「ヤマト、この写真、どう言う事なのか、説明してくれるよな?」
目の前に突きつけられたその写真に、ヤマトは表情を硬くする。
それは、ついこの間にとった写真で、自分が空の肩を抱いていると言うもの。
「いや、だからそれは……」
「だからそれは?」
自分の言葉を繰り返して言う太一の瞳は、全く笑っていない。それどころか、座っていて正直怖い。
「カメラマンの人が……」
「ふ〜ん」
言い訳のように慌てて言ったその言葉を、冷たい瞳で返されてしまう。
「カメラマンの人がどうしたって、ヤマト?」
にっこりと笑顔を見せているのに、目が全く笑っていない事に、ヤマトは思ず後ろに下がる。
「いや、だから……空の肩を抱けって……その、一様空の許可は貰ったし……」
「そっか、空の許可は貰ったのか……で、他に俺に言う事は?」
さらに笑顔を見せる太一に、ヤマトはそれ以上何もいえなくなってしまう。しかし、写真を改めて見て、太一が元宮大輔と一乗寺賢の肩に手を置いてあるのを見た瞬間、今まで押されていたものが逆転してしまった。
「俺も、一つ言わせて貰ってもいいか?」
「何だよ!」
突然声が低くなった事を全く気にした様子も無く、太一が不機嫌な返事を返す。
「お前だって、大輔と一乗寺の肩を抱いてるじゃないか!!」
「はぁ?」
言われた事の意味が分からなくって、太一が思わず素っ頓狂な声を上げる。だが、それに今度はヤマトの方が、怒ったような視線を太一に向けた。
「って、これは、当たり前だろう、先輩として、後輩を温かく見守って何が悪いんだよ!」
「当たり前?……それじゃ、仲間である空の肩を抱いてもそれだって、当然の事じゃないのか?!」
「そ、それとこれとは、違うだろう!大体、年頃の男と女が、肩を抱き合うって、どう言う事か分かってんのかよ、ヤマト!」
……年頃の男と女って…太一さん何だか、年より臭い……xx
「お前、言ってる事、無茶苦茶だぞ……」
自分で言っている事を分かっていない太一に、呆れたように呟けば、更に不機嫌そうに睨み付けてくる。
「ど、どうせ、俺は、無茶苦茶だよ!もう、ヤマトの事なんて、知らねぇ!!」
口で勝てないと分かると、暴力に出るか逃げるかのどちらかの行動を取るのだが、この時の太一の行動は、後者であった。言い捨てるようにそれだけを言うと、走り去ってしまう。
「太一!」
走り去ってしまうその後姿に呼びかけるが、それで止まるような事はない。
「……ヤマトさん、ウチのお兄ちゃんを、泣かせないでくれますか?」
そして、盛大なため息をついて頭を抱え込んだ瞬間、ポンッと肩を叩かれて言われたその言葉に、ヤマトが恐る恐る振り返れば、予想通りの人物がにっこりと怖い笑顔を自分に見せていた。
「……ヒ、ヒカリちゃん……何時の間に……」
「ずっと、ここに居ましたよ。勿論、私だけじゃなく、皆も一緒ですけどね」
ニコニコと終始笑顔を絶やさないヒカリに、ヤマトは背中に冷たいモノを感じてしまうのは仕方ないだろう。そして、言われたその言葉に、顔を上げた瞬間、思わずそのまま逃げ出したくなるほどであった。
「ヤマトさん、どう言う事なのか、説明してくださいますよね?」
こちらも、にっこりと絶対零度の笑顔を見せる光子郎。
「面白い事になったわね、京ちゃんvv」
「そうですね、ミミお姉さまvv」
楽しそうな笑顔で、喜んでいるミミと京。
「まっ、今回の件に関しては、ヤマト、君が全て悪いと思うよ」
盛大なため息をついて呆れたように呟く丈。
「お兄ちゃん、太一さんを泣かせたりしたら許さないって、言ったはずだよね」
にっこりと笑っているのに、その目が笑っていないタケル。
「太一先輩を泣かすなんて、最低だぞ!」
本気で抗議の声を上げる大輔。
「……ボク達にとって、太一さんは、大切な先輩なんですよ」
ヤマトを睨み付けながら、ギュッと拳を握り締める賢。
「…理由は分かりませんが、人を傷付ける事は、いけない事だと思います」
一番下なのに、はっきりとした口調で言葉を告げる伊織。
「……ごめんね、まさかこんな事になるとは思わなかったんだ……」
今回の原因を作ったその人物は、その言葉の割に、ニコニコと笑顔を見せている。その笑顔を前にしていれば、その言葉が本心でないと言う事がいやでも分かってしまうだろう。
「……空、お前、分かってて許可出しただろう!」
「何の事かなぁvvそんな事より、太一の事追いかけなくっていいの?それとも、ここで怒っている皆を相手にする?」
空のその言葉で、後ろに居る人物達に視線を向けた瞬間、ヤマトはただ大きく首を振って返した。そりゃ、邪悪な笑顔を見せているような人物達を相手にするよりは、怒らしては居るけれど、大切な存在が大事に決まっている。
「なら、早く行きなさいよ。それから、私から太一への伝言……貴方に夢中な男なんて、眼中にないって、言っておいて頂戴ね」
「……伝えておくよ…」
にっこりと笑顔で言われたその言葉に苦笑を零しながら頷いて、ヤマトがそのまま太一の後を追うように走り出す。
「あっ!逃げるんですか、ヤマトさん!!」
「行かせてあげるべきでしょう、太一の笑顔が見たいのなら……」
慌ててヤマトを追いかけようとする全員に、空がため息をつきながら呟いた言葉で全員の足が止まる。
「所詮、太一を笑顔に出来るのは、ヤマトくんだけなのよねぇ……私達には、勝ち目ないでしょう?」
その言葉に誰も何も返せなかったのは、それが本当の事だと知っているからであろう。
「本当に、世話が焼けるんだから……」
呆れたようにため息をついて、今回の事件を起こした当事者が呟いたその言葉に、皆が内心複雑な思いをしたのは、言うまでもない。
「太一!」
探し回って、漸く見つけた太一は、自分が近付こうとすれば、逃げるように走り去ってしまう。それを何度も繰り返して、漸くその腕を掴んだ時には、ヤマトと太一の息は、かなり荒いものになっている。
「…つ、捕まえた……」
「……離せよ……お前なんて、もう知らないって、言っただろう!」
自分が掴んでいる腕を振り解こうと暴れている太一を、両手で離さないようにがっちりと抱きしめる。それでも、腕の中で暴れている太一に、ヤマトはさらに腕に力を込めた。
「離せって!痛い、バカ力!!」
腕の中から苦情が聞こえるのを無視しながら、ヤマトはそのまま盛大なため息をついた。
「……お前が逃げないのなら、緩めてやるよ」
ため息をつきながら言われたその言葉に、太一が不服そうな視線をヤマトに向ける。
「……空からの伝言…」
「えっ?」
だがその視線を完全に無視して、ヤマトが呟いたそれに太一が驚いたように瞳を見開いた。
「……お前に夢中男なんて、眼中にないって、さ…」
「俺に夢中な、男?」
不思議そうに尋ねてくる太一に、ヤマトは漸く腕の力を少しだけ緩める。もう、太一は暴れていないから……。
「そんなの、俺以外に誰が居るんだ?」
分からないと言うように自分を見詰めてくる相手に、優しく微笑みながらそっと呟けば、漸く分かったのかその顔が瞬時に赤くなってしまう。そんな相手を可愛いと思いながら、ヤマトはそっと太一の肩に額を預けた。
「…泣かせて、ごめんな……」
「ばっ、バカ!誰、泣くんだよ!!」
真っ赤な顔のまま慌てて自分から離れようとする太一の腕を掴んで引き寄せると、少しだけ涙の跡が残る目元にそっと手を伸ばす。
「…お前……」
そして、そっとその目元を優しく拭うような仕草を見せれば、太一は悔しそうな顔を見せた。
「……俺…もう、あんなの嫌だからな……」
「ああ、悪かった…」
自分の顔を隠すように、ヤマトの胸に顔を埋めながら、くぐもった声で言われて、ヤマトは優しくその頭を撫でると、素直に謝罪する。
「絶対絶対、嫌だからな!」
「ああ…」
念を押すように言われたそれに、もう一度頷けば、漸く安心したのか、太一が顔を話して笑顔を見せる。
「なら、今回は許してやるよ」
「ああ、サンキュー」
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