「ヤマト、こいつ等の名前って、俺が決めていいのか?」
オレンジ色の猫を抱き締めたまま、少しだけ上目使いで見上げてくる自分の奥様に、旦那は一瞬言葉を失ってしまう。
見上げてくるその視線が、余りにも幼過ぎるのだ。
「……ヤマト?」
少しだけ顔を赤くして自分の事を見詰めてくる相手に、見られている方は、意味が分からずに首を傾げる。
「な、何でもない!」
しかし、その表情がまた可愛くって、ヤマトは慌てて視線を逸らした。
「本当に、大丈夫か?」
だが、その顔が赤いのは、一目瞭然である。だから、心配するなと言う方が、無理な話であろう。
「いや、だから……」
心配そうに自分を見詰める太一に、ヤマトは照れ隠しの為に、まだ籠の中に残されているもう一匹の猫を抱き上げた。
「…そう、名前なぁ……勿論、決めていいに決まってるだろう!って、言いたいけど、お前が付けたい名前は、分かるからな」
「分かるのか?!」
掌に乗るほどの小さな猫を抱き上げて、両手で包み込むようにその顔を自分の目の前に持っていきながら言われたそれに、太一が驚いたような声を上げる。それに、思わず苦笑を零して、ヤマトはただ笑顔を見せた。
「俺が、何の為にこの猫を探したと思ってるんだ?」
オレンジ色の猫とブルーグレーの猫。その猫でなければいけない理由が、ちゃんとあるのだ。
赤い瞳を覗き込んで、ヤマトはその猫を自分の肩に乗せる。
「ガブとアグ。そう付けたかったんだろう?」
そして、優しい笑顔で太一を振り返った。
今は会えない、自分たちの大切なパートナーの名前。それは、この子猫たちの毛色やその瞳が、彼等を思い出させるのだ。
「……ちぇ、本当に分かってるんだもんな……」
キッパリと言われたその言葉に、少しだけ残念そうに呟いて、太一がそっと子猫の顔を覗き込む。緑色の大きな瞳が、不思議そうに自分を見詰めてくるのが、何処かくすぐったく感じられた。
「お前の名前は、アグだ。今日から、宜しくな」
そして、ニッコリと笑顔を見せて、両手で優しく抱き締める。
「んじゃ、お前はガブだ。宜しくな、相棒」
ヤマトも同じように自分の肩から落ちないように必死で服に爪を立てている子猫に、声を掛けた。
だが、その瞬間、ずっと服にしがみ付いていた猫が、直ぐ傍に居た太一へと飛び移る。
「って、ちょっと待て!お前、ガブモンの名前付けてやったのに、何で太一の方に行くんだ!!」
「……さぁ……」
突然自分の所に飛び付いて来た猫が、甘えるように自分に擦り寄ってくるのを見て、太一が思わず苦笑を零す。その腕には、オレンジ色の猫がくつろいだ表情で、大きく伸びをした。
「…まぁ、それは置いといて、宜しくな、ガブvv」
ニッコリと笑顔で言ったその言葉に、まるで返事をするかのように、ガブと呼ばれた猫が、可愛らしい声で泣き声を上げる。
そして、目の前では、落ち込んでいるヤマトの姿。
「いや、だから……サンキューヤマトvvって、事で、機嫌直さないか?」
拗ねていると分かる相手に苦笑を零しながらそっとその顔を覗き込むように顔を近付ける。勿論、猫は抱いたままで……。
「ヤマト?」
自分の呼びかけにも反応を見せない相手に、再度呼びかける。その表情は前髪に隠れて見えない。
表情が見えないので、ますます顔を近付けた瞬間、突然相手の顔が迫ってきたと思うと、そのまま触れるだけのキス。
「ヤ、ヤマト?!」
あまりに突然だった為に、太一の顔が真っ赤になる。そんな相手をヤマトはそっと抱き寄せた。
「いって〜!!」
だがその瞬間、ヤマトの声が響き渡る。
「ヤ、ヤマト?」
一体何が起こったのか分からずに、太一がそっと相手を確認すれば、その手にしっかりとブルーグレーの猫が噛み付いているのが見えた。
「……お前、ガブモンの名前をやったんだぞ!何で俺の邪魔をするんだ!!」
「……今回は、お前が悪い!行き成りやられりゃ、誰だって驚くんだよ、馬鹿!!」
「って、それって、こいつお前のナイト気取りなのか??」
噛み付かれて傷が出来た腕を擦りながら、満足そうに太一に抱かれている猫を前に、ヤマトは複雑そうな表情を見せた。
2匹の猫は、嬉しそうに太一の腕の中に存在している。
「……このプレゼント、早まったかも……」
そして、今更ながらに後悔しても、既に遅すぎると言うものだ。
かくして、新たな同居猫が加わって、賑やかに成る石田家の新婚家庭なのでした。