「なぁにが、今年のクリスマスは、久し振りに一緒に居られるだよ、嘘吐き!」
テレビの画面に映し出されている人物へ非難めいた視線を送りながら、文句を言う。
本当は、楽しみにしていた。
仕事が忙しくって、クリスマスには特番に出るのが当たり前になった相手に、今回言われた言葉は、少なからずも、自分に期待させるものだったのだ。
なのに、楽しみにしていたその日の朝、戻って来ない相手に、不安を感じていた自分へと、一本の電話。
『太一、すまない。今年は、特番に出る予定が入ってなかったのに、スポンサーから泣きが入って、出る事に……』
本当にすまなさそうに電話を掛けてきた相手に、優しい言葉も掛けられずに、何も言わずにそのまま電話を切ってしまったのは、今朝の事。
確かに、ミュージシャンにとって、クリスマスは稼ぎ時かもしれない。だが、何も人が楽しみにしていた時間を、こんなにあっさりと壊さなくっても良いだろう!
面白くないのは、正直な気持ち。
『クリスマスは、皆さん、どう過ごされるんですか?』
『大体仕事ですね。今ここに居るのが、いい証拠ですよ』
司会の女性から質問された事に、ヤマトが苦笑しながら言葉を返す。
『確かにそうですね。クリスマスは、ツアーとお忙しいですよね。でも、ご結婚されているヤマトさんは、奥さんと一緒に過ごす事はないんですか?』
『正直言うと、一緒に過ごしたいんですけどね。今年も仕事が入って、怒らせました』
聞こえてくる声に、太一は盛大にため息とつく。
確かに、怒った。んで、電話をそのまま切ったのは、自分。
だけど、正直言えば、怒ったんじゃなくって、拗ねているだけ。
『あら、それじゃ、大変ですね。さて、この後ヤマトさんには、歌っていただきますが、その前に、奥様にメッセージをどうぞ!』
ボンヤリと画面を見ている中、信じられない言葉が伝えられて、画面一杯にヤマトの顔がアップになった。
『………メリー・クリスマス。一緒に居られなくって、ごめんな。これ終わったら、直ぐに帰るから、それまでに機嫌直していてくれ。今日の歌も、お前に……そして、世界中の恋人達に捧げます。曲は、『Lover's』』
自分に向けられたメッセージに、言葉に詰まる。
どうして、こんなにキザなのかとか、言いたいことは山ほどあるのに、言葉が出てこない。
流れてくる優しい曲と、ヤマトの声に、太一はそっと目を閉じた。
何度か聞いた事のある、恋人達へと向けて創られたラブソング。その歌を聴きながら、胸が暖かくなるのを感じる。
「……俺が、聞いてなかったら、どうするつもりだったんだか、本当に、馬鹿……」
そして、呟いたのは、悪態。
言いながらも、顔が笑ってしまうのを止められない。
「本当、馬鹿だよな、あいつ……」
準備した、クリスマスの料理。そして、クリスマスケーキ。どうやら、無駄になる事はないらしい。
「しょうがないから、許してやるか」
笑いながら、画面に映っている相手へと笑顔を向けた。
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