「ヤマト!」

 名前を呼ばれて振り返えれば、嬉しそうな笑顔を見せて自分の方に走ってくるその姿が目に入る。
 お互いに忙しくって、こうして偶然でも帰りに一緒になるのは珍しいから……。

「太一、部活は?」
「今日は、監督が用事あるからって、早かった。そう言うヤマトは?」

 自分の質問に答えを返してから、太一が質問してくるのに、俺は苦笑を零した。
 お互いに、疑問に思うのは同じと言う事。

「俺の方は、メンバーの一人が都合悪くなったんだ」

 理由を話せば、顔を見合わせて笑い合う。
 理由なんて、本当はどうでもいい。
 こうして久し振りに一緒に帰れるという事が、大事だから……。

「……今からさぁ、ヤマトの家に行ってもいいか?」
「…ああ」

 そして、自分が言おうとした事を先に言われて、直ぐに返事を返す。
 時々、自分が思った事と同じ事を口にする太一が居る。

 自分が口に出すよりも先に、それを言われるようになったのは、何時からだろう?
 自分が、欲しいと思う言葉をくれると言う安心感。
 そして、同じ事を考えていると言う嬉しさ。

 不意に、太一が絶対に言いそうに無い事を考え付いた。
 自分が思った事を、先に言う太一。
 だけど、これだけは絶対に言わないだろうと言う自信がある言葉。
 自分の気持ちを相手に伝える為のその言葉を口に出すのを、太一が苦手としているのを知っている。
 だけど、今自分の気持ちを太一に伝えたくなったから……。

「…太一……」

 自分の隣に居る相手を見詰めて、笑顔を見せる。
 きっと、太一は俺にその言葉を言えないと思うから、だから、その代わりに俺が……。

「……ヤマト、好きだからな」

 伝えようとした言葉は、少しだけ顔を赤くして俺の事を見詰めながらポツリと呟かれたそれに消されてしまう。

 俺が、伝えようとした言葉。

 太一が、それを口にする事は、滅多に無い。
 だから、俺が何時だって、太一に伝えている言葉で、だから……。

「た、太一??」
「言いたくなったんだよ、何となく……」

 言った瞬間、真っ赤になったその顔を逸らして、太一がスタスタと歩き出す。

 以心伝心。

 俺が思った事を、口にする。
 そんな相手に、笑みを零す。

「俺も、愛してる……」
「なっ!」

 そして、これは仕返しとばかりに、もっと太一が言わない言葉を口にした。
 その瞬間、赤かった顔がますます真っ赤になる。

「太一vv」
「……お、お前、そんな言葉、恥ずかしくないのか??」
「そう言う太一は、何時も俺が言ってる台詞を言って、恥ずかしかったか?」
「は、恥ずかしかったに決まってるだろうが!!」

 真っ赤になって、怒鳴る姿に笑みを零す。

 自分が考えている事と同じ事を言ってくれる安心感。
 そして、同じことを考えてくれると言う嬉しさ。

 安心できる場所は、何時だって君が居る場所。