「結局、喧嘩したままクリスマスだし……」
盛大なため息をついて、そっと机の上に置いてあるそれに視線を向ける。
「折角用意したのに、無駄になっちまうよなぁ……」
クリスマス専用の包装紙に包まれたそれは、随分前から今日の為に用意していたプレゼント。
なのに、そのプレゼントを渡す相手と、数日前に盛大な喧嘩をしてしまったのだ。
何時もの、些細な喧嘩。
どちらも意地になって、今だに仲直りが出来ていない。
「……何、やってんだろうなぁ……」
本当は、素直に謝りたいと思っているのだ。
だから、行動に移して、誤りに行った事もある。しかし、ライヴの準備で忙しそうにしている相手を前にして、自分は謝る事など出来ずに、今にいたるという訳だ。
「……こう言う時に限って、家には誰も居ないし……」
そして、静かな室内で、再度ため息をつく。
妹のヒカリは、仲間達とデジタルワールドで、クリスマスパティーをすると言って、昼間から出掛けている。勿論、自分も誘われたのだが、今は皆と一緒に騒ぐ気分にはなれず、断ったのだ。
両親は、二人でディナーを楽しむのだと、嬉しそうに出掛けてしまった。しかも、ホテルに泊まるので、今日は戻ってこないらしい。
「……だぁ!ウジウジしてても、始まんねぇ!!プレゼントだって、無駄にしない方法は、ある!」
勢いよく立ち上がると、置かれていたそのプレゼントを手に取り、近くにあったコートもついでとばかりに掴むと、そのまま部屋を出た。
勿論、行き先は、たった一つの場所……。
その人に、渡す為に考えたプレゼント。
例え喧嘩をしていても、考えているのは、何時だってたった一人の事だけ。
だから、自分の手元にそれを残しては置けないから、そっと、君に渡しに行こう。
直接渡す事なんて、出来ないから、君の家に、そっと届けるサンタクロースになりたい。
君に見付からないように……。
肩で息をしながら、窓から見えるその光を見つけて、躊躇ってしまう。
「……ヤマト、居るんだ……」
本当は、居て欲しいと思っていた。なのに、実際にそれが分かると、複雑な気分である。
「……どうしよう………」
こっそりと、プレゼントを置いて行こうと思っていた。そう、自分だと分からないように郵便受けにでも入れればいいと……。
なのに、相手がそこに居ると分かってしまうと、その気持ちが揺らいでしまうのは、止められない。
喧嘩をしているのに、自分がプレゼントをして、本当に受け取ってもらえるのか、それすらも分からないから…。
「…どうしよう……」
もう既に、暗い空を見上げて、ため息をつけば、街灯の光に照らされて、白くなる息が目に見える。
「……素直に、謝罪すれば、いいんだよな!」
意を決して、エレベーターへと向かって歩き出す。しかし、目の前にエレベーターのドアが見えた瞬間、太一はその場に座り込んだ。
「やっぱり、駄目だ……ヤマト、スゲー怒ってたし……大体、良く考えれば、喧嘩の原因って……」
些細な喧嘩。何時もの事だが、今回の喧嘩は、珍しくヤマトが自分よりも怒っていた。
原因は……。
「確か…ヤマトとの約束を、俺が忘れたのが原因だったような……」
そう、全ての原因は、自分が、ヤマトとの約束を忘れてしまったから……。
だから、自分が悪いのだ。だけど、喧嘩した時、何時も先に謝ってくるのがヤマトだから、自分からどうやって謝ればいいのか、分からなかった。
「……素直に謝っていれば、こんな事にはならなかったんだよな……」
でも、やっぱり面と向かって謝る事なんて出来ないから、素直に自分が悪かったと伝えたい。
「……メモ帳と筆記用具あって良かった……」
ポケットに入っていたそれらを取り出して、たった一言紙に書く。
それが、自分の伝えるべき言葉だから……。
「……ごめん、ヤマト……」
何時ものようにエレベーターに乗って、ヤマトの家の前に立つと、そっとそのドアに手を添える。
自分が素直になれなかったから、今、その中へ入る事が出来ない。
たった一枚の鉄のドア。それが今、自分とヤマトとを切り離してしまっている。
「……ごめんな……」
本当なら、一緒に楽しい時間を過ごすはずだったのだ。
自分が、壊してしまったその時間を考えて、太一はため息をついた。
そして、手に持っていたプレゼントの包みと、先ほど書いたメモをそっと新聞受けに入れる。
カタンと音がするのを聞いてから、その場所を離れようと踵を返す。
後は、ヤマトがそれを見て、自分を許してくれるかは、分からない。
確認する事が出来ずに、その場を離れようとした瞬間、勢い良くドアが開く音がして、太一は振り返った。
「太一!」
そして、名前を呼ばれる。
「……帰るなよ……」
「……ヤマト?」
手に持っているのは、自分が入れたプレゼントと紙切れ。
「お前と、どうやって仲直りするか、考えてた………」
「……俺、約束忘れて……」
「もう、聞いた。だから、今からは、二人の時間だろう?」
「ヤマト……」
すっと手を差し出されて、嬉しくって泣きたくなる。
どうして、意地を張っていたんだろう。こんなに大好きなのに……。
「少し、遅くなったけど、メリー・クリスマス、太一……」
「…うん、メリー・クリスマス、ヤマト…」
喧嘩していても、君のことを考えている。
ねぇ、素直になろう。大丈夫、大切な人なら、分かってくれるから……。

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