ボクは、ずっとキミが好き 

「ずっと、ヒカリちゃんの事が、好きだったよ」

 そう言われてから、まだ2日しか経っていない。
 なのに、ずっと兄を好きだと思っていた自分の中で、その言葉だけが繰り返されている。
 返事を返さなくてはと思うのに、直ぐにその返事が出来なかったのは、その人の事を嫌いではないから……。

「でも、私は……」
「ヒカリ、電話だぞ」

 ポツリと呟かれたその言葉と同時にドアをノックして声を掛けられて、ヒカリは慌てて椅子から立ち上がり返事を返す。

「あっ!は〜い!」
「ほい、タケルから…・」

 ドアを開ければ、そこに電話の子機を持った兄の姿があり、それを笑顔で差し出される。

「タ、タケルくん?」

 だが、その電話の相手を聞いて、ヒカリは困ったようにその差し出された子機と兄の顔を交互に見詰めてしまう。

「どうしたんだよ、待たせちゃ可愛そうだろう」

 中々電話を受け取らないヒカリに、太一は不思議そうな表情を見せると、ヒカリの表情を読み取ってから、小さくため息をついた。

「出たくねぇんだな…分かった。タケルには、謝ってやるよ」

 ヒカリの表情から読み取ったそれを、太一は保留ボタンを解除してそのままタケルに伝える。

「これで良いんだろ、ヒカリ」

 電話を切ってからため息をつく兄に、ヒカリは小さく頷いてから頭を下げる。

「うん…ごめんなさい、お兄ちゃんに嘘、つかせちゃって……」

 申し訳なさそうに謝る妹に、太一は何時もの笑顔を見せてその頭を優しく撫でた。

「気にするな。そんな事より、ヒカリ……」
「何、お兄ちゃん…?」

 ポンポンと何度か頭を叩かれた後、突然名前を呼ばれて、ヒカリは不思議そうに太一を見ると首を傾げる。

「俺、ずっと部屋に居るからな」

 笑顔を見せながら言われたそれに、ヒカリは一瞬意味が分からないと言うような表情を見せたが、その意味を把握した瞬間、嬉しそうに大きく頷いて返す。

「うん、有難う、お兄ちゃん」

 自分に漸く笑顔を見せた妹に、内心少しだけ安心しながら、太一はそのまま自分の部屋へと戻って行く。
 その後姿を見送って、ヒカリはもう一度ため息をついた。

「嘘、ついちゃった……」

 自分の気持ちが分からないのに、今は話をする事なんて出来ない。

「……お兄ちゃんまで、巻き込んじゃった……」

 自分の気持ちがハッキリしないばかりに、太一までもを巻き込んでしまった事に、ヒカリは罪悪感を感じてしまう。

 勿論、タケルの事は嫌いではない。
 それは友達としても好きだし、それ以上に何かと尊敬もしているのだ。
 そして何よりも、『好き』と言われて、嬉しいと思う気持ちは、確かに存在している。

「私、一体どうしたいんだろう?」

 分からない気持ち。

 人を好きだと言う気持ちは、一杯持っている。
 だけど、特別に好きな人と言われたら、自分は真っ先に『兄』と答えるだろう。

 それ程、自分は兄を好きだから……。
 だけど、告白をしてくれたタケルの事だって、好きな気持ちは変わらない。
 いくら考えても、答えは出ない。
 そして、ヒカリは兄の部屋のドアをノックした。

「入れよ、ヒカリ…」

 ノックと同時に、笑顔で迎えられて、ヒカリは躊躇いながらも部屋に入る。
 兄が中学に上がるまでは、ずっと一緒の部屋だった。
 だけど今は、別々の部屋になってしまい、自分の荷物が無くなっただけだというのに、その部屋は既に知らない部屋に見える。
 兄の匂いが充満している部屋に入った瞬間安心したのと、考えても答えが出ないその悩みにヒカリは困ったように口を開く。

「お兄ちゃん、私、どうしたらいい?」
「ちょっ、待てって……俺にも分かるように、ちゃんと説明してくれよ、ヒカリ……」

 突然そんなことを言われても、何と言葉を返して良いものか分からず、太一は困ったように小さく息を吐き出すと、ヒカリを椅子に座らせて、安心させるように笑顔を見せた。

「俺も、一緒に考えるから、だから大丈夫だって!」

 何時もの笑顔を見せられて、ヒカリは体の力を抜くと、太一に笑顔を返す。

「……お兄ちゃん…」

 自分が落ち込んでいる時や、病気で熱を出した時、この笑顔が何時も自分に力をくれた。
 そして、この笑顔を見れるだけで、自分は幸せになれるのだ。
 太一には、そんな不思議な魅力がある。
 だから、好きなのだと再認識したヒカリは、小さく息を吐き出す。

「…私、お兄ちゃんの事、大好きだよ」

 そして、にっこりと笑顔で言われたそれに、太一は一瞬きょとんとした表情を見せたが、直ぐにまた笑顔になる。

「俺も、ヒカリの事、好きだぜ。俺の、大切な妹だからな」

 嬉しそうに笑いながら言われた太一の言葉に、ヒカリは少し寂しそうな瞳を見せる。

 『やっぱり、お兄ちゃんにとって私は、妹ってだけなんだよね………』

「それで、何があったんだ?」
「ううん…何でもないの…ただね、お兄ちゃんの顔見たくなっただけ・…」

 にこっと笑顔を見せるヒカリに、太一は不思議そうにその顔を見詰めてから、息を吐き出す。

「ヒカリ……タケルが、何かしたって言うのなら、俺が……」
「違うよ!タケルくんは悪くないの!」

 太一の言葉を遮って、ヒカリが慌てて言ったその言葉に、太一は驚いて数回の瞬きを繰り返した。
 居留守を使った事からも、悩んでいる事柄に、タケルが絡んでいると言う事は分かるのだが、そう言った自分の言葉を思いっきり否定されて、太一はどうしたものかと自分の頬をかく。

「えっと、ヒカリ……もしかして、タケルに告白でもされたのか?」

 そして、考え付いた答えがそれである。
 恋愛感情に鈍いと言われている自分にも、何となく予想がついてしまったその内容に、太一は困ったように頭をかいた。
 勿論、鈍いと言うのは、自分に向けられる感情のみに対してであり、自分以外の人間に向けられている感情と言うものは、誰よりも鋭いと言ってもいい。
 ヒカリは、突然言い当てられたそれに、驚いて太一の事を凝視してしまう。

「えっと、俺が、口出す事じゃねぇんだけどな……やっぱり、それは、ヒカリがちゃんと考えてタケルに答えてやるのが一番だと思うぞ」

 頭をかきながら困ったように言われたそれに、ヒカリは大きく目を見開く。

「……タケル、悪い奴じゃないし、冗談でそんな事言うような奴じゃないだろう?だから、お前が出した答えなら、あいつはどんな答えでも納得するはずだぞ」

 兄が自分に言ってくれるその言葉に、ヒカリは大きく頷いた。

「うん、分かってる……私、タケルくんの事、嫌いじゃないよ……」

 笑顔で頷く妹に、太一も安心したようにホッと胸を撫で下ろすと、笑顔を返す。

「そっか……だったら、ちゃんとタケルにそう言ってやれよ。きっと喜ぶぜ」
「うん、これから、タケルくんに、逢いに行ってくる!有難う、お兄ちゃん!」
「ああ、気を付けて、行って来いよ」

 嬉しそうに笑顔を見せて部屋を出て行くヒカリに、太一は笑顔を見せて手を振った。
 そのままバタバタと忙しそうに家を飛び出して行く妹の足跡を聞きながら、太一は盛大なため息をつくと部屋まで持ってきていた電話の子機を手に持つ。

「…ヤマトの奴、怒ってるだろうなぁ……」

 そして、ダイヤルしようとした手を一度止めると、太一はもう一度盛大なため息をつくのだった。





「は〜い!」

 チャイムの音に、急いで玄関のドアを開く。

「タケルくん」

 開いた瞬間、目の前に立っていた人物にタケルは驚いて瞳を見開いた。

「ヒ、ヒカリちゃん…」
「あのね、タケルくん……私、タケルくんの事、お兄ちゃんの次に大好きだよ!」

 にっこりと満面の笑顔を見せて言われたそれに、タケルは一瞬面食らったように何も言えずに居たが、すぐに優しい笑顔を返す。

「それって、すごく光栄な言葉だね…有難う、ヒカリちゃん」
「うん、タケルくんならそう言ってくれると思ってた……だからね……」

 嬉しそうに笑っているタケルの首に手を回して、ヒカリはそっとタケルを抱き寄せるとその頬にキスをする。

「お兄ちゃんよりも、タケルくんの事好きになるように、頑張るね」

 すっと自分から離れると、ぺろっと舌を出して言われたその言葉に、タケルはハッキリと首を振って返した。

「ううん、頑張る必要なんてないよ。だって、ボクは太一さんを大好きなヒカリちゃんの事が好きなんだから」

 にっこり笑顔で言われたそれに、ヒカリは一瞬何も言葉を返す事が出来ない。
 当たり前のように言われたそれは、あまりにもタケルらしいと言えばタケルらしい。

「大丈夫、ボクは、ずっと君が好きだよ」

 優しい言葉とその笑顔。

 きっと、兄よりも好きになるとしたら、この人以外には居ないだろう。
 そして、ヒカリがタケルの事を一番だと言えるようになるのは、まだ少し先の事である。



 ― お・ま・け ―


 ヤマトの家に遊びに行くと言う約束をしていた太一は、大切な妹が何かを悩んでいると言う事の方に気を取られて、見事なまでにヤマトとの約束を無視してしまった。
 そして……。

「だ、だから、本当に悪いと思ってるって……」
『俺との約束なんて、どうでもいいんだろう!』

 受話器の向こうから聞こえて来た、その拗ねたような声に、太一は困ったように再度ため息をつく。

「だから、本当にごめん……この埋め合わせは、絶対にするから……だから、機嫌直してくれよ、ヤマト……」

 何度目になる謝罪の言葉だか分からないそれに、太一は最後の手とばかりに言った言葉は、まさに禁句の言葉だった。

『……本当に、埋め合わせするんだな?』
「ああ、約束する。俺に出来る事なら、何でも聞くから、ごめんって……」
『OK、許してやるよ、その代わり、来週はちゃんと俺の家に泊まりに来い!その時、今日の埋め合わせしてもらうからな』
「分かった……本当にごめん、ヤマト……」

 受話器から戻ってきたその言葉に、太一は何も考えずに返事を返す。
 今は、ヤマトの機嫌が直った事を正直に、喜んでいたのだ。
 そう、それほどまで、ヤマトとの約束を破ってしまった事を深く反省していたのである。
 しかし、その次の土曜日に、太一は頷いてしまった事を後悔させられる事になるのだった。


 そして今は、ここに小さなカップルが出来た事を心から祝福しよう。





 

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  ぐみ様、リクエスト有難うございますvv
  た、確か、タケヒカでシリアス&ラブラブ…xxでも、ウチのヒカリはお兄ちゃん子なので、こんな話に
  なってしまいました。本当に、答えているのかどうか不安です……xx
  イヤ、これは、答えてないと言うのでしょうね…<苦笑>
    

  本当に、すみません。ぐみ様…xx 懲りずに、また宜しくお願いしますね。<苦笑>