白息を吐きながら、太一は冷たくなった手を擦る。
約束の時間は既に過ぎていると言うのに、相手は今だ現れない。
寒い中、待たされ続けている事に、流石に我慢の限界と言うところだろうか……。
「太一さん!」
何度目かもう数える気も起きなくなったため息をついた時、名前を呼ばれて、太一は顔を上げる。
「タケル?」
自分に嬉しそうに手を振って居る相手を見つけて、太一は驚いたように首を傾げた。
「太一さん、こんな寒いところで何してるんですか?」
自分の傍まで走り寄って来た相手が、嬉しそうな笑顔を見せながら尋ねてきたそれに、思わず苦笑を零してしまうのは止められない。
「……待ち合わせなんだよ……ここで……」
「こんな寒い所でですか?」
盛大なため息と共に言われた事に、驚いたようにタケルが口を開く。
確かに、この寒空の下では、普通なら待ち合わせはしないだろう。
「……直ぐに来ると思ったんだよ……なのに、自分から呼び出しておいて、あいつは来ないし……」
呆れたように言われたそれに、太一が再度ため息をつく。
そして、言っても仕方ないと思っても、やっぱり文句を言ってしまうのは止められない。
「あいつって、もしかして、お兄ちゃんですか?」
それ以外に考えられない事を、思わず聞いてしまう。
返事なんて聞かなくっても分っているのに……。
自分の問い掛けに、一瞬だけ太一が苦笑を零す。
そんな表情だって、大好き。
「……あいつが遅れてくるのは、珍しいんだけどな。でも、流石にこの寒空で待たされるのは、辛いぜ」
自分の言葉に対しての答えじゃないけれど、そう言って笑う。
そんな太一を前に、タケルは少しだけ怒ったような表情を見せた。
「太一さんを待たせるなんて、お兄ちゃんが悪いに決まってるよ!」
「……おいおい、あいつだって、好きで遅れてくるんじゃないと思うぞ……」
ヤマトに対して怒っているタケルを前に、太一は思わず苦笑を零す。
大事にしている弟にこんな事を言われては、流石にヤマトが可愛そうだろう。
「太一さんを独り占めしてるお兄ちゃんが悪いんです!」
「……俺を独り占めって……なんか違うような気がするぞ……」
理不尽な怒りを感じているタケルに、太一は困ったようにため息をつく。
勿論、タケルの気持ちを知らないのだから、何で怒っているのか分らないのは仕方ないだろう。
「ボクの気持ちなんて、知らないんだ……」
「タケル」
今にも泣き出してしまいそうな相手に、太一が慌ててしまう。
自分が、年下に弱いと言う事を再度思い知らされてしまった気分だ。
「えっと、そのな……タケルだって、俺にとっては大切なんだから、そんな顔しないでくれよ」
困ったように言われたその言葉に、タケルは悲しそうな表情を見せる。
それだって、自分がヤマトの弟だから大切なのだと言われているような機がするのだ。
自分の気持ちを知らない鈍い相手に、タケルは小さく息を吐き出した。
「……ボクは、太一さんの事、一番大切なんです」
「…タケル……」
すっと顔を上げて自分の事を見上げてくるその瞳が余りにも真剣だから、太一は名前を呼ぶ事しか出来ない。
真剣に言ってくれるからこそ、その気持ちにきちんと答えるのが、礼儀と言うものである。
「……俺は……」
だが、直ぐに言葉が出てくるほど、太一も大人ではなかった。
困ったように、タケルから視線を逸らす。
そんな太一に、タケルは再度ため息をつく。
困らせたい訳じゃないのだ。
太一には、何時だって笑ってもらいたいと思っている。
それも、自分にとっては本当の気持ち。
「……困らせたい訳じゃないんです……ただ、ボクの気持ちを知っていて欲しかったから……」
苦笑を零すように呟いて、タケルはそこで言葉を切った。
「タケル……俺は…」
そんなタケルに何かを言わなくてはと、口を開いた太一に、タケルはニッコリと笑顔を見せる。
「太一さんの気持ちは知ってます。お兄ちゃんの事が好きだって事……でも、ボクも諦めませんから」
「…タケル…」
「それじゃ、お兄ちゃんも来たみたいだから、邪魔者は去りますね。でも、ボクの気持ち忘れないで下さい」
「えっ、おい!」
笑顔を見せたまま言われたその言葉と同時に、タケルが走り去っていく。
慌てて呼び止めるが、そのまま走って行ってしまう後姿を太一は深いため息とともに見送った。
「遅くなって、悪かった」
急いで来たのだろう、肩で息をしているヤマトを前に、太一は複雑な表情をして見せる。
「さっきのって、タケルだろう。別に、逃げなくってもいいのになぁ……」
そして、何気に聞かれたその言葉に、太一は盛大なため息をついた。
「……お前って、気楽でいいよなぁ……」
一人分っていないヤマトに対して、太一は苦笑を零しながら呆れたような視線を向ける。
「気楽って…何の話なんだ?」
「……お前ら兄弟って、やっぱり似てるって言う話だよ」
「はぁ?」
意味の分からない事を言われて、ヤマトが首をかしげて自分の事を見詰めてくるのに、太一は苦笑を零して見せた。
大切だと言ってくれた少年が居る。
そして、その言葉は、目の前の人物からも言われた言葉。
「なぁ、ヤマト…自分の告白の台詞覚えてるか?」
何気なくヤマトに笑いかけると、尋ねたその言葉で、ヤマトの顔が一瞬赤くなる。
「……覚えてるに決まってるだろう…」
赤くなって答えるその姿に、太一は笑顔を見せた。
『俺は、お前が一番大切なんだ!』
そう言われたのは、まだ記憶に新しい。
真剣な瞳で言われて、自分なりに考えて、それから頷いた。
この場所が、自分にとって一番安心できる場所だと知っていたから……。
「太一?」
「……暫く、黙ってろ…遅れてきた罰だからな……」
そっとヤマトの肩に額を預けるようにして、大切な場所を確認する。
何時だって、自分を安心させるのは、この人しか居ない。
それは、他の誰でもないのだ。
「……ごめんな…」
ポツリと呟かれたその言葉に、ヤマトは思わず苦笑を零す。
「…それは、俺の台詞だろう……、待たせて悪かった…タケルと何かあったのか?」
「お前、兄貴の立場、弱いんじゃないのか?」
「はぁ?」
「何でもねぇって……で、用事は?」
「あっ、えっと……今日親父が居ないから、泊まりに来ないか?」
「……俺は、それだけの理由で1時間もこの場所で待たされたのか……」
言い難そうに言われたその言葉に、太一は疲れたようにその場に座り込む。
それだけなら、『ウチに来てくれ』の言葉だけで十分である。
こんな寒空の下で待たされるような内容では、まずないだろう。
しかも、そのお陰で、タケルから告白までされてしまったのだ、思わずヤマトを恨んでしまっても仕方ない事である。
「……そんな事なら、家の方に呼べよ!」
「…いや、その買い物でも一緒にしようかと思って……」
「……そっか、買い物ね……ヤマト!今日は、ステーキ食わせてもらうからな!人を待たせた罰だ、文句ないよな!!」
きっとにらみつけながら言われたその言葉に、ヤマトが逆らえなかったのは言うまでもないだろう。
そして、今日の石田家の夕食がステーキになったのは、言うまでもない事実である。

明けまして、おめでとうございます。
そして、年明け早々に意味不明な小説ですみません(><)
ちょっと、ヤマ太←タケルが書きたくなってしまいまして……xx
こんな小説書いてないで、貯まってリクエストを書かなくってはなのですが…xx
本当は、ちゃんとリクエストを書こうと思っていたんですけど、何か、気が付くと話がずれてこうなってしまいました<苦笑>
こんなサイトなのですが、今年もどうかよろしくお願いいたします。
今年も、ヤマ太で頑張りますね。
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