「明日?」
突然のその言葉に、思わず聞き返してしまう。
『そう、確か試験休みだったよな?』
質問されているのに、確認するようなその言葉に、太一は思わず首をかしげた。
どうして、自分の学校の日程を全く関係のない他校の生徒が知っているのだろうか?
「なんで、お前が知ってんだよ!」
『俺の情報網も、捨てたモンじゃないって事だな』
嬉しそうな声が受話器の向こうから聞こえてくるのに、太一は、複雑な表情を見せた。
電話の向こうの相手が、こんな態度を取る時は、はっきり言って碌な事がないのである。
「俺の学校が休みだって言うのが、ヤマトに関係あるのか?」
『勿論、あるに決まってるだろう!』
自分の質問に、当然のように返される言葉に、意味が分からないと言うように首を傾げた。
どうして、自分の休みが、関係しているのだろうか??
「ヤマト?」
『お前、恋人と一緒に過ごしたいと思うのにも、理由が必要なのか?』
分からないから問い掛けるように呼びかけたそれに、少し呆れたような声が返される。
「こ、恋人?!だ、誰と誰がだ!!」
しかし、言われた内容に、太一は思わず声を荒げた。
その顔は、勿論赤い。
『……まさかとは思うけど、自覚してなかったのか?……どうりで、お前から連絡してこないと……』
自分の声に、盛大なため息と共に返された言葉と、更に続いた言葉に、太一は必死で頭を働かせる。
確かに、中学を卒業する時、告白されて、そして、自分もその返事にOKしたのは、数ヶ月も前の話。
そう、そう言う事があれば、世間一般では、恋人同士と言われると言う事を、太一は理解して居なかった。
「そ、それは、忙しかったし……だ、大体、恋人って……」
『俺と太一の事だろう?』
あっさりと返された言葉に、戸惑っている自分が居る。
いや、確かに、相手のことを好きだと言う気持ちは理解しているのだ。
しかし、『恋人』と言う聞き慣れない単語に、動揺は隠せない。
「だ、だから、もし、俺とお前がそう言う関係だとして、どうして明日の俺の予定が関係して来るんだよ!」
『……お前、ちゃんと話し聞いたのか?』
「聞いてたに、決まってるだろう!」
『だったら、分かれよ。デートに誘ってるに、決まってるだろう』
「デ、デート??」
少しだけ呆れたように言われた言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
勿論、その短どの意味は理解していても、頭がそれを拒絶している状態。
『他に、どんな理由があると思ってるんだ?その為に、テスト休みだって言うお前を誘ってるんだろう』
「って、俺のところは確かに休みだけど、ヤマトの学校は休みじゃねぇはずだぞ」
『ああ、確かに普通の授業になってる……だけど、授業よりも、俺は太一と一緒に過ごす時間の方が大事なんだよ』
真剣な声が受話器越しに聞こえてきて、太一は思わず自分の顔が赤くなるのが、分かる。
ものすごく、クサイ事を言っているのに、それを言っているのが、あの人物だと思うと、似合いすぎていて、怖すぎるのだ。
「……お、お前、そんな事、言うようなヤツだったのか?」
『お前になら、幾らでも言えるぞ。それで、太一が口説けるんならな……』
「……タラシ……」
気障な言葉に、思わずポツリと呟いて、太一は盛大なため息をつく。
このまま話をしていても、この気障で鳥肌が立ちそうな台詞を言われるかと思うと、さっさとOKを出して、電話を切ってしまいたいと思うのは、きっと自分だけが考える事ではないと思いたい。
もっとも、これがあの人物を崇拝してやまない女の子達なら、うっとりと聞いているかもしれないが……。
「分かった。明日、デートでもなんでもしてやる!ただし、行き先は、遊園地だ!!」
『……デートしてくるのはいいとして、何で行き先が遊園地なんだ??』
「別に、深い意味はねぇけど…。強いて上げるなら、健全な場所だったら、お前もそんな気障な台詞言わないだろうし……」
『気障って…俺が、そう言うのは、太一だけで……』
「ああ!分かった、取り敢えず、駅で待ち合わせな。お前、学校サボるんだから、それなりに考えて来いよ!」
『太一?』
「んじゃ、また明日な!」
電話の向こうでまだ何かを言いたそうにしている相手を完全に無視して、太一はそのまま通話を切る。
受話器から聞こえる音を耳に、盛大なため息をついた。
「……デートって、普通は男と女で、するもんだって言うの……」
そして、持っていた受話器を机に置くと、再度ため息をつく。
「……恋人…かぁ……好き、って、そう言う好きなんだ……んじゃ、俺の好きは??」
「悪い、遅くなった」
電話を切ってから、考え込んでいたために、寝坊してしまった太一は、素直に待たせてしまった相手に謝罪する。
「気にするな。そんなに待ってないから」
しかし、にっこりと笑顔で言われた言葉に、思わずそのままUターンして帰りたい気持ちになるのは、どうしてだろう?
「それで、何処の遊園地に行くんだ?」
「あっ?行き先な……親父からチケット貰ってたんだよ、だからそこに行こうぜ」
バッグからチケットを取り出して、一枚をヤマトに差し出す。
今月中に期限の切れてしまうチケットの為に、自分に渡されたそれは、あまり大きくない遊園地の名前が書かれていた。
「ここなら、バスの方が便利なんじゃないのか?」
「えっ?あっ、ああ……んじゃ、バスで行こうぜ……」
さり気なく言われた言葉に、慌てて返事を返して、バス停へと移動する。
「遊園地に行きたいって、言ったのは、このチケットを持ってたから?」
「はぁ?」
バスに乗って、席に座ったとたんに尋ねられた言葉に、思わず首を傾げてしまう。
そう言えば、今日の遊園地域を決めたのが、自分である事を思い出して、太一は苦笑を零した。
「違う。電話で言ったのが、正解。このチケットは、親父が会社で貰ったらしい。んで、たまたま俺が今日休みだったから、譲ってくれたんだよ」
電話で言った理由。
『ヤマトに、気障な台詞を言わせない為』
しかも、これは、ヤマトにとっては、デートで……。
そう思うと、盛大なため息をついてしまうのを止められない。
「…太一…」
盛大なため息をついた瞬間、突然名前を呼ばれて、小さく肩が震えてしまう。
「な、何だ?」
びくびくしているのを、自分でも自覚しながら、恐る恐る尋ねてみれば、ヤマトが小さく息を吐き出した。
「……こんな所で、何かする訳ないだろう……だから、そんなにびくびくするなよ」
少しだけ呆れたようにため息を突きながら言われた言葉に、俺は、ほっと、胸を撫で下ろす。
確かに、そう言う意味では、ヤマトの事を信頼しているから……。
「だけど、俺が言った事は、訂正しない。これは、デートだって……」
「ヤマト?」
「だから、太一も少しは考えてくれ、俺の気持ちを真剣に……」
まっすぐに見詰めてくるその瞳が、綺麗だから逸らせない。
好きな気持ちは、色々あるけれど、自分は、どうして彼に『OK』したのだろうか?
「……嫌いじゃねぇんだ……だけど、お前の言う、好きが、その…分かんない……」
優しい瞳に見詰められる中、思わず口から出て来たのは、自分の正直な気持ち。
分からないなんて、子供みたいな事を言っていると言う自覚はあっても、それが、自分の正直な所なのだから、仕様がない。
「……だったら、今日はお試しって事で、俺は気にしない……」
「ヤマト?」
からかわれても仕方ないような事を言った自分の耳に、優しい声が聞こえて、太一は思わず顔を上げてヤマトを見た。
そこには、柔らかな笑顔を浮かべている自分の親友と呼べる人が居る。
「だから、簡単に、否定だけはしないでくれよ」
「……分かった…」
そんな顔が出来るんだって、知らないくらい優しい表情で言われた事に、胸がドキドキしている。
この時、太一には、その理由がまだ分かっていなかった。
「次、あれ乗ろうぜ!」
遊園地に付いてから、早速遊び回るその姿を前に、ヤマトは思わず苦笑を零す。
「……デートだって、自覚は、無しだな……」
ため息混じりに呟いて、嬉しそうに自分を呼んでいる相手の傍へと急ぐ。
旗から見れば、仲良しな友達同士、にしか見えないこの状態に、少しだけ残念に思いながら、それでも、自分の目の前で、一番大切な人が笑ってくれているという事に、ヤマトは笑顔を返した。
遊園地の乗り物を制覇すると頑張っていたその言葉通り、夕方近くには、殆どの乗り物を乗り尽くして、満足そうな表情を浮かべている太一の姿に、ヤマトも、笑みを零す。
「大体、乗ったよな??」
ニコニコと上機嫌な笑顔を見せている太一を前に、ヤマトの頷くように案内パンフに目を通す。
「そうだな……肝心なモノを忘れてるぞ」
しかし、ある一角の乗り物に、目が止まって笑みを零した。
「肝心なもの?」
自分の言葉に不思議そうに問い掛けてくる太一を前に、ヤマトは小さく頷いて、その一箇所を指差した
「この遊園地最大の目玉。観覧車に、乗ってないだろう?」
イラストにも、ひときわ大きく書かれている観覧車は、この遊園地の一番のお勧めといってもいいだろう。
一周回るのに、15分も掛かると言うそれは、恋人達にとって、お勧め出来るポイントと言っても良いだろう。
「それとも、俺とは、乗りたくないか?」
複雑な表情を浮かべている太一を前に、ヤマトは小さくため息をつくと、そっと問い掛ける。
「そ、そう言う訳じゃねぇけど……分かった!いくぞ、ヤマト!!」
意を決したとばかりの勢いで、太一がヤマトの腕を取って歩き出す。
強引な太一のその行動に、少しだけ驚きながらも、ヤマトは内心ガッツポ−ズを作っていた事を知る人は、誰も居ないだろう。
「直ぐに乗れて、良かったな」
「ああ……にしても、すげー眺め……」
夕日が眩しいのか、目を細めながら景色を見ている太一のその姿に、ヤマトはただ笑みを零す。
「なぁ、俺、考えたんだけど……」
「んっ?」
そっと、太一を見詰めていた自分に、太一が少しだけ戸惑ったように口を開いたそれに、ヤマトはその続きを促すように問い掛けた。
「……今日、お前と一緒に居て、やっぱりすごく落ち着いた。最近、休まってなかったんだって、そんな風に感じたし、ヤマトと一緒に居るのって、俺にとっては、当たり前だって、そんな風に思えるんだ。その、好きとか、そんな風に考えると、やっぱ好きだって、思うし……それに……」
「それに?」
必死で言葉にしようとしている太一の言葉が、途切れるのを、促すように聞き返す。
自分を見ずに、太一はずっと外の景色を見詰めているまま…。
その顔が赤いのは、夕日の所為だけ?
「……それに…ヤマトに、そんな目で見られると、ずっとドキドキが止まらない……」
不意に顔を自分に向けて、言われた言葉に、ヤマトは一瞬驚いて瞳を見開いたが、直ぐにその表情が嬉しそうな笑みへと変わる。
「それって、やっぱり、俺がヤマトの事を、そう言う意味で、好きなのかなって……ヤマト?」
恥ずかしいのか、折角顔を上げたのに、また俯いてしまった太一に、ヤマトはただ、そっと席をその隣へと移した。
突然小さく揺れた籠に、太一が驚いて顔を上げた瞬間、自分の隣に居るヤマトに気が付く。
「……ここのジンクスって知ってるか?」
「えっ?」
突然意味不明な事を言われて、太一が聞き返す。
「頂上に来た時、キスすれば、ずっと一緒に居られるって……」
「ヤマト?」
そっと近付いてくるその顔と、言われた言葉通り、自分達が乗っているそれが頂上についた瞬間、ゆっくりと唇に触れられる。
触れるだけのそれに、太一は訳が分からないというような表情を見せたが、目の前の幸せそうな顔を見て、何も言えなくなってしまう。
「……このジンクス、俺達で、実証しようなvv」
そして、止めとばかりに言われた事に、ただ笑うしか出来ない。
初めてのデート。
始めは、自分の気持ちに気が付いていなかったのに、気が付けば、相手の思い通り。
ちょっと、腑に落ちない気もするが、それも、仕方がないと思ってしまう。
自分の気持ち、気が付いてしまったから……。
だから、今度は、少しだけ甘いムードのデートをしよう、約束……。
Back
はい、本当にお待たせして申し訳ありません。
漸く、リクエスト小説を書く事が出来ました。
しかし、リクエストにお答えしているかどうかと言うと、疑問です。<苦笑>
リクエスト内容は、『高校生ヤマ太で、遊園地でデート』だったのですが……。
実は、高校生に見せるのに、どうするべきか悩みまして、こんな内容になっております。
高校生に見えますでしょうか??
そんな訳でして、本当にお待たせして申し訳ございませんでした。
草葉様、65000HIT、本当に有難うございました。
ショボ小説にて、失礼いたします。
|