の彼女に何か、用?」

 笑顔を見せた後、きっと強い瞳で男達を睨みつける。

「か、彼氏付き?」
「そう言えよな……」

 自分の睨みつけと言うのは、迫力があると言う自覚がある。
 その効果は絶大で、男達はそのまま少女から離れていく。
 それを見送ってから、小さくため息をついて、いまだに俯いて顔を上げない少女へと視線を向けた。

「もう大丈夫だ。誰かと、待ち合わせしているんなら、あそこの喫茶店にでも入った方がいい。何なら、時間潰しに、付き合おうか?」

 怯えているだろう相手に、出来るだけ優しく声を掛ける。

 自分が声を掛けた瞬間、少女が驚いたように顔を上げた。
 そして、見詰めてくる大きな瞳。

『……本当に、太一そっくりだな……』

 真っ直ぐに自分を見詰めてくるその瞳に、ヤマトは内心そんな事を考えて、苦笑を零す。
 しかし、少女が困ったような表情をした瞬間、ヤマトは慌ててしまった。

「……俺、実は罰ゲームで、女の子をナンパしなくちゃいけなくって……その、お茶飲んでももらえると、助かるんだけど……」
「……罰ゲーム?」

 自分の説明に、少女が初めて口を開く。
 その声も、自分の大切な人を思い出させて、ヤマトは思わず苦笑を零した。

「そう…だから、向こうに見張りも居るから、変な事は絶対にしないって約束するし、喫茶店に入ってくれるだけでいいから……」

 このままこの少女と喫茶店に入れば、自分の罰ゲームは終わる。
 それに、この少女なら、一緒に居ても苦痛は感じないのだ。

 そう、人見知りする自分が……。

「……なら、助けてもらったお礼に、俺は、協力した方がいいのか?」

 くすくすと楽しそうに笑いながら、少女が口にしたその言葉に、ヤマトは一瞬首を傾げた。

 とても可愛らしい少女が、『俺』と言う言葉を使うのだろうか??

「あっ、えっと、出来れば、お願いしたいんだけど……」

 しかし、目の前で可愛らしく笑っている少女の姿に、自分の聞き間違いだろうと、慌てて返事を返した。
 勿論、にっこりと笑顔で、頷いてもらったそれに、思わずほっと胸を撫で下ろす。
 そして、後ろで、ずっと自分を見詰めているであろうタケルに向けて、ガッツポーズを向けた。
 それで、このナンパが成功した事は伝わるだろう。

「あ〜あ、ナンパ一発目から成功しちゃってるよ……しかも、あれって、一番卑怯な手だよねぇ……」

 少女と一緒に喫茶店へと入っていく兄の姿を見詰めながら、タケルは盛大なため息をつく。
 ナンパされていた少女を助けて、今度は自分がその少女と一緒に喫茶店へ。

「……やっぱり、顔がいいのって得だよね……」

 何時も奥手なくせに、こう言う時だけは要領のいい兄に、タケルは感心しながらも、呆れていた。

「……これじゃ、意味がないわ!」

 しかし、そんな自分の耳に、聞き覚えのある声が聞えてきて、タケルはその声の方へと視線を向ける。
 そこには、自分の兄であるヤマトと同い年の少女の姿。

「……空さん?えっ?あれ、それじゃ、もしかして!!」

 兄が声を掛けた少女は、自分が憧れている人に似ていた。それが意味するものを考えて頭を抱える。

「……これじゃ、罰ゲームにならないよ……」

 楽しそうに話している二人の姿を前に、タケルは盛大なため息をつく。

「……空さん……」

 そして、自分と同じようにその仲良しなカップルを見詰めている人物へと声を掛けた。

「あ、あら、タケルくん……」
「あれ、太一さんなんですね?」

 そして、自分を見て驚いている相手に、問い掛ける。
 勿論、当回しなどせず、そのまま……。

「…折角、罰ゲームで、太一にナンパされてもらうつもりだったのに……」
「……ナンパされてもらうって……太一さん、可愛いから、大変な事になるんじゃ……」
「そう、だから、ちゃんと条件付けたのよ。太一がこの人ならいいと想う人に頷きなさいって……」
「まぁ、ある意味、いいと想う人よね……」
「確かに、これ以上ないほどの相手よねぇ……」

 二人でそう言いながら、盛大なため息をつく。

「ヤマトくんは、太一に気が付いてないみたいね」
「……兄さん、鈍いですから……」

 呆れたように呟いて、そっと二人へと視線を戻す。
 楽しそうに話しているその姿に、タケルと空は、同時に苦笑を零した。

「……罰ゲームにならないわね」
「そうですね……」

 呟いて、もう一度ため息。
 それでも、二人が楽しそうに笑っているその姿は、自分達にとって、大切なものだから……。

「あ〜あ、ただのデートに協力したって訳ね、私達……」
「そうみたいだね……光子郎さんに、なんて説明しよう……」
「まぁ、ありのまま話すしかないんじゃないかしら……光子郎くんも、太一一筋だから、理由を話せば、納得してくれると想うわよ」
「……ですよね……」

 ナンパされていた太一を助けて、ヤマトがナンパしたそれ。
 だから、今嬉しそうに笑っている太一の姿に、それ以上文句など言えるはずもない。

「結局、あの人が幸せなら、仕方ないんですよね……」

 ポツリと呟いて、幸せそうな笑顔を見せている相手を見詰める。
 笑ってくれている事が、一番大切だから……。

「……兄さんには、こんな罰ゲーム考えた僕たちに感謝してもらわないとね」
「あら、それなら、私も罰ゲームに太一に女装させて、ナンパされるように言ったの、感謝してもらわないとだわ」

 にっこりとお互いに笑顔を見せ合う。
 そして、まだ、楽しそうに話をしている二人を後に、その場所をゆっくりと離れた。


 二人に向けて、メールを一つ送信してから……。


 



  はい、本当に、意味不明です。
  結局、何が書きたかったのか、分かりません。
  リクエスト内容は、『女装した太一さんに気が付かずヤマトさんが、ナンパする』だった筈…。
  ちゃ、ちゃんと、お答えしているんでしょうか??
  お待たせした上に、このような意味不明駄文になった事を、心からお詫びいたします。
  本当に、すみません、サクヤさん。(T-T)

  書き逃げですみませんが、68000GET&リクエスト、本当に有難うございました。