のんびりとした時間。
 近くに感じられるその存在に、ほっとする。
 そんな事、相手にはきっと言えないけれど、それは真実だから……。
 だからこそ、この時間が、一番安心できるのだ。



「ヤマト……」

 ずっと、音楽雑誌を見ているヤマトの名前を口に出す。
 まるで自分の存在を忘れているかのように、熱中しているから、思わずその本に嫉妬したくなってしまう。

「何だよ…」

 雑誌からは視線を逸らさずに、短い返事。
 それが、ますます面白くない。

「暇!」

 だから、今の自分の気持ちをそのまま口に出す。
 折角一緒に居られるのに、自分を無視して雑誌を読むなんて、これでは一緒に居る意味がない。

「暇って……お前もさっきまで雑誌読んでたんだろう?」

 漸く雑誌から視線を外して、自分に視線を向けたヤマトの言葉。
 確かに、俺もさっきまではサッカー雑誌を見ていた。

 それは否定しない。

 だけど、それだってヤマトが相手をしてくれないから、時間つぶしをしていただけなのだ。
 だから、雑誌なんてとっくの昔に脇に置かれている。

「……もう読んだ」

 ポツリと呟いて、じっとヤマトを見詰めれば、少しだけ呆れたような視線が向けられてしまう。

「だったら、その辺の奴勝手に読んでいいぞ」

 そして、ため息と共に言われたそれに、俺は大きく首を振る。

「……雑誌なんて、もう読むな」
「読むなって……俺は、これを先輩から借りてるんだぞ!早く読んで、返さないといけないんだよ」
「雑誌なんて、何時だって読めるだろう!俺は、暇なの!!」

 すっとヤマトが持っている雑誌を取り上げて、腕の中に抱え込む。
 自分でも子供みたいな事をしていると分かっていても、折角一緒に居るのに、存在を無視されるのは悲しいから……。

「お前なぁ……中二にもなって、ガキみたいな事するなよ……」

 自分が考えていた事を呆れたように言われて、俺は不機嫌そのままにヤマトを睨み付けた。

「……どうせガキだよ……」

 頬を膨らませてそっぽを向く。こんな所が、ガキだと言われるのかもしれない。

 って、中二って十分ガキじゃんか!

「太一、返せよ」
「ヤダ!」

 すっと手を出すヤマトに、俺は舌を出して本を強く抱え込む。

「お前なぁ……」

 俺の反応に、ヤマトが疲れたようにため息をつく。

「ヤダったらヤダからな!」

 少しだけ上目使いになる視線を向けて、俺はヤマトを見詰める。
 だって、相手にしてもらえないのは、いやだから……。 

 そんな俺の態度に、ヤマトは呆れたようなそれでいてなんて言うのか分からない表情で笑った。

「ヤマト?」

 突然不思議な笑みを浮かべたヤマトに、俺は不安を募らせて、思わずそっとその顔をちゃんと見ようと一歩近付いてみる。
 もしかして、怒らせてしまったのかと、ちょっとだけ心配になってしまう。

 だから、気が付かなかった、自分に伸ばされていたその手に……。

 一歩近付いた瞬間、ヤマトが顔を上げて、笑みを見せる、先ほどの笑顔と違って、何処か挑発的な笑み。
 思わず見惚れてしまうくらいのその笑みも、既に曲者だった。
 ヤマトに見惚れていた俺は、その顔が自分に近付いて来るのを前にして、思わずぎゅっと瞳を閉じる。
 そして、その瞬間、唇に暖かいモノが一瞬だけ触れて来た。

「返してもらったからな」

 一瞬の出来事。
 瞳を開いた瞬間、勝ち誇ったように俺から雑誌を取り戻したヤマトの笑顔がある。

「あっ!!」

 楽しそうに笑っているヤマトを前に、俺は漸くからかわれたという事に気が付いた。
 触れるだけのキスも、あの笑みも全てヤマトの計算だったのだ。

「……ずるい……」

 ポツリと文句を言っても、もう既に後の祭り状態。折角取り上げた雑誌は、既にヤマトの手に戻ってしまっているのだから……。

「もう、読まないから、心配するなよ」

 盛大なため息をついた瞬間、雑誌を机の上に置きながら言われたその言葉に、俺は驚いてヤマトに視線を向けた。

「悪かった……」
「ヤマト?」
「別に無視してた訳じゃないからな。お前と一緒に居る時は、安心できるから……」

 少しだけ照れたように言われた言葉に、俺は嬉しくなって笑みを見せる。
 だって、俺がそう思ってて欲しいと思った事を、ヤマトが言ってくれたから…。

「ヤマトvv」
「何だよ…」
「……好きだぜvv」

 こんな時は、素直になれる。
 だって、一番欲しい言葉をくれる人が目の前に居るから……。

 空気になりたい。
 ずっと一緒に居て、当たり前だと思えるそんな存在になりたい。

「…知ってる……俺も、好きだって事、知ってたか?」

 自分の言葉に笑顔で返されたそれに、満面の笑みで大きく頷いて返す。
 こんな時、本当に好きだって心から思える。一緒に居て安らげる場所。
 それは、俺にとってこの場所だから……。

「…勿論、当たり前だろうvv」

 だから、優しく自分の事を抱き寄せてくれるこの腕でも、好き。
 そして、綺麗な笑みを見せるその顔が好き。

「…太一……」

 自分の名前を呼んでくれるこの声が、好き。
 触れるだけの優しいキスも、大好き。

 一緒に居られる時間。それは、俺にとって、やっぱり大切な時間。
 だから、本なんか読んでないで、こうやって向かい合って居よう。
 直ぐ傍に感じられるその存在が、大切で大事。

 君にとっての空気になりたい。
 一緒に居て、当たり前みたいな。
 それでいて、無くてはならない存在。
 君にとっての空気になりたい。

 ずっと一緒に居られるように……。

 




  45000HITリクエストです。
  リクエスト内容は、『ヤマ太のめちゃくちゃラブラブ!!』
  珍しく、太一さんが積極的です、はい……。
  どうやら、偽者が発生したようですね。……駄目すぎる(T-T)
  樵のい様、申し訳ございません。(><)
  またしても駄文となってしまいました。本当に、お詫び申し上げます。
  ラブラブ話って、書こうと思うと書けない……xx
  駄目な管理人をお許しくださいませ。