「ヤマト!ミミちゃんと光子郎が、日本に戻ってくるってよ!」
嬉しそうに言われた言葉に、ヤマトは一瞬不思議そうな表情で、太一を見る。
「だから、メールで教えてくれたんだよ!」
分かっていないヤマトに、太一が小さくため息をついて説明した。
今、アメリカに在住している二人からの知らせに興奮気味の太一を前に、ヤマトは思わず苦笑を零した。
「で、何時戻ってくるんだ?」
「何時って……あっ!明日じゃん」
先を進める為に訪ねたその言葉に、カレンダーへと視線を向けて太一が、驚いたように呟いたのと、TVから流れてきたニュースは、ほぼ同時であった。
『スーパーモデル、日本来日!』
その見出しとともに流れている画面は、飛行機へと乗り込んでいるミミのニコヤカな笑顔と、その隣で少しだけ不機嫌そうな表情をサングラスで隠している人物の姿。
「ヤマト…お前、ミミちゃんと光子郎に連絡取れるか?」
その画面を見詰めていた太一が、ポツリと呟いたそれに、ヤマトは思わず嫌な予感を感じてしまう。
「……光子郎なら、パソコン持ち歩いてるんじゃないのか?」
「……いいや、んじゃ丈への連絡は任せた!」
「はぁ?」
さらりと言われる言葉に、思わず聞き返してしまうのは、止められない。
「えっと、丈へ連絡するって事は、必然的に、空にも連絡行くから……んじゃ、伊織も任せるな!」
「な、何の話なんだ?」
先ほどから進められる話が見えずに、ヤマトが再度問い掛ければ、目の前で嬉しそうな笑顔を浮かべる大事な奥様の姿がある。
「勿論、明日パーティーするに決まってんじゃん!」
そして、既に決定事項となっている事とばかりに、さらりと口に出されたその言葉に、ヤマトはただ盛大なため息をつく。
「……明日の、俺の予定は?」
「えっ?もしかして、仕事あるのか??」
「明日は、歌番の収録と、トーク番組にゲスト出演……それから……」
「なんだ、ヤマト仕事なのか……でも、パーティーは、するからな!」
明日の予定を話すヤマトに、少しだけ残念そうな表情を見せるが、決定事項を変更する気はないようである。
「いや、光子郎や、ミミちゃんにだって、予定って言うものが……」
「大丈夫!今回のミミちゃんの来日は、あくまでもプライベート!仕事の為に来るんじゃないんだって、書いてたからな!!」
ボソボソとミミ達の都合を盾にしようとしたヤマトの目論みは、にっこり笑顔の太一によって遮られた。
「……なんで、そんなに詳しいんだ?」
「だから、メールが来てたって言ってるだろう!だから、俺の明日の予定や、久し振りに皆に会いたいって書いてあったから、俺がそのセッティングをしようと思ってんだよ!」
「……それならそうと、早く言ってくれ……分かった、丈と空、タケルに伊織には、俺から連絡すればいいんだな……」
「おう!頼むな!!んじゃ、俺は、ヒカリと一乗寺と京ちゃん。それから大輔は、流石に無理だろうなぁ……」
呟いたその名前に、思わず苦笑を零す。
大輔は、アメリカのサッカー倶楽部に在籍している為、日本には居ない。しかも、行き成り連絡して、直ぐに戻ってくるほどの、暇は流石にないだろう。
「んじゃ、早速、連絡任せるからな!」
話は決まったとばかりに、太一が電話の子機をヤマトへと差し出した。
それをしぶしぶ受け取りながら、盛大なため息をついてしまう。
いや、何も集まるのが嫌なわけではない。勿論、選ばれし子供で集まる事は、嬉しいと正直に思う。だが、半分以上が、自分の奥様に惚れていたと言う事実を知っているからこそ、素直に喜べないものがあるのである。
再 会
「悪いな、朝早くから呼び出しちまって……」
「こんな呼び出しなら、何時だって歓迎よvv」
ニコニコと笑顔を見せている幼馴染のその姿に、太一も笑顔を返す。
「お兄ちゃん!買出し行ってきたよ」
そんな中、玄関から聞えてきたその声に、太一はキッチンから慌てて玄関へと急いだ。
「助かった…その材料待ってたんだ!重かっただろう?」
「大丈夫!力強い助人が来てくれたからvv」
妹のヒカリから荷物を受け取って、申し訳なさそうに問い掛ければ、可愛らしい笑顔で言葉が返される。
「助人?」
「こんにちは、太一さん」
挨拶と共に、ドアの影から顔を出した相手を見て、太一が驚いたように瞳を見開くと、その名前を口に出す。
「タケル???それに、京ちゃんまで……あれ?時間、聞いて、なかったのか??」
そろって現れた人物に、驚くなと言う方が無理な話であろう。思わす時間まで確認してしまう太一を前に、京が笑顔を見せた。
「ミミお姉さまが戻ってくるのに、じっとなんて、していられなかったんですよ」
元気いっぱいのその姿に、思わず太一も笑顔を見せる。確かに、京とミミは仲が良かったから……。
「それに、準備は、人手がある方がいいと思ったからね」
そして、京に続いてタケルがニッコリと言ったそれに、太一はホッとした表情を見せた。
確かに、準備に人手が欲しいと思っていたから……。
「助かった、サンキュー」
「いえいえ、役には立ちませんけど、お手伝いしますね」
腕捲りしながら言われたそれに、誰もが笑いを零す。
「それで、京ちゃん、旦那の今日の予定は?」
「あっ!無理やり定時で終わらせてくるそうです。賢くんも、太一さん達に会えるの楽しみにしてたんですよ」
「大輔くんは、流石に無理みたいだけどね」
嬉しそうに言われた言葉に、タケルが冗談でも言うように小さくため息をつきながら、口を開く。
「そう言えばあいつ、彼女が出来たんだろう?」
冗談で言っていても、やっぱり残念そうに聞えるそれに、太一は何気なく見た記事を思い出して、首を傾げた。
大きく取り上げられていたその記事を思い出せば、可愛い後輩の幸せを祈らずには居られない。
「あっ!その事については、賢くんが情報知ってるんで、聞いてあげてくださいね。この間、国際電話掛かってきてましたから」
「わざわざ、国際電話??」
苦笑混じりに言われた言葉に、太一だけではなく、その場に居た全員が思わず首を傾げたのは、仕方ない事であろう。
「太一!そろそろ戻ってきてくれる?手が足りないのよ!!」
全員が首を傾げる中、キッチンから空の声が掛けられて、太一が一番に我に返った。
「あっ!何時までもここに居ても仕方ないし、上がってくれよ。ヒカリ悪いけど、リビングの方の準備頼んでいいか?」
「は〜い!それじゃ、京ちゃんとタケルくんにも、そっちを手伝ってもらうわね」
「ああ、頼む」
慌てて全員を部屋へと入れてから、ヒカリに買ってきてもらった材料を持ってそのままキッチンへと戻っていく。
その兄の後姿を見送りながら、ヒカリはタケルト京を連れて、リビングへと移動した。
「あっ!ガブにアグ!!お久し振り」
ソファで寛いでいる2匹の猫に、京が笑顔で声を掛ける。アグは嬉しそうに京に擦り寄ってくるのだが、ガブは全く無視してそのままソファに眠ったままだ。
「それで、どうするの?」
自分に懐いてくるその猫を抱き上げて、京が問い掛ける。
「そうね。お兄ちゃんの意見では、立食よりは、ちゃんと寛げる空間にしたいから、このソファなんか全部のけて……」
ヒカリが、太一から指示を受けていた事を二人に話す。どうしたいのかと言うスタイルなど、他に家具を何処に移すのかという事なども説明していく。
ゆっくりと大人数でも寛げる空間。それが、今回のパーティーで太一が考えたスタイル。
何時も忙しい人達が集まる時間だからこそ、寛げるよう、少しでも癒されるように……。
「それじゃ、始めようか?」
タケルのその言葉に二人が頷いて、作業が始められる。寛いでいた二匹の猫が、その作業が始まった瞬間から、その場所に居られずに追いやられたのは、少し気の毒かもしれない
「……まるで、宴会場だな」
苦笑を零しながら、替わってしまった室内に、感心したように呟いて、太一は手に持っていたお盆を3人に差し出す。その上には、コーヒーカップが3つ。
「休憩にしようぜ。働き詰だと、騒ぐ時に騒げなくなるからな。えっと、これが京ちゃんの分ミルク砂糖ありで、これがヒカリで、ミルクだけ。タケルはブラックだったよな?」
「あっ!ありがとうございます」
「有難う、お兄ちゃんvv」
一人一人の好みに合わされて作られたコーヒーをそれぞれに渡していく。3人もそれに礼を言うと素直に受け取った。
そして、寛ぐように自分達でセッティングしたラグの上にそれぞれ腰を下ろす。
「太一さん、部屋はこれで大丈夫なんですか?」
「おう!十分だぜ。何せ、人数が多いから、テーブルには、座れないし、ソファにしても、限界ある。だから、こうやって床に直接座った方が全員座れていいかなぁって……。んで、料理はあっちのテーブルに置けば、スペースも広がるだろう?」
12畳ほどのリビングを見回すように説明していく太一に、タケルも頷く。
「大輔とヤマトが居ないから、10人の選ばれし子供が集まる訳だから、本当に大人数だよね」
「そうだよなぁ……xxあっ!皆御腹空いてるだろう?もう少しで、昼ご飯用意できるから待っててくれよ」
「それじゃ、それまで私も仲間に入れてもらえるかしら?」
太一の言葉に、後ろから新たな声が賭けられる。それに、全員が振り返った。
「空先輩!!」
戸口に立っている人物に、京が驚いたような声を上げる。
そう言えば、玄関にいた時に、声だけは聞いていたのだが、すっかりその存在を忘れていたようた。
「久し振りね、京ちゃん」
「はい!」
「ごめんなさいね、挨拶にも出れなくって、漸く一段落したから、顔が出せたわ」
すまなさそうに誤る空に、京が慌てて大きく首を振る。
そんな二人を前に、太一が思わず苦笑を零した。
「それは、俺が空に手伝って貰ってたのが、原因だよなぁ……」
「そうだけど、私としては、太一に料理教えてもらえて、ありがたいんだけど」
すまなさそうな表情で呟かれた言葉に、空がニッコリと笑顔で返したそれは、本心であろう。確かに、太一が料理上手な事を知っているその場の全員が、思わず大きく頷いた。
「あっ!私も、太一さんにお料理教えて貰いたいです!」
『はいはい』と片手を上げて申し出す京のそれに、太一が不思議そうに首を傾げる。
「俺の料理??手抜き料理だぜ」
自分の料理を喜んでもらえるのは嬉しいのだが、教えて欲しいと言われても、教えられるような料理ではないと言うように、太一は苦笑を零した。
「でも、美味しいのよね、太一の料理」
「そうだよね。レパートリーも多いし…。今は、和食は勿論、イタリヤ料理と中華料理だっけ?」
「最近は、スペイン料理にエスニック料理も研究中なんだよね、お兄ちゃん」
ニコニコと話される内容に、太一はもう一度苦笑をこぼした。
確かに、料理を作る事は嫌いではない。まして、一度その料理に嵌ると色々と作ってしまうので、自然とレパートリーが増えている。
しかし、それらは全て自己流であって、やはり人に教えられると言うものではないと思うのだ。
「あっ!俺、昼の準備してくる!!簡単に食べられるので大丈夫だよな??」
「太一さん、逃げるのはずるいですよ」
慌てて話を誤魔化そうと、太一が立ち上がるのに、京が不満そうな声を上げる。
「いや、逃げてる訳じゃなくって、ほら、皆も御腹空いてるだろう??」
「そうね、確かに御腹空いたし、お願いしようからしら?手伝わなくっても、大丈夫?」
「ああ、空も疲れただろう?ゆっくりしててくれ。……あれ?そう言えば、アグとガブの姿が見えないけど??」
話が変わったことにホッとしながら、太一が返事を返してキッチンへと戻ろうとした瞬間、何時もならリビングで寛いでいる2匹の猫の姿が見えない事に、辺りを探すように問い掛ければ、ヒカリが苦笑交じりに返事を返す。
「アグとガブなら、寝室に逃げてったわよ」
「そっか。あいつ等には、気の毒な事しちまったな」
人懐っこい猫と、人見知りの激しい猫の姿を思い出して、申し訳なさそうに呟いてから、太一はそのままキッチンへと戻っていく。
そんな後姿を見送りながら、4人は笑みを零すのだった。
太一が昼食に作ったのは、簡単に食べられるサンドイッチとサラダ。スープに果汁100%のオレンジジュース。
それらを食べ終わってから、もう一度コーヒータイム。
「皆が集まるのが6時だったわよね?」
コーヒーを飲みながら、のんびりとした口調で空が太一へと質問を投げ掛ける。
「おう!一応そう言う事になってる……だから、早めに準備して、温かい方が美味い奴は、その場その場で出した方がいいだろう?」
「そうねぇ……丈先輩も、遅くなるかもしれないし……」
太一の返事に、空も素直に頷いて返す。しかし、その言葉に、太一が少しだけ呆れたような表情を見せた。
「お前、まだ丈の事、『先輩』って呼んでるのか??」
「悪い?いいじゃないの、別に……」
呆れたように言われた事に、拗ねたように空が返事を返す。それに、全員が苦笑を零した。
「別に、悪かねぇけど、お前等、結婚して3年目だろう?」
「……そろそろ、子供出来ないんですか?」
「み、京ちゃん?!」
太一に続いて京までもが、嬉しそうに質問を投げ掛けてきたそれに、空の顔が真っ赤になる。
真っ赤になって名前を呼ぶ空を前に、誰もが笑いを禁じえない。だがそこで、太一は既に母である相手に今更ながらの疑問を感じてしまう。
「そう言えば、京ちゃん。今日は、子供は??」
「実家に預けてきました!」
「なんだ、連れて来れば良かったのに……」
自分の質問にあっさりと答えるそれに、タケルが少しだけ残念そうに呟く。
「それは、また今度。あの子が居ると、楽しめませんから……」
「でも、心配なんじゃない?」
はっきりとした口調で言われた言葉に、空が心配そうに問い掛けた。それに、京が、ニッコリと笑顔を見せる。
「心配なんてしてませんよ。人見知りもしない元気な子ですからね」
ニコニコと笑顔で言われるそれに、誰もが母親の顔を見て、笑みを零す。
「ちゃんと、お母さんなんだよなぁ……」
当たり前の事を呟く太一に、皆が思わず大きく頷いて返した。本当に、母の顔をする京に、そう思わずには居られないから……。
「そうですか?母親としては、まだまだですよ」
感心したように呟かれたそれに、苦笑しながら頭を掻く京に、笑みを零す。
「でも、誰よりも早い母親ですものね、私にとっても、先輩だわ……」
自分達には、まだ子供が居ない。だから、母親である京は、先輩になるのだ。
「子供が出来ましたら、相談乗りますので、どんどん任せてくださいね!」
ポツリと呟いたそれに、京が大きく手を上げてガッツポーズを作る。それに、笑いを誘われながら、太一は、あることを思い出した。
「そう言えば、光子郎とミミちゃん、婚約はしてるのに、何時結婚するんだろうな?今回の来日で、重大発表があるって言ってたけど、結婚決まったって、ヤツか?」
「重大発表??」
思い出したように言われたそれに、誰もが首を傾げる。そんな話、今まで聞かされていなかったから……。
「あっ、言うの忘れてた……何か、俺たちを驚かせるような事が、あるらしいぞ」
「そうなんですか?ミミお姉さまの事だから、結婚よりも先に、『子供が出来ちゃったの!』なんて、言う報告かもしれませんよ」
太一の説明に、京がミミの物真似を加えながら言葉を返す。それに、全員が一瞬考えたが、しかし、ミミの相手が相手なだけに、それはないだろうと、苦笑を零す。
「何にしても、二人が来れば分かる事だしな。さぁてと、最後の準備に取り掛かるか!」
「そうね、時間的にも、問題無いわね」
太一に続いて、空もゆっくりと立ち上がる。それに会わせて、タケル達も、手伝う為にそれぞれがまた準備を始めた。
久し振りに集まる、仲間たちに会う為に……。
時計が、約束の時間を示す。それに、最後の準備をしていた太一が顔を上げた。
その瞬間、ドアフォンが鳴り響く。
「『good timing』って、ヤツだな」
「そうねぇ、案外みんな一斉に来てるかもよ」
嬉しそうに笑いながら、空が太一と揃って、玄関へと急ぐ。鍵を外して、ゆっくりとドアを開いた。
「今晩は!ちょうどそこで、みんなとばったり会っちゃってね」
「お久し振り!!太一さん」
丈の落ち着いた声に続いて、元気の良い声に、空と太一は満面の笑みを零す。
「本当に、久し振り。あれ?光子郎は??」
しかし、目の前に居るのは、ミミだけで、その相手である光子郎の姿が無いのに、太一が不思議そうに首を傾げた。
「光子郎君は、ちょっと用事があって、少し遅れるの。でも、本当に久し振りに皆に会えるの、楽しみにしてたのよvv」
ニコニコと嬉しそうな笑顔で言われた事に、疑問を感じながらも、久し振りに会えた事の方が嬉しいので、太一も素直に笑顔を見せる。
そして、扉を開いて、中へと促した。
「俺たちも、楽しみにしてたぜ。ほら、上がってくれよ!丈も、賢も伊織も忙しいのに有難うなvv」
「いえ、僕たちも、楽しみにしてましたから」
ぺこりと頭を下げて、昔と同じように礼儀正しい伊織に、思わず笑みを零す。
「仕事、大変か?」
「そんな事、ありませんよ。自分で選んだ道ですから」
「そっか、お前なら、大丈夫だな」
自分の質問に返されたそれに、太一が満足そうな表情で大きく頷く。それに、伊織も少しだけ照れたような笑みを浮かべた。
「あの、京、こっちに来てますか?」
「おう!来てるぜ、悪いな、借りちまって」
そして、そんな自分たちに、心配そうな尋ねられて、太一が素直に言葉を返せば、少しだけほっとしたような表情が返される。
「いえ、大丈夫です。治が、母さんに預けられてたから、多分こっちだと思ったんで…ご迷惑、掛けてませんか?」
「んな事無いって!スゲー助かったぜ」
不安気な賢に、太一が満面の笑顔で答えれば、賢も漸く笑顔を見せた。
「そうよ、京ちゃん来てくれて、準備も順調だったのよ」
おまけとばかりに、空も京には、助けられたのだと伝えれば、賢も納得したのだろう、そのまま部屋へと入って行く。その後姿を見詰めながら、太一と空は、顔を見合わせて笑みを零す。
「楽しそうだね、二人共」
そんな二人に気が付いて、最後に残って居た丈が、声を掛けた。
そんな丈に、太一が笑みを浮かべる。
「遅くなるって聞いてたのに、時間通りなんて、誠実の紋章を持つ丈らしいな」
「本当、丈先輩、時間には来れないかもって言ってましたから、心配してたんですよ」
嬉しそうな笑顔を見せる空に、丈が少しだけ照れたように頭を掻いた。
「今日は、朝からそわそわしてたらしくってね、理由を話したら、皆が早く帰れって、気を利かせてくれたんだよ」
「そっか、丈も、楽しみにしててくれたんだなvv」
「勿論だよ!大輔君とヤマトはいなくって残念だけど、久し振りに選ばれし子供が集まるんだからね」
嬉しそうに言われる言葉に、大きく頷く。その瞬間、中から久し振りの再会を喜ぶ声が聞えてきた。
「んじゃ、久し振りの再会を、楽しもうぜvv」
その声に習って、自分達も、久し振りのこの時間を楽しむ為に、皆がいるであろう部屋へと移動していく。
「ミミちゃん、光子郎は、遅いのか?」
そして、京と再会の喜びで抱き合っているミミにそっと声をかける。あと集まっていないのは、光子郎だけ。遅くなるようなら、先にパーティーを始めていようと思ったからなのだ。
「ううん、直ぐにくると思うわ。本当は、一緒に来たかったんだけど、走って行くから、私には先に行けって……」
「そっか、んじゃ、もう少し待っててやるか。皆もそれでいいか?」
太一の質問に、全員が大きく頷くのを確認する。
「それでね、光子郎くんが来たら、皆に重大発表があるんだvv」
ニコニコと嬉しそうに言われたその言葉。
重大発表があると言う事を、前もって聞かされていた太一と、その太一から話を聞かされていたヒカリ達以外の3人は、訳が分からないと言うように、首を傾げる。
「光子郎が来るまで、お預けってヤツだな」
苦笑交じりに呟けば、『そう言う事』と言ってニッコリ笑うミミの姿。仕方がないとため息をついて、今度は賢を見る。
「そう言えば、大輔から国際電話掛かってきたんだって?」
「えっ?はい、ボクですか??」
突然の話の展開についていけない賢が、驚いたように聞き返す。それに、大きく頷いて返せば、賢が大きくため息をついた。
「確かにきました。でも、大した事じゃなかったんで……」
「大した事無かったって、大輔、彼女出来たんだろう??」
「その事なんですが……」
太一の質問に、賢が口を開こうとした瞬間、来客を告げるインターフォンの音。
「あっ!きっと光子郎くんだと思うわ!」
嬉しそうに立ち上がったミミに太一も続くように背を向ける。
「あっ!賢、ちゃんと報告はしろよ。大輔の情報知ってるの、お前だけなんだからな!」
「はい、分かりました」
しっかりと念を押して、玄関へと最後の一人を向かえるために慌てて歩く。
「ミミさん!走っちゃいけませんよ!!」
自分よりも先に光子郎を迎えに行ったミミが扉を開いて招き入れたのだろう、慌てたようなその声が聞えて、太一は首を傾げた。何時になく焦っているようなその声は、本当に珍しい。
「大丈夫よ!みんな待ってるんだから、早く行こうvv」
「よぉ!久し振りだな、光子郎」
「太一さん!」
光子郎の手を引っ張って、促しているミミに、慌てている光子郎の姿を見付けて、太一が声をかけた瞬間、驚いたように視線が自分へと向けられた。
「そんなに驚くなよ、ここ俺ん家だぞ」
「す、すみません…焦っていたもので……」
本当に焦っていると分かるそんな態度に、一瞬首を傾げてしまうのは、何時もの彼を誰よりも良く知っているから……。
「お前が、焦るなんて、珍しいな。重大発表ってやつと関係あるのか?」
「えっ、いや、あの……だから……」
「まぁ、何にしても、ミミちゃんが言うように、みんな待ってんだから、早く来いよ」
今までになく狼狽した態度を見せる光子郎に、太一は不思議に思いながらもそれ以上の追求はせず、リビングへと促すだけにする。それに、ホッと息をつく光子郎に、ミミはただ嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「んじゃ、全員そろったところで、久し振りの再会を祝して、楽しくやろうぜ!!」
全員が揃ったリビングで、太一の声とともに、皆の喜びの声が沸きあがる。そして、持っていたグラスで、再会への乾杯をしようとした瞬間、ミミの声がそれを止めた。
「ちょっと待った!その前に、私と光子郎くんから、重大発表!!」
「ミ、ミミさん、後でいいじゃありませんか……」
「だ〜め!こんな嬉しい事は、早く皆に報告しなくっちゃ!」
「ミミお姉さま、報告って?」
「私と光子郎くん、無事に夫婦になったのよ」
「えっ?え〜っ!!」
サラリと言われた言葉に、全員が驚きの声を上げたのは言うまでもない。
「夫婦って、結婚披露宴してないよね?」
「二人とも忙しくって、出来なかったの。でもね、重大発表は、そんな事じゃなくって……」
結婚をそんな事呼ばわりして、ミミがニッコリと可愛らしい笑顔を浮かべる。
「出来ちゃったvv」
そして、嬉しそうに言われた言葉に、一瞬全員が意味が分からずに言葉を失う。しかし、その数秒後、部屋を皆の驚きの声が、響き渡った。
「出来ちゃったって、もしかして、もしかして、赤ちゃん?!」
「うんvv」
ニコニコと幸せそうな笑みを浮かべるミミに、光子郎の顔が真っ赤に染まる。
「……京ちゃんの予想、当たっちまったな……」
そんな光子郎を見ながら、驚いて呆然としている太一に、光子郎が照れたような笑みを見せた。
「その、本当は、来年ぐらいに結婚しようと思っていたのですが、出来たって聞かされたので、慌てて婚姻届を出してきたんです」
「……だから、遅れたのか?」
自分の質問に小さく頷くのを見て、太一は笑みを零す。確かにこれは、重大発表だ。
「おめでとう、光子郎」
「有難うございます。自分でも驚いているんです……その、ボクが父親だなんて……」
照れたように頭を掻くその姿に、太一は、優しく微笑んだ。
「なら、酒なんて飲めないな。100%ジュース用意しといてよかったぜ。ミミちゃん、ビール駄目だぞ」
「え〜っ、私も飲みたい」
「母親になる人が、そんな事言ってどうすんだ?あそこにいる医者に怒られちまうぞ」
「そうだよ、ミミくん。妊婦がお酒なんて、絶対に駄目だからね」
話を聞いていた丈にまで止められて、ミミがしぶしぶお酒の入ったコップを太一に渡す。そして、代わりにオレンジジュースの入ったコップを受け取った。
「んじゃ、改めて、光子郎とミミちゃんの夫婦生活第一歩と、俺達の再会を祝して!!」
「カンパ〜イ!!」
グラスの重なる音と、楽しそうな笑い声。久し振りの時間に、誰もが楽しく思い思い寛ぐ。
「そう言えば、大輔さんの彼女って言うのは、なんなのですか?」
そして、ミミと光子郎の重大発表で、すっかり忘れてしまったその話題を、思い出したように伊織の口から疑問に上がった瞬間、全員の視線が、賢へと向けられる。
「えっ、だから、彼女って、なんの話なんですか??」
しかし、皆に見詰められる中、賢は意味が赤らないと言うような表情で首を傾げた。
「あれ?賢は、知らねぇのか?ほら、雑誌で大輔の彼女の事、結構話題になってただろう?」
「ああ、あの話……って、みんなは、あの話信じてたんですか??」
太一の説明に、納得したと言うように頷いてから、賢が驚いたように声を上げる。
「信じてたって、あんな写真載ってたら、誰でも信じるわよ、普通」
皆が言っている雑誌と言うモノは、大輔とその彼女が抱き合っているシーンが見事に映し出されていたのだ。相手の女の子の顔は見えないが、大輔の顔はばっちりと写っているのだから、否定出来ないとも言う。
「ちなみにあの写真は、あの女の子が、こけそうになったところを助けただけだそうです。まぁ、その子は大輔の事が好きみたいですけど、大輔曰く『オレには、太一先輩だけだ!!』だそうなんで、彼女は当分出来ないと思いますよ」
「って、大輔くん、まだお兄ちゃんの事、諦めてなかったのね」
説明されたそれに、苦笑交じりにヒカリがため息をつく。それに、誰もが同じような気持ちで苦笑をこぼした。
「でも、その子が真剣なら、あの記事も何時かは本当に……」
「なるとは、思わないけどな」
苦笑交じりに太一が何とかフォローしようとした言葉は、後ろからの声によって阻まれてしまう。突然のその声に、太一が驚いて振り返った先には、今日は、戻ってこないと思っていた人物が、当然とばかりに立っていた。
「ヤ、ヤマト、お前、仕事……」
「無理言って、撮りにしてもらった。まぁ、ちょっと遅くなったけど、間に合ったって事で、許してくれよ」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、呆然としている太一を置いて、ヤマトは久し振りに見る仲間へと視線を向ける。
「久し振りだな、光子郎にミミちゃん」
「TOPアイドルに、そんな風に言ってもらえるとは思わなかったなぁ」
「そうですね、アイドルに、そんな風に言っていただけるとは思ってもみませんでしたね」
ニコニコと笑顔で言われたそれに、ヤマトが苦笑を零す。
「何時オレは、アイドルになったんだ??」
「あら?初めっからでしょう?最近は、トーク番組にまでお忙しそうよねぇ」
「オレは、歌って踊れるバンドマンだ!!」
「……踊ってねぇだろう……」
空のからかうようなそれに、ヤマトが反論の声を上げる。それに、ボソリと太一が突っ込みをいれて、どっと笑いが起こった。
「確かに、踊ってないよね、兄さんは」
楽しそうに笑いながら言われるそれに、ヤマトも反論できずに盛大なため息をつく。
「太一、オレの分の酒!!」
「あんまり自棄酒は良くないぞ」
苦笑を零しながらも、言われた通りにグラスにビールを入れてヤマトに差し出す。
「あんまり甘やかさない方がいいよ、特にヤマトの場合はね」
「余計なお世話だぞ、丈!!」
「まぁ、皆が集まってる前で、偉そうなフリをしたいって言う気持ちも、分かるのよねぇ。ヤマトの場合、尻に敷かれてるもの」
「そ〜ら〜っ!!」
からかうように言われたそれに、ヤマトがきっと空を睨みつけた。しかし、口では『怖い』と言いながらも、空のその瞳は全く怖がっておらず、口元には、楽しそうな笑みが浮かんでいるのが、確認できる。
「お前もそんなに怒るなよ。折角皆が集まってるんだぜ。楽しく行かないと、バチが当たるぞ」
「……どんな罰だよ……」
慰めるように自分の肩を叩きながら言われた言葉に、ヤマトが呆れたようにため息をつく。
「んじゃ、改めて、大輔以外の選ばれし子供が集まったんだ、賑やかに騒ごうぜ!!」
元気良く言われた言葉に、『賛成!』と言う声が、大きく返される。目の前のそんな状態に、一人ヤマトだけが、小さくため息をつくのだった。
「……明日、近所迷惑だって苦情きそうだな……」
その呟きは、小さく、誰の耳にも届かなかった事が、幸いだったかもしれない。
久し振りの再会。
この時間が持てるのは、皆が会いたいと思ってくれるから……。
そして、重大な事を知らせてくれる仲間。それは、自分たちの事を、大切に思っているから……。
どんなに離れていても、自分たちはこうして集まる事が出きる。
そして、何時だって、どんな時だって、笑い合えると信じてるのだ。
だから、偶には、こうやって騒ぐのも、楽しくっていいだろう。
何よりも、集まる仲間がいてくれるから……。
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