洗濯物を干す時に感じる風。
一日と温かくなるその風を感じながら、太一はそっと瞳を閉じて、吹く風を感じる。
「今日も、いい天気だよなvv」
貯まっている洗濯物を全て干し終わってから、満足そうに笑顔を見せ、空を見上げた。
温かくなった日差し、そして、時々何処かから風に運ばれてくる花の香。
「後少しすれば、桜も満開だろうなぁ・・・・・・」
ポツリと呟いて、そっとため息をつく。
春になって、明るい気分になるはずなのに、なんでこんなため息をつかなくてはいけないのか……。
「たく、仕事仕事って、家に居ない奴の為に、何で俺が暗い気持ちにならなきゃいけないんだよ!」
考えついた事に文句を言って、太一はベランダから部屋の中へと入った。
そのとたんに、自分の足にじゃれてくる2匹の子猫。
「ガブ、アグ…もうちょっと待っててくれよ、部屋の掃除したら、終わりだからな……」
構って欲しいとじゃれて来る子猫に苦笑を零して、太一は掃除機を取り出した。
そのとたん、子猫達が慌てて自分から離れていく。どうも、この掃除機が苦手なのだろう。
「……近くに居られたら、吸い込みそうだから有難いけど……」
慌てて逃げていった2匹に、苦笑を零しながら、太一は早く用事を終わらせようと、掃除機を掛け始めた。
そんなに散らかってる訳ではないが、毎日の掃除は欠かせない。
暇だからと言う訳ではないけれど、仕事で疲れて戻ってくるヤマトを、綺麗な部屋で迎えたいから……。
「終了!っと、そろそろ、干してる布団を片付けないと……」
掃除機を掛け終わって満足そうに笑顔を見せてから、太一は思い出した事に、掃除機を片付けてからリビングを後にする。
そして、一番に掃除を済ませた寝室のドアを開いた。
開いた瞬間、思わず笑みが零れてしまうのを止められない。
日向ぼっこをするように、日が当たっているベッドの上で仲良く眠っている子猫の姿。
気持ちよさそうに眠っているその姿は、本当に可愛い。
出来るだけ邪魔をしないように気を付けながら、太一は干してあった布団を部屋の中に入れた。
しかし、これをベッドに置くと、子猫たちを起こす事が目に見えている、だから、綺麗に掃除されている床の上に布団を置く。
「気持ちいいvv」
太陽の匂いを感じて、ギュッと布団を抱きしめる。干したての布団は、気持ち良い。
しかも、天気は良くって、ポカポカ状態の今、次第にまぶたが重くなって来るのは仕方ないだろう。
「……眠い…」
春は眠くなるとは、よく言ったものである。
太一は、睡魔に誘われるようにそのまま布団を抱えるように意識を手放した。
― 春 ―
「……くしょん…」
寒さを感じて、小さく体を振るわせる。
一体どのくらいの時間が経ったのか、太一はゆっくりと瞳を開いた。
そして目を開いた瞬間、目の前に広がるオレンジ色。
「な、なんだ?」
驚いて起き上がった瞬間、自分の直ぐ傍で寝ていたオレンジの物体が動く。
その傍では、ブルーグレーの物体。
それが何であるのか分った瞬間、苦笑を零す。何時の間に移動して来たのか、子猫達は、自分のすぐ傍で眠っていた。
自分が動いた事で、小さく身じろぎをしていたオレンジ色の猫は、寝返りを打っただけで起きる気配が無い。
それにほっとして、太一は辺りを見回した。
「……道理で寒くなった訳だ……」
もう既に、空が薄暗くなっているのを確認して小さくため息をつく。
部屋の中は電気が付いていないので、暗い。
「……お昼、食べてないや……」
昼前から寝ていた事を考えると、かなりの時間寝ていた事になる。
自分でも呆れながら、夕飯の準備をする為に部屋を出た。
「さて、何にしよう……」
別段、何かが食べたいと思う訳ではないが、冷蔵庫を開けた瞬間、太一は思わず絶句してしまう。
買出しに行っていないお陰で、冷蔵庫の中は、まともなモノが入っていない。
「……そう言えば、今日は買出しに行かないと不味いって、思ったんだよなぁ……」
思い出した事実に、太一は頭を抱え込む。
うっかり昼寝などしていた自分が悪いのだが、これでは何も作る事など出来ない。
「……ヤマト、今日帰ってくるのかなぁ……」
朝、見送った時には、早く帰ると言っていなかった。
だが、予定では確か、今日は歌番組のロケだと言っていたのを思い出して、勝手に遅いだろうと思い込む。
そうすれば、ヤマトが戻って来る前に、買出しに出掛ければ、何の問題も……。
「ただいま、太一」
自分の考えた事に満足そうに頷きかけた瞬間、玄関から良く知った声が聞こえて来た。
その瞬間、太一の顔面から血の気が引いてしまう。
早く帰ってきて欲しい時には、帰って来た事など一度だって無いのに、どうして帰ってきて欲しくない時には、こんなにタイミング良く戻ってくるのだろうか……。
「太一?」
自分が返事を返さないので、心配そうに再度名前を呼ばれる。
「居ないのか?」
廊下を歩いてくる足音。どうしたものかと、太一は慌てた様におろおろとしてしまう。
別段悪い事をした訳ではないのに、どうしても焦ってしまうのは止められない。
そして、リビングの前でその足音が止まる。
太一は、覚悟を決めたように大きく息を吐いて、ドアが開くのを待った。
「太一?」
そして、タイミング良くドアが開く。
ドアが開いた瞬間、鈴の音と一緒に名前を呼ばれた。
鈴の音は、子猫2匹が走り込んで来た音。突然の事に、流石のヤマトも驚いているようだ。
「お、お帰り、ヤマト!」
猫2匹を見詰めるような形で動かなくなっているヤマトに、太一はニッコリと慌てて挨拶をした。
太一に向かって走って行った2匹の猫は、その足元に甘えるように擦り寄っている。
ヤマトはそれを見詰めながら、不機嫌そうな表情を見せた。
「……居るんなら、返事くらいしろよ……」
「…わ、悪い…そ、それがさぁ……」
自分に甘えてくる2匹の猫を抱き上げて、太一は困ったように苦笑を零す。
正直に話をするには、自分の愚かさを明かさなくてはいけなので、戸惑ってしまうのは仕方ない。
「…しかも、俺よりも先に猫の方を抱いてるし……」
どうしたものかと考えていた太一の耳に、拗ねたような言葉が聞こえてくる。
一瞬何を言われたのか分らなくって、太一は不思議そうにヤマトを見た。
「何か、言ったか?」
「別に!」
明らかに不機嫌である事が見て取れる相手に、太一は再度首を傾げる。
今までの遣り取りで、ヤマトの機嫌を悪くする理由が分からない。
「そ、そうだ!ヤマト、夕飯、食べてきたのか?」
不機嫌なのが分るだけに、引きつった笑顔を見せながら、思い出したと言わんばかりに質問をする。
「いや、まだだけど……?」
「そ、そうだよなぁ…まだ、そんなに遅い時間じゃねぇもんなぁ……」
不思議そうに自分に返されたそれに、太一は苦笑を零す。
内心では、どうしたものかと、本気で悩んでいるこの状態。
今は、腕の中の2匹が少しだけ羨ましい。
「夕飯の準備してないのなら、久し振りに俺が作ろうか?」
考えを巡らせていた自分に、尋ねられたそれ。
いや、それは本当に有難い申し出ではあるのだが、肝心の材料が無いのでは、その申し出も嬉しくはない。
「お、お前は、仕事で大変だったんだろう?いいよ、俺が作るから……」
慌ててヤマトの申し出を断ってから、太一は盛大なため息をついた。
このまま黙っていても、事態は何も変わらない。
「……ごめん…」
「何が?」
先程から様子の可笑しい太一に、急に謝られて、ヤマトは訳が分らないままに返す。
「……俺、さっきまで昼寝してて、夕飯の買出し行くの忘れてた……」
子猫を抱いたまま、上目使いに自分を見詰めながら言われたその言葉に、漸く太一の様子が可笑しかった理由を悟る。
自分に申し訳無さそうな視線を向けている太一を前に、ヤマトは思わず苦笑を零した。
「そんな事で、別に怒る訳無いだろう。気にするなよ…それなら、今日は、ピザでも取ればいいだろう?」
自分を見詰めて来るその瞳に笑いかける。そう、そんな事で怒ったりはしない。
それどころか、自分を見上げてくるその瞳が可愛くって、ヤマトは嬉しそうに笑みを零した。
「でも……」
「『でも』じゃなくって、そんな事、何の問題もないだろう。それよりも、何で、俺よりも先に一緒に内に居た猫の方を抱くんだ?」
「はぁ?」
自分の言葉を遮られて言われたその言葉に、素っ頓狂な声を上げる。
どうやら、今だ猫を抱き締めている状態が、ヤマトにとっては気に入らなかったらしい。
「……お前、猫にヤキモチ焼くか、普通……」
「焼くに決まってるだろう!大体、ガブモンの名前貰ってるのに、俺よりも太一に懐くなんて、許せないぜ!!」
「……既に、問題が違うぞ……」
全く見当違いな事を言っているヤマトに、太一は呆れたようにため息をつく。
だが、確かに、『ガブ』と名づけたブルーグレーの猫も、ヤマトよりも太一に懐いているのは本当の事。
『アグ』と名づけられたオレンジの猫同様、ヤマトと太一の二人が居たら、迷わずに太一の方に走ってくる程である。
「……こんなんなら、猫なんて飼うんじゃなかった……」
ボソッと文句を言うヤマトに、太一は思わず苦笑を零した。
だが、自分に懐いてくる猫達は本当に可愛くって、一人でこの家に居ると言う寂しさは、安らいだのは事実。
「……悪かった…お帰り、ヤマトvv」
拗ねているヤマトに笑みを零して、太一はそっと直ぐ傍に移動するとその頬にキス一つ。
「……で、いいか?」
少しだけ赤くなった顔で、ヤマトを見詰める。
「……お帰りのキスは、こっちの方がいいんだけど……」
自分の頬にキスをした太一の唇に、今度はヤマトの方からキスを一つ。
「ただいま、太一vv」
ニッコリと笑顔で挨拶されて、太一は自分の顔がますます赤くなっていくのを実感する。
「……ば〜か……」
真っ赤になった顔のまま、文句を言えば、更に優しい笑顔が返された。
「いいんだよ、俺はそれで……ほら、ピザ、何にするんだ?」
嬉しそうな笑顔に、太一は何も返せない。
それが分っているからこそ、ヤマトは宅配用のメニューを太一に差し出す。
笑顔と共に差し出されたそれと、差し出している人物を思わず恨めしそうに見詰めて、太一が小さくため息をつく。
「……お前、絶対人の事、馬鹿にしてるだろう?」
「する訳無いだろう。俺は、太一の事が、誰よりも好きなんだからなvv」
自分の恨めしい言葉に、ニッコリと満面の目顔で言われたその言葉。
「……恥ずかしい奴……」
ポツリと文句を言うそれも、顔を真っ赤にした状態では、意味が無い。
ヤマトは笑みを零して、そっと太一に顔を近付けた。
「いいんだよ…だから、お前も、素直になれよ」
突然耳元で囁かれたそれに、ますます太一の顔が赤くなる。
それは、見ていて見事だと言いたくなるくらい……。
「み、耳元で喋るなって言ってるだろう!!」
真っ赤になったまま、太一は腕に抱きしめていた2匹の猫を落としそうになって慌てて抱き直す。
そんな様子を見せられて、ヤマトは思わず苦笑を零した。
本当に、見ていてえきる事はない。
「……ガブとアグ落としたら、お前の所為だからな……」
恨めしそうに睨みつけてくるその視線を受けて、ヤマトは笑みを零した。
「……分った。俺が悪かったから、だから、今度の休みに、花見に行こう」
「……お前の休みなんて、当てにならない……」
嬉しそうに提案されたそれに、拗ね様にそっぽを向く。
確かに、太一の言うように自分の休みほど当てにならないものは無いのは事実。
だが、今日はそんな風に言われても、ちゃんと答えられる切り札を持っている。
「明後日は、オフだ」
「本当か?!」
ニッコリと笑顔を見せて言われたそれに、信じられないと言うように太一が聞き返す。
「本当。だから、お弁当持って、ガブとアグを連れて、花見に行こうぜ」
ニコニコと嬉しそうに言われるそれに、太一も嬉しそうな笑顔を見せた。
ヤマトの休みが前もって分るのは、珍しいから……。
「約束、だからな!」
念を押すように言われたそれに、大きく頷いて返される。
春のうららのお約束。
大切な人と、可愛いお供を連れて、春を見に行こう。
今日のように、暖かい日差しを感じて、眠るのもいいかも……。
そう、今度は、大切な人も一緒だから……。

お待たせいたしました。
漸く、35000HITリクエスト小説です。
どこが?って言われたら、否定はしません。
可笑しいなぁ、得意だと思ったんだけど、『ラブラブ』
なのに、玉砕してるし……xx(駄目すぎる、私 ><)
リクエストしてくださったナギサ様、本当にすみません(T-T)
こんな、小説ですが、許してください。
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