「話は、簡単だ」

 光子郎に促されて、タイチが小さくため息をつく。

「俺の方でも、同じようなデーターの乱れがあった。そして、偶然にも俺と太一が、その場に同時に居たと考えれば、今回の原因の理由も説明がつく」

 小さくため息をつきながら言われた言葉に、子供達は、意味が分からないと言うように首を傾げる。だが、光子郎は、その言葉に、真剣な表情を見せた。

「……それは、扉を開く条件が重なったと、仰りたいのですね?」

 慎重な声がタイチへと問い掛けられる。それに、タイチは、小さく頷いて返す。

「あくまでも憶測だ。だけど、状況が重なり過ぎているからな。偶然が偶然を呼んだって処だろう」

 サラリと言われる言葉に、光子郎は、考えをまとめようと状況を、再度繰り返し呟く。そして、全てを呟いた瞬間、頭を抱え込んだ。

「…そんな事が、現実に起こるなんて……普通は、考えもつきませんよ」

 信じられないと言うように言葉を継げる光子郎に、タイチが少し困ったような笑みを浮かべた。

「状況を考えれば、思い付く事だ。俺は、今回で4度目だしな」
「タイチさん、二人だけで理解してないで、俺達にも分かるように説明してくれませんか?」

 小さくため息をついて言われた言葉に続いて、大輔が恐る恐る質問を投げ掛けてくる。それに、光子郎とタイチは一瞬顔を見合わせて、小さく頷き合った。

「それでは、タイチさんに代わって、僕の方から説明いたします。まず、僕が言っていたデーターのバグが検出された場所が、タイチさんの世界でも存在していた。そこまでは分かりますね?」

 光子郎の質問に全員が頷く。それに満足そうに光子郎も頷いた。

「その場所がこの世界とタイチさんの世界で、同じ座標に存在していた為に、今回の現象が起こってしまったようなのです」
「えっ?同じ座標??そんな事、分かるんですか?」

 だが、続けて言われた説明に、意味が分からないと言う様に京が首を傾げる。

「さっき、光子郎のパソコンを覗いた時に思ったんだ。これが、俺が居たデジモンワールド。ほら、地図が重なるだろう?」

 そんな京の質問に、タイチが腕に取り付けたデジヴァイス01から素早くデーターを取り出し、光子郎が見せている地図と照らし合わせた。

「確かに、同じだわ……それじゃ、こことあなたが居た場所は……」
「まぁ、パラレルワールドって言うのは、同じ事が必ずあるって言うからな」

 テイルモンの言葉に、タイチが苦笑する。

「でも、名前は違うみたいだぞ。大輔が、ここの事をデジタルワールドって言っていただろう?俺が居た所は、デジモンワールドだからな。同じに見えても、やっぱり何処か違うみたいだ」

 説明された事に、誰もが大きく頷く。

「そ、それじゃ、お兄ちゃんは!!」
「ああ、お前の本当の兄貴は、俺が居たデジモンワールドに行っていると考えて間違い無いだろう。あっちには、ゼロとガー坊が居る。うまく会っていると良いんだけど………」

 驚きの声を上げるヒカリに、タイチがはっきりとした口調で言葉を返す。
 嘘を付いても、始まらない。だからこそ、本当の事だけを伝えるのだ。

「俺の方から、ゼロに連絡出来ないしなぁ……確か、お前達は、仲間同士で連絡取れるんだろう?」
「はい、一応、先程から、太一さんへメールを送っているのですが……」

 素早くキーボードを叩く光子郎に、タイチはその画面を覗き込むように見る。

「送れねぇのか?」
「いえ、戻ってはこないので、送れているとは思うんですけど、ただ、ちゃんと届いているのかどうか……」

 送信されたそれを見て尋ねた言葉に、光子郎が複雑な表情を見せた。
 確かに、向こうから返事が戻って来ない状況では、ちゃんと届いているのかも分からない。

「あっ!太一さんから、メールが戻ってきました!!」
「なんて?!」

 受信を伝えるその音に、誰もが慌てて中身を催促する。

「今、ゼロマルとガー坊と言うデジモンと一緒に居るそうです」
「そっか、あいつらと一緒なら、大丈夫だな」
「本当に、そう言いきれるのか?」

 メールの内容に、ほっとした表情を見せるタイチに、ヤマトが鋭い視線を向けた。その視線を受けて、タイチは、意味が分からないと言うように、ヤマトを見る。

「兄さん」

 そんなヤマトを慌てて止めようと、タケルがその腕を掴むが、ヤマトは乱暴にそれを振り払った。

「今、この状態で、本当にあいつが大丈夫だと言いきれるのか?」

 ジッと睨み付けてくるその瞳に、タイチは、一瞬考えるように下を向く。だが、次の瞬間には顔を上げて、笑顔を見せた。

「ああ、言い切れるぜ」

 そして、きっぱりとした口調でヤマトへ言葉を返す。
 それに、ますますヤマトが、不機嫌な表情を見せた。

「確証もないのに、いい加減な事を言うな!」

 今にも殴り掛からんばかりの勢いのヤマトを、慌ててタケルと光子郎が引き止める。そんなヤマトにも、臆した様子は見せず、タイチは、口を開いた。

「何で、確証が無いと言い切れるだ?」

 質問するように言われた言葉に、誰もが意味が分からずに、タイチを見る。今の状況を考えると、確証など、持てる筈も無いのだ。自分達は、タイチの世界を知らないのだから……。
 皆からの視線を受けて、タイチが苦笑を零す。
 どうして、分からないのかと言うように、口を開いた。

「まず、大丈夫じゃない状態では、メールを返す事は出来ないんだぜ。しかも、ゼロは、普通のデジモンとは違う。ゼロマルって言うのは俺が付けた名前だ。あいつは、ブイドラモン。この世界では、存在しないデジモンなんだぜ」

 何処か誇らしげに言われた言葉だが、何が言いたいのか分からない。

「それの何処が、大丈夫って事に繋がるんだよ!」

 皆の気持ちを代表して、ヤマトが声を荒げる。それに、タイチは、呆れたようにため息をついた。

「まだ分からねぇのか?自己紹介する時間があるって事は、それだけ余裕があるって事だぜ」

 きっぱりと言われた事に、誰もが納得してしまう。
 初めに感じた事だが、目の前にいる少年の状況判断は、あまりにも鋭すぎる。

「なら、大丈夫なうちに、俺達は元に戻れるように方法を考えるのが、得策ってもんだろう?」

 はっきりと言われた言葉に、誰もが大きく頷いた。
 そう、それが、今時分達に出来る、最大の事。そして、それが、心配する仲間の身を守る事にも繋がるのだ。

「タイチさんの言う通りです。メールが送れると言う事は、あちらとの連絡は可能。早く、解決策を見つけるしかありません」

 落ち着いたヤマトの腕を放し、もう一度パソコンを手に持った光子郎の言葉に、誰もが真剣な表情で頷く。

「……太一は、良い仲間に巡り会えたんだな」

 そんな姿を見ながら、タイチが小さく呟いたその言葉を聞いたのは、すぐ傍に居たアグモンだけだった。


 


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