- やすみ- 

 一日の締め括り。
 大好きな、あの人と、過ごせる大切な時間。


      

        


「ヤマト、先にお風呂入ってこいよ。その間に、俺は後片付けしておくからさ」

 久し振りに早く戻ってきた相手に、食器を流しへと運びながら声を掛ける。

「…偶には、俺が片付けるから、太一が先に……」
「久し振りにゆっくりと風呂には入れるんだから、お前が先に入ってこい!!」

 自分の分の食器を運びながら、変わるということを主張しようとした瞬間、すっと外を指差して、ニッコリ笑顔のままその言葉は遮られてしまう。
 そして、命令形のその言葉に、ヤマトは逆らえる筈もなく、言われるままに、簡単にテーブルの上だけは片付けて、風呂場へと向った。
 その後姿をチラリと見てから、太一が満足気に頷く。
 何時も忙しくって、ゆっくり出来ない相手だからこそ、こうして持てた時間は、どんな事があっても大切にしたいし、休んでもらいたいのだ。

「本当、あいつの性格にも、困ったもんだよなぁ……」

 そして、小さく苦笑を零して、食器を片付ける事に専念する。
 数分もすれば、食器は、綺麗に食器棚に収まってしまった。

「さて、ヤマトは、30分ぐらいで上がるかな?その間に、飲み物の準備でもしておくか」

 言うが早いか、そのまま準備を始める。
 だって、こんな日は、本当に数少ない貴重な時間だから……。



「太一、上がった」
「おう!あっ、それ、寝室に運んどいて、久し振りに、飲もうぜvv」

 髪を拭きながらリビングに入ってきたヤマトに、お盆に載せられたそれを指差して、太一が笑顔を見せた。
 言われたその言葉に、一瞬ヤマトが驚いたような表情を見せたが、直ぐにそれが苦笑へと変わる。

「お前、酒弱いのに飲むのか?」
「煩い!偶には、いいだろう…」

 からかうように言われたそれに、少しだけ拗ねたように太一が呟けば、ヤマトが、笑みを零す。

「ほら、風呂、入ってくるんだろう?」

 そして、優しい声で太一を促した。それに、太一も小さく頷いて、ヤマトとは反対に、、リビングを出て行った。
 その後姿を見送って、ヤマトはもう一度笑みを零す。

「……偶には、こんな日もって、ヤツだな……」

 準備されていたそれを手にもって、寝室へと運ぶ。
 久し振りの、時間。今日と言う日は、本当に久し振りだから、この時間を大切にしたい。



「ほら」

 風呂から出てきた太一へと水割りを注いだグラスを差し出す。その瞬間、入れられた氷が、グラスにぶつかって、カランと音を立てた。

「サンキューvvって、大分、飲んだのか??」

 確か、お盆に乗せておいたのは、まだ開けていないボトル一本だった筈。なのに、自分が風呂に入っている間に、そのボトルは既に半分近く減っている。

「まぁ、ちょっとな……」

 そんな太一の言葉に、苦笑混じりに返事を返して、ヤマトは自分が持っていたそれを口に含んだ。
 大切な人が傍に居なくって、どうしてもそれが嫌で、飲んでしまった事に、自分の事ながらため息をつく。
 そんな自分に、太一はそれ以上の追求はせずに、ベッドに座っているヤマトの直ぐ隣に同じように座った。

「なぁ、ヤマト」

 ちびちびと自分の分のお酒を口にしている太一が、不意に自分の体を預けるように凭れて来る。その重みを感じながら、ヤマトはそっと相手に視線を向けた。

「どうしたんだ?」

 そして、自分にもたれて、ぼんやりとしている太一へと先を促すように問い掛ける。

「……やっぱり、また当分忙しいのか?」

 久し振りにもてたこの時間。でも、それが、ずっと続くなんて、やっぱりそんな事思えない。
 忙しい相手だと分かっているからこそ、こうした時間がとっても大切で、本当に大事な時間なのだ。

「当分は、暇だぞ」
「そ、そうなのか?」

 しかし、自分が予想していたモノと全く違う言葉が、あっさりと相手の口から伝えられた。
 それに、太一は、少しだけ意外そうに首を傾げて見せる。

「まぁ、何だ……メンバーの一人が、怪我したって話はしただろう?だから、暫く活動停止。あるとしても、簡単な雑誌のインタビューぐらいだな」

 説明された事に、そう言えばと、太一はヤマトが戻ってきた時のことを考えて、苦笑を零す。
 確かに、メンバーの一人が怪我をしたと言っていたのを覚えている。

「まず、明日は、オフ。太一もクラブ無いんだろう?」
「……ああ、明日は、休み……」
「だったら、久し振りにゆっくり二人で過ごせるな」

 嬉しそうに笑顔を見せる相手に、太一も思わず笑みを返す。
 思わぬところで、聞かされたお休み。
 ねぇ、だったら、今日は遅くまで、二人で飲もう。
 久し振りにもてた、この時間。今まで離れていた時間を埋めるように、思いっきり話をしよう。
 今日は、何をしていたのか。その前は、どんな事が起こったのか。
 知らない君に、全てを教えるように、話をしよう。
 そうすれば、時間なんて、あっという間に過ぎて、ほら、少し眠くなってきた。


「眠いのか?」

 大きな欠伸をした相手に気が付いて、問い掛ける。そうすれば、素直に小さく頷く姿。

「じゃ、寝ろ。俺も寝るから」

 持っているグラスを取り上げて、お盆に戻す。
 その頃には、ボトルの中には、1/4のお酒が残っているだけ。

「お休み、太一」

 お酒が入っているのもあって、直ぐに聞えてくる安らかな寝息に、笑みを零す。
 そして、寝室の明かりを消して、ヤマトもそれに習った。


 偶には、こんな時間もいいもの。
 だって、今までの時間を埋めるようにたくさん話が出来る。
 そして、明日の予定。ねぇ、明日はどうやって過ごそうか?
 大切な人と一緒に、大切なかけがえの無い時間を夢に見ながら、今は、お休みなさい。