朝、何時ものように起きて、朝食の準備。
新年早々といっても、自分の朝は変わらない。
年末からずっと戻ってこない父も何時もの事だ。
「……新年かぁ…」
真新しいカレンダーを見詰めながら、トースターにトーストをセットして、フライパンをコンロに掛ける。
そして、振り返るのは、年末の事。そう、年末は、本当に忙しかったのだ。
何が忙しかったと言えば、何故か父親の仕事を手伝わされたから……。
アマチュアバンドの特集だと言って、いいように使われたといってもいいだろう。勿論、そのお陰で、バンドには、新しいファンが出来た事は、収穫と言えば収穫かもしれないが…。
しかし、そのお陰で、大切な人と会う時間を削られたのだ。
「……太一に、一体何時から会ってないんだ?」
学校が休みになってから、急にバタバタと忙しくなった事を思い出して、盛大なため息をつく。
そして、最愛の相手に最後に会った日を思い出す。
「クリスマスの日か?」
しかし、思い出したそれに、盛大なため息をついた。
そう考えれば、丸々一週間も会っていない事になるのだ。
「……太一に、飢えてるな……」
だから、年賀状に、その旨を書いた。あれは、自分の正直な気持ち。
「あっ!年賀状!!」
自分の書いた年賀状の事を考えて、もう送られて来ているだろうそれを思い出し、ヤマトは準備していた朝食の支度を放り出して慌てて家を出た。
一階のポストまで急いで、その中を確認すれば、数十枚の年賀状が、束ねられた状態で入っている。
それを手に、急いで家に戻る為に、エレベーターに乗り込んだ。そして、その束ねられた年賀状を一枚一枚確認するように見ていく。
自分が、目当てとしている年賀状は、直ぐに見付かった。
その一枚だけを束から抜き取って、裏に返す。
あまり綺麗ではないが、見慣れた文字が、並べられているのを見て、笑みを零す。
『明けまして、おめでとう、ヤマト!!
って、事で新年だ。…あっ!当たり前か。(笑)
えっと、去年は色々迷惑掛けちまったけど、今年も見捨てずに面倒見てくれよな。
頼りにしてるぜ!
んじゃ、今年もいい年にしような。
太一』
あまりにも、らしいその年賀状。
家に戻って、テーブルに年賀状の束を置くと、ヤマトはコーヒーだけを手早く作り、それもテーブルに乗せてから、自分の部屋から携帯を持ってくる。
「……どうしてるかな…」
年賀状を見て、声が聞きたくなってしまった。
らしいその年賀状。そして、一週間も君に会えなかった事実は、やはりその気持ちを強くする。
今、誰よりも、君の声が聞きたいと……。
そう思って、携帯の短縮ボタンを押そうとしたその瞬間、携帯から音楽が流れた。
それは、大切な人からの呼び出し音。自分が、掛けようと思った相手からの電話に慌てて通話ボタンを押す。
「太一?」
確認しなくっても、相手は分かっているのに、思わず問い掛けるようにその名前を呼ぶ。
『明けまして、おめでとう!ヤマトvv』
そうすれば、明るい声が、電話越しに聞えてくる。
本当に久し振りに聞く、相手の声。
「ああ、おめでとう……さっき、お前の年賀状見てたところだったんだ」
だから、自分も挨拶を返して、今までの事を話す。
今、君に電話しようと思っていた事を伝えたいから……。
『俺も、ヤマトの年賀状見てたところ……そう思ったら、声が聞きたくなって……』
そうすれば、相手から、自分が思った事と同じ想いが返される。それに、ヤマトは、笑みを零した。
「俺も、お前の声が聞きたかった……」
だから、同じように自分の気持ちも相手に伝える。
囁くように、思いの全てを伝えるように……。
『……年賀状、サンキュー……』
自分が囁いた事に、少しだけ照れくさそうな声が聞えて、ヤマトは笑みを深くする。
見なくっても分かるから、今、君の顔が赤くなっている事を……。
「ああ……太一!」
しかし、それに気付かない不利をして、頷いてから、名前を呼んだ。
『んっ?』
「明日、会えるか?」
今、声を聞いたら、会いたくなった。
それは、声だけでは、この気持ちを抑えられないから……。
『……おう…』
自分の静かな問いかけに、即答でOKを貰えて、幸せを感じる。
今、君が、同じ気持ちで居てくれる事を願って……。
「それじゃ、明日…」
細かい話と、他愛のない話をして、電話を切る。
新年そうそう、君の声が聞けた喜び。
そして、明日、君に会える。
「……たまには、こんな正月も、いいもんだな……」
何時もと変わらない、新年の朝。
でも、こんな小さな幸せだって、あるのだと実感できる。
この幸せを、全ての人に……。
明けまして、おめでとうvv
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