「太一、ちょっといいか?」

 何時ものように休む場所を探し、見つけた洞穴で寛いでいた中、突然言われたそれに太一が首を傾げる。

「どうしたんだ、ヤマト?」

 珍しい相手からの誘いに、太一は疑問を隠せない。

「いや、これからの事とか、話したいから……」

 自分の問い掛けに、焦ったように言われたそれにもう一度首を傾げる。
 どうしてそこで、顔が赤くなるのだろうか??

「別にいいけど……」

 意味が分からないながらも、断る理由も無いので素直に頷いた瞬間、相手の顔がぱっと笑顔を作る。
 だが、その次の瞬間、その笑顔が、一瞬で消えた。

「お兄ちゃん!!」

 嬉しそうに大好きな兄に抱き付くその姿は、本当に愛らしい。
 しかし、この少女が、何時も邪魔をするように現れている事を、誰でもなくヤマト自身が一番良く分かっているのだ。

「どうしたんだ、ヒカリ?」

 しかし、シスコンと言う訳ではないが、妹を大切にしている兄が、そんな事に気が付く訳ない。
 しかも、甘えてくる妹を正直に可愛いと思ってしまうのだ、この人物は……。

「あのね、テイルモンと美味しい果物が一杯あるところを見つけたのvv」
「そうか!んじゃ、今晩の食い物には、困る事はないな」

 ニコニコと嬉しそうに言われる言葉に、太一は優しくその頭を撫でながら、返事を返す。
 しかし、ヤマトには、その少女のにっこり笑顔は、はっきり言って悪魔の微笑でしかなかった。
 何時だって、自分に向けられるのは、勝ち誇ったような笑み。

「…悪い、ヒカリ……ちょっと、ヤマトが話あるって言うから、また後でな」

 だが、今日は先に話をしていた自分へとちゃんと意識を戻してくれる相手に、ヤマトが少しだけほっとしたような表情を見せる。
 このまま忘れられるのは、はっきり言って悲しすぎると言うもの。

「ヤマトさんの、お話?」

 しかし、太一のその言葉に、ヒカリがチラリとヤマトに視線を向けて、残念そうな表情を見せる。

「終わったら、一緒に果物、取りに行こうな」

 残念そうな表情を見せる妹に、太一が慌ててフォローする事も忘れない。
 それに、ヒカリは嬉しそうな笑顔を見せて、頷いた。

「約束だよ、お兄ちゃんvv」
「ああ……」

 すっと、自分から離れていくヒカリに笑顔を見せて頷いてから、太一は自分の直ぐ後ろに立っているヤマトを振り返った。

「話、あるんだろう?」

 そして、ぼんやりと自分を見詰めている相手に、首を傾げて見せる。
 突然話し掛けられたヤマトは、それにただ大きく頷いた。




「絶対、ヤマトさんの話なんて、決まってるんだから!!」

 洞穴から出て行く二人の後姿を見詰めながら、ヒカリが少しだけ悔しそうな声を出す。

「……決まっているのか?」

 自分のパートナーが不機嫌そうに言ったその言葉に、テイルモンは、意味が分からないと言うような表情でヒカリを見詰める。

「うん……だから、邪魔したいの」

 真剣に言われた言葉に、テイルモンは再度首を傾げる。
 この少女が見た目通りの少女ではないと言う事を、誰よりも良く知っているからこそ何も口を出す事は出来ない。
 そして、邪魔がしたいとはっきりと言ったと言う事は、彼女にとっては、気に入らない事だと言う事が直ぐに分かった。

「ヒカリちゃん、どうしたの?」

 不機嫌そのままに、太一とヤマトの後をつけている少女に、不思議そうな声が掛けられる。

「タケルくん!……ううん、何でもないの」

 振り返った先に立っている相手に、ヒカリが慌てて首を振って笑顔を返す。
 そこに居たのは、自分と同じ年で、ヤマトの弟のタケル。
 不思議そうな表情を見せている彼が、何を考えているのかは、分からない。

「そう?外は、危険だから、あんまり遠くに出掛けちゃ駄目だよ」

 そして、少しだけ心配そうな表情を見せて言われたそれに、慌てて大きく首を振る。

「大丈夫よ。テイルモンも一緒だから!ねぇ、テイルモンvv」

 ニコニコと笑顔を見せて、ヒカリが隣に居るパートナーに同意を求めれば、その迫力に押されて、テイルモンも慌てて頷く。

「そう?でも、やっぱり、一人じゃ危ないよ」
「一人じゃないよ、後でお兄ちゃんと果物を取りに行く約束してるから……」

 それでも心配そうに言われる言葉に、慌てて返せば、漸く納得したのか、タケルが少しだけ考えてから頷いた。

「そっか、太一さんと出掛けるんだ……ねぇ、ボクも一緒に行ってもいい?」
「えっ?あの……」

 そして、続けて問い掛けられたその問いに、ヒカリは言葉を続けられない。
 出来れば、兄と二人だけの時間を楽しみたいと思うのが、正直な気持ちなのだ。

「やっぱり、駄目?」

 何も言わない自分に、寂しそうな表情を見せる相手に、ヒカリは慌てて首を横に振って見せる。

「そ、そんな事無いよ!!」

 思わず返してしまったその言葉に、タケルがにっこりと満面の笑顔を見せた。
 勿論、返してしまったヒカリは、複雑な表情をしてしまう。

「良かったvvそれじゃ、太一さんには、ボクからお願いするねvv」

 ニコニコと笑顔で言われたそれに、ヒカリはもう頷くだけしか出来ない。
 可愛らしく笑っている純粋なその笑顔に、何も返せないのが、正直なところであろう。

「そう言えば、太一さんは??」

 しかし、続けて言われたその言葉に、ヒカリは、にっこりと笑みを浮かべた。
 自分は、既に邪魔をする事が出来ない状態だが、彼になら、まだ邪魔が出来ると考えて………。

「お兄ちゃんなら、ヤマトさんとあっちの方に歩いて行ったみたい」

 何も知らないと言うように、兄の居場所を教える。
 それだけで、後は何もしなくってもいいのだ。

「そうなんだ?お兄ちゃん、太一さんと一緒なんだ……」

 ヒカリの言葉に、タケルが一瞬だけ考えるような表情を見せてから、小さく頷いてにっこりと笑顔を見せるとヒカリに手を振った。

「分かった、行ってみるね」

 ニコニコと笑顔を見せながら歩いて行くその姿に、ヒカリは内心笑顔を浮かべる。

「テイルモン、様子一緒に見に行きましょうvv」

 自分の作戦通りに事が運びそうな予感に、これ以上ないほど上機嫌な笑顔を見せて、パートナーへと声を掛けるのだった。




「で、話って?」

 先ほどから進まない会話に、太一が再度問い掛ける。
 沈黙ばかりが続いて、どうしていいものか、はっきり言って困っていた。
 目の前では、難しい顔をしているヤマトが居る。

「……もしかして、俺、またなんかやったのか??」

 言い難そうにしているヤマトを前に、太一は思わず心配そうに問い掛けた。
 良く、自分がヤマトを怒らせてしまうと言う自覚を持っているだけに、心配になるのは、仕方ない事だろう。
 だから、きっと何かを怒っているのだと思って、太一は不安そうにヤマトを見詰めた。
 突然心配そうに自分を見詰めてくる太一を前に、ヤマトは一瞬驚いて、それから慌てて否定する。

「えっ?いや、そうじゃない……」
「……違うのか?」

 慌てて否定するヤマトを前に、それでも心配そうに太一が聞き返す。
 やっぱり、何度も相手を怒らせているから、簡単には信じられないのだ。
 まだ不安そうに自分を見詰めている太一に、はっきりと頷けば、ホッとした表情を見せる。
 そんな表情を前にして、ヤマトは決心したように口を開こうと唾を飲み込んだ。

「あの、な、太一………」
「太一さん、見つけた!!」

 自分がずっと伝えたかった事を口にしようとした瞬間、無邪気な声がそれを遮る。

「タケル?どうか、したのか??」

 嬉しそうに自分に向かってくるその姿に、太一が優しい笑顔で迎えるのを見詰めて、ヤマトはがっくりと肩を落とした。
 今は、自分の可愛い弟でも、思わず恨みたくなったとしても、許されるだろうか?

「あのね、ヒカリちゃんと果物取りに行くんでしょう?ボクも一緒に行ってもいい?」
「ああ、勿論だ」

 自分に抱きついてくるその体を受け止めながら、言われたそれに、頷いて返す。
 勿論、断る理由など、一つも無いから……。

「本当?」
「ああ、皆で取りに行った方が、一杯取れるからなvv」

 心配そうに再度問い掛けてくるタケルに、太一はにっこりと優しい笑顔を見せて安心させるように言葉を返す。それに、タケルの表情がぱっと笑顔に変わる。

「……タケル……俺は?」
「あれ?お兄ちゃん、居たんだ」

 そんな目の前の二人の遣り取りに、ヤマトが不機嫌そうに声を掛ければ、ケロリと冷たい言葉が返された。
 分かっているはずなのに、白々しいとしか言えないその態度は、子供でなければ、怒りを誘うだろう。(いや、子供でも怒るって……)

「タケル、俺、ちょっとヤマトと話があるから、ヒカリと一緒に待っててくれないか?」

 タケルのその言葉に、ヤマトを気の毒そうに見詰めながら、太一がさり気なくフォローを入れる事も忘れない

「お兄ちゃんの話?あっ!お兄ちゃんも、食べ物探しに行かなくっちゃいけないって、言ってたんだよ。その事じゃないの?」

 だが、太一のその言葉に、タケルがニコニコと笑顔を見せながら言ったそれは、誰も予想などしていないモノであった。

「そうなのか?」

 質問するようにヤマトを見れば、驚いている瞳とぶつかる。
 その表情を見ていると、どう見ても、タケルの言葉は信じられない。
 だが、こんな小さい子が嘘を付くなど、太一には、考えられない事だから、じっと確かめるようにヤマトを見詰める。
 じっと見詰めてくるその瞳を前に、ヤマトは大きなため息をついて小さく頷いた。

「……ああ、その、タケルの言う通りだ……」

 盛大なため息が、止まらない。
 どうしてこんな事になったのか、神様を恨みたくなっても許される行為だろうか??

「なんだ、そうだったのか!そう言う事なら、早く言えよ。んじゃ、皆で一緒に食料取りに行こうぜvv」

 盛大なため息をついているヤマトには、全く気付く事のない太一が、にっこりと笑顔を見せて、その背を叩く。

「……そう、だな………」

 複雑な表情のまま、タケルと一緒に一度洞穴へと戻れば、そこには、笑顔で自分達を迎えてくれるパートナーデジモンとヒカリの姿。

「待たせたな、ヒカリ。それじゃ、食料調達行ってくるな!」

 洞穴の中に居る仲間達にも聞えるようにそう言ってから、歩き出す。
 何も分かっていない相手を先頭にして………。



 誰が、一番最強か?

 前を歩く兄の姿を見詰めながら、ヒカリはそっとその隣を歩くヤマトを見る。
 それから、自分の隣を歩くタケルを見て、そっと声を掛けた。

「ねぇ、タケルくん。ヤマトさんとお兄ちゃんの邪魔したのは、知っているから?」

 そして、問い掛けたのは、ずっと疑問に思っていた事。
 だって、こんなに上手く邪魔できるなど、自分は考えていなかったから……。
 何も知らないフリをして、本当は、全てを知っているのだとすれば、彼は自分以上に凄い相手。

「さぁ、どうだろうねvv」

 しかし、問い掛けた相手は、にっこりと笑って何も話さない。
 全ては、闇の中。

 一体、誰が最強なのか??

 もしかしたら、この無邪気な顔で微笑んでいる君なのかも……。


 




  はい、大変お待たせいたしました!
  69000HIT リクエスト小説でございます。
  何処がって、言われても仕方ありませんね。<苦笑>
  リクエスト内容は、ヤマト→太一←ヒカリで、邪魔をするタケル。だったんですが……。
  無印になっているのは、その方が書きやすかったんです。
  す、すみません。散々お待たせしたのに、またしてもリクエストにお答えしておりませんね。
  本当にすみません、翼様。(T-T)
  
  書き逃げで申し訳ないのですが、69000GET本当に有難うございます。
  そして、リクエストも有難うございますね。
  これに懲りなければ、またお願いいたします。(無理だって……xx)