「いよいよ、明日!」

 丸印の入ったカレンダーを見詰めて、太一は笑みを零す。

 明日は、特別な日。
 一年の中で、大切な大切な日だから……。

 明日の為に、色々と準備も整えている。

「よし!」

 もう一度カレンダーを見詰めて、大きく頷くと、満足そうに笑顔を浮かべた。

「驚くだろうなvv」

 自分の事となると無頓着だからこそ、明日と言う日に驚かせたいと考え、行動に移したのだ。

 勿論、他のみんなからも直ぐにOKの返事を貰えたから、準備に戸惑う事はなかった。
 一番助かったのは、彼の弟が協力してくれた事。

「ヒカリ!タケルとの打ち合わせ、大丈夫か?」

 そして、最終確認とばかりに、妹へと声を掛ける。

「大丈夫だよ。おじさんも、協力してくれるから、もうばっちりvv」

 ニコニコと可愛らしい笑顔を見せながら、言われた言葉に安心して笑顔を返す。

 失敗はしたくない。
 一年で、たった一日の明日。

「それじゃ、俺達も、最後の準備するか」
「そうだね」

 成功させる為に、皆で役割を決めた。

 自分達の担当は、料理。
 明日の準備の為に、二人は仲良くキッチンへと移動した。




「太一!これ運んでちょうだい!」
「おう!」

 ばたばたと忙しそうに動き回る中、空の声に、太一が返事を返して、差し出されたものを受け取る。
 時間の掛かるものは、分担して持ち寄ってきたのだが、簡単なものは、その場で作るという事になり、キッチンの中を忙しそうに空と太一が歩き回っていた。

 リビングでは、丈に光子郎とミミ、ヒカリとタケルが部屋の飾り付けを担当している。

「時間、大丈夫か??」

 ちらりと壁に掛けられている時計に目をやれば、既にここに来てから1時間は過ぎていた。

「大丈夫だよ、お父さんに、5時まではお兄ちゃんを帰しちゃ駄目って、言っておいたから」

 太一の心配そうなそれに、タケルがにっこりと笑顔を見せて、返事を返す。

「そっか、5時なぁ……」

 時計は既に、4時になろうとしている。

「……ぎりぎりかなぁ……xx」

 そんな状態に、太一は盛大なため息をついて、キッチンへと逆戻りした。

「太一、そろそろスープ作ってくれる?私は、から揚げ揚げちゃうから!」
「OK!気をつけろよ」

 戻った途端に言われた言葉に頷いて、太一は油を使う空に忠告する事を忘れない。

「大丈夫……だと、思う……」

 滅多に料理をしない相手の事を知っているからこそ、思わず苦笑を零してしまう。
 お菓子作りは得意なのに、料理は駄目と言うのが、太一には理解できなかった。

「代わった方が、良くないか?」
「私に、スープが作れると思う?」

 びくびくと揚げ物をしている空を前に、不安げに問い掛ければ、逆に聴き返されてしまう。

「いや、俺が指示出してやるから・……それに、今回のスープは、簡単スープだし……」
「本当に?」
「おう!俺でも作れるんだから、大丈夫だって!!」

 心配そうに自分を見詰めてくる空に、太一がきっぱりと言い放つ。
 その言葉に安心したのか、空がその場所を譲る。

「……分かった…お願いね、太一」
「任せとけって!覚えて、おばさんに作ってやれよ、喜ぶぜ」
「うんvv」

 嬉しそうな笑顔を見せる幼馴染に、太一も笑顔を返す。

 あの冒険から、ぎこちなかった空と母親の関係が、今ではその蟠りが解けている事を知っているから、素直に喜ぶ事が出来るのだ。
 まだ、一年も過ぎていない冒険の日々は、今、ここに集まっている皆にとって、忘れられないもの。
 それは、今ここにいない一人の少年も同じだろう。
 だからこそ、その大切な自分達の仲間の特別な日を、あの時と同じように過ごしたいと考えたのだ。

 今、こうして居られるのは、全て、あの冒険があったから……。

「んじゃ、スープな……まずは、なべにお湯を入れて、固形スープを溶かす」

 手は、から揚げを揚げながら、太一はスープの作り方を、空に説明し始めた。
 自分の言葉通りに、空が準備をするのを見守りながら、太一の手は、しっかりと動いている。

「んで、その間に、トマトを1cm角くらいに切って……後は、切ったトマトとツナ缶を入れる。あっ!汁も全部な。んで、ミックスベジタブルとローリエにマカロニを加えて、煮込む。後は、マカロニが柔らくなったら、塩と胡椒で味を整えて、出来上がり!」
「本当に簡単……」

 自分の言う通りに作ったスープを前に、空は感心したように呟いた。

「味見してみろよ、結構いけるんだぜ」

 自分の言葉に頷いて、空がスープの味見をする。

「やだ、想像していたのより、おいしい……」
「って、何だよ、それ……」

 確かに、ツナ缶を使っている時点で、そう思っても仕方がないだろう。
 しかし、予想に反して、結構けるのだ。

「……ごめん…えっと、スープが出来て、サラダも用意された。から揚げももう直ぐ揚げ終わるから……後は、サンドイッチを切って、盛り付けてるくらいかしら?」
「そうだな……時間、大丈夫か?」
「多分……」
「こっちの準備は終わりました」

 最終確認をしていた二人の耳に、光子郎が声を掛けてくる。

「手伝う事、なぁい?」
「おう!それじゃ、冷蔵庫から飲み物の準備と、お皿を用意してくれ!割らないように、気を付けろよ」
「は〜い!」

 太一からの指示に、年少組みの二人が嬉しそうに返事をする。

「それじゃ、僕と光子郎でお皿を準備しようか……ミミくん、タケルくんとヒカリちゃんで、飲み物の準備してくれるかい?」

 そして、最年長の丈が、ミミにヒカリとタケルそれぞれにお願いをして、光子郎と共に、お皿の準備を始めた。

「よし!こっちも終わった!空、そっちはどうだ?」
「こっちも、終わったわ。えっと、お箸は、割り箸でいいかしら?」
「おう!買って来た!コップも、紙コップがあるから、出してくれ!あっ!皿も、紙にした方が良かったか?」
「いいんじゃないの……それより……」
「太一さん!お兄ちゃんが、帰ってきたよ!!」

 最後の準備をしている中、ジュースを運び終えたタケルが、慌てたように報告に来たその言葉に、太一と空は顔を見合わせた。

「やばい!電気消せ!!クラッカーちゃんと準備してるよな??」

 その言葉に、一層慌しくなる。
 そして、次の瞬間、電気が消された。




 先ほどまで灯っていた明かりが、突然消えてしまった事に、ヤマトは素直に首を傾げる。
 勿論、自分の家に誰かが居るなどとは、思えない。
 先ほどまで、ここに住むもう一人の人物と一緒に居たのだから、間違いはないだろう。

「……気の所為か?」

 出迎えてくれる人など居ない自分の家へと向かいながら、小さくため息をつく。

 今日という日は、自分が生まれた日。
 祝ってくれる人が居ないと分かっていても、それは特別な日。
 だが、同じように過ぎて行く今日と言う日に、ヤマトは再度ため息をついた。

「ばかばかしい……」

 願っても叶えられない事。
 誰かに、祝ってもらいたいと思うのは、まだ自分が子供だから?

「……戻って、飯作るか……」

 いつもと同じように自分で食べるものを作って、そして、風呂に入って寝るだけ。
 特別な日なのに、いつもと何も変わらない。

 盛大なため息をついて、家の鍵を取り出して、鍵穴に差し込むとゆっくりとドアを開く。

「HAPPY BIRTHDAY ヤマト!!」

 その瞬間、賑やかなクラッカーの音と、数人の声が自分を出迎えて、ヤマトは驚いて瞳を見開いた。

「なっ……」

 あまりにも突然だった為に、一瞬言葉が出てこない。
 自分を出迎えてくれた人達は、とって、大切な仲間達……。

「誕生日、おめでとう、ヤマト!!」

 そして、そっと差し出された手は、自分の大切な親友。

「お前ら……」

 あまりにも突然だったからこそ、直ぐには反応出来ない。

「ほら、入って!パーティーにしましょう!」

 改めて差し出されてる、7人の手。
 何時もと同じように過ぎて行く筈だった、特別な日が、この手によって変えられていく。

「……サンキュー…」

 大切な大切な日。
 君が生まれたその日は、特別。
 だから、この特別な日に、感謝しよう。

 生まれてきた事を……。
 そして、君たちに出会えた事を……。

 この特別な日に……。