「だから、何でこんな事になったんだ!!」
当然のように言われたその文句に、ヤマトは盛大なため息をついて見せた。
「俺に言うなよ!大体、俺だって、一緒に聞かされたんだからな!」
「んじゃ、誰に文句言えって言うんだよ?!」
「んなの分かる訳ないだろう!文句言いたきゃ、学校で、そんなアンケート取った奴等に言えよ」
疲れたように言われたそれに、太一も流石にそれ以上何も返す事が出来なくなってしまう。
確かに、ヤマトが知らなかったと言う事は本当の事だから……。そして、自分がそれを受けたと言うのも、確かに自分の意志なのである。
もっとも、頼まれたら断れないと言う太一の性格を知り尽くしていた、相手の勝利と言ってもいいかもしれないが……。
「『石田と八神に、クリスマスライブを!』と言うのが、一番だったんだよ」
突然放送で呼び出されて、着いた矢先に生徒会長がニッコリと笑顔を見せて言ったその言葉に、太一とヤマトは、訳が分からずに首を傾げてしまう。
「えっと、何が?」
分からないから、思わず聞き返したそれに、生徒会のメンバーはただ笑顔を見せてポンッと太一の肩を叩いた。
「石田君は、もともと生徒会主催のクリスマスパーティーで歌う事になってたんだけど、アンケートの結果、是非八神君とのデュエットでと言う要望があったのよ。私達の方でもアンケートをした以上、その要望に答える義務があるでしょう。だから、八神君お願いできないかしら?」
生徒会副会長が、ニッコリと笑顔を浮かべて自分を見詰めてくる。それに、太一は言われた事を頭の中で考えてから、困ったように口を開いた。
「……で、出来ないかしらって、俺が、ヤマトと一緒に歌うのか?」
不安そうな表情を見せて、隣にいるヤマトを見詰める太一に、その場にいた全員が、暖かな微笑を浮かべる。
「俺に、聞かれても……」
「大丈夫よ、石田君以外のメンバーには承諾を頂いているわ。後は、石田君と八神君が承諾してくれればいいだけだから」
自分を見詰めてくる太一に、ヤマトが困ったようにため息をつく。だが、ヤマトに変わってやはり生徒会副会長が笑顔を見せたまま他のメンバーの気持ちを伝える。
それに、ヤマトはますます複雑な表情を見せた。
「そう言う訳だから、やってくれないか!八神!!」
「や、やってくれないかって……俺は…」
「石田も、相手が八神なら問題ないだろう?お前等が仲がいいのは、学校中に知れ渡ってるんだからな」
当然とばかりに言われたその言葉に、ヤマトも返答に困ってしまう。ここで太一よりも先に自分が頷いてしまったら、後で機嫌を損ねてしまうのは、明らかである。
「……俺としては、太一の意見に従う……太一が嫌だったら、断ってもいいんだぞ」
そして、盛大なため息をついて、考え込んでしまっている太一にそう言えば、複雑な表情で見詰められてしまう。
だが、ヤマトのその言葉で、生徒会のメンバーが一斉に太一に視線を向けたのは言うまでもない。
皆に見詰められる中、太一は困ったような表情を浮かべて、ヤマトに助けを求めるように視線を向けるが、それは小さく首を振られて返されてしまう。
「なぁ、八神頼むよ!生徒会としても、アンケートした以上その要望には答えなきゃいけないんだ。頼む!」
そして、とうとう生徒会長が深々と頭を下げた事で、太一は頷く事しか出来なくなってしまった。
もともと、頼まれると嫌とは言えない性格だと言う事は、知られているだけに、時間の問題だったのは、ここに来たときからヤマトにも分かっている事ではあったのだが……xx
そんな訳で、生徒会主催のクリスマスパーティーに生バンド主演者が決まった。(笑)
「俺って、歌下手なんだろう?」
楽譜を渡されて、不安そうに自分を見詰めてくる太一に、ヤマトが思わず苦笑する。
確かに、太一が歌を得意としていない事を知っているだけに、その心配している気持ちは分からなくも無い。
「心配するな、その為に今日から俺が見てやる事になったんだろう?」
「……そうだけど、下手なのって、直るもんなのか?」
納得しきれないと言う表情を浮かべて自分を見詰めてくる太一に、ヤマトは再度苦笑を零してしまう。
「お前の場合は、直ると思うぞ。きちんと音を聞けば、発音とかには問題ないんだからな」
そして、何枚かの楽譜と、2枚のMDを出して太一に渡した。
「とりあえず、歌うのはクリスマスメドレーと俺たちのオリジナル曲って事になってるから、このMD聞いとけよ」
すっと差し出されたそれを太一が、渋々と言った様子で浮け取る。そんな様子の、太一に、ヤマトは笑顔を見せた。
太一が、一度引き受けた事をいい加減に出来ないという事を知っているからこそ、そんな態度を見せる太一が可笑しいのだ。もっとも、そんな態度を見せるのが、自分だけだと分かっているから、嬉しくなってしまうのは止められない。
「……何が、可笑しいんだよ、ヤマト……」
自分の様子を見つめながら笑っているヤマトに、不機嫌そうな視線を向ければ、さらに笑いが深くなってしまう。
「別に…ただ、太一と一緒に歌うのが、俺の夢でもあったから、嬉しいと思ってるだけさ」
にっこりと優しい笑顔を見せながら言われたその言葉に、太一の顔が少しだけ赤くなるのを見逃さない。
「……お前となんて、一緒に歌いたい訳ないだろう……」
そっぽを向いて呟かれたそれに、思わず苦笑してしまう。照れていると分かるその太一の態度が、可愛いと思えるのだ。
「て、照れ隠しじゃないからな!お前は、バンドのボーカルやってるけど、俺は、そんなに歌上手いと思わないし……人前でなんて、歌えないんだよ!」
「……太一、それが照れ隠しだって言うんだぞ……」
自分にムキになって言い訳する太一に、呆れたようにため息をつくと、ヤマトは直ぐ傍に置いてあったギターに手を伸ばした。
「んじゃ、俺が一つ歌ってやるよ……何がいい?」
「…と、突然だなぁ……でも、歌ってくれるんなら、クリスマスメドレーでいいぜ。MD聞くより、生で聞きたいvv」
ギターを持って尋ねられた事に、一瞬呆れたような表情を見せるが、直ぐに笑顔になってリクエストを出す太一に、ヤマトは満足そうにうなずいて返した。
「んじゃ、練習って事で、一緒に歌おうぜ、太一」
「……最初は、一人で歌うのが、基本だろうが!」
にっこりと言われたその言葉に、思わず突っ込みを入れてしまった自分に、太一は苦笑を零す。そんな太一に、ヤマトも苦笑を零した。
「なら、仕方ないなぁ……」
「ヤマト?」
ため息をついて、ヤマトが呟いたそれに、太一が不思議そうに首をかしげる。そんな相手に、ヤマトは笑顔を見せるとゆっくりとした動きでギターを弾き始めた。
ギターを弾き始めたヤマトを前に、太一はその動きをただ見つめる。何度かヤマトのライブを見に行った事があるが、やはり演奏している時のヤマトの真剣な表情にどきどきした事を思い出して、こっそりとため息をついてしまう。
こんな風に思ってしまう自分に、呆れてしまうのだ。
ヤマトとそう言う意味での付き合いを始めてから、半年。それが早いのか遅いのか分からないけれど、今だにヤマトの表情の一つ一つにどきどきしてしまう自分がいる。
『……重症だよなぁ……』
自分の考えた事に、再度ため息をついて、太一はゆっくりと瞳を閉じた。ヤマトが奏でているギターの音を聞きながら、体の力を抜いていく。
クリスマスメドレーの曲は、ジングルベルを始め、幾つかの曲が織り交ざっている。この曲を聞く度に、『ああ、もうそう言う季節なのか』と思わずには居られなくなってしまう。
「っで、歌えそうか?」
「……た、多分……」
ヤマトの歌に聞き入っていた太一は、突然心配そうに声を掛けられて、思わず苦笑を零しながら小さくうなずいて見せる。
歌を歌うこと自体は、嫌いじゃない。だけど、それをいざ人前で歌えと言われた、流石に躊躇してしまうのは、きっと自分だけじゃないだろう。太一の今の心境は、そんな感じなのだ。
「……分かった。兎に角、歌ってみろよ」
太一の頼りない返事に、ため息をつくと、ヤマトが先程と同じ曲を弾き始める。それに、太一は慌てたように大きく首を振って返した。
「ちょ、ちょっと待て!行き成り歌うのか?!」
「……歌わなきゃ、始まらないだろう?それに、その為にここに来たんじゃないのか?」
慌てている太一に、盛大なため息をついて、聞き返されたそれに、思わず返答に困ってしまう。確かに、ここ来た目的は、ヤマトに歌を教えてもらうというものだったのだ。クリスマスパーティーまで日がないので、バンドのメンバーに合わせる前に、ヤマト自身が太一に、教えると言うのが、今の目的なのである。
それは、分かっているのだが、ボーカルを務めている人物の目の前で歌うのは、正直言ってかなり勇気が居るのだ。
太一は、思わずヤマトを上目使いで見詰めてしまう。
「そんな目で見ても駄目だ。時間無いって言っただろう?お前、この曲全部覚えないといけないんだからな」
自分の事を見詰めてくる太一に、苦笑を零すと、ヤマトはその頭にぽんっと手を置いて、少しだけ乱暴に撫でる。
「……ほら、いい子だったら、ちゃんとしろよ」
「人の事、子ども扱いするなよな!」
笑いながら言われたそれに、不機嫌そうにヤマトを睨み付けて、太一は諦めたように盛大なため息をつく。
「……歌えば、いんだろう!」
そして、半ばヤケクソ状態で、演奏なしにそのままヤマトが歌った曲を歌い始めた。
諦めたように歌いだした太一に、ヤマトは一瞬だけ驚いたように瞳を見開く。今までまともに太一の歌を聴いたことが無かっただけに、今歌われているその声を聞くと、思わず感心せずにはいられない。良く通るその声は、耳に心地よく響いてくる。
「…で、いいのか?」
「お前、本気で俺たちのバンドに入らないか?」
「はぁ?」
歌い終わった瞬間、言われたそれに、太一は思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、仕方ないだろう。
そんな風に訳のわからないと言うような表情を見せている太一に、ヤマトが苦笑を零す。きっと、ここで『上手い』と誉めても、本気にはして貰えないだろうと分かるから……。
「それだけ歌えれば、十分だ。太一、歌下手じゃないから、安心しろ」
「……お前に言われても、信じられるか!」
笑顔を見せながら言った言葉に、想像通りの答えが戻ってくる。それにもう一度笑顔を見せて、ヤマトは、小さくため息をついた。
本当に、太一の歌は、下手ではない。聞きなれているその声は、とても耳に心地よくって、ずっと聞いていたいと思えるくらいなのだ。
「……本当の事なのになぁ……」
ため息と同時にポツリと呟いて、ヤマトは持っていたギターを抱え直す。
「それじゃ、そんな事を言う太一の為に、今日からみっちりと歌わせてやるよvv」
「……うそ、だろう?」
そして、その日からライブに向けて毎日、ヤマトの家へと連行される太一の姿を見たと言う人は、後を絶たなかった。
「……俺、当分歌いたくない……」
毎日、ヤマトと二人でマンツーマン状態で特訓をされた太一は、疲れたように盛大なため息をつく。
「……今日が終われば、当分は必要なくなるさ」
疲れて、机に突っ伏している太一の姿に、苦笑を零しながらその隣でヤマトは準備をしている。
「………このまま、逃げ出していいか?」
「駄目に決まってるだろう!その前に、今日までの練習を棒に振る気か?」
そんなヤマトに、そっと視線を向けて尋ねられたそれは、直ぐに返されたそれによって言葉を無くしてしまう。
思わずもう一度盛大なため息をついてしまうのは、止められない。
「……心配しなくっても、リードはちゃんとしてやる。それとも、俺のこと信じられないのか?」
「お前の事が信じられないんじゃなくって、自分の事が信じられないんだよ!」
心配そうに自分のことを見詰めてくるヤマトに、太一が慌てたように言葉を返したそれに、ヤマトが嬉しそうな表情を見せた。
きっと、本人は何も考えずに言っているのだろうが、何気ないその言葉が自分を幸せにしてくれる。
「なら、お前が信じてる俺の言葉を信じろよ。あいつらも言ってただろう、心配するなよ」
「ヤ、ヤマト……」
優しい笑顔と共に言われたそれが、自分に力をくれるのだ。きっと、知らないだろう、自分がヤマトの言葉にどれだけ救われているかと言うことに……。
「それと、これは緊張しない為だ」
「えっ?」
突然言われた事に驚いて顔を上げた瞬間、唇に暖かな感触。それに、太一は一瞬訳が分からなかったが、何が起こったのか分かった瞬間慌てて自分の唇に手を当てる。
「ヤ、ヤマト!」
真っ赤になって自分の名前を呼ぶ相手に、ヤマトは嬉しそうな笑顔を見せた。
「これで、緊張しないだろう?」
「……バカ……」
真っ赤になったまま自分の事を睨んで来る太一に、ヤマトは優しい笑顔を見せる。
「お〜い、そろそろ時間だぜ」
そんな幸せな時間の中、ノックと共に声を掛けられて、ヤマトと太一は互いの顔を見合わせて思わず苦笑を零してしまった。
「…時間だってよ、ヤマト……」
「…せめて、後5分は待ってて欲しかったんだけどなぁ……」
「5分って、お前、何するつもりだったんだよ!」
「…緊張してる太一なんて、滅多に見れないからな」
残念そうにため息をつくヤマトを前に、太一は思わず盛大なため息をついて見せてしまう。そんなヤマトに、今まで感じていた緊張が薄れているのを感じて、小さく笑いを零してしまう。
「……お前が、一緒なんだから、緊張する必要ないんだよなぁ」
そして、隣に居るヤマトに、何時もの笑顔を見せれば、満足そうな笑顔が変えされた。
「その通りだ。そんじゃ、思いっきり楽しもうぜvv」
「だよなvv」
お互いに顔を見合わせて笑顔を見せ合うと、そのまま部屋を後にする。
その後、生徒会主催のクリスマスパーティーは、今までに無い賑わいを見せた。
それは、学校で絶大な人気を誇るヤマトと太一が、デュエットでライブを開いたからである。それに、集まった全ての生徒が生徒会に心から感謝の気持ちを送った事は、言うまでも無い事実。
そして、その年のクリスマスパーティーは、過去最高の人数が集まったと言う事は、彼らの人気を再確認させる結果に終わったのは、言うまでも無い。

って事で、21000HITリクエスト小説です。翼様、有難うございますvv
とっても素敵なリクエスト…なのに、お答えしてない……xxライブはどうしたんだ!!
これ以上、書けなかったんです、本当にすみません(><)
実はこのお話、クリスマス特別部屋に載せようと思って考えていたネタだったりいたします。
このリクエストを頂いた時、もうこれしかない状態で、書かせていただきました。
でも、これでクリスマス内容をもう一度考え直し状態です……頑張ろう!<苦笑>
そんな訳で、21000GET&リクエスト本当に有難うございました。
少しでも、希望に添えられたお話が書けていれば良いのですが……xx
こんなお話じゃ、無理ですよね…やっぱり……xx すみませんでした。(><)
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