何が悲しくって、結婚して初めて迎える新年を一人で迎えなくってはいけないのだろうか?
TVに写っている相手を睨み付けながら、太一は盛大なため息をついた。
別に、一人で過ごすのは慣れてしまったから、問題はない。
これも全て人気の出てしまったバンドのボーカルと一緒になった自分が悪いのである。
一人で過ごすのは、好きではないけれど、この場所に、大切な人が帰ってくると分かっているから、待つのは苦にはならない。
でも、だからって、何が悲しくって、新年を迎えるのにあたって、TV越しに相手を見なくってはいけないのだろうか?
TVの中では、楽しそうにカウントダウンが始まっている。
それを、つまらない気持ちで見詰めながら、太一は何気に壁に掛けてある時計に視線を向けた。
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1……
「明けまして、おでとう…太一…今年も、宜しくな…」
0と心の中でカウンターした瞬間、後ろからそっと抱きしめられる。
あまりに突然の事に、太一は驚いて振り返った。
そこに居るのは、先程まで確かにTVの画面に写っていた人物で、今、自分が一番傍に居てもらいたいと思っていた相手。
「ヤ、ヤマト!お前が、何で、ここに居るんだよ!!」
信じられないものでも見るように、太一が声を上げる。
突然自分の事を抱きしめてきた相手は、生番組に出ると聞いていたはずなのだ。
なら、今ここに居ると言う事は、仕事を抜け出して来たと言う事になる。
「……太一に会いたかったから……」
「…今日の朝、送り出しただろう……」
ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、照れ隠しのように詰めたい言葉を返す。
「今日の朝はまだ来てないぜ、太一…」
苦笑を零しながら、少しだけ赤くなった頬にキス一つ。
「……た、確かに、そうかもしれないけど……反則だぞ……これは…」
「なんで?俺は、新年を、太一と迎えたかったから、ここに戻ってきたんだぞ」
優しい笑顔を見せる相手に、太一は再度『反則だ』と呟いて、盛大なため息をついた。
さっきまで感じていた、つまらない気持ちはもう感じられない。
だって、今は目の前に大切な人が居てくれるから……。
「……本当は、年越えのキスでもしたかったんだけどなぁ……」
「…言ってろ、バカ……」
自分を抱き締めた状態のまま耳元で囁かれたその言葉に、太一がポツリと悪態をつく。
だが、顔が赤くなっているのが分かるから、そんな相手にヤマトは笑いを零した。
「…可愛くない事言う口は、塞がなきゃなvv」
「な、何言……んっ!」
楽しそうに呟かれたそれの意味が分からず、太一が肩越しに相手を見ようとした瞬間、自分の言葉は途中で途切れてしまう。
突然目の前にあった綺麗な顔……。
肩越しのキスに、太一は少しだけ苦しそうに眉を寄せた。
「……なっ、突然何すんだ、バカ!」
漸く開放された瞬間、真っ赤になた顔のまま、文句を言うのは、何時までたっても突然と言う行為に慣れないから……。
「何って、挨拶だろう?」
「……それは、挨拶じゃない!」
しれっとした表情で言われた事に、呆れたように盛大なため息をついて、太一が返事を返す。
結婚してからも、こう言う関係は変わらない。
太一は何時だって、太一と言う事で……。
「お前は、本当に変わらないよなぁ……」
「…お前は変わったよなぁ……xx」
「俺の何処が変わったんだ?」
シミジミと呟かれたそれを、太一が苦笑を零して返してきた言葉に、ヤマトが苦笑を零す。
「昔は、照れ屋なくせに、クールを気取ってて、その癖気障で……」
「今と何処が違うんだ?」
昔を思い出すように語られる太一の言葉を遮って、ヤマトが呆れたようにため息をつく。
そして、その尋ねられた事に、太一は言葉を詰まらせた。
「……結局、変わってないんだよなぁ……俺も、お前も……」
「別に、それでいいんだよ。俺は、自分が太一を好きって言う気持ちだけは、変わらない自信あるからな」
「……だから、どうしてそう言う恥ずかしい事を、さらっと言えるんだよ、お前は……」
にこやかな笑顔と共に言われたそれに、太一の顔が赤くなる。
「本当の事だったら、幾らでも言えるんだよ……」
赤くなっている太一の顔に、嬉しそうにキスしながら、ヤマトはもう一度その体を抱きしめた。
「んで、そろそろ時間だから戻るけど、太一から肝心の言葉を聞いてないけど……」
「……時間って…そう言えば、お前仕事中だって!」
「だから、戻らないといけないんだ。場所的には、ここから近いんだけどな……」
ため息をつきながら言われたそれに、太一は複雑な表情を見せる。
「撮影、何処でしてるんだ?」
「バイクで5分の距離」
「……何キロ出してだよ…」
自分の問いに、少しだけ言い難そうに返ってきた言葉に、太一が呆れたようにため息をつく。
「そんなに出さないって……でも、戻ってきたのは、太一に挨拶したかったのと、太一から挨拶してもらいたかったから……」
「……甘えっ子…」
ポツリと呟けば、その通りとばかりに、自分に擦り寄ってくる。
「太一に対してなら、甘えっ子でもいいぜ、俺は……」
「バカ……xx」
「いいんだよ、バカでも……だから、太一……」
ニッコリと笑顔で促されて、太一は盛大なため息をつくと苦笑を零した。
「分かった…遅くなったけど、明けましておめでとう、ヤマト……それから、今年も、宜しくな」
「勿論だvv 今年も、愛してる…太一……」
「……今年だけなのか?」
優しい笑顔とともに嬉しそうに自分にキスしてくる相手を押し止めて、太一が少しだけ拗ねたように問い明ける。
ヤマトは突然の問い掛けに、一瞬驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑顔を作った。
「まさか、ずっと愛してる……」
「なら、許してやるよ……」
ヤマトの返事に満足そうに頷いて、そっと瞳を閉じる。
そして、当然のようにキスをした。
今年2度目のキスは、触れるだけの、キス。
ゆっくりと離れていく相手を互いに見詰めあいながら、太一はそっと苦笑を零した。
「何はともあれ、ヤマト、携帯鳴ってるぞ」
「げっ!?」
鳴りっぱなしのその音を指摘して、再度苦笑を零す。
慌てて携帯を取り出すヤマトを見詰めながら、太一はため息をついた。
忙しい相手との少しの時間。
自分の為に、こうして駆けつけてくれる、それだけで、嬉しくって、寂しくなんてなくなるのだ。
「それじゃ、急いで戻るな」
「ヤマト…」
「んっ?」
慌てて携帯を切るヤマトを前に、太一はそっとその名前を呼ぶ。
直ぐに返事を返してくれるように、自分を見詰める瞳に満足しながら、太一はそっとその頬にキスをした。
「……気を付けて仕事に戻れよ……いってらっしゃい…」
ニッコリと笑って、相手を送り出す。
そして、今日一番の君の笑顔。
「太一、初日の出は、一緒に見に行こうな」
「……お前が間に合うんならな……」
「約束、だからな……」
「ああ……約束……」

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