去年はすっかり忘れていて、お前から貰った残暑見舞い。
 今年は、忘れないで先に出した。

 なぁ、お前はちゃんと覚えてたか?



 毎日暑い日が続いている。
 35度を超える暑さは、暑さに強い人間でも十分に疲れさす。
 毎日の部活で、黒くなった肌。
 お前は、バンドの練習で篭りっきりだから、きっと白いままだろう。
 なんて思いながら、覗いたポストの中に一枚の葉書を見つけて笑みを零した。
 今日もみっちりと扱かれて疲れきったはずなのに、その疲れも一瞬飛んでしまう。

「ただいま」

 急いで家に入れば、クーラーの効いた部屋が迎えてくれる。

「お帰りお兄ちゃん。何か飲む?」

 何時ものように疲れて帰った俺を、ヒカリが笑顔で迎えてくれた。
 それに笑顔を返して、麦茶を貰う。
 母さんは何時ものように仕事で帰りが遅くなるらしい。

「んじゃ、夕飯は適当に作れだよなぁ……ヒカリ、何が食べたい?」
「うんと、暑いからトマトの冷スパにしようと思ったの。今日は私が作るから、お兄ちゃんはゆっくりしてね」

 ニッコリと可愛らしい笑顔で言われた事に、思わず笑い返す。
 本当に、出来た妹だと思うのは、こんな時だけじゃないけど、有難い事だ。
 感謝の気持ちも込めて、ヒカリの頭を撫でると持っていた荷物を部屋に置くためにドアを開く。

「シャワー入ってきた方がいいよ」
「了解!そうさせてもらう。んじゃ、夕飯は任せるな」

 部屋に入ろうとした瞬間言われたヒカリの言葉に素直に頷いて、ドアを閉める。
 そして、先程持ってきたそれを見るために、荷物を放り投げた。
 何時ものように綺麗に書かれたヤマトの字が俺の名前を書いている。


『暑中見舞い申し上げます

 確かに今年も暑いな。
 俺は暑いのは苦手だけど、お前と違って建物の中だからな。
 サッカーしているお前に比べれば、天国だろう。
 だから、文句も言ってないと思うぞ。
 8月1日は、勿論楽しみにしてる。
 後、島根の話は、お前のご両親の了解があれば問題ない。
 漸く、約束していた事が実現できるな。
 俺も楽しみにしてる。
 部活、無理せず頑張れよ。
                                     ヤマト』