「ねぇ、タイチ…タイチが一番好きな人って、誰?」

 突然尋ねられたその言葉に、聞かれた相手は、驚いたように自分のパートナーを見詰めた。

「ア、 アグモン?」

 嬉しそうに自分の事を見詰めてくる緑色の瞳。
 無邪気なその姿を前に、太一は困ったような表情を見せる。

「タイチ?」

 困ったように自分の事を見詰めてくる太一に、アグモンが不思議そうに首をかしげた。

「ボク、何か変な事聞いた?」
「えっ、いや…そんな事ねぇよ!俺の一番、好きな奴だろう?」
「うんvv」

 心配そうに見られて、慌てて太一が笑顔を見せると問い返す、それに、アグモンが嬉しそうに頷いた。

「……ア、アグモンに決まってるだろう」
「本当!ボクもね、タイチの事が、一番大好きだよvv」

 自分の答えに、嬉しそうに抱きついてくるアグモンを前に、太一は思わず苦笑を零してしまう。
 今、この場所にある人物が居ない事を、心から感謝しながら……。


                             ― 大好きな君 ―


「ガブモン!」

 遠くから自分を見付けて大きく手を振っているその姿に、ガブモンは笑顔を見せた。

「アグモン!」
「一緒に、お昼食べようよvv」

 片手で抱えきれないほどの果物を持ったまま、アグモンが嬉しそうに走りよってくるのを、ガブモンはただ笑顔を見せながら待つ。

「まだ、お昼食べてないよね?」
「勿論だよ、アグモン」

 持ちきれない果物を受け取りながら、ガブモンが嬉しそうに笑顔を見せて頷いて返す。
 それに、アグモンは、ニッコリと笑顔を見せた。

「だったら、向こうの丘で一緒に食べよう。今日は、天気がいいから、気持ちいいと思うんだvv」
「うん……」

 二人並んで、そのまま丘を目指して歩き出す。
 そんな中でも、アグモンは嬉しそうに笑顔を見せていた。

「アグモン、何かいい事あったの?」

 機嫌のいいアグモンを前に、ガブモンまでもが嬉しくなってくる。
 やっぱり、大好きな人が笑顔を見せてくれるのは、とってもいいことだから……。

「うんvv タイチがね、ボクの事一番好きだって、言ってくれたからvv」

 だが、ニコニコと笑顔を見せながら言われたその言葉に、ガブモンは思わず複雑そうな表情をしてしまう。

「……アグモンの一番大好きな人って、やっぱりタイチなの?」
「うんvv ガブモンだって、一番大好きなのは、ヤマトだよね?」

 地から強くうなづかれた上に、嬉しそうに問い掛けられたその言葉に、ガブモンが困ったような表情を見せる。
 確かに、自分はヤマトの事を大切だと思っているが、一番大好きな人は、ヤマトではないのだ。
 勿論、好きと言う事は否定しないのだが……。

「……オレが一番好きなのは、ヤマトじゃないよ……」
「ガブモン?」

 ポツリと呟かれたそれに、アグモンが歩いていた足を止めて、隣に居るガブモンを見詰める。

「そ、それじゃ、ガブモンが一番好きなのって……?」
「ア、 アグモンにだけは、絶対に教えたくないよ!!」
「あっ!ガブモン!!」

 自分の言いたい事だけを言うと、ガブモンがそのまま走りだす。
 そんなガブモンを、アグモンが慌てて、呼び止めるが、無視されてそのまま走って行ってしまう。

「……ガブモン、お昼一緒に食べようって、言ったのに……」

 走り去っていくその後姿を見送りながら、アグモンがポツリと呟いたそれは、全く見当違いな言葉であった。



「ヤマト!ヤマトが一番好きなのは、タイチだよね?」
「……ガ、ガブモン?」

 デジタルワールドに来て、新選ばれし子供達と別れてから少しして、自分の所に走ってきたパートナーに、ヤマトはその勢いに思わず後ろに引いてしまう。

「な、何か、あったのか?」

 しかも、尋ねられた内容が内容なだけに、複雑な表情でガブモンを見詰めてしまうのは止められない。

「……だけど、タイチは、ヤマトが一番じゃないって言ってたみたいだよ」

 真剣に言われるその言葉に、ピクッとヤマトの端正な眉が動く。

「…それ、誰から聞いたんだ、ガブモン?」
「えっ?……アグモンだけど……?」

 行き成り自分の肩を捕まれて少し怒ったような表情で尋ねられた事に、ガブモンは訳がわからないというような表情を見せながらも素直に返事を返す。

「…そうか……あっ!さっきの質問だけどな、ガブモン。太一は好きじゃなく、『愛してる』だ。一番好きなのは、ガブモンだからな」
「ヤマト……」

 少しだけ照れたように言われたその言葉に、ガブモンが嬉しそうな笑顔を見せる。

「うんvv俺も、ヤマトの事、大好きだよvv」

 嬉しそうに笑うガブモンを前に、ヤマトも笑顔を返す。

「それで、そんな話が出たって事は、もしかしてガブモン……」

 お互い笑いあった後に、ヤマトが言い難そうに口を開く。
 それに、ガブモンは小さく頷いて返した。

「……オレ、アグモンの事好きなのに、アグモンはタイチの事が一番好きだって……それで、オレ……」

 言い難そうに言われるガブモンの言葉に、ヤマトは盛大なため息をついて、少しだけ頭を抱えてみせる。
 それは、昔自分も同じ事を経験しているから、嫌というほど気持ちがわかるのだ。

「……ガブモン、多分アグモンの大好きって言うのは、俺がガブモンの事を好きなのと同じだと思うぞ」
「ヤマト?」

 苦笑を零しながら言われたその言葉に、ガブモンが不思議そうに自分を見詰めてくるのに、ヤマトは小さくため息をついた。

「俺も、同じ事言われたんだよ。太一からな……だから、分かるんだ」

 苦笑を零しながら、昔太一に言われた事を思い出して、ヤマトはもう一度ため息をつく。

「ヤ、ヤマトも、太一に同じ事言われたの?」
「……同じって言うか、似たような事は言われたな。あいつ、鈍いから……」
「……アグモンも、すっごく鈍いと思う」

 ポツリと漏らされたそれに、ヤマトは苦笑を零す。

「あいつ等は、似た者同士だからな。そんな奴等に惚れた、俺達の負けなんだ、ガブモン……その内、アグモンだって分かってくれると思うよ」
「そうかなぁ……」
「俺って言う成功者が居るんだから、間違いないだろう?」

 不安そうなガブモンに、ヤマトが笑顔を見せて自分を指差して見せる。

「……ヤマトは、タイチとちゃんと気持ちが通じ合えたの?」
「……努力のお陰で、一様は……」

 苦笑を零しながら言われたその言葉に、ガブモンは小さく頷く。

「そっか、だったら、オレも頑張るね」

 ガッツポーズを作るガブモンに、ヤマトはただ優しい笑顔を見せるのだった。



 それから、小さなカップルが出来上がるのには、そんなに時間が掛からないだろう。

 そして、二人が仲良く並んでいる姿を見て、娘を嫁に出したような気分に太一がなったとか、ならなかったとか……。
 ともかく、皆が幸せなら、それで文句はないと言う事。

 ただ、問題だったのは、『一番大好き』発言で、太一がヤマトから、責められた事は、ここだけの話にしておこう。(笑)