「いてぇ!!」

 突然感じた衝撃に、一気に意識が覚醒する。

「………って、ここは……」

 目が覚めて、辺りを見回すが、今まで自分の居たあの場所ではない事に、太一は、素直に首を傾げた。

「アグモンは?!」

 そして、思い出した事に、慌てて立ち上がる。
 意識がなくなる直前まで、一緒に居た大切なパートナーを探そうと、辺りを見回すが、その姿を見つける事は出来なかった。

「……デジタル、ワールドだよな?」

 しかも、本当に今まで自分が居た世界かどうかさえも疑問に思えてしまう。拭えない違和感に、太一が思わず呟いた言葉に返される声は無い。
 もう一度辺りを見回して、状況を確認する。
 確かに、今まで自分は、パートナーと一緒に居た筈。それは、間違えようのない事実。
 意識がなくなる直前に、その声を聞いた事は、まだそう遠くない記憶だとも思う。

「……俺の意識がなくなる前に、何があったんだ?」

 分からない事が多過ぎる。体に感じた違和感。今も、違和感が残るのは、手足が痺れたように感じられる所為だろうか?

「何にしても、アグモンやヤマト達を探さないと……ここがデジタルワールドだって言うのなら、俺の知っている奴が居る筈だ」

 そう思ってその場所から歩き出そうと一歩を踏み出しかけた瞬間、その足を止める。

「タイチ!!」

 慌てたように名前を呼ぶその声に、太一は、警戒を示す。
 呼ばれている名前は、確かに自分の名前。だが、その声に、聞き覚えは無い。

「誰だ?」

 状況を確認しようと、その声の主を探す。
 何が起きたのか分からない今の状況では、迂闊に行動するのは、命取りになる。

「タイチ、タイチ!!」

 名前を連呼しながら走り回っているその足音を聞いて、思わずその緊張が解けてしまった。どう考えても、そんな行動を起こすような相手が、敵だとは思えない。
 そして、意を決して、その一歩を踏み出した。
 ガサッと茂みを掻き分ける音に、見た事も無いデジモンが振り返る。

「タイチ、居た!!って、タイチが進化している!!!!」

 自分の姿を見た瞬間、嬉しそうに名前を呼ばれて、意味不明な事を言われてしまう。

「……進化??」

 馴染みのある言葉だが、まさか自分に向けて、その言葉を言われるとは思っても居なかっただけに、太一が複雑な表情を見せた。

「落ち着け、ゼロ。タイチは、人間だぞ。オレ達みたいに、進化する訳ねぇだろうが!」

 慌てている大きな体をしたデジモンに、ガブモンと同じ姿をしたデジモンが呆れたように突っ込みを入れる。

「でも、どう見ても、タイチが、大きくなってるよ!」
「だから、落ち着けって!」

 目の前で繰り広げられる漫才のような光景に、太一はただ呆然と見守る事しか出来ない。
 自分の状況が分かっていないのだから、彼等の正体も、自分には分からないのだ。そう、目の前に居る2体のデジモンが、敵なのか、味方なのかさえも……。

「ゼロ、兎に角、タイチだとしたら、どうしてこうなったのか聞きださねぇ事には、話しが進まねぇだろう!」

 考え込んでいる自分の耳に、その声が聞こえて、太一は驚いてその顔を上げた。
 その名前には、聞き覚えがあったのだ。自分の後輩が、話していたデジモンの名前。

「もしかして、お前が、大輔の言っていた別世界の俺のパートナーか?」

 驚いて問い掛けた自分の声に、2体のデジモンも自分と同じように驚いたように声を上げる。

「ダイスケだって?!」
「えっ?ダイスケ??えっと、それって、誰だっけ??」
「アホか!ダイスケって言うと、あのパラレルモンを一緒に倒した相手じゃねぇかよ!!」

 ゼロと呼ばれたデジモンが、分からないと言うように首を傾げた瞬間、小さなデジモンがペシッとその腹を叩く。
 それを見ながら、『やっぱり、漫才だな』と内心に思ったのは、仕方ない事だろう。

「んじゃ、お前は、ダイスケの世界のタイチなのか?」
「まぁ、そう言う事になるな」

 ガブモンにそう言われて、太一は複雑な表情で頷いて返す。
 どうしてこんな事になってしまったのか分からない。ただ、今言える事は、目の前のデジモンが自分にとって敵ではないという事と、この世界が、自分が今までいた世界とは違うと言う事。

『……どーすっかなぁ……慌てても仕方ねぇし……』
「えっと、タイチって呼んで良いのかな?」
「えっ?ああ、良いぜ。俺は、さっきも言ったように、大輔が居る世界の八神太一。中学2年だ」

 考え込んでいた自分の耳に、困ったように名前が呼ばれて、慌てて自己紹介をする。

「うん、ボクは、ゼロマル。タイチやガー坊には、ゼロって呼ばれてるんだ。宜しくね」
「んで、オレが、ガブモンのガーボ。こいつとタイチには、ガー坊って呼ばれているけどな」

 そして返されたそれに、太一は笑みを浮かべた。
 本当なら、こんな状態になって焦る筈なのに、こんなに安心していられる自分を感じられる。

「こっちこそ、宜しくな」

 笑って手を差し伸べれば、人懐っこい笑顔で、返される。
 その手を取ろうとした瞬間、聞き慣れた音が響いて、ハッと顔を上げた。

「な、なんだ?何の音だよ!!」
「なんか、太一の方から聞こえるね」

 ポケットに入れているDターミナルからの知らせに、太一は慌ててそれを取り出し、画面を開く。

「それって、何?」
「えっ、ああ、これはDターミナルって言う、俺達の間では、仲間同士の連絡に使っているものなんだ」
「それじゃ、あっちから連絡が来たのかよ?」

 慌てて中を確認する太一に、ゼロが不思議そうに声を掛けてくる。それに、太一は説明をしながらも、その目は書かれている文章を読む。

「ああ、この世界の俺は、あっちに居るらしい」

 ざっと目を通して、ガー坊の質問に答えてから、ホッとしたように息を吐き出す。

「そっか、タイチ無事だったんだね。良かった」

 太一の言葉に、ゼロもホッとしたような表情を見せた。

「あっちから、メールが来たって事は、返せるな……こっちの状況も説明しとくか」
「そうだね。タイチが居るんなら、きっと大丈夫だよ」

 何を根拠にそんな事が言えるの分からないが、何の迷いもなく言われた言葉に、少し驚かされる。

「どうして、そんなに落ち着いていられるんだ?」
「まぁ、俺達はパラレル関係には、慣れちまっているからな。だから、心配なんてしてねぇよ。それに、タイチはああ見えて、状況判断は誰よりも的確だからな。その辺は、信じられるぜ」

 少し誇らしげにガー坊が説明するその言葉には、確かな信頼。
 疑う事などない、確かな絆。

「そっか、タイチにも、良いパートナーが居るんだな」

 信頼し合えるそんな関係が、容易く出来るモノだとは思っていない。
 だからこそ、彼等がどれほど大変な旅をしているのかを感じて、太一はポツリと呟く。


 


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