何時になったら、信じてもらえるんだ。
 こんなに真剣に想いを伝えているのに、爽やかな笑顔で返されるのは、明らかに自分の言っているモノへの返事ではない。

 『好きだ』と言えば、『俺も好きだぞ』と返される。

 それは、いともあっさりと。
 考える時間もなく、即答。

 嬉しい言葉のはずなのに、複雑な気持ちを隠せない。
 あいつの言うその『好き』は、俺の事を仲間として『好き』だと言っているのだ。

 俺が欲しい好きじゃない。

 なぁ、何時になったら俺の気持ちに気付いてくれるんだ?
 俺は、何時まででも待つつもりだけど、このままだと耐えられそうにないんだ。




「太一!」
「どうしたんだ、ヤマト?」

 何時ものように、今日の日課。
 なぁ、本当に何時になったら俺の気持ちに気付いてくれる?

「好きだ!」
「だから、俺も好きだぞ」

 ニッコリと笑顔で返ってきたその言葉に、ガックリと肩を落とす。

 通算何回目の失敗だ?何が駄目なんだ?
 ストレートに好きだと言っても伝わらないなら、どう言えばいいんだ!

「なぁ、毎日同じ事言うけど、何か意味あるのか?」

 ガックリと肩を落とした俺に、太一が不思議そうに質問してくる。

 意味ならある!俺の気持ちをちゃんと伝えたいだけなんだ。
 それなのに、その気持ちは今だに相手に伝わる事はない。

「うっ……」

 真っ直ぐに見詰めてくる太一の瞳に、俺は言葉を詰まらせて何時ものようにその場から走り去った。



「なぁ、一体ヤマトのヤツはどうしたいんだ?」

 何時ものように人の質問を全く無視して走り去って行った後姿を見送り、俺は自分の直ぐ傍に居た相手へと声を掛ける。

「本当に、毎日毎日いい加減に場所を選んで欲しいわよね……」
「まぁ、それがヤマトさんのいい所である訳ですから……内容に関しては誉められた事ではありませんけどね」

 俺の質問に、後ろに居た空と光子郎が呆れたように盛大なため息をつく。
 何時ものようにヤマトが来て、何時ものように『好きだ』と言うからそれに俺も返事を返したのに、この世の終わりのように肩を落とされた挙句、逃げ去られた俺としては、どうして良いのか分からない。

 だって、俺もヤマトの事が好きだから。
 勿論、空や光子郎。丈にミミちゃん、ヒカリにタケル。

 みんな大好きだけど……。

「何が気に入らないんだよ!」

 思わず考えた事に文句を言っても許されるだろう。
 だって、好きだと返したのに、何であんな反応を返されなきゃいけねぇんだ!
 普通あんな反応返された場合、傷付くのは俺の方じゃねぇのかよ?!

「こっちも、毎度の事ながら進歩ないわよね」
「……まぁ、それは太一さんですから、仕方ありませんよ」

 俺の文句の言葉に、こっちも何時ものように会話が続く。
 だけど、言われている意味が良く分からない。
 進歩?何の進歩だよ!大体、俺だから仕方ねぇって、誉めてねぇぞ、光子郎!!

「お前等、こそこそ何話してんだよ!内容聞えてだから、俺にも分かるように話せ!!」
「う〜ん、こればっかりは、私達が説明しても仕方ないのよ。太一が自分で理解しなきゃ駄目なの」
「ええ、僕達が何を言っても意味がありません。ヤマトさんもそれを望んでいるとは思えませんので……」

 八つ当たりのように二人に言えば、困ったような表情でそんな言葉が返ってくる。
 そんな風に言われたら、俺もそれ以上何も言う事は出来なくって、盛大なため息を一つついた。





 分かっていた事。
 ただ、何時か分かってもらえれば良いなぁと思って、そんな些細な夢を見ていた。
 だけど、今だに自分の夢は叶えられそうにはない。

「嫌われていないだけ、救いなのか……それとも、友達としか見られてない事を嘆けばいいのか……」

 兎に角、複雑な気持ちは隠せない。
 美味く告白できない自分が悪いのか、それとも自分の気持ちを分かってくれない相手が悪いのか……。
 何時になったら、自分の気持ちが相手に伝わるのだろうか。
 遠くで聞えるチャイムの音を聞きながら、盛大なため息を止められない。



 石田ヤマトの告白は、お台場中学校の恒例行事となっていた。
 生徒達の登校時間に合わせた告白なのだから、目立つなと言う方が無理な話かも知れないが、相手に自分の気持ちを分かってもらおうと必死な人物には、そんな事など気になるはずもない。

 そして、ヤマトが八神太一に振られ続けている事も、周知の事実。

 もっとも、それはあまりにも気の毒な返事なだけに、誰もが同情せずにはいられない。
 いや、振られている訳ではないと言えば、ないのかもしれない。

 好きだと言って、好きだと返してもらえるのは、上手くいったと言っても間違いではないかもしれない。
 それが、爽やかな笑顔で言われたりしなければ、喜んでもいいだろう。

 必死で言ったその言葉に、ニッコリと笑顔で『俺も好きだぜ』と返されたら、幸せを実感できるかもしれない。
 しかし、その後に、その人物が他の人の名前を挙げたりしなければ、両想いだと素直に喜べただろう。
 素直に喜べないのは、明らかに自分が好きだと言うその言葉と、相手の好きの意味が違うから……。

 これを元に、石田ヤマトに恋心を抱いていた少女達は、断念せざるおえなくなった。
 ヤマトの想い人が、この学校で同じように人気の高い相手。
 そう、相手が男だとしても、惚れてしまう理由が分からない相手ではない人物。
 女は勿論の事、男からも絶大な人気を誇る相手が、石田ヤマトの想い人。

「い、石田くん」

 だからこそ、その恋の行方を誰もが固唾を飲んで見守っているのだ。
 ヤマトが毎朝のように訪れるようになった裏庭で、盛大なため息をついた瞬間名前を呼ばれて、振り返る。

「何?」

 そこに立っていたのは、一人の少女。
 その相手に、冷たいとも取れる口調で問い掛ける。
 実際機嫌が悪いのは本当なので、相手に優しくなど出来ないのは、許してもらいたい。

「……ご、ごめんなさい……でも、どうしても、石田くんに、伝えたい事があって………私、親の仕事の都合で転校する事になったから、その前にどうしても、石田くんに私の気持ちを知ってもらいたくって……」

 俯きながらも必死でそう言った少女に、ヤマトは小さくため息をつく。

「……もう直ぐ授業始まるから、早くしてくれ」
「あっ、ご、ごめんなさい……」

 そんな必死な様子を見せる相手を前に、ヤマトは興味ないと言うように先を促した。
 それに、慌てて少女が謝罪する。

「い、石田くんが誰を好きなのかを知っているのに、こんな事言うの間違っているって分かっているんだけど……。でも、私、ずっと石田くんの事が好きだったから……だから、最後に言いたくって……ごめんなさい。石田くんの想いが、ちゃんと相手に伝わる事を、祈ってるから」

 言いたい事だけを伝えて、少女はそのまま走り去っていく。
 その姿を見送りながら、ヤマトはもう一度ため息をついた。
 彼女の気持ちは有難いが、だからと言って優しくなんて出来ない。
 彼女に優しくしてしまうのは、余計に残酷だと、そう思えるから……。

「……振られる辛さは、誰よりも分かってるんだけどな……」




 その場面を見たのは本当に偶然だった。
 何時ものように直ぐに戻ってくるだろうと思っていたヤマトが戻ってこないので、空に呼んで来いと言われたのが原因。

 ヤマトが、女の子から告白されているのを見たのはそんな理由から……。
 だから、声を掛けられなかったのも、きっとその雰囲気の所為だと思う……。

 しかし、その女の子が去った後も、自分は声を掛ける事が出来なかった。

 その原因は、胸に感じた痛み。
 それがどうしてなのか、自分には分からない。

「太一?」

 だから、呆然と立っていた自分に不思議そうに声が掛けられて漸く意識を取り戻す事になった。

「気分でも悪いのか?顔色が悪……」

 心配そうに声を掛けてきたヤマトの手が、そっと自分に伸ばされてくる。
 その瞬間、カッと顔が熱くなるのが自分でも分かり、慌ててその手を避けた。

「な、何でもない!授業始まるから、戻るぞ!!」

 その手を慌てて避けてそのまま踵を返し、バタバタと大きな足音を残して教室へと走る。

 手の行き場に困っているヤマトを置き去りにして……。

 ただ自分を支配したのは、顔の熱と心臓の音。
 走った事による心臓の音ではなく、ヤマトに手を伸ばされた事によって、その音がまるで全速力で走ったような鼓動を伝える。

「太一?」

 教室に入って、扉を閉めた瞬間、その場に座り込む。
 突然のその行動に、空が心配そうに自分を覗き込んでくる。

「あんた、顔が真っ赤よ。一体どうしたの?」
「……俺、どうしちまったんだろう……」

 心配そうに訪ねてきたその言葉に、自分の気持ちが分からない太一はそれだけを返すのが精一杯だった。

 分からない胸の鼓動。

 そして、熱くなる顔。

「俺ってば、本当にどうなって……」
「太一!」

 自分でも分からないそれに、必死で考え込んでいた中、閉めていた扉が開いて名前を呼ばれる。
 それだけで、また早くなる鼓動。

「お前なぁ、一人で先に………」
「な、な、何でもない!!」

 自分でも意味が分からない言葉だと思うのだが、意味不明な事を返して開いた扉を勢い良く閉める。
 突然の太一の行動に、まだ教室に入っていなかったヤマトは、無常にも締め出されてしまった。
 しかも、下手をすればドアに挟まれる所だったのだ。

「太一、お前なぁ!」

 この時ほどヤマトは自分の反射神経の良さを感謝した事はないだろう。
 それだけ、太一の行動は意味不明で予測できなかったのだ。

「……何でもねぇって言ってるだろう!!」

 文句を言おうとドアを開こうとするが、内から抑えているのか、開かない。
 その攻防は、チャイムが鳴って教師が教室へと来るまで続けられた。

 突然の太一の豹変に、誰もが驚きを隠せない。
 明らかに、ヤマトを意識した態度は、誰もが予想だにしていなかった突然の出来事。
 しかし、肝心のヤマトは朝の告白さえ聞かずに自分の事を避ける太一の態度に、理由が分からずに嫌われたと落ち込んでいる始末。


 そんな明らかに両想いである彼らの恋が成就するのは、一体何時の事だろうか。

 それは、誰にも分からない。
 だけど、そう遠くない未来には、周りをも巻き込む程のバカップルが出来上がる事だけは、簡単に想像できる事だろう。


 

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 白炎さま、本当にお待たせいたしました!!
 そして、意味不明な乱文になって本当にすみません。
 自分で書いていて思いました。
 意味不明……xx
 しかも、何時の時代の少女漫画ネタだよと自分に突っ込みを入れております。
 こんなモノでも少しでも気に入っていただければいいのですが、無理な注文ですね。
 また余裕がある時に手直しするように頑張ります。
 本当に、駄目駄目ですみませんでした。