毎年恒例の、夏のお手紙。
 精一杯の気持ちを込めて、今年も、君に送ろう。

 
「お兄ちゃん、ヤマトさんから暑中見舞い」

 ドアをノックする音と同時に言われた言葉に、ベッドに寝転がって体を起こす。
 毎年恒例になった、それ。今では、楽しみの一つになってしまった。
 どっちが先に手紙を出すのかも、競争。
 でも、今年は、どっちが先にとどいたんだろう??

「サンキュー、ヒカリ」

 ドアを開いて、手に持っていたそれを受け取る。

「お兄ちゃんは、もう出しているの?」

 受け取った瞬間、ヒカリが不思議そうに疑問を口にした。
 確かに、去年は、あいつから先に貰って、島根宛てに慌てて出した。
 ヤマトの親父さんに、住所教えてもらって、その日の内に速達で……。
 ヒカリに、暑中見舞いを速達で送るなんてって、笑われたけど、あの時は、そうしたいって思ったんだよなぁ……。
 戻ってきたヤマトとタケルにも、『らしい』って、笑われたけど……。
 別に、暑中見舞いを速達で送っちゃ駄目なんて、決まりは無いんだから、問題無いだろう。

「お兄ちゃん?」

 思わず去年の事を考えていた俺の耳に、心配そうな声が聞えて、我に返る。

「あっ、ああ……。今年は、もう出してるんだ。もしかしたら、今日あたりに着いているかもな」

 出したのは、昨日だから、多分今日には、届いているだろう。
 って、ヤマトも、昨日出したんだろうなぁ……。俺達、考える事が同じ……。

「今年は、同時なんだ」

 クスクスと楽しそうに笑うヒカリを前に、小さくため息をつく。

「去年は、島根に送る事になって慌てたから、向こう行く前に出したんだよ」

 去年と同じ過ちを繰り返さない為に、今年はちゃんと考えた。勿論、文面には、滅茶苦茶困ったけど……。
 殆ど毎日会っているのに、何書けばいいんだよ……。大体、出す必要も無いんだろうな……。

「多分、その葉書読んだら、直ぐに電話するのに、必要ないと思うんだけどなぁ……」
「はぁ?」

 ボソッとヒカリが漏らした言葉を聞き逃して、思わず問い掛けた。
 俺の問い掛けに、楽しそうに笑いながら、ヒカリが小さく首を振る。

「何でもない。あっ!アイス買ってきたんだけど、お兄ちゃんも食べる?」
「貰う……ああ、でも、後でいいよ」
「分かった。冷凍庫に入れとくね」

 言われてそのまま頷くと、ドアを閉じて、またベッドへと逆戻り。
 そして、先程受け取ったそれへと視線を向けた。


『暑中見舞い申し上げます。
 今日、これを書いている日も、お前に会ったのに、何を書くのか正直困っている。
 宿題も、順調だし……泊まりに来てもいるから、何を食べているのかも、分かっている。
 分からないのは、今、この葉書を書いている時に、太一が何をしているのかって事くらいだ。
 

 そうだ、今年は、島根に太一も一緒に行かないか?
 その方が、タケルも喜ぶし、何よりも、俺が嬉しい。
 また、考えて、返事をしてくれ。
 それじゃ、まだまだ夏本番、暑い日が続くみたいだけど、気を付けろよ。         ヤマト』


「……島根かぁ……」

 葉書に書かれているそれを見て、思わず顔がにやけてくるのが止められない。
 嬉しいと思う気持ちは、隠す事が出来ないから。
 早速携帯を取り出して、手馴れた操作で電話を掛ける。
 直ぐに、返事を返したいから……。
 勿論、返事は、決まっている。

「あっ!ヤマト、俺!!」

 数回コールの後、途切れた瞬間に、相手の名前を呼ぶ。


 毎年の行事となった、暑中見舞い。
 ほら、今年も、何時ものように、君と楽しい出来事が起きる予感。