「はぁ?」
言われた言葉が理解できずに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
勿論、言われた言葉が理解できなかった訳じゃない。だが、余りにも突然言われた言葉に、問い返さずにはいられない。
「デジタルワールドで、クリスマス??」
言われた言葉をそのまま反芻して、そのまま問い返す。
「うんvv皆で食べ物持って、パーティしようって。勿論、お兄ちゃんも行くよね?」
ニコニコと本当に嬉しそうな笑顔を見せる可愛い妹の姿を前に、太一は複雑な表情を見せた。
勿論、そのパーティが嫌な訳ではない。むしろ、自分のパートナーとクリスマスが過ごせると言うのは、何よりも嬉しい事。
嬉しい事なのだが、自分の予定を全く無視した状態で、どうして当日になってそれを言うのかが、問題なのだ。
「…もしかして、もう約束しちゃっているの?」
なかなか返事を返さない兄に、ヒカリが不安気な表情で見上げてくる。
そんな妹を前に、太一は少しだけ困ったような表情を見せた。自分が、妹に弱い事をちゃんと分かっているからこそ、その表情で見上げてくるのは、ある意味反則であるようにも思える。
どう考えても、これでは簡単に断ることが出来ない。
「ヤマトさんは、タケルくんが誘ってくるから、心配ないと思うの……それでも、やっぱり駄目?」
不安そうな表情で見られて、言葉に詰まってしまう。
しかも、自分がどうして直ぐに返事が返せなかったのかを知り尽くしたその言葉に、太一は負けたと言わんばかりの盛大なため息をついた。
この状況を考えれば、当日まで自分に話をしなかったのも、計画の内だったと理解できる。
策士な妹を前に、太一は諦めて素直にパートナーに会える事を喜ぶ事にした。
「分かった。俺も行く。アグモンに会えるのは、嬉しいからな」
「本当?!」
漸く頷いた自分に、ヒカリが勢い良く聞き返してくる。少しだけ不安そうなのは、強引な方法をした事で、自分が怒ったりしないかが、心配だったのだろう。
それが分かっているからこそ、太一は何時もの笑顔を見せて大きく頷いて返す。
「ああ、俺が、嘘なんて言ったことあるか?」
「ううん、ない」
不安そうな表情が、自分の笑みと言葉に安心して、満面の笑顔に変わる。それを目の前にして、太一はもう一度笑顔を見せてから、妹の頭を優しく撫でてやる。
「それじゃ私、光子郎さん達に連絡してくるね!」
自分の大好きな兄が、参加すると言う事に嬉しそうな笑顔を浮かべながら、仲間達に伝えるために、自分の部屋へと向かう姿を小さくてを振って見送ってかから、太一はそっとため息をついた。
「……ヤマト、頼むから拗ねるなよ……」
そして、小さく呟いた言葉に、もう一度だけ大きく息を吐き出すのだった。
「ヤマト」
携帯の着信音に、慌ててそれを手にとって、相手の名前を呼ぶ。
『……料理が、役に立ちそうだな……』
「…そうだな……」
電話に出た瞬間、疲れたように呟かれたそれに、太一は苦笑を零した。
この計画は、ずいぶんと念入りに組まれていたにも関わらず、自分達には全く知らされていなかったのだ。
兄である自分達が、下の者に弱いと言う事を上手く利用されて、断ることなど出来ないように念入りに仕組まれた計画。
「お前は、タケルに泣き付かれたんだろう?」
質問と言うよりは、確認と言うような自分の問い掛けに、携帯の向こうから乾いた笑いが聞こえてくる。それは、自分の言葉を肯定するもの。
『……そう言うお前は、ヒカリちゃんに泣き付かれたんだろう?』
自分の質問を質問で返されて、思わず同時にため息をついてしまうのを止められない。
分かっていた事だが、自分達の立てていた計画は、見事なまでに年少組みの手によって、打ち砕かれてしまったのだ。
「……何にしても、アグモンに会えるのは、正直言うと嬉しいし、な」
『それは、同じだが、当日に言うのだけはやめて欲しかった……』
確かに、恋人同士で過ごすクリスマスも良いけれど、大切なパートナーと過ごすクリスマスも、それは自分達にとって決して嫌な事ではない。
ただ、やはり思う事は、前々から分かっていたそれを、当日に言うのだけは、止めて欲しかったと、正直に思ってしまう。
「お前、朝から料理作ってたんだろう?ヒカリとタケルは、俺達の計画を知っていただろうからな……」
『だろうな……お陰で、もっと大量の料理が必要になった……』
前々から、二人で計画を立てていた。だから、今日と言う日は、二人でひっそりとしたパーティを開くつもりだったのだ。
その為に、ヤマトがここ数日準備のための買出しをしていたのも、知っている。そして、今日は、朝からその準備をしているであろう事も……。
「アグモン食うからなぁ……俺も、何か作って行くか。ケーキは、ヒカリと空で、準備は万端だと言ってたし……」
妹が張り切って家を出ていった姿を想いだしながら言えば、向こうから頷いている気配を感じる。
『お菓子類は、京ちゃん担当。ゲームは大輔と賢。光子郎も食べ物担当。しかも、今日ばかりは、丈も借り出されたらしいからな』
「……丈は、空に泣き付かれたんだろうなぁ……」
そして、それぞれの名前と分担を口にするヤマトが最後にしたその名前に、太一は思わず同情するように小さく呟いた。
何時もは『塾があるから』と、忙しい丈までもが借り出されていると言う事は、ある意味、凄い。
用意万端、何から何まで、隙が無いほどの計画性は、参謀役の光子郎の力によるものだと否応無しにも分かってしまう。だが、そこまで前々から準備されていた計画なら、当日ではなく、やはり前もって話して欲しかったと思っても、許されるだろうか。
「…ミミちゃんも、ニューヨークから態々来るって言っていたから、久し振りに選ばれし子供が勢ぞろいだな」
嬉しそうに妹が話してくれた事を思い出して久し振りの再会に、思わず呟いたそれに、携帯の向こうから苦笑する声が聞こえてくる。
『……伊織は、複雑な心境を隠せないって話しだったぞ』
「まぁ、メンバーがメンバーだからな。真面目なあいつにとっては複雑だろう……」
最年少でありながら、もしかしたら新メンバーの中で、一番落ち着いた雰囲気を持っている少年のことを思い出して、思わず苦笑を零す。
勿論、そんな仲間達に振り回されながらも、嬉しそうに笑う姿を思い出せば、頬ましいと思えるのだが……。
「ミミちゃんが、クリスマスツリーを準備して、絶対に雪のあるエリアでのクリスマスパーティだって言うんだから、あっちのヤツ等も大変だろうなぁ」
『お前、人事みたいに言うなよ』
しっかりとした計画の上で、決められた内容に、思わず呟けば、呆れたような声が返される。
「いや、事実人事だし……まぁ、何にしても、準備しねぇと始まらねぇからな、時間も無いし、もう切るぞ」
『ああ、まだ大量の材料が待っているからな……またあっちで会おう』
「おう!料理頑張れよ。なんなら、運ぶの手伝うぞ!」
『いや、タケルが直接ウチにゲートを開いてくれる事になってるからな』
「そっか、何にしても、あっちでな」
自分の申し出をそのまま断られて、少しだけ残念そうに言うが、それでもこれから会える事を考えて、会う約束をしてから、携帯を切る。そして、無理やり決められたパーティの準備をする為に、冷蔵庫を開く。
中にある材料を確認して、これから始まるであろう賑やかで楽しい時間の為の、準備を始めた。
「タイチ!!」
「アグモンvv」
ゲートを抜けた瞬間に、待っていたように自分に向かって走りよってくる、大切な大切なパートナーの姿に、太一からも走り寄ってぎゅっとその体を抱き締める。
会いたかったのは、本当。ずっと一緒に居られないからこそ、こうして会える時間は大切で、大事な時間。
「ゲンナイさんがね、ちゃんと準備してくれたんだよ」
自分に出会えた事で、本当に嬉しそうな笑みを見せながら言われた言葉に、タイチも笑顔を返す。
「やはり、ゲンナイさんに頼んで正解ですね。テントモン、案内をお願いします」
「はいな。ミミはんも、先に着いて準備してはりますよって」
アグモンの言葉に、満足そうに頷いて、光子郎が傍にいるテントモンへと笑みを向ける。
それに、テントモンも返事を返して、ゆっくりと歩き出した。
「ミミお姉さまに会えるのねvv」
「み、京さん落ち着いてくださいね」
ゆっくりと歩きながら準備されていると言うパーティ会場へと向う中、久し振りに会える事に、京が嬉しそうな声を出す。
そんな自分のパートナーにホークモンが、慌てて宥める姿に、皆が思わず笑いを漏らした。
「ここが、そうよ」
そして、ピヨモンが指し示したのは、一軒の家。いや、家と言うよりも、屋敷と言った方がピッタリするぐらい立派な建物。
そう昔、自分達が旅をしていた時、デビモンが自分達を罠に陥れるために作り出したような、あの幻の館を思いださせるような立派なお屋敷。
「……昔、こんな屋敷見たことあるようなぁ……」
「…確かに、複雑な気分だな……」
その事を思い出しながら、太一が複雑な心境で呟いたそれに、同意する事ができるのは、旧選ばれし子供達のみ。
意味の分からない新選ばれし子供は、思わず首を傾げた。そして、自分達と違って、途中から参加したヒカリも、それは同じで、兄の呟きに、不思議そうに首を傾げる。
「どうかしたの、お兄ちゃん?」
「いや、何でもない。ほら、ミミちゃん待たせてるんだろう?行こうぜ」
心配そうに見詰めてくる妹に、太一が慌てて首を振り、ドアを開くように促す。
複雑な心境の旧選ばれし子供達は、訳が分からないと言うように自分達を見詰め来る後輩達に、安心させるように笑顔を見せた。
もう、昔の話だから、今更そんなことを話しても、震災させるだけだと知っているから……。
それに、楽しい時間を、昔の苦労話で終わらせたくはないと思うのが、本音である。
「はな、行きまひょうか」
自分達のパートナーの気持ちを理解している、テントモンが代表してドアを開く。
「メリー・クリスマス!!」
そして、ドアが開いた瞬間、盛大なクラッカーの音と、楽しそうな声が自分達を出迎えた。
「ミミちゃん……アンドロモンに、ゲコモン、オタマモンにユキダルモン、メラモン、オーガモンまで……良く、これだけの人数集めたな」
扉を開いて直ぐに迎えられた大勢の姿に、太一が驚いたようにその名前を呼ぶ。
「任せてよ!私に掛かれば、簡単よvv」
太一の驚きの声に、少し自慢気に言われた言葉に、思わず笑みを浮かべる。
昔のあの冒険の中で知り合って、デジモン達。
助けてくれたモノに、以前は敵だった相手。それでも、今は、彼等は自分達の大切な仲間。
「ミミが声を掛けたらね、皆が来てくれたのよ」
自分のパートナーを自慢するように言われたパルモンの言葉に、ミミが『当たり前』と笑顔を見せる姿は、昔と何も変わらない。
「パーティするって言うから、仕方なく来て遣ったんだ、ありがたく思えよな!」
ジャレ合っているミミとパルモンの隣で、少しだけ照れたように言われたオーがモンの言葉。
素直じゃないけど、それでもこうしてくれた事が、嬉しいから素直に頷いて返す。
「んじゃ、これだけじゃ、料理足りねぇかも……」
だが、自分達が想像して以上に集まっているメンバーを前に、準備してきた物を考えると、不安になってくる。
「心配ないアルよ。僭越ながら、ワタシが料理準備するアル」
持ってきている荷物を手にどうするかをかを考えている中、新たな声が聞こえて振り返った。そこに見知った姿を見つけて、その名前を呼ぶ。
「あ〜っ!!デジタマモンまで居るのかよ……なら、料理の心配は必要ないな」
レストランを経営している事を知っているそのデジモンに、安心したようにホッと胸をなでおろす。
だが、彼は、決して無料では料理を食べさせてはくれない事を思い出して、空が複雑な表情を見せた。
「……でも、誰がお金払うの??」
「今日は、特別アル。精一杯食べるアルよ」
空の疑問に、卵の殻のようなものから覗いている瞳が笑っているように細められる。
「ラッキーvvブイモン、一杯食えるぞ!!」
「おう、一杯食べるぜ、大輔!!」
その言葉に元気コンビが嬉しそうに言った言葉に、笑いが起こる。
そして、案内された広間に集まって、これから始める賑やかなパーティの準備。
置かれているテーブルに、持ち寄った料理やお菓子、そしてケーキが所狭しと並べられた。
「そう言えば、雪は、必須って、話しだったんだけど、降ってなかったわよね、光子郎くん?」
「はい、確かに、お願いしていた筈なんですけど……」
そしてここに来て、約束されていたモノが見えない事に、空が不思議そうに光子郎に話し掛ける。
その質問に、光子郎も不思議そうに首を傾げて、PCのキーボードを叩く。確かに、メールでは、用意してくれると言う約束だったから……。
だが、ここに辿り着くまでには、雪など全く見られなかったのだ。それどころか、温かく、冬だと言う事を忘れさせるようんな気温は、雪が降る気配など全く見られないほどである。
「大丈夫よ、空さん。あっち側の窓見て」
「えっ?」
だが、そんな二人の遣り取りに、ミミがニッコリと笑顔を見浮かべて、窓を指差す。ミミの言葉に、二人は言われた通りその窓へと視線を向けた。
そして、向けられた先に映る景色は、銀世界。
「えっ?あれ?どうなっているの??」
自分達が来た方は、雪のゆの字さえ見えない状態だったのに、今目の前に見せられたその光景に、空が素直に疑問を口にする。しかし、光子郎は、その景色を見て、感心したような笑みを浮かべた。
「そう言う事ですか…ゲンナイさんも、やってくれますね」
「何だよ、どう言うことだ??」
ポツリと呟かれた光子郎のそれに、まったく意味が分からないと言うように大輔が首を傾げる。
「だからね。こう言うことだよ、大輔」
全く分かっていない大輔に、賢が苦笑を零しながら説明しようと口を開く。だが、その説明よりも先に、太一が感心したように口を開いた。
「俺達が来た方は、綺麗な晴天。そして、屋敷の反対側だけ雪を降らす。そうすれば、俺達は寒い思いをせずに屋敷に来られるだろう?ゲンナイのじいさんの思いやりってヤツだな」
「そうなんすか?」
大好きな先輩の説明に、大輔が不思議そうに問い掛ける。それは、その説明に、対しても疑問があるようだ。
そんな大輔の姿に、太一は思わず苦笑を零した。
「おいおい、少しぐらいは感謝してやれよ。ゲンナイのじいさんが可哀想だぞ」
「そうよ、ちゃんと感謝してあげてよね。態々このお屋敷もゲンナイさんが作ってくれたのよ」
呆れたように大輔の頭を軽く叩いてから言われたその言葉に便乗するように、ミミが少しだけ怒ったように説明する。
「って、そうなんですか??」
「日頃の感謝を込めてるんですってvv」
ミミの言葉に驚いたように、光子郎が問いかければ、ニッコリと笑顔で言われた言葉に、納得したように頷いて返す。
まぁ、日頃あれだけ面倒事を押し付けられているのだ、偶にはこれぐらいの奉仕があっても、良いだろう。
勿論、久し振りにこうして全員が集まって楽しい時間が持てた事は、素直に感謝している。
「で、その功労者はどうしたんだい?」
だが、その準備をしてくれた人の姿が見えない事に、丈が不思議そうに問い掛ける。
「彼は、時間が取れないので、宜しく伝えて欲しいと言っていた」
あたりを探すように見ている子供達に、アンドロモンが、受けていた伝言を伝えた。
「そっか、直接礼を言いたかったんだけど、仕方ねぇな。光子郎、ちゃんとお礼メール送っといてくれ」
「分かりました」
アンドロモンの言葉に、少しだけ残念そうに呟いてから、仕方がないと言うように、光子郎へと頼めば、その場で直ぐにメールを打つ姿が見られる。
直ぐにメールを送れば、返事も直ぐに返された。
「ゲンナイさんからのメールです。『折角だから、存分に楽しんで欲しい』と言う事ですよ」
「了解。それじゃ、準備ももう終わったな」
粗方整えられた部屋を見て、太一が全員へ声を掛ける。
その声に、皆が大きく頷いた。
「んじゃ、パーティを始めようぜ。みんな、グラス持てよ!」
太一の言葉で、皆がそれぞれジュースの入ったコップを手に持つ。
それが、全員に行き渡ったのを確認してから、もう一度太一が声を上げた。
「改めて、メリー・クリスマス!!」
多々だかと持っているグラスを掲げて、今日と言う日を楽しむ言葉を伝える。
「メリー・クリスマス!!!」
自分の言葉に、その場に居る全員が同じ言葉を返して、持っているグラスが、合わさる音が響く。
「それじゃ、パーティの始まりだ!!」
賑やかな楽しい時間が、過ぎていく。
「ねぇ、タイチ」
「んっ?」
始めの内は、皆と騒いでいた太一も、今はぼんやりと雪が降っている窓を見詰めていた。そんな自分に、大切な相手から名前を呼ばれてその視線を隣へと向ける。
「本当は、ヤマトとパーティするんじゃなかったの?」
そして、質問された言葉に、思わず複雑な笑みを浮かべてしまうのを止められない。
何時もは超が付くくらい鈍感な相手なのに、どうして自分の事になると、こんなにも鋭くなるのだろうか。
心配そうに自分を見詰めてくる緑の瞳に、太一は優しく笑みを見せた。
「……いいんだ。今は、こうして皆とワイワイしている方が楽しいからな。それに、アグモンとこうしていられるのが、何よりも大切なんだよ」
「タイチvv」
大切な存在を、ぎゅっと抱き締めれば、嬉しそうな笑顔と共に、抱き締め返してくれる。
大切な掛替えの無いパートナー。誰も変わりなんて出来ない、大切な大切な相手唯一無二の存在。
「ねぇ、タイチは、ああ言っているけど、ヤマトとしては、複雑なんじゃないの?」
そんな二人の遣り取りを少し離れた場所で見守っていたガブモンが、自分の隣で、気にしてないと言う表情を無理に作っている自分のパートナーへ問い掛ける。
その表情は、どう見ても複雑な色を見せていた。
「……分かっているなら、聞かないでくれ」
不機嫌そうに飲み物を一気に飲むそんな自分のパートナーに、ガブモンは思わず苦笑する。
それでも、今自分と一緒に居てくれる事が、嬉しいから……。
「でもな、俺もガブモンとこうして過ごせるのは、嬉しいんだぜ」
そして、何気に呟かれたその言葉に、満面の笑顔。自分と同じ気持ちを持っていてくれる事が嬉しいから……。
本当に、大切な大切なパートナー。そして、そんな彼らと一緒に過ごせる事が、何物にも替えがたい自分達にとっての最高の贈り物。
「ヤマト、有難う」
「……それは、こっちの台詞だ、ガブモン」
だから、今だけは、皆で楽しむクリスマス。
誰でもない、大切なたった一人のパートナーと……。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「……終ると、あっけないよなぁ……」
デジタルワールドから、リアルワールドに戻ってきた時は、どうしようもない寂しさを感じるのは、止められない。
ずっと一緒に居られないからこそ、別れる時は、何時だって悲しくなる。
「そうだな……」
そのままデジタルワールドに残る者、そして、別の場所へと戻るもの。それぞれがバラバラになる瞬間は、どうしてもやりきれない複雑な思いが胸に湧いてくるのだ。
だが、それは今を生きている自分達にとっては、避けられないモノ。
それでも、その現実を受け止めているのは、また会えると思えるから……。
「それじゃ、お兄ちゃん、私は家に帰るね」
「おう!タケル、ヒカリの事宜しく頼むな」
「はい、任せてください」
光子郎の家から、集まっていたメンバーがそれぞれその場所へと離れていく。皆に声を掛けられて、一人一人に返事を返す太一を、ヤマトは一歩離れた場所で見守っていた。
「それじゃ、不本意ですけど、ヤマトさん、お兄ちゃんの事、お願いしますね」
そして、見守っている中、自分の所へと近付いてきた相手が、言った言葉に、思わず苦笑を零してしまう。
その表情は、『不本意』と言った言葉がピッタリとしていて、ヒカリの心境を表していた。
「……ヒカリちゃんも、気を付けて帰ってくれ」
「ヤマトさんと違って、タケルくんは、頼りになりますからvv」
そんなヒカリに、それでも返事を返したヤマトの言葉は、ニッコリと笑顔で返されたそれに、思わず返す言葉を失ってしまう。
ニコニコと笑顔で言われる言葉には、十分なトゲが含まれていた。
「お兄ちゃん、言われちゃったね」
そんな自分とヒカリの遣り取りを聞いていたタケルが、笑いながら声を掛けてくる。それに、ヤマトは、複雑な表情で、視線を相手へと向けた。
「あんまり、太一さんを困らせるようなことをしちゃ駄目だよ」
そして、留めとばかりに、こちらもニッコリと笑顔で言われたそれ。
「……楽しんでいるだろう?」
笑顔で嫌味を言う実の弟に、ヤマトは、不機嫌そうに相手を見る。
「まさか、心配しているんだよ。お兄ちゃんが、太一さんに嫌われたりしないかって……。もっとも、嫌われたら、ボクが太一さんにアタックするつもりだけどね」
「タケル!!」
心配しているとは思えないその言葉に、怒ってヤマトが名前ゐ呼ぶ。
そんな兄に、タケルが楽しそうな笑みを浮かべ。
「まぁまぁ、太一さんが、お兄ちゃん以外の人を見る事なんて、無いって分かってるんだから、ちょっとした冗談で怒らないでよ」
睨んでくるヤマトの視線をやんわりと遮って、ニッコリと笑顔で言われた言葉に、ヤマトが驚いたように瞳を見開いた。
「本当、お兄ちゃんの何処がいいのかなぁ……まぁ、それは皆が知ってる事なんだけどね」
苦笑交じりに言われた言葉に、掛ける言葉が見つからない。
誰もが大切にしている相手を、自分は恋人にしている。
そんな相手だからこそ、何時だって不安は付きまとう。それでも、誰もが言うのだ。『太一の相手は、ヤマトしか居ない』そして、その逆も……。
どうしてそう言われるのか、当人である自分には全く分からない。それでも、皆が自分達を見止めてくれている事が嬉しいと思えるのだ。
「それじゃ、僕達は帰るね。お休み、お兄ちゃん」
「あっ、ああ、気を付けて帰れよ」
考えている中、挨拶の言葉を残して、手を振る相手に、慌ててヤマトが声を掛ける。
そんな自分に振り返って、もう一度手を振る弟に、ヤマトも手を振返した。
「皆、帰ったな」
最後の二人が帰るのを見送った瞬間、声を掛けられて驚いて振り返る。
勿論、そこに居る相手なんて、確認しなくっても、分かっているのに、驚いてしまうのは、仕方ないだろう。
驚いたと分かる自分に、太一が小さく笑みを見せる。それに、ヤマトも笑みを返して、頷いた。
「そうだな……で、どうする、このまま俺の家に来るか?」
そして、尋ねるように問い掛けられたそれに、太一は、一瞬考えるような仕草を見せて、小さく首を振る。
「……あのな、ちょっとだけ付き合って欲しい所があるんだよ」
そして、言われた言葉に、ヤマトは首を傾げた。
太一が付き合って欲しいと言う場所に、全く心当たりが無い。
「どこへ?」
「着いてからの、お楽しみvv」
だからこそ、素直に問い掛けた自分に、悪戯を考えついた子供のような笑みを浮かべた太一が嬉しそうに歩き出す。そんな太一の姿に、ヤマトは不思議に思いながらも、素青にその後を追って歩き出した。
「ここ、ここに来たかったんだ」
数十分ぐらい歩いて着いた場所は、ちょっとした高台なった場所。
そう言って指された方を見れば、お台場が良く見た。
「そろそろ、ライトアップの時間だろう?」
腕時計を確認して呟かれた言葉と同時に、ぱっとイルミネーションが輝きだす。
観覧車や、町のあちこちに見えるイルミネーションの光の渦。
「……いい場所だな」
「だろう?結構な穴場らしいぜ。恋人達の隠れスポット」
感心したように呟いた言葉は、ニッコリと笑顔で返される。それに、もう一度笑みを零した。
「……ヤマト…」
見詰める先にあるのは、綺麗に輝くイルミネーションと、そして、直ぐ傍にある、君の笑顔。
「今年は、本当にいいクリスマスだったよな」
ニッコリと笑顔で言われる言葉に、笑顔で返す。
「ああ、そうだな」
大切な仲間と過ごすのも、大事な時間。
そして、こうして恋人と過ごすのだって、何よりも大切で大事な時間。
「…改めて、メリー・クリスマス」
「ああ、メリー・クリスマス、太一」
恋人達の時間。
それは、甘く温まる時間。
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