「お兄ちゃん、明日買い物に付き合ってもらえないかな」
部屋に入るなり、そう言われたそれに、太一は一瞬困ったような表情を見せる。
可愛い妹のお願い事は叶えてやりたいと思うのだが、先約があるのだ。
それも、自分にとっては大事な……。
「悪い、ヒカリ……」
「もしかして、誰かと約束してるの?」
素直に謝ったそれに、少しだけ悲しそうな表情を見せる相手に、太一は思わず罪悪感を感じてしまう。
しかし、問い掛けられた事に、太一は小さく頷いた。
「…そっか、それじゃ仕方ないよね……でも、今度は私にも付き合ってね」
残念そうにため息をついて、ヒカリがお願いと言うようにポーズを作る、それに笑顔を見せて太一は頷いて返した。
「ああ、勿論いいぞ」
笑顔で言われたそれに、ヒカリもニッコリと笑顔を見せる。
「それで、お兄ちゃんは明日何処に行くの?」
「俺?俺は、近くの駅で待ち合わせして……あっ!」
ニッコリ笑顔で尋ねられたそれに、思わず素直に言葉を返した瞬間、太一が慌てて口を塞ぐ。
誰にも言うなと言われていたそれを、あっさりと教えてしまった自分が情けない。
「うん、分かった。それじゃ、邪魔してごめんね。お休みなさい」
自分の愚かさを呪っていた太一は、明るい声に慌てて顔を上げる。
「あっ、ああ、お休み……」
俯いていた太一は、にこやかな笑顔で部屋を出て行ったヒカリの一瞬の表情に気付かなかった。
そして、うっかりと口にしてしまったそれも、相手が自分の妹なら大丈夫だろうと、自分に言い聞かる。
「…大体、誰にも言うなって、どう言う事だよ……まっ、深く考えても仕方ねぇよな、寝ちまおう!」
そして、太一のその考えは甘く、次の日には、選ばれし子供全員にその事が伝わっていると言うのは、本人とある人物のみ知らない事実であろう。
「いってきま〜す!」
空はいい天気。気分も最高に良く、太一は待ち合わせの時間も十分な時間に家を後にした。
のんびりと歩きながら、一応時間を確認する。
「……約束の時間には、十分だな」
約束している時間は、9時30分。
そして、待ち合わせ場所は、自分の家からゆっくり歩いて、20分の駅。
今の時間は、8時50分。
十分に余裕である、そう、何事も無ければ……。
「太一さん!」
足取りも軽く道を歩いていた太一は、突然後ろから名前を呼ばれて振り返った。
そこに居たのは、自分より一つ下の後輩、泉光子郎。
「よっ!おはよう、光子郎。休みなのに、早いな」
「そうですか?そう言う太一さんも、早いですよ。何か用事でもあるんですか?」
自分の言葉ににこやかな笑顔を見せながら返された問いに、太一は一瞬複雑な表情を見せる。
約束は、約束なのだ。だから、本当の事は言えないのだ。
「えっと、ちょっとな……」
言葉を濁しながら、乾いた笑い。
「そうですか……折角、太一さんが見たいとおっしゃっていた映画のチケットが手に入ったのですが、用事があるのでしたら、無理ですね」
「映画?」
自分の言葉に本当に残念そうに呟かれたそれに、太一が小さく首を傾げる。
最近、誰かに映画に行きたいなどと話しをした記憶は無い。
「はい、恐竜映画なのですが……」
「恐竜映画?……って、俺、光子郎にそんな話したか??」
すっと見せられたチケットは、確かに自分が見たいと思っていたそれである。
だが、一度だってそんな話を誰かにした覚えは無い。
「以前、雑誌に載っているのを見て、おっしゃっていたのを聞いてしまったんです。ですから、お誘いしようと思いまして……」
説明されたその言葉に、太一は驚いたように光子郎を見詰めた。
確かに、先取りの映画紹介の雑誌を見ながら呟いた覚えはある。
だが、自分でも言われるまで忘れるくらい昔の事。
そんな小さな事を覚えている光子郎を前に、太一は正直に感心してしまう。
「…やっぱ、記憶力あるよなぁ……」
ポツリともれた言葉は、感心したもの。
それに、光子郎はニッコリと嬉しそうな笑顔を見せる。
「貴方の事ですから」
これ以上無いと言うほどの笑顔と共に言われたそれに、太一は言われた意味が分からなくって、首を傾げてしまう。
「そう、なのか?」
「はいvv」
分からないと言うような表情を見せている太一を前に、光子郎はただ笑顔で頷く。
「……あっ!」
だが、その瞬間太一は慌てて腕時計に視線を向けた。
「どうかしましたか?」
「…悪い光子郎……もう時間がねぇや…また今度、一緒に行こうぜ」
申し訳なさそうに謝って太一がその場を去ろうとした瞬間、笑顔のままで光子郎が口を開く。
「………誰かと、お約束ですか?」
笑顔と共に質問されたそれに、太一の動きが一瞬止まる。
「えっ、いや、違うって……あっ!俺、急いでるから、悪いな!!」
慌ててその場を誤魔化すように、走る。
ドキドキする心臓は、どうしてなのか?
「…本当に、分かりやすい人ですね。でも、妨害は、ボクだけではありませんよ」
太一の後姿を見送りながら、ただ嬉しそうな笑顔を見せて、光子郎が携帯電話を取り出し既に登録されているある人物へと電話を掛け始めた。
「……げっ、時間……」
光子郎と別れて、時間を確認した瞬間、太一の走るスピードが上がる。
余裕だったはずなのに、既に時計は約束の時間20分前を指していた。
この場所から、待ち合わせ場所へは、全力で走って15分以上は掛かる。
「…折角、早く出てきたのに……」
盛大なため息をつきながら、日頃サッカーで鍛えている足を生かして、待ち合わせ場所へと急ぐ。
「太一先輩!!」
しかしその瞬間、よく知った声を聞いて、太一の足が止まった。
「な、何で、大輔が、居るんだよ!!」
自分の後輩が嬉しそうに走ってくるのを見て、そう思わずにはいられない。
大輔と言う後輩が、休みの日に朝早くから行動しないと言う事を、誰よりも知っているのだ。
「おはようございますvv 朝から、先輩に会えるなんて、俺ってついてるすよvv」
「……お、おはよう、大輔……どうでもいいけど、その抱き付く癖、直せよ……」
自分に抱き付いて来た後輩に、思わず苦笑を零して盛大なため息をつく。
「先輩、今日お暇ですか??」
「えっ、今日は、ちょっと、な……」
瞳をキラキラさせながらの質問に、太一は困ったように否定する。
「…俺、今日、太一先輩にサッカー教えて貰おうと思って、早起きしたんすけど……」
早起きと言っても、学校に行く時間と同じである。
だが、残念そうに呟く後輩に、太一は乾いた笑いを浮かべた。
「悪いな……ちょっと、時間がねぇんだよ……また今度な…」
「あっ!太一先輩!!気を付けて下さいね」
残念そうな相手を残してそのまま走り去ろうとした瞬間、言われたその言葉に、太一の足がぴたりと止まる。
「……気を付ける??」
疑問に思った事をそのまま口に出して、大輔を振り返れば、しまったと言わんばかりに慌てて両手で口を抑えているのが見えた。
「……大輔、どう言うことなのか、説明してくれるよな?」
隠し事が下手な後輩に、ニッコリと極上の笑顔を見せて、問い掛ける。
その笑顔を前に、逆らえるはずもなく、大輔は今回のことを全て太一に説明した。
「……そう言う事だったのか……だから、誰にも言うなって……」
大輔の説明に、太一は深く自分の愚かさを反省してしまう。
あの一言が、今の状態を作り上げてしまったと言う事は、火を見るよりも明らかだ。
「俺も、折角のチャンスだから、便乗しちまったんす……すんません」
「……分かった。…なら、後の妨害は、7人って事だな……ちきしょう!絶対に時間通りに行ってやる!!」
悔しそうに声を上げる太一に、大輔が心配そうに様子を伺う。
「た、太一先輩??」
「そんな訳だから、大輔!!」
心配そうに自分を見詰めてくる後輩に、太一は少しだけ怒ったようにその名前を呼んだ。
「は、はい!!」
「今度、覚悟しとけよ!」
びしっと背筋を伸ばして返事をする大輔に、キッパリとした口調でそう言ってから、太一は慌てて目的地へと走り出す。
「……やべぇ…太一先輩、怒ってる……」
その後姿を見送りながら、大輔は今回の計画に乗ってしまった自分の愚かさを悔やんでしまうのだった。
「あら、太一」
全速力で目的地へと走っている中、良く知った声が自分の名前を呼ぶ。
「悪い、急いで……」
「私が、わざわざ声を掛けてるのに、無視するなんて、いい度胸ね」
そのまま前を走り去ろうとした瞬間のその言葉に、思わず足が止まってしまう。
「あら、急いでるのに、止まってくれたのvv」
ニッコリと花のような笑顔を見せる自分の幼馴染を前に、太一は思わず複雑な表情を見せた。
「……止まれって言った癖に……」
「何か言ったかしら?」
ボソッと呟いたそれに、笑顔のままの問い掛け。
それに、太一は慌てて首を左右に振って返した。
「そう?そんな事よりも、何を急いでたのかしら?」
「…って、連絡網は、バッチリなんだろう、空」
白々しく問い掛けてくる相手に、盛大なため息をついて聞き返す。
それに、空が意外そうな表情を見せた。
「あら、何処でバレたのかしら……ああ、大輔くんね。本当、隠し事が出来ないんだから……」
小さくため息をついて呟かれた言葉なのに、そんなに困っているように見えないのは、その目が笑っているからだろう。
「って、空!!」
「なぁに?」
楽しそうな空に、太一がその名前を呼べば、ニッコリと笑顔が返される。
それに、疲れたように盛大なため息をついて、それでも太一は、自分の気持ちをそのまま伝える事にした。
「……もう知ってるんなら、俺が急いでる理由も分かってんだろう?」
「そうね。でも、私は邪魔するために来たんじゃないのよ。これでも、手助けしてあげようと思ってるんだからね」
言われた言葉に、思わず疑わしい視線を送ってしまうのは止められない。
「あら、信じられない?それじゃ、この後どうなるか、教えてあげるわよ。私の後に丈先輩と伊織くん。それから、賢くんと京ちゃんが待ち伏せてるわ。そして、最後が、ヒカリちゃんとタケルくん。どう、これでも信じられない?」
説明された内容に、太一は少しだけ考えを巡らす。
確かに、何度か助けてもらった事があるのは嘘ではない。
ただ、それと同じぐらい、騙された事があるのだから、簡単に信じられないのだ。
「……本当なのか?」
「勿論よ。それに、待ち合わせの時間まで、残り僅かしかないのよ、信じた方が、太一のためなんじゃないかしら」
言われて、腕時計を見れば、既に約束の時間まで5分しかない。
この後に続く妨害を考えれば、信じるしかないだろう。
「……頼む、空」
顔の前で両手を合わせて、お願いのポーズ。
そんな太一を前に、空はニッコリと笑顔を見せた。
「なら、バカ正直に表から行かないで、裏道から行く事を進めてあげるわよ」
楽しそうに笑いながら言われた事に、そんな事にも気が付かなかった自分を反省する。
きっと、自分なら、そのまま正直に何時も通りの道を通っていただろう。
「サンキュー空!」
「頑張ってね、お礼は、クレープでいいからvv」
「…か、考えとく……xx」
自分を見送ってくれる幼馴染のその言葉に、太一は思わず苦笑を零した。
そして、道を変更して慌てて走り出す。
もう、遅刻は、目に見えて明らかだ。
だから、一分でも早く辿り着けるように、ただ急ぐだけだった。
駅の前、時計を何度も確認しながら佇む少年の姿。
金色の目立つ髪が、太陽の光を浴びているのは、見る人のため息を誘う。
「……遅い…」
待ち合わせの時間から、既に5分が過ぎている。
「…何か、あったのか?」
今まで、遅れそうになった時は、絶対に連絡がきていたのに、それさえも無い。
それに、先程から感じる嫌な予感。
「……ト…ヤマト」
待ち人が来るのを今か今かと待ち続けていた自分の耳に、小さく声が掛けられて、慌てて振り返る。
「た、太一!」
駅の柱に隠れるように自分を手招きしている相手の名前を大声で呼べば、慌てて静かにと言うように口に指一本だけが当てられた。
「…何か、あったのか?」
「……お前、誰にも会わなかったのか?」
自分の傍に慌てて走り寄って来た人物に、太一が思わず聞き返す。
その言われた内容に、ヤマトの表情がさっと青ざめる。
「ま、まさか!」
「……悪い、そのまさか……ヒカリに今日の事がバレてる、来るまでに光子郎と大輔、空に会った」
「……そのメンバーだと、足りないんじゃ……」
疲れたように盛大なため息をつく太一を前に、ヤマトが疑問に思った事をそのまま口に出した。
「…空が、今回味方についてくれてるみたいで、後のメンバーには会わずに済んだんだよ」
「……今日、出掛けるの諦めるか……」
疲れていると分かる太一を気遣うように、ヤマトが残念そうにため息をつく。
「でも、どうしても欲しいものがあるんじゃ…」
「まぁ、今度でも……」
「奇遇だね、お兄ちゃんvv」
諦めたように呟きかけたその言葉が、良く知った声によって遮られる。
それに、太一とヤマトは思わず顔を見合わせた。
「…タ、タケル……」
「ヒカリまで…」
観念したように声のした方を振り向けば、自分たちの兄弟が、嬉しそうな笑顔を見せてその場に立っている。
「タケルくんと、遊びに行く事にしたの。ねvv」
「うん。そしたら、お兄ちゃん達が、ここに居たんだよ。本当に、奇遇だなvv」
ニコニコと可愛らしい笑顔を見せている二人に、太一とヤマトは顔を見合わせて盛大なため息をついた。
「…もういいって……全員に連絡しろよ。今日は、折角だから、一緒に遊ぼうぜ」
諦めたようため息をついて、太一が自分の妹の頭にぽんと手を乗せる。
「…お兄ちゃん?」
「選ばれし子供が、ここまで集まってるんだ。折角だから、楽しまなきゃ損だろう?」
心配そうに見詰めてくるヒカリに、太一がニッコリと笑顔を見せた。
「ミミちゃんが、居ないだけだよなぁ……で、どうする?」
「そうだな、このまま遊園地にでも繰り出すか?」
ヒカリの連絡で集まってきた仲間達に、一人の言葉が引き金になる。
折角集まった、大切な仲間。
偶には、こんな日もいいかもしれない。
「……ヤマト…」
わいわいと賑やかになるそんな子供達を見ながら、少しだけ残念な気分を抱えていたヤマトは、自分の服を引っ張る人物に気が付いて顔を上げる。
「…太一?」
「……ごめんな、今度、絶対に埋め合わせするから」
不思議そうに見詰めれば、そっと耳元で囁かれたその言葉。
それに、ヤマトは一瞬驚いて、相手を見詰めた。
「お兄ちゃん!」
だが、その瞬間、ヒカリが太一の腕を引っ張って、歩き出す。
賑やかな時間。
偶には、こんな日もいいかもしれない。
そう、ちゃんと君が誰のモノなのか、分かるから……。
す、すみません。
随分とお待たせした上に、意味不明小説。
やっぱり、私って、根っからのヤマ太女のようです。
太一さん総受け話も書けない……xx
リクエストは、太一さん総受けの、ギャグだったはずなのに、ギャグって何状態。
本当に、折角のリクエストを申し訳ございません。
小説が、もっと上手くなるように精進いたします。
ASA様、リクエスト有難うございました。
こんな駄文で、本当に申し訳ございません。
こんなものでも、宜しければ、またお願いいたします。(無理だって・……xx)
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