「お兄ちゃん、太一さんから葉書。はい」

 渡されたそれに、一瞬驚きを隠せない。どうやってここの住所を知ったのかは分からないが、渡されたそれには、自分の良く知っている相手の書かれている。

「お父さんに、態々住所聞いたのかなぁ?明日には、向こうに戻るのにね」

 ニッコリと笑顔を見せながら言われた言葉に、俺はただ小さく頷いて返した。
 確か、自分が出した葉書には、『後2〜3日で帰る』と書いた記憶がある。
 なのに、送られてきたそれを前にされて、複雑な心境なのは隠せない。そう、もしかしたら、自分が帰ってから届けられる事だってあるのだから……。

「行き違いになったらどうするつもりだったんだ、あいつは……」

 そう、正直に思うのだ。このまま、太一から送られてきた暑中見舞いが見れなかったら、どうするつもりだったのかと……。
 だが、その考えは、葉書の癖に余分に張られた切手によって、苦笑へと変わる。

「その為に、速達で送ってきてくれたんでしょう、太一さん」

 自分で見つけたそれに、タケルが笑いながら言われた言葉に、俺も納得せざる終えない。
 万が一にも、俺たちと葉書が行き違わないようにようにと言う、太一らしいとも言える配慮。

「それにしても、暑中見舞いを速達で出すなんて、太一さんらしいね」

 笑いながらのタケルの言葉に、俺も笑うしかない。本当に、そんな事するヤツは、あいつぐらいだ。
 変な所で、律儀と言うか、配慮は行き届いていると言うべきなのだろうか? 「ヤマト、タケル!スイカ切るで、食わんか?」
 そんな中、聞えてきたばあちゃんの声に、タケルが返事を返す。


 今は、夏真っ盛り。
 何時もと違う日常の中で、確かな存在が居ない事。それが、寂しいと感じている自分。
 祖父母の家に泊り掛けでのタケルとの旅行。毎年恒例ともなっているこの行事は、今では、少しだけ不満をもたらす行事になってしまった。
 自分にとっては、非現実的なこの世界は、すべて、大切な人がそばにいないと言うたったそれだけの事。
 そして、漸く明日には、何時もの日常が戻ってくる。
 大切で大事な存在が、自分の傍に戻ってくるのだ。


 『暑中見舞い申し上げる!(笑)
  後少しで、戻ってくるんだな?土産、楽しみにしてるぞ!!
  それと、今年の俺は一味違うぜ。
  宿題は、俺にしては、ばっちりだぜ!後は、ヤマトが戻って来た時に、分かんねぇとこ教えて貰うだけ!
  ちょっとは、頑張ってるだろう?
  それと、人を子ども扱いすんな!俺とお前は、同い年なんだよ!


 追伸
  俺も、お前が居ないと物足りない。だから、早く帰って来い。
                                           太一』