少年は、目の前の楽しそうな姿に、悩んでいた。
勿論、お祭り事態が楽しくないと言うわけではない。
自分だって、お祭りはやっぱり好きだし、楽しいと思う。
思うのに、やっぱりどうしても納得できないものがあるのだ。
お祭りと言うものは、友達やカップルで楽しむモノだと思う。
あっ!勿論、親子でだって、楽しいだろう。
だけど、何が悲しくって、10人と言う人数でお祭りに来なくては行けないのかと、少しだけ文句を言っても、許してもらえるだろうか?
大体、今年こそは、目当ての人と二人きりで行きたいと考えていたのに、その自分の考えを壊してくれたのは、そのお目当ての人からの無残な言葉であった事を忘れたくても、忘れられない。
「太一先輩vv」
フッと目が合った瞬間、ニッコリと可愛い笑顔を見せてくれる大輔に、太一は思わず笑顔を返してから、盛大なため息をつく。
「お兄ちゃん、気分でも悪いの?」
そして、心配気に声を掛けられた事で、太一は慌てて首を振って返した。
「ああ?オレは、元気だぜ」
自分の隣に居る妹に、笑顔を見せれば、相手は安心したようにホッと胸を撫で下ろした。
その姿は、夏祭り用にと、母親に着せられたオレンジ色の浴衣姿で、兄から見ても十分に可愛い。
「良かったvvお兄ちゃん、元気無いみたいだから、心配しちゃった…」
嬉しそうにニコニコと笑っているヒカリに、太一はもう一度笑顔を返す。
「太一先輩、元気ないんですか?!」
「お前なぁ…ちゃんと、会話聞いてたか、大輔!」
そんな自分達の会話に、驚いたように言われた大輔の言葉を、太一が少し呆れたように返す。
「えっ、聞いてましたけど……xx」
「だったら、同じ事言わせるなよ……」
苦笑を零しながら、大輔の頭を軽く叩く。
そして、もう一度だけ苦笑を零すと、小さくため息をついた。
人ごみの中、10人もの人数だと、どうしても何人かのグループに分かれてしまうのは、仕方ないかもしれないが、今だけはこのメンバーに分かれた事を少しばかり恨みたくなってしまう。
今のメンバーの分かれ方は、太一と大輔、そしてタケルとヒカリの4人。
目の前に行くのは、光子郎と京に空。
更にその前には、丈が伊織と楽しそうに会話をしている。
そして、何故かヤマトがその隣を歩いていると言う状態。
『オレも、あそこに行きたい……xx』
そんな事を思っても、この人ごみの状態では、前に進んで行くのは、無理な状態である。
今、4人で居るこの状態も、十分大変な現状なのだ、誰かが迷子になったとしても可笑しくは無いだろう。
そこまで考えて、太一は再度ため息をついた。
小学生だけにして、迷子にでもさせたりしたら、きっと自分は自分の事を許せないだろう。
「太一さん!」
そして、自分の考えに入り込んでいた太一は、突然声を掛けられて、驚いたように顔を上げる。
「えっ?タケル…?どうかしたのか?」
「いえ、大した事じゃないんですけど、ボーっとしてると危ないですよ」
「えっ?…あっ!…そうだよなぁ……悪い、タケル……」
自分がボーっとしていたばかりに、もう少しで木にぶつかりそうになっていたのを、タケルが引き止めてくれた事に申し訳なさそうに頭を下げる。
「ボクは良いんですけど、太一さんが怪我をするのは、イヤだから……」
「悪い……」
心配そうに言われたその言葉にもう一度だけ誤ると、太一は再度ため息をつく。
「お兄ちゃん!!」
そして、自分で反省をしている中、突然大きな声でそう呼ばれて驚いて視線をそちらに向ける。
「なんだよ、ヒカリ?」
「私達、行きたい所があるから、お兄ちゃんとは別行動にするね」
「はぁ?」
突然言われたその内容に、思わず話が見えなくって、太一は素直に首をかしげた。
だが、そんな太一の様子を全く気にする様子も無く、ヒカリは更に話を進めて行く。
「○時に、出入り口の鳥居で待ち合わせしよう!!空さん達にも、メールで知らせておくから!」
「おい、ちょっと、ヒカリ……」
「じゃ、お兄ちゃん、また後でね!!」
捲し立てるように言われたそれに、慌ててヒカリを呼びとめようとするが、当の本人は、タケルと大輔を連れて、慌てたように人ごみの中へとまぎれてしまう。
「ヒカリちゃん、いいの?」
強引にヒカリに手を繋がれている状態のタケルが、心配そうにヒカリに言ったその言葉に、聞かれた人物は、少しだけ寂しそうな笑顔を見せた。
「……だって、私じゃ、お兄ちゃんを笑顔に出来ないんだもん……」
泣き笑うような笑顔を見せるヒカリに、タケルが困ったような笑顔を見せる。
「ヒカリちゃん……」
「それにね、あんなお兄ちゃんが見たいわけじゃないから……ごめんね…タケルくんだって、お兄ちゃんの事……」
困ったように言われたそれに、タケルは頷いて返した。
「ボクだって、ヒカリちゃんと同じ気持ちだよ。まっ、今の状態で、一番可愛そうなのは、大輔くんかなぁ?」
そして、自分たちに無理やり付き合わされた大輔に、チラリと視線を向けて、タケルも苦笑を零してしまう。
太一の事が大好きだというのが、一発で分かる人物は、今その相手から離されてしまって、少しだけ不機嫌そうにしている事に、タケルとヒカリはもう一度だけ苦笑を零した。
「……たく、突然何なんだ、ヒカリの奴・……」
一人だけ取り残された状態で、太一は盛大にため息をついて見せる。
訳が分からないままで、置き去りにされたのだから、太一としては納得できないのであろう。
「……まっ、でも子供は子供同士で、したい事でもあるんだろうなぁ……でも、オレ一人でどうすっかなぁ……」
本当なら、一緒に居たいと思う人物は居る。
だけど、相手は別な人と一緒に行動している事を思い出して、太一は再度ため息をついた。
「……あいつ探すのって難しいよなぁ……」
自分で呟いた事に再度ため息をつくと、太一はどうしたものかと考えをめぐらせる。
ヒカリ達が言っていた時間までは、まだ十分な時間がある事を確認してから、太一は仕方なく歩き出す。
「……兎に角、歩くか……xx」
ジッと立って居るのが、他の人達の邪魔になると言う事に気が付くと、太一はゆっくりと歩き出した。
別段目的は無いのだが、今はただこの人ごみの中から離れたいと思ったのだ。
そして、落ち着いてゆっくりと考えたいと思ったからかもしれない。
少しだけ歩けば、漸く人が居ない場所を見つけて、太一はゆっくりとその場所に腰を下ろす。
賑やかな場所が近いので、人の声は聞こえるが、この場所は賑わっている場所から少し離れていると言う事もあって、当然のように人影は無い。
薄暗いその場所で、太一はもう何度もついているため息を再度つくと、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……ヤマトの、バカ野郎……」
「誰が、バカだって?」
そして、ポツリと呟いたその言葉に、後ろから声が返って着た事で、太一は驚いて振り返る。
「ヤ、ヤマト!!」
「探したぞ。たく、どっちがバカなんだ?ヒカリちゃんからメールで、集合場所とか聞いたから、ずっと探してたんだぞ……」
少しだけ呆れたように言われたその言葉に、太一は信じられないと言うようにヤマトの事を見詰めてしまう。
「何、変な顔してるんだよ、太一」
自分のことを見詰めて来る相手に、苦笑を零してヤマトはその頭にポンッと手を置いた。
「……ヤマト、丈や伊織と一緒だったんじゃ……」
「ああ、一緒だったな」
自分の言葉にあっさりと返って来たそれに、太一は困ったような表情でヤマトを見詰める。
「……それじゃ、何でここに……」
「何でって、太一ずっと俺の事見ていただろう。だから、探してたんだよ」
「なっ……」
ヤマトに言われたその言葉で、太一はカッと顔が赤くなるのを感じた。
ずっとヤマトの事を見ていた自分に気が付いていたなんて思っていなかったので、どう言えば良いのか直ぐには分からない。
「俺に、言いたい事があるんだろう?」
しかも、当然のように言われたその言葉が更に太一を混乱させた。
「なっ、何で…そう思うんだよ……」
「お前は、単純だからな」
聞き返した言葉に、少しだけ呆れたように返されたそれが、自分の事をバカにしているように聞こえる。
「……単純で、悪かったなぁ!」
返されたそれに、拗ねたようにそっぽを向けば、笑い声が聞こえてきた。
それを耳にして、太一はますます不機嫌になってしまうのは止められない。
「まぁまぁ、機嫌直せよ」
笑いながら自分の機嫌を宥めようとするヤマトに、太一は不機嫌をそのままに相手を睨みつけた。
「んじゃ、話し聞いてやらないからな」
「えっ?ヤマト!!」
不機嫌そのままに睨みつけた自分に、ヤマトは少しだけ呆れたように踵を返す。
突然、自分から離れて行こうとする相手に、太一は驚いて、慌ててその腕を掴む。
「・・…話す気になったか?」
「えっ?」
腕を掴んだのと同時に、顔だけを自分に向けて尋ねられたその言葉に、太一は驚いて顔を上げた。
「早く、話さないと、約束の時間になっちまうぞ」
「……ヤマト……」
呆れたようにため息をつきながら、ヤマトが自分の事を見詰めて来るのに、太一の顔が無意識に赤くなる。
そして、目で促されるままに、太一はシドロモドロの口調で、漸く口を開く。
「……時間って…確かにそうだけど……俺、ずっと…えっと……う〜っ、やっぱり、言えねぇよぉ〜xx」
真っ直ぐに見詰めて来る視線を受け止めていられなくって、太一は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そんな太一を前に、ヤマトは盛大なため息をついた。
「……お前が言うの待つつもりだったのになぁ……」
もう一度だけ盛大なため息をついて、ヤマトは額に手を当てると疲れたように息を吐き出して、真っ直ぐに太一を見詰める。
「……ヤマト?」
ヤマトの言葉の意味が分からずに、太一はきょとんとした表情でヤマトの視線を受け止めた。
そんな太一に、ヤマトは苦笑を零す。
そして、苦笑を零しながら、ゆっくりとした口調で問い掛けた。
「俺の事、好きなんだろう?」
言われたその言葉に、太一の顔が一瞬で耳まで真っ赤に染まる。
「なっ、何、何で……」
真っ赤になって焦る太一の姿に、ヤマトはもう一度苦笑を零す。
「言っただろう、お前は単純だって」
「お、お前、ずっと、俺の気持ち、知ってたのか?」
真っ赤になった顔をそのままに、太一が聞いてきたそれに、ヤマトは笑顔で答える。
自分の言葉で返された笑顔に、太一は何も言えずに思わず見惚れてしまった。
「太一、俺がお前の気持ちに気が付いたのは、こう言う事だ」
「えっ?」
ヤマトの笑顔に見惚れていたため、突然の事に全く動く事が出来ない。
行き成り肩を掴まれたかと思うと、そのままゆっくりとヤマトの綺麗な顔が近付いてきた。
驚いている自分を完全に無視して、そのままヤマトの唇が自分のそこに重なったのを感じた瞬間、太一は慌てて両目をギュッと瞑る。
自分の唇に感じる温もりに、体中の体温が上昇するのを感じて、太一は頭がクラクラするのを感じた。
時間にすれば、ほんの数秒と言うその時間が、やけに長く感じられる。
「分かったか。これが、俺の気持ちだ」
「……ヤ、ヤマト……」
ゆっくりと自分から離れたヤマトが、少しだけ照れたように言ったその言葉に、潤んだ瞳で見詰めてしまうのは、初めてのキスの所為かもしれない。
「……だから、お前の気持ちにも気が付いた。もっとも、自惚れだったらどうしようかとも思ったけどな……」
「ヤマト、サンキュー」
照れていると分かるヤマトに、太一も照れたように俯いたまま礼を言う。
「えっ?」
突然礼を言われて、意味が分からないヤマトは、不思議そうに太一を見詰めた。
「……俺の気持ちに、気が付いてくれて……俺、勇気が無かったからさぁ、お前に言ってもらえて、すげー嬉しかった。だから、俺から、改めて言うな……・ヤマト…俺、ヤマトの事、好きだ……」
「太一……」
ニッコリと顔を上げてのその告白に、ヤマトは嬉しそうに笑顔を返す。
そして、もう一度ゆっくりと太一を抱き締めると、その耳元にそっと顔を近付ける。
「……俺も、お前が好きだ……」
囁きかけるように耳元で言われたその言葉に、少しだけ頬を赤くして、嬉しそうに笑顔を見せる太一の姿に、ヤマトも笑顔を返した。
遠くで聞こえる賑やかの声も、今だけはまったく気にならない。
そして、ヤマトはもう一度、ゆっくりと太一にキスをする。
太一も、瞳を閉じて、そんなヤマトを素直に受け止めた。
「やっぱり、悔しい……」
「ヒカリちゃん?」
カキ氷を片手に呟かれたその言葉に、タケルが心配そうに声を掛ける。
「……お兄ちゃんを誰かに取られるの…悔しいよね……」
苦笑するように言われたそれは、ヒカリの本心の言葉。
「でもね、ヤマトさんが、お兄ちゃんの事泣かすようなら、私絶対に、ヤマトさんの事、許さないから!!」
「うん、そうだね。ボクも、お兄ちゃんの事、許せないと思うよ。……だから、そんな事した時は、二人でお兄ちゃんにちゃんと報復するべきだと思うんだvv」
力を込めて言われたヒカリの言葉に、タケルがニッコリに笑顔のままで言葉を返す。
清らかな笑顔を見せているのに、言っている事が全くそうでない事に、聞いている者は思わず苦笑を零してしまうだろう。
だが、そこは流石と言うべきか、やはり内心で同じことを考えているだけに、ヒカリもニッコリと可愛らしい笑顔を見せる。
「うん、その時は、タケルくんも協力してねvv」
「勿論だよ、ヒカリちゃんvv」
傍から見ている分には、可愛いカップルといったところだろうが、その会話を聞いている者は、思わずヤマトに同情したくなるものであろう。
そんな二人の後ろに居た大輔は、思わず聞いてしまった話にショックを受けたが、それ以上に思わずヤマト同情してしまったのは、情け以外の何物でもない。
目の前の二人だけは、敵に回すまいと思ったかどうかは、本人だけにしか分からないだろう。
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3500HIT、とら 様からのリクエスト。
リクエスト内容は、「太一がヤマトに告白するけど、ヤマトは太一の気持ちに気づいてた」だった
筈なのですが、ヤマトが我慢しきれず、こう言う話になってしまいました。<苦笑>
またしても、リクエスト失敗です・・…xx
何時になったら、リクエスト通りのお話、書けるんでしょう……
う〜ん、日々精進しなくてはですね(笑)
とら 様、本当にリクエスト有難うございますね。
リクエストに余り答えておりませんが、少しでも気に入っていただけると幸いでございます。
3500GETありがとうでしたvv