夏休みも、後もう少しで終わってしまう。
そんなことを考えて、太一は小さくため息をついて、窓の外へと視線を向けた。
眩しいくらいの青空が続いているのを、ボンヤリと眺めると、視線を片付けなければ行けない宿題へと戻した。
そして、突然の来客は、そんな中訪れた。
妹のヒカリは友達の所に行くと言っていたし、母親は近所のおばさんと約束をしたとかで、朝から出掛けたまま、当分は帰ってこないだろう。
そんな事を思い出して、太一は仕方なくチャイムの音に立ちあがった。
朝からずっと珍しく真面目に勉強をしていたため、疲れたようにため息をつくと、玄関のドアを開ける。
「よっ!」
「ヤマト!!」
そして開いた瞬間、そこに立っていた人物に、太一は驚いてその名前を呼ぶ。
「お前の事だから、宿題してるんだろう?便乗させてもらおうと思って、来たんだ、良かったか?」
心配そうに尋ねられたそれに、思わず苦笑を零して、太一はウチの中へヤマトを招き入れる。
「俺が、宿題してるの、良く分かったなぁ……」
ソファにヤマトを座らせると、太一は冷蔵庫からウーロン茶を取り出して、二つのコップに入れ、一つをヤマトに差し出しながら、感心したように呟いた。
「サンキュー。ああ…空から聞いた」
「空?俺、空にそんな事言ってねぇけどなぁ……」
礼を言ってから受け取ったカップに口をつけながら言われたそれに、太一は自分もソファに座ると、自分の記憶をたどるように考えを巡らせる。だが、やはりそんな記憶は、思い出されなかった。
「んっ?ああ…空から聞いたのは、多分って話だったけどな。その様子だと、図星って所だな」
必死で考えている相手に、ヤマトは苦笑を零しながら真実を告げる。
あっさりと言われたその言葉に、太一は盛大なため息をつくと、コップの中身を全部飲み干してから、ため息をつく。
「……あっそ……」
自分の行動パターンを読まれていると言う事に、太一はもう一度ため息をついた。
「んで、何処まで進んだんだ?」
拗ねたようにそっぽを向いていた太一は、突然聞かれたそれに、素直に首をかしげる。
「はぁ?」
問われた意味が分からないと言う顔をしている太一に、ヤマトは思わず苦笑を零した。
「お前なぁ…今話してたのは、宿題の事だろう?」
呆れたように言われたそれに、太一も漸く内容を掴んで大きく頷いて返す。
「ああ!そうだったよなぁ……殆ど、終わってるけど、数学に頭悩ませてたところ……」
「数学ねぇ…お前、数学苦手だもんなぁ」
笑いながら言われたそれに、『うるさい!』と返してから、太一はソファから立ち上がると、空になったコップに再度ウーロン茶を注いだ。
「…ヤマトもいるか?」
「ああ、サンキュー」
尋ねられた事にコップを差し出して、注いで貰う。コップに注がれた茶色い液体を見詰めながら、ヤマトは持ってきていた鞄の中からノートを取り出した。
「ほら、数学のノート」
「えっ?もしかして、もう終わってるのか?」
苦笑混じりに差し出されたそのノートに、太一は驚いたようにヤマトを見詰める。
「一様な。やるべき事は、先にしないと落ち着かないだろう」
ノートを受け取りながら、感心したように言われたその言葉に、ヤマトは笑顔を見せてサラリと言葉を返す。
「……それって、便乗しに来たって言わないんじゃ……」
「まっ、そうだなぁ……お前の家庭教師ぐらいには、なるだろう?」
ニッコリと笑顔で言われたそれに、太一は呆れたようにため息をついた。
「……お前の授業料って、すげー高そうだよなぁ……xx」
そして、ポツリと漏らしたその言葉に、ヤマトが更に笑顔を深める。
「期待してくれてるんなら、答えないとだよなぁvv」
「……誰も、期待してないだろう……」
嬉しそうな笑顔を見せているヤマトに、太一は盛大なため息をついた。
そして、今日はもう勉強などしていられない状態であると言う事に、更に疲れたように息を吐き出してしまう。
「……頼むから、後は付けるなよ!」
「…努力はしといてやる……でも、保証は出来ない……」
そっと耳元で囁かれたその言葉に、ピクリと体が反応する。そんな自分の体に、太一はため息をつくとゆっくりとヤマトの頭を抱き締めた。
「……努力だけじゃなくって、保証してくれ……夏に厚着するの、イヤだからな!」
「……善処する……」
自分の動きを止めるように掴まれている腕をそっと外してから、ヤマトは苦笑するように頷いて返す。
そして、真っ直ぐに太一を見下ろすように見詰めるとそのままゆっくりとキスをする。
太一も、そんなヤマトのキスを当然のように受け止めた。
こうやって、体を合わせるのは初めてではない。だからと言って、この行為を喜んでいると言えば、嘘になるだろう。何度こうやって体を合わせても、恥ずかしさはどうしても付いて回ってくる。
「・・んっ…」
深く入り込んでくる舌の動きに、太一は何時も戸惑ってしまう。
逃げるようにする自分の舌を、ヤマトのそれが執拗に追ってくる。頭の奥が痺れるような感覚に、何も考えられなくなって行く。
「太一……」
ゆっくりと離れた唇が、自分の名前を形作るのに、太一はそっと瞳を開いて、目の前の人物を見上げた。
優しい紫とも青とも見える瞳が、自分を見つけてくるのに、太一は小さく笑いを零す。何時も、自分の事を抱く時に、ヤマトが見せるその表情が、自分は一番気に入っている。
きっとこの顔を見れるのは、自分だけだと知っているから……。
「……好きだ、太一・……」
「…分かってる……だから、明日は、ちゃんと宿題するの手伝えよな!!」
伝えてくる想いを受け取りながら、太一は少し赤い顔をして、ヤマトに言葉を返した。その言葉に、ヤマトは苦笑を零すと、ゆっくりと太一の耳元に顔を近づけた。
「分かってる……」
少し低い声が耳元で囁きかける言葉に、太一の体が小さく反応を返す。それを確認して、ヤマトは薄く笑うとゆっくりと手を動かし始めた。
Tシャツの裾から入ってくるその手の動きに、ピクリと震える体を感じながら、ヤマトはそっと胸の突起に手を伸ばす。
「あっ……」
触れるのと同時に漏れた声に、もう一度笑顔を見せると、ヤマトはそのままTシャツをたくし上げた。
少し日に焼けた肌が目の前に晒される。その肌が、羞恥で赤く色付いていくのを見るのが、好きだといったら、きっと怒らすだろうと思いながら、ヤマトはそっと唇を下へとずらして行く。
首筋から、ゆっくりと辿るように唇を動かせば、太一の口から甘い声が聞こえてくるのに、ヤマトは嬉しそうな表情を見せた。
そして、胸の突起に軽いキスをすると、舌でつつく。
「…やっ、だ・…ヤ、マトぉ・……」
鼻にかかったような声で名前を呼ばれて、ヤマトは意地の悪い笑顔を見えた。こんな時だけは、相手を自分のモノに出来たと感じられて、幸せを感じずには居られない。
ゆっくりと太一の肌を堪能しながら、ヤマトは太一を追い詰めて行く。
自分だけしか今は感じさせない様に、そして、自分だけのモノだと確認する様に……。
「太一、いいか?」
感じる波に翻弄されている様な虚ろな瞳をしている太一の耳元にそっと囁きかければ、小さく頷いて返される。それに優しい笑顔を見せると、ヤマトはゆっくりと体を動かした。
「あっ・…うっ…んっ・…ヤ、ヤマト……」
「大丈夫だから、力を抜くんだ…」
何度も経験しているその痛みだけはどうしてもなれる事はなく、太一の顔に苦痛の色が浮かぶのを見て、ヤマトは優しく頬にキスを送る。太一の顔に何度もキスの雨を降らせて、その体から余計な力が無くなるのを辛抱強く待つ。
「……大、丈夫、だから・・…動いても、平気……」
自分の顔に優しいキスの雨を降らしてくる相手に、太一はそっと手を伸ばしてその頬に触れると、笑顔を見せる。
「……分かった…」
笑顔と言われた事に、ヤマトも笑顔を返すとゆっくりと体を動かし始めた。その動きに合わせた様に、太一の口から悲鳴のような声が上がる。
「…た、いち……」
「・…ヤマトぉ・……」
激しくなる動きに、ベッドが軋む。そんな中、二人はそのまま絶頂の時を迎えた。
「……後、残すなって、言っただろう!!」
疲れた体を何とか清めてから、太一は目の前で寛いでいるその人物に、文句の言葉を言う。
「・…服の上から、見えない所にしか、付けてない……」
太一の文句に、視線を逸らしてボソリと呟かれたその言葉に、太一は呆れた様なため息をついた。
「お前なぁ・…それでも、こんな所に付ける事ないだろう!!」
少しだけ赤くなっているのは、怒りの所為ではなく、恥ずかしいからだと分かる。そして、太一が指差した場所は胸の直ぐ下。確かに、服の上からは分からないかもしれないが、目立つ所にあるので服を脱げば一発でばれてしまうだろう。
「…俺、泳ぎに行けないじゃん……」
「いいだろう、学校始まるまで、後1週間はあるんだから、消えるさ・……」
「…そんな問題じゃないだろう!ああ、もう!!ヤマト!!!」
サラリと言われたその言葉に、太一はヤマトを睨みつける。
「ああ?」
「お前の所為だからな!だから、責任、ちゃんと取れよ!!」
真っ赤な顔のまま言われたそれに、ヤマトは一瞬不思議そうな顔をして見せたが、それが直ぐに笑顔に変わって、そっと太一を抱き寄せた。
「勿論、俺が責任持ってやるよ……授業料も貰ったから、たっぷりと勉強見てやるからなvv」
「……他の勉強は、いいからな……」
嬉しそうな笑顔で言われたそれに、太一は苦笑をこぼしながらため息をつく。
「それじゃ、今日から俺の家に泊りにくるか?」
「……遠慮しとく、残りの休みが潰れちまうから・…お前と居ると……」
苦笑しながら言われたそれに、ヤマトは仕方なくため息をついた。
「なら、俺が出張してきてやるよ、お前の為に……」
「当たり前だ!高い授業料払ったんだから、ちゃんと働けよ、ヤマト」
「…了解・…」
自分達の言った言葉で、どちらからともなく笑い出す。そして、もう一度だけ、ゆっくりとキスをした。
夏休みも、後1週間で終わってしまう。だから毎日君に会えるように・・…。
宿題なんて、ただの口実。君に会えるこの時間だけが大切な事だから、ねvv

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